第三王子のキス係

林優子

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 結果は、我が軍の勝利で終わった。
 兵はカイン様の『カリスマ』で奮闘し、我々は見事魔王軍を撤退させるのに成功した。

 だが、戦いはこれで終わらなかった。
 百年にいっぺんくらいこういう魔界が活性化する時期があるらしい。
 この後、魔王軍は幾度となく侵攻して来るのだった。

 最初の話ではカイン様は前線でも後ろの方で『カリスマ』要員として頑張るだけだった。
『カリスマ』は自然発動スキルというやつで、持っているだけで有効なスキルだ。
 つまり、彼は立っているだけの簡単なお仕事をこなすハズだったのだが、カイン様は負けず嫌いだった。
 何度か戦場に立つ間に彼は最前線に出るようになっていったのだ。


 それから二年。
 十四歳の私は戦場を駆ける魔法女子に成長していた。
 魔力Dで、神聖魔法と風魔法が使用出来る。そしてカイン様の鍛錬に付き合わされたので攻撃力はCだ。
 適性を合わせると、将来は魔法騎士かなーというところだ。
 十四歳でこれというのは、なかなか有望な部類に入るが、カイン様は桁違いだった。
 幾度かの実戦を経て魔力A攻撃力Aと、歴戦の騎士に劣らない能力を獲得した彼は、高威力の魔法とずば抜けた剣の技を武器に自ら切り込んでいくスタイルの剣士に成長した。
 言っておくが、私は普通に優秀だ。
 初陣から二年でそんなに成長なんかしない。
 カイン様がおかしい。
 おかしいが……私は彼の部下というか、側近なので彼に付いていかねばならない。
「足手まといだ。ベスは来るな!」
 と怒られるのだが、側近は近くにいるものなのだ。
 ましてや私は運命の恋人役なんである。
「近くにいないと対応出来ません」

「ちっ」と舌打ちすると彼は彼の護衛騎士達に言った。
「ベスを守れ」
 カイン様は人間業とは思えないスピードで縦横無尽に戦場を駆け巡る。
 私はあわててカイン様を追いかけ、防御の風魔法を掛け、体力増強の回復魔法を掛ける。
 この程度の魔法は気休めでしかないが、ないよりはマシだ。

 カイン様は自らが先陣を切って前線を攪乱する。
 敵陣が崩れた時を狙って別働隊の本陣が一気に攻撃を仕掛ける。
 カイン様は囮なのだ。
 これは王子であり、そして優れた魔法剣士である彼にしか出来ないことだ。
 この戦術で、我が軍は最小限の犠牲で魔王軍を退けてきた。

 カイン様の戦いは無謀に見えるが、これは計画のうちだ。
 カイン様を守るためにそれなりの手は常に打たれている。
 だが、戦場に絶対はない。
 十四歳の今まで、彼は幾度か死の淵に立っている。
 いや、落っこちて死んでいる。
 ある時は敵の魔物の刃を受けて、ある時は味方の騎士を庇って、そしてある時は、私を庇って彼は死んだ。
 そして私もカイン様を庇って一度死んだ。
 その度に私達は互いのキスで蘇ったが、死とは恐ろしいものだ。

 だが、それより怖いことがある。
 何より辛いのは、愛する人を失うということだ。
 私が死んで蘇った時、カイン様はぐちゃぐちゃに涙を流して言った。
「もう二度とするな!」

 ようやく私の気持ちが分かっただろうか。
 置いて行かれる恐怖を。
 絶望の中で彼の体を掻き抱くあの重い重い瞬間を。
 震えながら唇を合わせる無力感を。
「じゃあ、カイン様も死なないでくださいよ」
「それは約束出来ない。死ぬ気では戦わないと魔族は倒せない」
「じゃあ私も約束なんかしませんよ」
「なるべく死なない。だが、お前は絶対に死ぬな」
「だから、無理ですよ。そんなの約束出来ません」

 妥協案として、「なるべく死なないこと」を誓い合った私達だが、やっぱりその後何度か死にかける。

 そしていつの間にか、カイン様は戦いの中、剣術S攻撃力Sを獲得し勇者となった。
 ついでに魔力Sも獲得し、賢者になった。
 もう、カイン様が何を目指しているのか良く分からないが、無茶苦茶に強い。
 勇者専用魔法と勇者の必殺剣とかいうのをガスガス打って魔界四天王とかいう敵の大将ブラームを倒したのが、十六歳の時。
 ついに魔王軍から終戦の申し出があり、条約が結ばれ、長かった戦争が終わった。
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