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06.婚約者捜し
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従僕がやって来てアルバートに何事か耳打ちする。
「そうか」
と頷くと、アルバートはラキシス達に言った。
「今日は我が家に泊まられるといい」
「……ですが……」
「家の者にアルティス伯爵家の様子を見に行かせた。早速私がラキシス嬢に求婚した話が伝わっているらしく、辺りは物見遊山の貴族の馬車でいっぱいだそうだ」
クレマンは呆れて頭を抱えた。
「そんなに皆、暇なのか?」
「だろうな。まあ私のせいでもある。今日のところは我が家に泊まってくれ」
ラキシスとクレマンはアルバートの申し出を受け、屋敷に宿泊することになった。
「とんでもない一日だったわ……」
ラキシスはベッドの中で回想する。
『アルバート殿下はどんな女性と結婚するのかしら』
想像すると少しワクワクした。
強くて芯のしっかりとしたそして男性経験豊富な悪女と、自分とは真逆の女性だ。
だがそんな女性なら王弟殿下をきちんと支えられるだろう。
『アルバート殿下が素敵な悪女と巡り会えますように』
そう祈りながら、ラキシスは眠りにつく。
***
翌朝、兄妹はアルバートと共に朝食を取った。
食後のコーヒーをカチリとカップに置くと、クレマンは言った。
「……殿下、差し支えなければお聞かせください。殿下は『悪女』をどうやってお捜しするおつもりですか?」
アルバートは少々困った様子で眉を下げた。
「そうだな。また夜会にでも出て探そうと考えている」
しかし社交界はアルバートにとって馴染みのない場所だ。
ラキシスの件で人々の話が当てにならないのは十分分かったし、勝手の違う世界にアルバートは手をこまねいていた。
アルバートの様子を見て、兄妹は頷き合う。
朝食の前に兄妹で話し合って決めたのだ。
「よろしければ我々兄妹もお手伝い致します」
「手伝い?」
「はい、殿下さえよろしければ私と色々な夜会や茶会に出かけてみるのはどうでしょう?」
ラキシスは求める条件が違い過ぎるアルバートとの婚約はなくなったと理解している。
だがアルバートには好感を持った。
出来れば彼には理想の悪女に出会って貰いたい。
アルバートの役に立ちたいと兄のクレマンに話すと彼も同意見らしく賛成してくれた。
「様々な女性にお会いすれば、お眼鏡に叶うお相手が見つかるかも知れません」
とクレマン。
「それでラキシス嬢やクレマン卿は良いのか?」
ついに悪女に出会った喜びで気づけなかったが、昨日のラキシスは今から思い返すと決して夜会を楽しんではいなかった。
アルバートは勘違いで求婚してややこしい立場にしてしまったラキシスに引け目がある。
クレマンは肩をすくめる。
「『悪女』の噂以降、我が家には夜会や茶会の誘いがひっきりなしなんです。しかも今まで付き合いのなかった爵位が上の家ばかりなので、お断りも出来ず出席するしかありませんでした」
見世物扱いで呼ばれているのはもちろん分かっていたが、伯爵家の立場では断ることは出来なかった。
「殿下がラキシスとご出席下されば、ラキシスも安心でしょう。どうかお願い致します」
クレマンは真摯に頼み込んだ。
伯爵家の嫡男ごときではラキシスの盾にはなれなかったが、王弟のアルバートを前にラキシスをあざ笑える者はいないだろう。
アルバートは首肯した。
「あい分かった。では卿、采配は任せる」
「はっ」
「ところでラキシス嬢」
「は、はい」
「あなたの婚約者候補だが、数日のうちに王都に集まる予定だ。どれでも好きな男を選んで欲しい」
「あの、それなのですが、相手の方は私のような悪い評判が立った者でよろしいのでしょうか?相手の方にご迷惑なのでは……」
押し付けられた結婚では相手も気の毒だ。
「それはよくよく言い含めておくので心配は要らん。ラキシス嬢を粗略に扱う者達ではない。むしろ洒脱な者達ではないので、ラキシス嬢のお眼鏡に叶うか心配だ」
「もったいないお言葉です……」
アルバートは現在休暇中で時間の融通が利くそうだ。
早速今日開かれる夜会に出かけることにした。
今日の夜会、招待されたのはアルティス伯爵なのだが、最近はいつも『是非お嬢様とご一緒に』とラキシスを連れていくのを暗に強要される。
そこでクレマンは夜会の招待主宛てに手紙を書いた。
自分も父も所用があり欠席させて頂くが、せっかくのお誘いであるので、妹ラキシスが同行者と共に出席するつもりである。それでよろしいか?
そんな内容をしたためて今宵の招待主に送るとすぐに返事が戻ってくる。
もちろん答えは、「ぜひお越しください」だ。
社交界はよっぽど暇なのか、昨日の騒ぎは既に知れ渡っていた。
一晩明けた今、ラキシスの動向には注目が集まっている。
「そうか」
と頷くと、アルバートはラキシス達に言った。
「今日は我が家に泊まられるといい」
「……ですが……」
「家の者にアルティス伯爵家の様子を見に行かせた。早速私がラキシス嬢に求婚した話が伝わっているらしく、辺りは物見遊山の貴族の馬車でいっぱいだそうだ」
クレマンは呆れて頭を抱えた。
「そんなに皆、暇なのか?」
「だろうな。まあ私のせいでもある。今日のところは我が家に泊まってくれ」
ラキシスとクレマンはアルバートの申し出を受け、屋敷に宿泊することになった。
「とんでもない一日だったわ……」
ラキシスはベッドの中で回想する。
『アルバート殿下はどんな女性と結婚するのかしら』
想像すると少しワクワクした。
強くて芯のしっかりとしたそして男性経験豊富な悪女と、自分とは真逆の女性だ。
だがそんな女性なら王弟殿下をきちんと支えられるだろう。
『アルバート殿下が素敵な悪女と巡り会えますように』
そう祈りながら、ラキシスは眠りにつく。
***
翌朝、兄妹はアルバートと共に朝食を取った。
食後のコーヒーをカチリとカップに置くと、クレマンは言った。
「……殿下、差し支えなければお聞かせください。殿下は『悪女』をどうやってお捜しするおつもりですか?」
アルバートは少々困った様子で眉を下げた。
「そうだな。また夜会にでも出て探そうと考えている」
しかし社交界はアルバートにとって馴染みのない場所だ。
ラキシスの件で人々の話が当てにならないのは十分分かったし、勝手の違う世界にアルバートは手をこまねいていた。
アルバートの様子を見て、兄妹は頷き合う。
朝食の前に兄妹で話し合って決めたのだ。
「よろしければ我々兄妹もお手伝い致します」
「手伝い?」
「はい、殿下さえよろしければ私と色々な夜会や茶会に出かけてみるのはどうでしょう?」
ラキシスは求める条件が違い過ぎるアルバートとの婚約はなくなったと理解している。
だがアルバートには好感を持った。
出来れば彼には理想の悪女に出会って貰いたい。
アルバートの役に立ちたいと兄のクレマンに話すと彼も同意見らしく賛成してくれた。
「様々な女性にお会いすれば、お眼鏡に叶うお相手が見つかるかも知れません」
とクレマン。
「それでラキシス嬢やクレマン卿は良いのか?」
ついに悪女に出会った喜びで気づけなかったが、昨日のラキシスは今から思い返すと決して夜会を楽しんではいなかった。
アルバートは勘違いで求婚してややこしい立場にしてしまったラキシスに引け目がある。
クレマンは肩をすくめる。
「『悪女』の噂以降、我が家には夜会や茶会の誘いがひっきりなしなんです。しかも今まで付き合いのなかった爵位が上の家ばかりなので、お断りも出来ず出席するしかありませんでした」
見世物扱いで呼ばれているのはもちろん分かっていたが、伯爵家の立場では断ることは出来なかった。
「殿下がラキシスとご出席下されば、ラキシスも安心でしょう。どうかお願い致します」
クレマンは真摯に頼み込んだ。
伯爵家の嫡男ごときではラキシスの盾にはなれなかったが、王弟のアルバートを前にラキシスをあざ笑える者はいないだろう。
アルバートは首肯した。
「あい分かった。では卿、采配は任せる」
「はっ」
「ところでラキシス嬢」
「は、はい」
「あなたの婚約者候補だが、数日のうちに王都に集まる予定だ。どれでも好きな男を選んで欲しい」
「あの、それなのですが、相手の方は私のような悪い評判が立った者でよろしいのでしょうか?相手の方にご迷惑なのでは……」
押し付けられた結婚では相手も気の毒だ。
「それはよくよく言い含めておくので心配は要らん。ラキシス嬢を粗略に扱う者達ではない。むしろ洒脱な者達ではないので、ラキシス嬢のお眼鏡に叶うか心配だ」
「もったいないお言葉です……」
アルバートは現在休暇中で時間の融通が利くそうだ。
早速今日開かれる夜会に出かけることにした。
今日の夜会、招待されたのはアルティス伯爵なのだが、最近はいつも『是非お嬢様とご一緒に』とラキシスを連れていくのを暗に強要される。
そこでクレマンは夜会の招待主宛てに手紙を書いた。
自分も父も所用があり欠席させて頂くが、せっかくのお誘いであるので、妹ラキシスが同行者と共に出席するつもりである。それでよろしいか?
そんな内容をしたためて今宵の招待主に送るとすぐに返事が戻ってくる。
もちろん答えは、「ぜひお越しください」だ。
社交界はよっぽど暇なのか、昨日の騒ぎは既に知れ渡っていた。
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