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マリエルは少々呆れてため息を吐いた。
「デイビッド、あなたって、あなたが悪いんじゃないけど……タイミング悪いわねぇ」
「なん、で?」
デイビッドが獣化してかれこれ二週間以上経つ。
デイビッドは少し、ぎこちない声で問いかけてきた。
「何でって、昼におじさま達に会った時に話せれば良かったのに。随分ご安心なさったと思うわ」
特に母親のバークレイ夫人はデイビッドが話せないことにショックを受けていた。
無理もない、とマリエルは気の毒に思う。
デイビッドは幾分元気をなくした様子だ。
「…………」
あんなに喜んでピンと立っていた耳も垂れている。
「あら、ごめんなさい。こんな言い方はないわね。明日にでも手紙を書きましょう。きっと喜んでくれるわ」
内容は検閲されるが、一応手紙は届けてくれるらしい。
いずれにしても今日はもう遅い。明日の話だ。
いや、それより。
『それより、彼、一緒に寝るの?』
昨日も一緒に寝て、既に性交渉もしている。
元から婚約関係にあり、デイビッドの番と認められたマリエルは既に夫婦も同然だが、それでもマリエルは何だか居たたまれない気分になってきた。
若い娘らしい、恥じらいや戸惑いがごちゃ混ぜになって、心を乱す。
マリエルは頬を染めた。
「マリエルは?」
「えっ?」
一人であたふたしていたマリエルが顔を上げると、デイビッドが立っていた。
デイビッドは本当はライトブラウンの髪の毛だが、全身を覆う毛は黒が混じった銀色だ。目の色も本当ならライトブラウンだが、今マリエルを見つめるそれは、灰がかった青色だった。
半分狼という不思議な姿だが、彼がデイビッドであることは一目で分かる。
「マリエルは僕と話せて嬉しくないの?」
「……そう、ね。嬉しいわ。それより、あの、もう一つ、寝室を用意して貰わないとね」
デイビッドは大きく瞳を見開く。
「どうして?」
「だってこのベッドで二人は寝たら狭いわよ」
元々マリエルの病室として用意された部屋だ。
檻のベッドは二人で寝ても十分余裕があったが、今のベッドは一人用で二人で寝たら随分狭苦しいはずだ。
騎士にまでなったデイビッドはそれなりに体格が良い男性だ。
ゆっくり眠るにはその方がいい。
「一緒に寝たい」
苦しげにデイビッドは訴える。
「でも……」
「何もしないから……お願いだ」
***
夜も遅く、人を呼び出して頼むのも気が引けた。
マリエルはそのまま二人で寝ることにした。
「狭くない?」
とマリエルはベッドの中でデイビッドに聞く。
「ちっとも」
とデイビッドは嬉しそうだった。
『嘘つき』
密着しないとベッドに入りきらない位は狭い。
それでも久しぶりに両親に会えてホッとしたのと同時に疲れた。すぐ側にあるデイビッドの毛皮の感触と暖かさは心地良く、マリエルは眠りに落ちていく。
だが、ふいにマリエルはデイビッドに抱きしめられた。
「…………!」
「マリエル……」
唇はマリエルに近づき、だが、マリエルのどこにも触れることなく、デイビッドは言った。
「君が、嫌なら、何もしないから……」
マリエルはデイビッドを見上げて、言った。
「嘘つき……」
「え?」
「嘘つき、デイビッドの嘘つき、おまけにいくじなし!」
マリエルは南部で騎士見習いから騎士となった。
マリエルは所詮中央からやって来た貴族のお嬢様だ。偏見ややっかみの目で見られることも多々あり、マリエルは常に気を張って暮らしてきた。
きついと分かって自ら選んだ道だ。泣き言は言えないし、言う気もない。
騎士らしい口調や身のこなしもいつの間にか身についていた。
だがマリエルの本来の性格は、冷徹な女騎士なんてものではなく、家族に愛されて育ったちょっとおてんばで甘えん坊の女の子だ。
気を張りっぱなしの生活から、一転してフェンリルにぐすぐずにとろかされたマリエルはすっかり元の性格に戻っていた。
だから、分かるのだ。
「デイビッド、本当のことを言って」
「えっ?」
フェンリルの魅了、人を意のままに操る精神汚染とは、己の感情で相手を染め上げることだ。
フェンリルは狡猾で強欲だ。すこぶる強欲だ。
フェンリルは唯一愛するパートナー、番を持つ習性があるが、相手を愛するだけでは飽き足らない。
愛して欲しいのだ。
フェンリルは己の狂おしい愛情を番にぶつけて魅了する。
嘘偽りなく混じりけなしの強い感情であるからこそ、番はフェンリルに魅了される。
「デイビッド、あなた、私のこと、好きでしょう?今だってしたくてしたくてたまらないんでしょう?」
言い当てられてデイビッドは夜目にも分かるほど顔を真っ赤に染めた。
「そりゃ…でも、君に悪いから、君は療養中だし、僕は……その、ちゃんと男らしく我慢するよ…」
「狼の時のあなたは我慢なんかしなかったわ」
「……!」
デイビッドはハッとしたようにマリエルを見る。
「お構いなしに王都まで呼び出して魅了して地べたで何度もして……!覚えてるでしょう」
「ごめん……」
「勝手に我慢でも何でもしなさいな、もう」
マリエルは言いたいことは言ったので怒ってクルンと彼に背中を向けた。
『まったく何なの、この人……』
紳士的といえば紳士的だが、臆病でずる賢いのがデイビッドだ。
『君が、嫌なら、何もしないから……』
こんな言葉でフェンリルの番がその気になると思わないで頂きたい。
フェンリルはもっと狂おしく番を愛情で包み込む。
「……!」
背中から抱きしめられる。
息を呑んだ時には狼の瞳がマリエルを覗き込んでいた。
「デイ……」
デイビッドはマリエルの唇に強引に舌をねじ込み、蹂躙する。
頭を押さえ込み、息も出来ないくらいに激しくデイビッドはマリエルの舌を嬲った。
デイビッドはマリエルの瞳を覗き込む。
マリエルはうっとりその瞳を見返す。
瞳に浮かぶのは、番に対する狂気じみた愛だ。
「マリエル、君を愛している、君が欲しいんだ」
この瞳に番は魅了される。
「デイビッド、あなたって、あなたが悪いんじゃないけど……タイミング悪いわねぇ」
「なん、で?」
デイビッドが獣化してかれこれ二週間以上経つ。
デイビッドは少し、ぎこちない声で問いかけてきた。
「何でって、昼におじさま達に会った時に話せれば良かったのに。随分ご安心なさったと思うわ」
特に母親のバークレイ夫人はデイビッドが話せないことにショックを受けていた。
無理もない、とマリエルは気の毒に思う。
デイビッドは幾分元気をなくした様子だ。
「…………」
あんなに喜んでピンと立っていた耳も垂れている。
「あら、ごめんなさい。こんな言い方はないわね。明日にでも手紙を書きましょう。きっと喜んでくれるわ」
内容は検閲されるが、一応手紙は届けてくれるらしい。
いずれにしても今日はもう遅い。明日の話だ。
いや、それより。
『それより、彼、一緒に寝るの?』
昨日も一緒に寝て、既に性交渉もしている。
元から婚約関係にあり、デイビッドの番と認められたマリエルは既に夫婦も同然だが、それでもマリエルは何だか居たたまれない気分になってきた。
若い娘らしい、恥じらいや戸惑いがごちゃ混ぜになって、心を乱す。
マリエルは頬を染めた。
「マリエルは?」
「えっ?」
一人であたふたしていたマリエルが顔を上げると、デイビッドが立っていた。
デイビッドは本当はライトブラウンの髪の毛だが、全身を覆う毛は黒が混じった銀色だ。目の色も本当ならライトブラウンだが、今マリエルを見つめるそれは、灰がかった青色だった。
半分狼という不思議な姿だが、彼がデイビッドであることは一目で分かる。
「マリエルは僕と話せて嬉しくないの?」
「……そう、ね。嬉しいわ。それより、あの、もう一つ、寝室を用意して貰わないとね」
デイビッドは大きく瞳を見開く。
「どうして?」
「だってこのベッドで二人は寝たら狭いわよ」
元々マリエルの病室として用意された部屋だ。
檻のベッドは二人で寝ても十分余裕があったが、今のベッドは一人用で二人で寝たら随分狭苦しいはずだ。
騎士にまでなったデイビッドはそれなりに体格が良い男性だ。
ゆっくり眠るにはその方がいい。
「一緒に寝たい」
苦しげにデイビッドは訴える。
「でも……」
「何もしないから……お願いだ」
***
夜も遅く、人を呼び出して頼むのも気が引けた。
マリエルはそのまま二人で寝ることにした。
「狭くない?」
とマリエルはベッドの中でデイビッドに聞く。
「ちっとも」
とデイビッドは嬉しそうだった。
『嘘つき』
密着しないとベッドに入りきらない位は狭い。
それでも久しぶりに両親に会えてホッとしたのと同時に疲れた。すぐ側にあるデイビッドの毛皮の感触と暖かさは心地良く、マリエルは眠りに落ちていく。
だが、ふいにマリエルはデイビッドに抱きしめられた。
「…………!」
「マリエル……」
唇はマリエルに近づき、だが、マリエルのどこにも触れることなく、デイビッドは言った。
「君が、嫌なら、何もしないから……」
マリエルはデイビッドを見上げて、言った。
「嘘つき……」
「え?」
「嘘つき、デイビッドの嘘つき、おまけにいくじなし!」
マリエルは南部で騎士見習いから騎士となった。
マリエルは所詮中央からやって来た貴族のお嬢様だ。偏見ややっかみの目で見られることも多々あり、マリエルは常に気を張って暮らしてきた。
きついと分かって自ら選んだ道だ。泣き言は言えないし、言う気もない。
騎士らしい口調や身のこなしもいつの間にか身についていた。
だがマリエルの本来の性格は、冷徹な女騎士なんてものではなく、家族に愛されて育ったちょっとおてんばで甘えん坊の女の子だ。
気を張りっぱなしの生活から、一転してフェンリルにぐすぐずにとろかされたマリエルはすっかり元の性格に戻っていた。
だから、分かるのだ。
「デイビッド、本当のことを言って」
「えっ?」
フェンリルの魅了、人を意のままに操る精神汚染とは、己の感情で相手を染め上げることだ。
フェンリルは狡猾で強欲だ。すこぶる強欲だ。
フェンリルは唯一愛するパートナー、番を持つ習性があるが、相手を愛するだけでは飽き足らない。
愛して欲しいのだ。
フェンリルは己の狂おしい愛情を番にぶつけて魅了する。
嘘偽りなく混じりけなしの強い感情であるからこそ、番はフェンリルに魅了される。
「デイビッド、あなた、私のこと、好きでしょう?今だってしたくてしたくてたまらないんでしょう?」
言い当てられてデイビッドは夜目にも分かるほど顔を真っ赤に染めた。
「そりゃ…でも、君に悪いから、君は療養中だし、僕は……その、ちゃんと男らしく我慢するよ…」
「狼の時のあなたは我慢なんかしなかったわ」
「……!」
デイビッドはハッとしたようにマリエルを見る。
「お構いなしに王都まで呼び出して魅了して地べたで何度もして……!覚えてるでしょう」
「ごめん……」
「勝手に我慢でも何でもしなさいな、もう」
マリエルは言いたいことは言ったので怒ってクルンと彼に背中を向けた。
『まったく何なの、この人……』
紳士的といえば紳士的だが、臆病でずる賢いのがデイビッドだ。
『君が、嫌なら、何もしないから……』
こんな言葉でフェンリルの番がその気になると思わないで頂きたい。
フェンリルはもっと狂おしく番を愛情で包み込む。
「……!」
背中から抱きしめられる。
息を呑んだ時には狼の瞳がマリエルを覗き込んでいた。
「デイ……」
デイビッドはマリエルの唇に強引に舌をねじ込み、蹂躙する。
頭を押さえ込み、息も出来ないくらいに激しくデイビッドはマリエルの舌を嬲った。
デイビッドはマリエルの瞳を覗き込む。
マリエルはうっとりその瞳を見返す。
瞳に浮かぶのは、番に対する狂気じみた愛だ。
「マリエル、君を愛している、君が欲しいんだ」
この瞳に番は魅了される。
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