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第319話 闇の獣人、敵は殲滅ということで出し惜しみなしで行く

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 グレーターリッチ。それは過去に大賢者とも大僧正であったとも言われる、魔力の強さもトップクラスのアンデッドだ。

 不老不死を夢見る余りに自身をアンデッド化させたとか、冤罪で処刑された僧侶が怨念を抱いて、それは日が経つにつれて強くなっていき、ついにはグレーターリッチになったという説もある。

 俺としては両方ありえるので、どっちの説も正しいと思っている。

 まさか魔王がこんな者まで召喚できるとは思わなかった。

 俺の左腕に巻き付いたアナントスに目配せすると、彼女は即座に俺の意図を読んでくれて、ルルドン達の前に瞬間移動した。

 これで俺が派手な攻撃魔法をぶっ放しても大丈夫。アナントスが彼等を守ってくれる。

 こうなったら手加減できないので、俺はいきなりアビス・ファイアを魔王とグレーターリッチに向けてぶっ放してみた。

 もちろん威力は普通だ。冥界の火を使うなんて大量虐殺以外には使えない。例えば数百から数千のゾンビとか、疫病で汚染された街とか村とか。

 冥界の火は魔物や魔族、アンデッドにも通用する。そもそも魔や不死者を苦しめる為に生まれた火だからな。

 まさか獣人の俺がアビス・ファイアを使えるとは思わなかったのだろう。二人共身構えてはいたが、炎をまともに食らってしまった。

 これも予想通りだ。魔族の頂点である魔王と、リッチの中でも高位のグレーターリッチが無様に逃げることなんてできないし、実力的にも最高レベルなんだから受けると思ったが正解だった。

 炎が収まったので俺は強風を魔法で生み出して、魔王とリッチを見てみた。

 二人共、予想通りアビス・ファイアを凌いでみせた。

 でもわかる。魔力を半分近く削って障壁を張り巡らせていたってのは俺にはわかった。

 ということで、今度はアビス・アイスをまた普通に使ってみた。

 アビス・ファイアは連発すると相乗効果を生み出しかねないし、最大威力にするとこの階層ごと焼き尽くす危険性があるので、怖くて練習もできなかった。

 だが熱の後は冷却系の魔法で階層を冷やしてみるといいってことで、アビス・アイスをあの二人を中心にかけてみた。

 地獄の吹雪、と表現するのも生易しいブリザードが魔王とグレーターリッチを襲う。

 あまりにも強い冷気を含んだ白い光が地下2000階層を支配した。

 「おのれ…。地獄の火炎はおろか、氷結地獄の亡者を罰する吹雪さえも召喚できるとは…」

 片膝をついた魔王と立っているグレーターリッチ。魔王は生命力と魔力の消耗が著しいがグレーターリッチはまだ余裕がありそうだった。

 と、そこへ何故か俺の頭にこいつらを戦闘不能か、それに近い状態に追いやる方法が不意に浮かんだ。

 闇の中の空間から出したのは、植物の大女神アミリルス様がくれた薔薇の入った玉だ。

 俺はこれを手にすると、花吹雪を念じた。オリジナルの植物が作れるのならその一部もまた創造できるはず。

 結果は俺の思い通りだった。魔王とグレーターリッチの周囲に光り輝く花弁が生まれては、風と共に回転していって、花弁の数はすぐに視界を覆い尽くすほどの量になり、光り輝く花弁の竜巻になった。

 この光る花弁…確か異世界市場で見たサクラとかいう花の花弁だったな。異世界では桜吹雪というそうだが、俺が想像したのは桜竜巻というものだった。

 「このような…こけおどしで我等が滅びると思ったのか!」

 と、魔王が一喝すると竜巻が内側から弾け飛んだ。

 おー…さすが魔王。でもその時には俺はアナントスの後ろにいるルルドン達の所に転移していた。

 「それじゃルルドン。このままじゃお前らの出番ないから力を貸してもらおう。何、心配することはない。お前は黙ってそこに立っていればいいんだ。後は俺がやるから。他の連中は防御態勢をとったまま待機な」

 俺はルルドンの肩に手を置いて、以前にこいつから受けた炎の槍を思い出した。

 確かにこいつの炎の槍はすごかったが、いかんせん魔力の量や質というものが足りなかった。

 もっと魔力を練って槍そのものを強固なものにしないと。

 俺はルルドンの肩に手を置いたまま、燃え盛る海神王の槍レベル10をイメージした。

 すると虚空に俺のイメージした通りの槍が出現し、俺は標的であるロクに動けない魔王とグレーターリッチ目掛けて射出した。

 炎は魔属性や不死属性にも有効だが、俺の狙いはどれだけ高密度の魔力の槍を作れるかだった。

 魔王も俺と同じく、短時間でMPを完全回復か、それに近い量まで回復できると思っており、その通りだった。

 笑止! という言葉と共に腕を一閃して炎の槍を散らしてしまうが、それだけでも十分だった。

 俺が合図するとミラルカ王子の放った光の矢が魔王めがけて撃ち出されていった。

 さすがに100倍モードで強化された弓から撃ち出されたせいか、矢は高密度の光をまとっており、見る者によっては鳥のようにも見えただろう。

 だが魔王を庇うようにしてグレーターリッチが立って、光の矢をまともにくらって悲鳴を上げた。

 「き…貴様。儂を盾にしおって…」

 ボロボロになった法衣をまとったグレーターリッチとタチの悪い黒い笑顔を浮かべる魔王。

 ま、これも当然か。召喚主は魔王なんだからグレーターリッチの動きとか操れてもおかしくない。

 だが俺も黙って見ているわけじゃない。すかさず魔力をミラルカ王子に送って全快させる。

 そしてララフォンの肩に手を置いた。思った通りだ。こいつは死霊術師として素質があるが、精霊とも相性がいいのは間違いない。

 俺はそのまま時空魔法で地下100階にいたフェイク・スピリット達を召喚した。

 あまりあいつらを覚えていないが、ララフォンを触媒にすれば簡単に呼び出せた。

 最もこいつらは俺の眷属でもないし、契約も誓約もしていないので召喚したら襲ってくる危険性もあったが、アナントスが睨むと、俺達と魔王たちの間をウロウロするようになっていった。

 「ええい、鬱陶しいわ! 攻めるのならさっさとせんか!」

 と、魔王が額に青筋を浮かべて紫の瞳のない目から、20cmほどの紫の針を連射した。

 フェイクスピリット達が数十本の針に射抜かれて消滅していく。

 「ミラルカ王子。魔力は回復しているな? それじゃサンデラルがブレスを吐いたらそれに聖属性を付与しろ。俺もやるから。サンデラルは最大出力の雷のブレスを魔王に向かって吐け」

 俺が指示すると、サンデラルはいきなり名指しされたことでビビっていたようだが、すぐに息を大きく吸い込みはじめた。

 そして彼の口から閃光が飛び出すと同時に、俺と王子はほぼ同時に聖属性付与をかけた。

 白く輝く雷のブレスは魔王と滅びかけているグレーターリッチめがけて殺到した。

 そして俺は覇王竜の剣を取り出すと、そのまま奴らのエネルギー体のみを斬るべく、何度も振って遠距離攻撃を繰り出していった。

 またグレーターリッチの体を持ち上げて盾にしていた魔王だったが、すぐに行動した俺の斬撃を何度も食らって、とうとううつ伏せになって倒れていった。
 
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