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第219話 闇の獣人、ギルドマスターの話を聞くだけ聞いてみる

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 ギルドマスターはフェレンドといった。42歳でギルドマスターとしては若い方になる。

 普通は40代後半からというのが、ギルドマスターという認識があると俺は習った。

 フェレンドは茶色の髪をもった男で、着ている服も貴族ほどではないが、一般人としてはかなり金のかかった服を着ている。

 見た目も服の機能も一級品だ。そんな男がダラダラと脂汗を流している。

 すでに浄化魔法・ピュリファイをかけたので脂汗はほとんど出ていないが、それでもまだ少量だけど出ている。

 これが治癒魔法や浄化魔法の欠点だな。一度使ったら、効果抜群でもそれっきりということだ。

 持続的な効果が出るようにするためには、別の魔法とか使わないといけないのが欠点だ。

 そんなフェレンドは上目遣いに俺を見るだけで、何も言おうとしない。これでは埒があかないので、こちらから聞いてみるとするか。

 フェレンドは俺の事をよく理解しており、どちらが上なのか知っている。それ故にうかつに口にはできないのだろうな。

 「それで? 俺はここに「買い物」に来たのであって、あんたの「依頼」を請けにきたわけじゃないんだが?

 そもそも俺は冒険者じゃない。治療なら無償でするがそれだけじゃないようだな。訳アリであんたの知己の悩みかトラブルと言ったところか? 話を聞くだけなら聞いてやるが、つまらない内容だったりしたら帰らせてもらうからな。それでも良ければ聞かせてもらおうじゃないか」

 と、上から目線で言う俺。うん、偉そうだね。でもこうやっておかないとなめられるからなー。

 あまり親し気にすると、聖人様ならこんな頼みでも聞いてくれる、と際限なく依頼をもちかけられる。

 それにこういう依頼って医療関係で、その手の関係者の仕事を俺が奪っていることになるからな。

 やはり最初は俺の方から圧迫感を相手に与えてビビらせておかないと。本当に解決したい悩みがある奴なら、それでも俺に懇願してくる。

 逆を言えば大した悩みじゃない奴は、そのまま退散する。それを見分けるというか、ふるいにかける事にも役に立っているので、圧迫感を相手にかけてふてぶてしい態度をとるのには、おべっかを使う連中を近寄らせない手段でもあるということだな。

 「もちろん存じております。実は私の姪なのですが…侯爵家の次男と恋仲になっておりました。

 ですがやはり地位も名声もない姪はふさわしくないと周囲から反対されましてな。脅迫状とか届くようになってしまい、その次男も彼女を守るためとはいえ、両親の勧めで紹介された伯爵家の長女と結婚しました」

 「それで? 話の流れからしてあんたの姪が精神的に病んでしまって、家に引きこもりになってしまって、精神だけじゃなくて肉体的にも病気になっているとか? 例えば家の中で暴れたりするとか」

 俺の推測は根拠がないが、自分に非がないのに好きな男から振られてしまうというのは、自分を守るためにしか経たなくやったこととはいえ、頭が理解できても感情が納得しないのが人間というものだ。

 霊魂解析のアビリティを使っていないので当てずっぽうでもあるが、それほど間違ってはいなかったようだった。

 フェレンドの顔色が変わった。やっぱり何か問題行動起こしていたのか、その姪は。

 まあこれは彼女にも同情できる。どうもその侯爵家の次男と相思相愛で毎日、バラ色の生活を送っていたのにかかわらず、周囲の妨害で引き離されてしまったのだから。

 「いえ…その、姪は…アリアンというのですが…今では食べることで精神の安定をかろうじて保っているようでして。つまり…やたらと肥え太った娘になってしまい、姪には同情できるのですが、あのままの状態が続けば、他の男性との結婚はまず一生かかっても無理でしょう。

 ですから聖人様! あなた様のお力でアリアンの肥満を、できればあの子の心の病を治療してもらえないでしょうか! 代わりとしてはギルドマスターの権限で、あなた様の購入したいものを今回に限り、全て無償で提供するというのはどうでしょう?」

 おー…。金の亡者の集団とも揶揄される商業ギルドのマスターが…また、思い切ったことをしてくれたものだな。

 逆を言わせてもらえばそれだけ姪のことが大切なんだろうな。

 「ほう? それじゃ屋敷一軒をまるごと欲しいといったらどうなる? もちろん古い物でも構わんが手入れのされているもので質がいいもの限定になるがな」

 と、意地悪くニヤリと笑う俺に、フェレンドはすでに予想していたのだろう。

 「それなら父から譲り受けた別荘があります。屋敷としては少し小さいですが…土地そのものは広いので、改築すれば十分屋敷といえるのではないかと。もちろん費用はこちらで全て出します。改築の為の作業員もこちらで」

 「ああ、いい。単にお前がどれだけ姪のために金を出せるのか知りたかっただけだ。

 しかし…その侯爵家の次男は愛人や側室としてアリアンを側に置かなかったのか?」

 「それが…アリアンが爵位をもつ家に生まれていたのなら、それも可能だったのでしょうが…平民風情が侯爵家の愛人になるとはふさわしくないと言われまして。さすがにアリアンに同情した侯爵家の当主様が側室として迎え入れようとしたのですが、結婚された本妻となった女性が嫉妬深くて、彼女が雇ったごろつきにアリアンが付き纏われたりと嫌がらせを受けるようになりましてな。

 これで側室になったら、今までの比ではない苦痛を味わうということでアリアンが辞退したのです。それも今では二年前の事。今では本妻とアリアンの想い人の次男は双子の女の子に恵まれて、もう彼女が介入することは不可能なのです。
 
 しかしこのままでは何も進展しません。彼女の痛みは理解できますが、そろそろ現実を認めて肥満を解消して新たな人生を生きてほしい。それが私の依頼です」

 うーん。やっぱり面倒な問題の解決依頼が来たよ…。何だか捨てられた仔犬みたいな目をして、必死に助けを求めるギルドマスター見ると断れないよな…。わかったからその目で俺を見るのは止めてくれ。

 「わかった。その依頼請けようと思うが…。いくつか条件がある。

 一つ。俺にそのアリアンという娘について全権を任せてほしい。彼女が立ち直ることが最優先だが、その結果俺に惚れてしまい、あんたの望んでいた回復ではなかったとしても不満を抱かず、文句は言わないでほしい。

 二つ。今回の一件については極秘事項で他言無用で、本当に信用できる者だけにすること。そしてあんたよりも権力のある者に話す場合でも、何か問題や解決したい事があっても請けるかどうかは俺次第。つまらない用事だったりしたら、その者のもつ領地や建築物を全て俺が破壊すると伝えて置け。言っておくが脅しじゃないぞ? 

 やるといったら城だろうが要塞だろうが山だろうが吹き飛ばすから、俺に依頼をする場合は自分はおろか、一族郎党、全ての命と財産と土地を差し出す覚悟をもつようにと知らせるようにな」

 そこまで言うと、俺はアナントスに目配せした。

 すると俺の腕に巻き付いていた白い蛇が、大蛇と呼べるほどの大きさになった。


 「お前が俺の出した条件を破るとは思わないが、念のためにここにいる誓約の神アナントスの前で、俺を裏切らない、俺の出した条件を呑んで、忘れたり破ったりしないと、神の前で誓約してもらう。それができないのなら、姪を助けることはできないな」

 と、腕を組んで白く光るアナントスの前に、念動のアビリティでフェレンドを押し出した。

 フェレンドはこれが噂の、とか小声で言ってたが、彼はアナントスの前で跪いて誓約してくれた。

 「私、フェレンドはラフィアス様を裏切りません。また、彼の出した条件を忘れませんし、姪がどのような生き方を選んでも聖人様を責めたり、反感をもったりしません。

 私は聖人様の出した条件を守ります」

 と、アナントスの前で誓ってくれた。それが終わると俺はフェレンドに姪のいる家まで案内するように言った。

 彼は頷いてからそのままドアへと向かい、少し遅れて俺達も彼の後に続くことにした。
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