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第221話 闇の獣人、アリアンの進路について共に考える

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 とりあえず俺はギアスの魔法で体が必要とする以上の栄養を飲み食いしたら、自動的に吐いてしまうようにしておいた。

 これで彼女が食べ過ぎる心配はないが、念には念を入れて腕に絡みついているアナントスも大蛇の姿になってもらって、アリアンに俺を裏切ったりしないことや食べ過ぎたり、飲みすぎたりしないことを誓約してもらた。

 それと自殺も禁止するようにギアスをかけて、これもアナントスの前で誓約してもらった。

 後は二人で椅子に座って(俺の分は闇の中の空間から出したものだ)、テーブルの上にあった上等の葡萄酒をチビチビと飲みながら、今後の方針を話し合うことになった。

 まずアリアンは痩せた。これからは必要以上に飲み食いはできない。つまり過食による肥満は起きないので、呪詛とかをかけられない限りは太ることはないということだ。

 だがここで俺とアリアンは二人でうーん、と頭を抱えて悩むことになった。

 彼女はこの二年近くの間、ずっと図書室にあった本を読んでいただけあって、かなり頭がいい。

 それならギルドマスターの補佐として商業ギルドの受付嬢とかやればいいのだろうが、それだと金持ちを相手にする必要がある。

 そして俺が言うのもなんだが、アリアンはかなりの美少女だ。時間の問題でまた金もちからプロポーズされるのは確実だ。

 それがアリアンにとっては苦痛なのだという。すでに一度失恋を体験しているが故に、人前でやる仕事はしたくないと拒否するようになってしまった。

 確かに商人の妻というのも、愛人とか作れるそうだしな。世の中、金目当てに商人に言い寄って、妻や愛人になりたがる女性も多い。

 そういうドロドロした恋愛関係に巻き込まれるのは嫌だとアリアンは言う。

 ならば一人でできる仕事というのも、男性ならまだしも女性がやる仕事は、あまり思い浮かばない。

 覇王竜の叡智で鑑定してみると、どうもアリアンは回復、補助系の魔法なら素質があるようだがそれ以外の魔法の素質がない。

 だから冒険者としてやっていくのは期待できないし、彼女も冒険者同士の人間関係に悩まされるのは嫌だと断言した。

 そうなるとどこか村にでも引きこもって、畑を耕して生きていく道が思いついた。

 だが二年も自室に引きこもっていたので、今の彼女に農作業は難しいのでこれも却下された。

 あとは俺の愛人か性奴隷になることだが、それはできないし彼女も難色を示した。

 「ラフィアス様って聖人で表向きは結婚できないんでしょ? だったらここで私を愛人とか性奴隷にしたら、同じような問題を抱えた女の子をえんえんと採用しないといけないじゃない。

 私は一生、性的快楽に溺れるほど人生に絶望はしていないし、第一そんなに絶望していたら部屋に引きこもってなんかいないわよ?」

 確かに。彼女を雇ったら悪しき先例を作ってしまって、それならうちの娘も! とかギルドマスターの姪っ子だけなんてズルイ! とか非難されそうだな。

 特に彼女が人生に絶望していないのが大きい。先日、俺が雇った奴隷達は何度も裏切られたりして絶望していたがアリアンはそこまで絶望はしていない。

 これで彼女が絶望していたら、迷わず押し倒して快楽責めにして俺の性奴隷にしていたが…。

 アリアンの目から光は消えていない。俺が脂肪を取り除いてからはむしろ光が増している。

 そんな彼女を性奴隷にはできないのだが、だったらどんな仕事がいいのか、ということになるな。

 ここはいっそ田舎の村や街で住人を監視する仕事でも与えるか? 幸いなことにレナリアーラ王国なら、住民のほぼ全員が俺の信者になっているようだから、俺が紹介状を書けばアリアンが虐められることはないだろう。

 だが田舎と聞いてアリアンはまた難しい顔をした。田舎というと村の住民全員がグルになって、旅人を殺して金品を奪うのではないかという疑念を口にした。

 「それについては心配ないな。少なくともレナリアーラ王国なら、どんな田舎の村でも昔はともかく、今ではそんな事は起きないと断言できる」

 「その根拠は? そこまで自信たっぷりに断言できるはいいけど、私が納得いくものでしょうね?」

 「俺は元々、レナリアーラ王国の調査局員の一人だった。知っての通り、あそこの王都ジェルロンドでは世界でも屈指のダンジョンがある。そこで魔物を狩っては宝箱や魔物の遺体を売っていた。

 ダンジョンと言うのは、魔物の巣窟だからな。定期的に間引いておかないとダンジョンから溢れ出てくるんだ。

 だからダンジョンの調査という名目で、モンスターを間引く仕事を続けていたんだ。

 それで俺はだんだん力を身に着けていって、ダンジョン内での装備品とかの関係もあって、強力な魔法とかも使えるようになって、今では聖人と呼ばれるようになったというわけだ」

 「つまりレナリアーラ王国で、村ぐるみで旅人を殺したりしたら、調査局員によってすぐにバレて逮捕、処罰されるといいたいわけ?」

 察しのいいアリアンが俺の解説が途切れたのを見計らって言う。どこか呆れたような感じだ。まあ、懐かしいのは否定できないので自慢話をしていたと思われても仕方ないかもな。

 「まあ簡単に言うとそうだな。実はこれは極秘事項だが、あんたはアナントスの前で俺を裏切ったりしないと誓ってくれたから教えるけどな。うちのボスのシャルミリア局長はすごく強い。

 局長一人でドラゴンでも簡単に倒せるほどの実力者だ。そんな彼女が村ぐるみで旅人を殺して金品を奪うような所業を許すわけがない。

 それにあの人が力を振るい、守ろうと誓っているのはレナリアーラ王家ではなく、王国そのものだ。

 だから王家が誤った選択をしたら、いくらフィラーレ女王でも容赦なくぶん殴るだろう。ましてや旅人を襲って追いはぎ行為をする連中を見逃すはずがないからな」

 「それはまた…すさまじい人ね。で? もしかして私を局員にしてそんな恐ろしい人の側で働けというの?」

 身震いをしたアリアンが青ざめた顔で言う。俺は違う違うと、手を左右に振って彼女の誤解を文字通り否定した。

 「つまりだな。エルモーラ王国ではどうだか知らないが、レナリアーラ王国だと、どんな田舎でもそういう犯罪行為は皆無といってもいいんだ。それに衛兵とかも昔のように金をせびってきたり、旅人の装備の大半を脅して奪い取ったりはしない。

 そんな事をしたらシャルミリア局長にボコボコにされた挙句、手足を折り曲げられて王都にあるダンジョンの中に放り込まれて魔物の餌になるだけだからな」

 「それで? 田舎がレナリアーラ王国では安全だとわかったけど、具体的に私はどんな仕事をすればいいの?」

 「うーん…。それは…」

 思わず瞑目して腕を組んで頭をひねってしまう。アリアンも自分に関することなので、急かさないのが幸いだったな。

 どうも彼女の反応からして、レナリアーラ王国で働くことについては特に問題がないらしい。

 どうせなら王都ジェルロンドの王城ジスニーヴァインで侍女でもやった方が…いや、あそこ貴族の集まる場所だから逆効果か?

 あ、でも良さそうなのがあったな。確かジスニーヴァインで本の修繕とかする業者がなかなかいない、とかレヴィンが言ってたっけ。

 本は希少品だからな。材質も貴族の読む本だとかなり高価なものが使われるから、材料を傷めないで修復するとなると、よほどの本好きでないと務まらないが、アリアンの場合は俺が関わったんだからアビリティ付与で問題ないから大丈夫だな。

 早速時間停止をかけて王城へと転移。そして動きの止まっているレヴィン宰相の頭に手を当てて(別に手を当てる必要はないのだが、霊魂解析をして本の補修業者を募集しているかという情報を探してみたら、二人ほど必要だという情報を見つけた)

 後はまたアリアンの部屋に転移して時間停止を解除。レヴィンに念話で聞いてみて、彼の思念波から募集していると言質(?)をとった俺は、事情を説明してアリアンの就職を相談してみた。

 宰相出し、レヴィンも俺の愛人の一人でアナントスの前で誓約したから問題ない。

 彼もアリアンのやる気があるのなら、という事で承諾してくれた。

 念話を打ち切ると、俺は笑顔でアリアンに宰相の許可を得たから、明日にでも働けるといったら、仰天していた。

 まあ普通はそういう反応示すよな。後は彼女にアビリティ付与で、修繕とヒール、キュアなどの生活関係のアビリティを一通り付与してやった。

 最初は貴族が集まる城の中で仕事なんて、と怖がっていたアリアンだったが、補修作業をするのなら部屋の中にこもりっきりだから、まず貴族となんか会わないし、俺の紹介で来たと言えば俺の許可なしにナンパとかプロポーズはしないから、彼女の方も慢心して威張ったりしないように、と釘をさしておいた。

 こうしてアリアンは部屋の中でできる本の修繕の作業をすることになった。

 これはレヴィンの受け売りだが、休憩時間に修繕した本に限って読み放題だと言ったら、目を輝かせていた。

 しかも場所は俺の本国のレナリアーラ王国の王城ジスニーヴァインだ。緊張するアリアンに白い飴の入った革袋を渡して落ち着かせる。

 彼女は最初は顔をしかめて飴を見つめていたが、口に入れておいしいと思ったのか、そのまま口の中で雨をコロコロと転がし始めた。

 どうやら飴を舐めて落ち着いたようで、すぐに荷造りをすると言って席を立ち、タンスの中から大型のバッグを取り出してはいろんな服や下着を取り出して入れていった。

 彼女の荷づくりが終わったのは一時間ほど経ってからだった。

 こうして俺は彼女を伴って、叔父のギルドマスターのいる商業ギルドへと向かうことになった。


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