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15.公爵令嬢リディア
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リディアはシリス公爵家の娘としてして生まれた。
シリス家は王妃の生家であり、逆に王女が降嫁したこともある王国では絶大な権力を持つ国一番の公爵家だ。
伯母である王妃からも可愛がられ、王家の一粒種である王太子とも幼少期からの付き合いで親しい。
リディアの将来はまさに順風満帆、どれほどの幸福が待っているのだろうかと誰もがうらやむ、そんな令嬢だった。
王家には王太子以外の子供がなかった。
唯一いる王の兄弟も王弟アルバート、ただ一人。
国同士の大きな取り決めの際、互いの国の王子や王女を婚姻させ、絆を深めるというのが近隣諸国では慣わしとなっていたが、王族が極端に少ない当代の王国はこれが難しかった。
王族が駄目なら、王家と繋がりが深い高位貴族ということで、シリス公爵家に白羽の矢が立てられた。
兄が二人いる公爵令嬢のリディアはどこに嫁入りすることも出来たからだ。
リディアは幼い頃から王家から王女のような扱いを受けていた。
王家の要望で外国の王子との縁組みが打診されることが幾度もあった。
もちろん相手は世継ぎの王子だ。
リディアはいずれ王妃となる。
だが王国は周辺国と争いを続けていた。
そんな情勢の中、縁談は浮かんでは消える。
隣国の王子との最後の縁談が破談に終わった時、リディアは二十一歳になっていた。
既に令嬢としては行き遅れだ。
リディアも公爵も焦ったが、お相手と見込まれた王子達は全て別の女性と結婚しているし、国内の同年輩の貴公子はいずれも結婚しているか婚約者がいる。
そこでリディアは、侯爵令息ヘンリーに目を付けた。
ヘンリーは王太子の取り巻きの一人で、公爵令嬢であるリディアを憧れの眼差しで見つめてくる。
婚約者はいるが、仲は良くない。
ちょっと水を向けると「つまらない女性で、あなたのように美しくない」とラキシスの悪口を言ってきた。
『この男で手を打とうかしら』
二つ下で頼りなそうな男だが、それでも侯爵家の跡継ぎだ。
顔もまあまあ好みだし、何よりリディアを崇拝している。
丁度いい男がいなければ、誰かから奪えば良いのだ。
だが失敗は出来ない。
リディアは体を使ってヘンリーを誘惑した。
公爵令嬢と一線を越えたヘンリーも侯爵家も責任を取り結婚する以外の選択肢はなく、ラキシスとの婚約は解消され、新たにリディアとの婚約が結ばれた。
既に既成事実があるので、いつ妊娠しても良いように結婚式は高位貴族としては異例だが、半年後となった。
リディアの歳ではそろそろ晩婚扱いだ。そのためリディアは早い結婚を望んだ。
***
こうして、実にあっけなくリディアの結婚は決まった。
四の五の言う年寄りはいたが、従兄の王太子の一言であっという間に被害者のはずのラキシスが悪いことになったのは痛快だ。
リディアは愉快で堪らない。
やはり世の中はリディアには甘く出来ている。
そのために人を――ラキシスを――踏みつけにすることに躊躇はない。
罪悪感すらさして持たない。
『奪われる方が悪いのよ』
リディアはそう考える女性だった。
リディアはヘンリーと一夜を過ごし処女ではなくなったので、処女を守る必要はなくなった。
外国の王子と結婚する予定だったので、窮屈に貞節を守らされてきたリディアだったが、もう自由なのだ。
リディアはそれまで出来なかった夜遊びを楽しむことにした。
無論、ヘンリーにバレたら大事だが、バレなければいい。
その点、少々鈍いヘンリーで本当に良かった。
相手の男達もバレたらまずいことくらいは分かっている。
人目を盗んだ逢い引き。
そのスリルも堪らない。
相手はリディアに相応しい厳選された男達。
その中には、王太子もいた。
王太子には婚約者はいない。
リディアと同じように外国の王女との婚姻が取り沙汰され、その度に破談になったからだ。
王太子は二十四歳。
数年のうちに国外ではなく国内の貴族令嬢と結婚することが決まっている。
今は選定の最中だ。
お妃候補の中に、リディアの名はない。
王妃の生家であるシリス公爵家のリディアと王太子の結婚は政略的にまったくうま味がないので、二人は結婚出来ない。
第一リディアはもうヘンリーとの結婚が決まっている。
だが結婚ではなく、内密の遊びの関係だとすれば、実にいい取り合わせだ。
王太子はおいそれと胤を蒔くわけにはいかないが、従妹であるリディアの子なら自分に似ていてもおかしくはない。
リディアもまた、麗しい王太子には以前から淡い恋心を抱いていた。
ヘンリーとの婚約のゴタゴタの最中、庇われたことにより、それは更に強い思慕となった。
バカンスの間、滞在した離宮ではヘンリーに抱かれることより、王太子に抱かれたことの方が多かったくらいだ。
王都に戻った頃からリディアの体調に変化が生じた。
気分が悪くなったり、食べ物の好みが変わったのだ。
侍医が来て診察を受けると、リディアは妊娠していた。
王太子の子かヘンリーの子か分からない。
だが。
『構わないでしょう?』
リディアはほくそ笑む。
リディアは選民思想の持ち主だった。
その考えでは頂点に君臨するのは王、そして次の王である王太子だ。
侯爵家であるヘンリーの家の中に王家の血が入るのだ。
『むしろ光栄に思うべきだわ……』
世界は何処までもリディアに優しく出来ている。
リディアはそう思って疑わなかった。
ただ一つ、ラキシスの存在だけが邪魔だ。
アルバート共々、王太子達がバカンスから帰っても社交界に居座っている。
男達は皆美しくなった上、王弟を射止めたミステリアスな『悪女』ラキシスに興味津々なのだ。
忌々しいことに、王太子やヘンリーまでも、だ。
だが、それも長くは続くまい。
「本格的に目障りになったら、王妃殿下にご相談しましょう」
叔母の王妃は絶大な権力を持っていて、更に王弟嫌いだ。
きっと喜んでアルバート排除に乗り出してくれるだろう。
リディアはそう信じていた。
そして実際に世界はリディアの望みを叶えてくれるようだ。
間もなくアルバートは、王から戦いを命じられた。
相手は南方に位置する死の山脈。
そこに巣くう山賊達の討伐だった。
シリス家は王妃の生家であり、逆に王女が降嫁したこともある王国では絶大な権力を持つ国一番の公爵家だ。
伯母である王妃からも可愛がられ、王家の一粒種である王太子とも幼少期からの付き合いで親しい。
リディアの将来はまさに順風満帆、どれほどの幸福が待っているのだろうかと誰もがうらやむ、そんな令嬢だった。
王家には王太子以外の子供がなかった。
唯一いる王の兄弟も王弟アルバート、ただ一人。
国同士の大きな取り決めの際、互いの国の王子や王女を婚姻させ、絆を深めるというのが近隣諸国では慣わしとなっていたが、王族が極端に少ない当代の王国はこれが難しかった。
王族が駄目なら、王家と繋がりが深い高位貴族ということで、シリス公爵家に白羽の矢が立てられた。
兄が二人いる公爵令嬢のリディアはどこに嫁入りすることも出来たからだ。
リディアは幼い頃から王家から王女のような扱いを受けていた。
王家の要望で外国の王子との縁組みが打診されることが幾度もあった。
もちろん相手は世継ぎの王子だ。
リディアはいずれ王妃となる。
だが王国は周辺国と争いを続けていた。
そんな情勢の中、縁談は浮かんでは消える。
隣国の王子との最後の縁談が破談に終わった時、リディアは二十一歳になっていた。
既に令嬢としては行き遅れだ。
リディアも公爵も焦ったが、お相手と見込まれた王子達は全て別の女性と結婚しているし、国内の同年輩の貴公子はいずれも結婚しているか婚約者がいる。
そこでリディアは、侯爵令息ヘンリーに目を付けた。
ヘンリーは王太子の取り巻きの一人で、公爵令嬢であるリディアを憧れの眼差しで見つめてくる。
婚約者はいるが、仲は良くない。
ちょっと水を向けると「つまらない女性で、あなたのように美しくない」とラキシスの悪口を言ってきた。
『この男で手を打とうかしら』
二つ下で頼りなそうな男だが、それでも侯爵家の跡継ぎだ。
顔もまあまあ好みだし、何よりリディアを崇拝している。
丁度いい男がいなければ、誰かから奪えば良いのだ。
だが失敗は出来ない。
リディアは体を使ってヘンリーを誘惑した。
公爵令嬢と一線を越えたヘンリーも侯爵家も責任を取り結婚する以外の選択肢はなく、ラキシスとの婚約は解消され、新たにリディアとの婚約が結ばれた。
既に既成事実があるので、いつ妊娠しても良いように結婚式は高位貴族としては異例だが、半年後となった。
リディアの歳ではそろそろ晩婚扱いだ。そのためリディアは早い結婚を望んだ。
***
こうして、実にあっけなくリディアの結婚は決まった。
四の五の言う年寄りはいたが、従兄の王太子の一言であっという間に被害者のはずのラキシスが悪いことになったのは痛快だ。
リディアは愉快で堪らない。
やはり世の中はリディアには甘く出来ている。
そのために人を――ラキシスを――踏みつけにすることに躊躇はない。
罪悪感すらさして持たない。
『奪われる方が悪いのよ』
リディアはそう考える女性だった。
リディアはヘンリーと一夜を過ごし処女ではなくなったので、処女を守る必要はなくなった。
外国の王子と結婚する予定だったので、窮屈に貞節を守らされてきたリディアだったが、もう自由なのだ。
リディアはそれまで出来なかった夜遊びを楽しむことにした。
無論、ヘンリーにバレたら大事だが、バレなければいい。
その点、少々鈍いヘンリーで本当に良かった。
相手の男達もバレたらまずいことくらいは分かっている。
人目を盗んだ逢い引き。
そのスリルも堪らない。
相手はリディアに相応しい厳選された男達。
その中には、王太子もいた。
王太子には婚約者はいない。
リディアと同じように外国の王女との婚姻が取り沙汰され、その度に破談になったからだ。
王太子は二十四歳。
数年のうちに国外ではなく国内の貴族令嬢と結婚することが決まっている。
今は選定の最中だ。
お妃候補の中に、リディアの名はない。
王妃の生家であるシリス公爵家のリディアと王太子の結婚は政略的にまったくうま味がないので、二人は結婚出来ない。
第一リディアはもうヘンリーとの結婚が決まっている。
だが結婚ではなく、内密の遊びの関係だとすれば、実にいい取り合わせだ。
王太子はおいそれと胤を蒔くわけにはいかないが、従妹であるリディアの子なら自分に似ていてもおかしくはない。
リディアもまた、麗しい王太子には以前から淡い恋心を抱いていた。
ヘンリーとの婚約のゴタゴタの最中、庇われたことにより、それは更に強い思慕となった。
バカンスの間、滞在した離宮ではヘンリーに抱かれることより、王太子に抱かれたことの方が多かったくらいだ。
王都に戻った頃からリディアの体調に変化が生じた。
気分が悪くなったり、食べ物の好みが変わったのだ。
侍医が来て診察を受けると、リディアは妊娠していた。
王太子の子かヘンリーの子か分からない。
だが。
『構わないでしょう?』
リディアはほくそ笑む。
リディアは選民思想の持ち主だった。
その考えでは頂点に君臨するのは王、そして次の王である王太子だ。
侯爵家であるヘンリーの家の中に王家の血が入るのだ。
『むしろ光栄に思うべきだわ……』
世界は何処までもリディアに優しく出来ている。
リディアはそう思って疑わなかった。
ただ一つ、ラキシスの存在だけが邪魔だ。
アルバート共々、王太子達がバカンスから帰っても社交界に居座っている。
男達は皆美しくなった上、王弟を射止めたミステリアスな『悪女』ラキシスに興味津々なのだ。
忌々しいことに、王太子やヘンリーまでも、だ。
だが、それも長くは続くまい。
「本格的に目障りになったら、王妃殿下にご相談しましょう」
叔母の王妃は絶大な権力を持っていて、更に王弟嫌いだ。
きっと喜んでアルバート排除に乗り出してくれるだろう。
リディアはそう信じていた。
そして実際に世界はリディアの望みを叶えてくれるようだ。
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