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第361話 闇の獣人、地竜と水竜に己の秘密を少しだけ話して親近感をもたせてみる

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 地底湖の側に自在門を開いて移動した俺とアナントスは、そこでずらりと勢揃いした地竜と水竜達を見て、少しだけ驚いた。

 てっきりまだ寝ているかと思ったんだけどな。ま、確かにこの地底湖の地下とはいえ、冥魔竜を三体も召喚してゾンビを片っ端から焼き払ったんだから、感覚の鋭いドラゴンなら何事かと目が覚めるだろうな。

 俺は一応、黒煙の精霊の退治や、肉体をもたない亡霊やゾンビ軍団についても全部退治して、解決したと報告したら、地竜達はすごく喜んでいた。

 「しかし…何故ラフィアス様はそこまでして私達を助けてくれるのですか? それも神様達の命令だからですか? もしくは我々の力を借りたいのですか?」

 と、長老格の地竜と水竜が一同を代表して俺の前にやってきた。おお、完全な竜人になっているな。

 いやその…。本音を言えばあんたらが俺を攻撃してきたら返り討ちにして、最高級のミスリルナイフであんたら地竜と水竜を殺して解体して、肉を食べたかった…って、そんな事を言ったら駄目だよな。ごめんな。

 アンデッド退治や黒煙の精霊を退治したのは、単なる成り行きというか…。

 まあ結果オーライだよな。おかげでイフリータと不死鳥のヒナも精霊界に戻せたし。

 とにかくここは本音を言ったらまずいよな。というわけで当たり障りのない事を言っておくかな。

 「お前達の助力も欲しいが、どちらかといえば罪悪感だろうか。羽の生えたドラゴン達から、羽無しと言われて地底へと追いやられたお前達だが、今となっては地底が安全圏になっている。

 悔しいが、未だに異世界から化け物や怪物を召喚している連中の居場所や正体も突き止めていない、という有様だからな。羽の生えたドラゴンの大半はエルフ達の住んでいる聖域へと避難したようだが、そこも数年後には異世界からの大量の怪物達によって滅ぼされるかもしれない。

 だからここで暮らすのが今となっては一番いいのだから、お前達を困らせている連中を俺が始末するのは当然の事だろう? もしかしたらお前達の力を借りることもあるかもしれないからな。その時は可能な限り、俺に力を貸してくれると助かる。例えば鉱石とかの場所とかだな。採掘は七大属性の全ての大精霊と契約しているから、そこまではやらなくていい。あ、七属性の大精霊全てと契約しているということは秘密だからな。俺の知人や友人にも秘密にしてあるから、他言無用だぞ?」

 何というか霊魂解析のアビリティを使っても、彼等にはドラゴンらしくプライドが高い所はあるけど、高慢だったり、人間とか獣人を馬鹿にするということはない。

 やっぱり迫害された事が起因しているんだろうな。普通、ドラゴンというと力が強くて空も飛べて魔法が使える奴もいるし、ブレスまで吐けるから傲慢な奴が多いんだよな。

 でもこいつらは違っていたからな。それでも疑わしそうに俺を見る奴もいたので、俺も秘密を明かすことにした。

 巷じゃ俺が大精霊と契約しているのは調べればすぐにわかるが、さすがに俺も七大の大精霊全員と契約してますとは言っていない。ましてや七大精霊王からも気に入られているなんて世間に知られたら、間違いなく俺を崇める宗教団体が生まれるのは確実だからな。
 

 「あの…七属性の全ての大精霊と契約しているのなら、我々は必要ないのではありませんか?」

 と、おずおずと地竜の長老の一人が手を挙げて言ったが、俺は無言で兜を被った頭部を左右に振った。

 「そんな事はない。精霊は基本的に実体がないからな。ドラゴンのように肉体をもっているわけではないから、精霊だと俺が意図した結果にならないことがあるんだ。

 だが地竜や水竜なら鉱石の種類や採掘、毒のある鉱石や土や石、岩の種類などについての専門家だからな。

 それに俺はこの大陸の村や街に温泉を湧き出させてみようと思う。夏はあまり需要がないが、その時は湧き水を一緒に湧かせればいいだけだ。お前らならできるんだろう? 土や砂を集めて土魔法で家や塀、堀などを作ることが」

 「結局は俺達を利用したいだけじゃないのか? ちゃんと休みとかもらえるんだろうな? あんたは簡単そうに言うけどな。温泉を引くって俺達ドラゴンにとっても結構大変な仕事なんだぜ?」

 「ちょっと待たんかい。随分と偉そうに言うでないか。そこの若造の地竜よ。おまえ、一度に数十体のゾンビの戦士を召喚できるかの? 誰のお陰で大量の死霊達やダイナスト・ゾンビに殺されないで済んでいると思っている。お前らだけで撃退できたのなら威張ってもいいが、実際には怪我をして、奴らが来られないように岩で封鎖しただけではないか。

 そのゾンビ達を全員倒したのは、ここにいる儂の婚約者殿じゃ。お前達は助けられた側なんじゃから、せめて敬語を使わんかい。無礼だし馴れ馴れしいにも程があるぞ?」

 と、アナントスがニューッと白い蛇体を縦に伸ばして、若い地竜を睨みつける。

 アナントスの本来の姿を見た地竜と水竜達は、自分達まで巻き込まれたらたまらんと即座に、疑わしそうな眼で俺を睨んでいる地竜を杖でボコボコにしはじめた。

 「この無礼者が! あのゾンビを大量召喚する鎧の化け物にはお前も手を焼いていただろうが! 怪我を癒してくれたのもラフィアス様じゃぞ! ちょっとは敬意を払わんか!」

 と、杖を回転させて頭を手でかばっている若い地竜を睨む長老達。

 「で、でも本当にゾンビ達を退治したのかなんて、俺達見ていないし…」

 「あーわかった、わかった。なら俺が実演してやろう。実はな、もう一つ内緒にしてもらいたいんだが、俺は倒した相手のアビリティを吸収することができる。だからゾンビも召喚できるってわけだ。こんな風にな」

 時間停止をかけてダイナスト・ゾンビから吸収(正確には吸収しきれなかったので待機中のアビリティ一覧から選択した)したゾンビ召喚のアビリティを吸収してすぐに使って、40体ほどのゾンビ戦士を召喚する。

 騒がしく叫んだり、身構えたりする地、水竜達を尻目に俺はパーフェクトヒール、と呟いた。

 すぐに綺麗に浄化されるゾンビ達。また召喚して今度はアルティメット・ヒールをかけて浄化する。

 また召喚。竜王の息吹で浄化。さらにゾンビ召喚。覇王竜の息吹で浄化。

 ついでにゾンビ召喚。浄化魔法ピュリファイで魔力を思いっきり込めてゾンビ達を浄化。死体であちこち腐っているから浄化できた。

 こうして30回ほどゾンビを召喚しては、いろんな回復魔法で浄化していく俺を見て、若い地竜が半分混乱した顔で俺の近くに駆け寄ってきた。

 「も、もういいって! あんたが倒した相手のアビリティを吸収できるってのはよくわかった!」

 「疑うようならリッチを倒した時に吸収した即死魔法のデスをかけてやろうかと思ったんだがな。安心しろ。俺は冥王ヨルガル様の御気に入りでな。蘇生魔法が使えるから死んで一週間以内なら蘇生できるぞ? もっとも寿命が尽きた者や遺体の損傷が激しすぎる場合は蘇生は不可能な場合が多いがな。何なら試してみるか?」

 今にも倒れそうな顔で若い地竜はブルブルと首を左右に振って、断った。

 「まあ…そう言う事だ。俺としては俺の秘密を二つも喋ってしまったからな。七つの全属性の大精霊と契約していること。相手を殺した場合(機械やゴーレムなら機能停止状態)は相手のもっているアビリティを全て吸収できること。この二つだ。もしも俺の許可なしに他人や他のドラゴンに喋ったり、文字で書いて漏らしたりしたら、どうなるかわかるな?」

 殺気を込めた俺の言葉に、地竜、水竜達は何度も首を縦に振った。

 「それでは儂の婚約者殿に殺されたくない連中は儂の前で、婚約者殿の秘密をありとあらゆる方法で漏らさないということを誓うがよいぞ。破った場合は生きたまま地獄逝きじゃ。どの地獄に堕ちるのかはランダムじゃがの」

 と、アナントスが俺の腕に巻き付いた状態で、蛇体を伸ばすと白く輝き始めた。

 もちろん地、水の二種類の竜族が全員で俺の秘密を喋らないし、書物や紙に書いたりしない、とにかくありとあらゆる方法で俺の秘密を洩らさないと誓ってくれた。

 よし、それじゃ後は甘い蜜を吸わせてやるか。とはいえ、困ったな。こいつらドラゴンには金とか必要ないしな。

 伝説ではドラゴンは財宝を集めて、棲家には大量の金貨や宝石、いろんな種類のマジックアイテムが沢山置かれているとされているが、ドラゴンの種類によっては財宝なんて全く置かれていない場合もある。

 もちろん貪欲で使いもしないのに財宝を集めているドラゴンも実在するんだけどな。

 だがこいつらは宝石に興味があるとは思えないし、水竜も宝石なんてもらっても困惑するだけだろうな。

 かといってご馳走は…すでに振る舞ったしなあ。またご馳走するとしても二番煎じという感じがしてマンネリというか。

 そういう困った時は覇王竜の叡智。

 というわけでドラゴン、特に地竜と水竜の好物限定で調べてみたら…酒、と出ました。

 そんな訳で異世界市場で購入した米を使った酒を樽ごと購入して、それを40個ほど買ってから、地竜や水竜たちに振る舞ってみた。

 案の定、子供を除いた全員が大喜びで酒樽の蓋を叩き割って、飲むわ飲むわ…。

 まさか酒宴になるとは思わなかったけど、今日はこいつらにとっての脅威がなくなった日だし、これはこれでいいのかもな。

 もっとも俺は解毒機能が高すぎて酒を飲んでも、即座に中和されて酔えないんですけどね。

 アナントスによると、レベルが高くなったのと、俺が300万本以上の限界突破ポーションを飲み続けたのと、覇王竜の装備シリーズの影響、吸収した大量のアビリティの複合効果のせいだという。

 何だか強くなるのもこれはこれで問題があるなー。ま、邪神相手に戦うって決めたんだしな。

 最初は上機嫌で騒いでいただけだったのに、今度は地竜と水竜達が踊り始めた。一人で踊っているのもいれば、一緒に腕を組んで回転しながらスキップしたりと、本当に幸せそうだった。

 一応酒を勧められてジョッキの中の米を使った酒を飲んでみたが、やっぱり酔えませんでした。

 俺は歌ったり、踊ったりしているドラゴン達を見て、この平和を守る為に、もっと強くならないといけないと、改めて決意した。…ま、その為には限界突破ポーションを最低でも1000万本飲まないと駄目なんですけどね。

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