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第299話 闇の獣人、暗黒妖精(ダークエルフ)の刺客に苦戦する

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 「ルルドンというドラゴンを知っているか? あんたがその世界の住人だったら、そっちで起きた竜王の王位を巡る戦いがどうなったのかを知りたいんだが」

 どうも戦うことになるのはほとんど確定という感じだったので、名乗りを上げるのは止めておくことにする。

 というのも名前を通じてかける呪詛とかもあるからだ。

 最初から敵対的な雰囲気を撒き散らしている奴に対して素直に自分の名前を明かすほど、俺は馬鹿じゃない。

 「貴様等が我等の世界について知る必要はない。ルルドンとは…あの火竜の事だったか。我等の神の命により、裏切者は全て始末する。あの世界からの逃走者も全て…な」

 どうやら覇王竜の叡智による言語解析が完了しているのか、会話がスムーズにできているな。大精霊達の調査が終わった時は時空の精霊王様の力かと思ったが、調査完了したというのは異世界の言語の解析が終わったという意味もあったようだった。

 「あいにくだが俺達の世界でそっちの世界の揉め事を持ち込むのはあの三頭のドラゴンだけで十分なんだ。あいつらを裏切者扱いして殺すのなら放っておけないな。悪いが帰ってくれ。帰らないというのなら力づくでも帰ってもらおうか。…あるいは俺の奴隷になるかのどっちかを選ぶことになるが」

 と、俺は覇王竜の剣を闇の中の空間から出して、剣先を宙に浮いているダークエルフの暗殺者に向けた。
 
 ちなみに俺は覇王竜の新旧シリーズをフル装備している。しかも強化済みの100で進化は一回だけした装備品だから、油断しない限り負けることはない…はずだ。

 「あいにく裏切者と逃走者を始末しないと帰れないのでな。こちらも暴力や不必要な流血沙汰は避けたいので、大人しく我等の世界からの裏切者と逃走者を差し出せば素直に帰ってやるが?」

 あまり余裕がないのだが、俺の顔が覇王竜の兜で覆われていて俺の表情が読めないせいか、若干苛立っているようだったが、こちらとしてはせっかく助けたあの三体のドラゴンとカプセルに入って溶岩の中を流れている避難民を差し出すつもりは毛頭なかった。

 「それはできないので力づくで帰ってもらおうか。ではダークエルフよ。後悔はするなよ?」

 と、言うなり俺は闇の中の空間から闇の短剣、槍、剣などで構成された弾幕をダークエルフに向かって撃ち出してみた。

 すると予想通りこいつも闇属性のせいか、大きく口を開けると全部の闇で構成された武器を吸い込んで食べてしまった。

 「ほう! 闇属性だから素直に吸収すればいいものを、わざわざ食べるとは思わなかったぞ? どうやらよほど腹が減っていたようだな」

 と、俺が半分感心した声で言うと後ろで「御主人。感心している場合じゃないと思うぞ?」という少し呆れた感じのビゼルフのツッコミが聞こえてきたが無視する。

 「あいにくだが私は貪欲の口というスキルをもっていてな。これはありとあらゆる物質や魔法を吸収できて、自分の糧としてくれるものだ。よって私にとってはいかなる攻撃も無効だ。これこそ我等が神が与えた福音。さあわかったら大人しく私の言うことを聞くのだ。そうすれば楽に死なせてやろう」

 「却下だバーカ! 誰がお前の言うことなんか聞くかバカバカバーカ!」

 と、言いながらビゼルフは両目から破壊光線を撃ちだすが、これもダークエルフの開いた口に吸い込まれてしまった。

 それを覇王竜の叡智で鑑定する俺。やっぱり奴が言った通り、物理、魔法の両方を吸収・変換して自分の力に変えるタイプのアビリティだった。

 いや、異世界ではスキルというそうだな。もともとこの世界では魔法とか発達していないから、アビリティも魔法も呼び名が違うだけで、大差ないんだよね。

 世の中には何でもかんでもいろいろと線を引いて区別とか細分化したりするのが好きな人っているけど、それで使えるものが使えなくなるって嫌じゃないか?

 だからこいつにはゴブリンの死体を闇の中の空間から大量に出して、豪雨のように上空から降らせてやる。

 それを大きく開いた口に全て吸い込んでしまうダークエルフ。

 …そういえばこいつの名前って知らないな。向こうも呪詛対策のせいか名乗っていなかったし。

 覇王竜の叡智のこいつの世界の言語とかの解析が終わったので、攻撃はビゼルフに頼んでその間に俺は鑑定作業に入ることにした。

 短く念話で告げるとビゼルフはうんと大きく頷いてから、今度はこっちも大きく口を開いて火炎のブレスを吐きだしていく。

 かなり勢いが強く、範囲も広い火炎のブレスをダークエルフは大きく開いた口の中へと吸い込んでいった。

 すごいな。結構温度が高いブレスなのに、火傷もしないで吸い込むとは。

 …って感心している場合じゃないか。早速覇王竜の叡智であの暗黒妖精を鑑定。

 すると「ミラルカーノ・アベジェス。ダークエルフ族の王子にして闇魔法の使い手。暗黒神リゾルダールの敬虔な信徒の一人でもある」

 と、出ました。ミラルカーノ。略してミラルカね。何だか美形で女かと思ったけど、王子と出たから男なんだろうけど、暗黒神って何よ。餡子を苦心して作っている甘味処の神様なのか?

 しかし王子かー。こりゃ殺したら部下が次から次へとやってきて「王子殿下の仇ー!」とか言って、あっちの世界の暗殺者のほとんどが死なないとえんえん命を狙われるパターンだね、こりゃ。

 俺の近くでは電撃のブレス、雪と氷の混じったブレスを次々と吐き出しているビゼルフだが、その全てのブレスを完全に食ってしまうミラルカ。

 試しに闇の中の空間から、数千はある宝箱から取り出して集めておいた鉄製の武器を次々と取り出しては、ミラルカに向けて投擲してみる。

 すると予想通りにミラルカは回避もしないまま、本来なら刺さっているはずなのに、剣とか槍、斧、鎖鎌などを次々に吸い取って食べてしまった。

 「無駄だ、無駄だ。お前達がどんな攻撃をしても私には無意味。むしろ強力な攻撃であればあるほどご馳走だということだ。それでも続けるかね? ハハハハハハハハハ!」

 「ど、どうするんだ御主人? あいつ…いろんな攻撃しても全部吸ってエネルギーに変えてしまうぞ?」

 と、俺の方を振り返って不安そうな眼で俺に聞いてくる。

 うーん…一応対応策とかあることはあるんだが。場所が悪いんだよね。ここ王都の上空近くだし。

 仕方ないので俺は宙に浮いているビゼルフに護衛を任せると、素早く闇の中の空間からヴァイオリンを取り出して演奏し始めた。

 ギギギギギギィ~。グゴゴゴゴゴゴ~。

 と、我ながらどうやって出しているのかわからないほどの不愉快極まりない音がヴァイオリンから奏でられていくが、ミラルカは咄嗟に耳を両手で抑えた。

 あ、やっぱり…。形のある物とか魔法とか吸収・変換できても、単なる音波までは吸収できなかったか。

 俺が演奏するとビゼルフもハミングを閉じた口から紡ぎ出したが、これが相乗効果を生み出したらしく、ミラルカがより一層苦しむようになった。

 意外な効果に二人でもっとやろう、効いてる効いてると目で会話しながら演奏を続けていると、ついにミラルカが意識を失ったのか、そのまま両手で耳を押さえたまま落下していく。

 俺はそのミラルカの側まで急降下していき、闇の中の空間から出した、俺に恋をする首輪をミラルカの首に付けてから、異世界の王子様の体を抱きかかえた。

 続いて服従の首輪も王子の首に付けてみた。すでに気絶しているようで、俺は意外なものが役に立つんだなとしみじみと思いながら、俺の側まで下りてきて安堵のあまりに顔をペロペロと嘗め回して、尻尾を勢いよく振るビゼルフの手を掴むと、そのままダンジョンの地下131階層へと転移することにした。
 
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