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第203話 闇の獣人、城の管理者になるのを拒否してみる

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 「だが、断る!」

 それが俺が考えに考えた第一声だった。

 「ど、どうしてですか!? ラフィアス様…もしかしてこの城に避難してきた人達を見捨てるつもりですか?」

 「そっちは後で何とかするけどな。あいにく今はこの世界でやる事があるんだよ。それにこの城、どう考えても2000人近くの人間を養うほどでかくはないだろ? 一人や二人ならまだしも、多くの異世界人をこの世界に住まわせることはできない。何故ならこの世界は今、非常事態にあるからだ。

 そしてこの浮遊島は邪神達の封印を解いてしまう可能性がある。セレソロイン。今、この世界はどうなっているのかを、この人工精霊に説明してやれ」

 と、顎をしゃくると、待っていましたといわんばかりに目玉の怪物、もとい時空眼のセレソロインが俺の背後に瞬時に出現して、さまざまな大きさのパネルを出して、レメリアーナに説明していった。

 邪神の幹部クラスがこの世界のどこかに潜伏していること、その為に各、村や街では二重の結界を貼って、魔物の襲来を防いでいること。

 邪神の幹部クラスは召喚術に長けていて、いろんな世界から化け物やゴーレム、妖怪といった人外の存在はもちろん、機械でできた連中も一緒になって来る始末。

 幸いそいつらはなんとか撃退できているものの、未だに非常事態であることには変わりない事。

 そして世界がパニックに陥らないように、各国を俺の浄化、癒しの魔法を使って街や村の井戸に魔法のポンプを設置して、さらに人形の女神タラミレーナの加護で、井戸水運搬を手伝うゴーレムも最近では設置された。

 それでも邪神達を倒せていない。未だに連中の戦力は未知数だ。

 特に厄介なのが俺に近い実力者が人間や獣人の中では一人も出ていないので、こちらから攻め込むことはできないときている。

 俺が冒険者ギルドに支援するようになったのも、SS級の実力をもった冒険者が増えてほしいからだ。

 それでも俺から見ればかなり弱い方だが、国の防衛という意味では役に立つ。

 そして彼等の子供や子孫の中では親や先祖を超えた実力者が生まれてくれるかもしれない。

 そんな思惑もあるので、俺にとっては城の中の2000人程度の避難民よりかは、俺の生まれた世界の住人を優先する。二者択一となると俺は躊躇しない。

 セレソロインがいろんな動画を見せている間に、そんな事を考えていると、レメリアーナはいろいろと考えているようだった。

 「わかりました…。この世界も決して平和というわけではないのですね。

 ラフィアス様が自分の生まれた世界の民を優先するのは当然の事だと思います。

 でも! それならこの城の全てをラフィアス様に捧げます。実は私も最近になって生み出された精霊なので、この城に何が、どれくらいの数で、どこにあるのかは正確にはわからないのです。

 自我が芽生えた頃には、もう非常事態で感染者達がこの城に運び込まれていて…。そもそもこの城は私の生まれた世界での脱出用に造られた次元航行船の一種だったようで…。

 探せば武装とか、宝物とか、珍しい書物とかあるかもしれません。それらを全て…そう、全てあなたに譲ります。どの道、管理者でもない私には機能が制限されており、それらの品物は無用の長物でしかありませんから。無知な私や他の避難民同士で奪い合いになることを考えたらあなたに全部渡した方がマシです!」

 「だから俺に管理者になれと? それに都合のいい事を言っているけどさ。逆を言えば呪いのかかった品物とか悪魔とか悪意をもった精霊とか霊体の憑りついた品物とか本がある可能性もゼロじゃないよな?」

 腕を組んでレメリアーナを半眼で見る俺。冷たいように見えるがこの城は異世界で作られた物だ。

 確かに城の壁や天井は破壊できるし、修復できるが…それでも異世界の魔物や精霊は俺にとっては天敵である可能性が高い。

 それに俺は数多くの性奴隷を抱えている。俺が死んだら彼等も絶望しながら死ぬだろう。

 いくら性奴隷といえど、俺の所有物になった以上は彼等の寿命が尽きるまで面倒を見なければいけない。

 それが奴隷を預かる主人の義務であり、責任だ。

 俺も強いが、決して無敵の存在じゃないし、全知全能の存在でもない。はっきりいえば俺はこの城に眠る宝物や本に眠る化け物がいるかと思うと、少し怖いのだ。

 少しの油断でその化け物に殺されてしまうかもしれない。異世界相手に常識は通用しない。

 それは今までの異世界から召喚された魔物達との戦闘で、いやというほど思い知らされた。

 だが…せっかくこの城に逃げ込んだ避難民も治療したし、俺の精液を飲んだのだ。異世界人でも俺の精液の支配力は通用するらしい。

 ならば見殺しにするのは、いくらなんでも酷というものだろう。ここは妥協案を考えるべきだな。

 「とはいえ、俺も鬼じゃない。まだ助けないといけない国がいくつかあるからな。それらの国を助けてやった後なら、俺はこの城の管理者になってやってもいいぞ? それまではこの城のある島は俺の時空魔法で、島ごと異空間に入れて、時間と空間を凍結させて封印させてもらう。

 その条件ならいいだろう? 単に優先順位が下がるだけだからな。この城の避難民を後回しにすると言っているだけで、見殺しにするわけじゃない。単に封印するだけであって避難民達を見捨てるわけじゃない」

 「…時空魔法も使えるんですか? それなら構いませんけど…いずれにしろ、この城は異世界を航行する機能がある為に、特殊な結界が張られていますので、管理者になってその結界を貼る機能をオフにしないと、時空魔法を使って城ごと凍結させるのは難しいと思いますよ?」

 「セレソロイン。俺がどんな精霊と契約しているのかを教えていなかったのか?」

 「申し訳ありません。ですがその…この人工精霊、思っていたよりも飲み込みが悪いようでして。一度にいろんな情報を与えても吸収しきれないで廃人ならぬ廃精霊になりそうだと思いましたので。もう少し時間を置いてから、ご主人様の素晴らしさを教えてやろうと思っていた次第です」

 と、礼儀正しく大きな目玉と触手を前方に下げて一礼するセレソロイン。

 その言葉にムッときたのか、それとも自覚があるのかわからないが、無言で激しく明滅する人工精霊だった。

 「と、とにかくですね! ラフィアス様にはこの城のある島ごと封印しようにも、管理者になって結界を何とかしないとうまくいかない。これは紛れもない事実です。

 それに…調べてみてわかったのですが。盗難防止の為の特殊なロックがかけられていて、宝物庫や図書室、食糧庫などは全て、最高管理者か、管理者補佐の権限をもつ人でないと開かないようになっているんですよ。

  あと…宝物庫には強盗対策として何体か魔物が設置されているので、戦闘になればラフィアス様が勝ちますが、同時に宝物庫の中にある宝の大半も巻き添えで駄目になるかもしれないので、やっぱり最高管理者として登録しておくことをお勧めします」


 どこか諦めた感じで言う人工精霊。きっと俺が必死に壁や天井を修復しているのを見ていたんだろうな。

 「婚約者殿。ここは最高管理者として登録しておいた方がいいと思うぞ? このままではいずれあの避難民達に祭り上げられて、この城の最高管理者になってくれと拝み倒されるに決まっておるからの。

 それに城の重要な箇所には最高管理者でないと入れないのじゃろ? 壁などを破壊しても、何らかの警報装置が働いて厄介なことになりかねんからの。とりあえず登録だけして城の中を見回ってみればいいんでないかの?」

 と、アナントスがもっともな事を言ってくれた。

 「仕方ないな。確かに避難民の誰かに任せるには不安がある。結界も張り巡らせないように調整できるんだろ?

 なら俺がなってやろるから感謝しろよ?」

 「それでは、登録の第一段階に入ります。そこの光の灯ったパネルの上に両手を置いてください。片手だと万が一事故にあった時に切断とかして認証されない可能性がありますので。その点、両手だとその可能性は低くなります。…そうです。では今からあなたに、この城の全てを掌握できる最高の権限をもった、最高管理者として登録します」

 バシ、と両手に光が迸るがすぐに消えた。思わず両手を見たが何も異常はみられない。

 「はい。次にそこに出てきた二つの筒に顔を近づけて中身を見てください」

 人工精霊の言葉と共に、遠眼鏡を改良した双眼鏡のようなものが壁の中から出てきた。

 それに顔を近づけて筒の中を覗き込む。

 するとカシュ! と変な音がして、「もういいですよ。これで登録完了しました!」と嬉しそうなレメリアーナの声がした。

 レメリアーナによると今、行ったのは網膜認証というものらしい。

 何でも網膜にある血管のパターンというのは人によって違うので、俺の網膜を登録すれば他の偽者を弾くことができるそうだ。

 でもなー。世の中にはドッペルゲンガーといって、本物そっくりに化けられる魔物もいるんだけどな。会ったことないけど。

 まあ俺の場合はそんな魔物がいても、分身を沢山、時空魔法で創った空間に待機させているから、数の差で勝てる自信があるんだけど。

 とにかくこれで俺がこの城の最高管理者として登録されたらしい。早速宝物庫に行こう、とアナントスが興味津々だったので、俺はまず宝物庫から先に行くことにした。

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