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第184話 闇の獣人、王都全体を浄化と癒して更にいろいろやる
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室内に案内された部屋はレヴィンの使っている部屋と同じくらい豪華で広かった。王城リリウェルはジスニーヴァインよりも広いんだが、何だか三人で寝るとはいえ、レヴィンがいないと落ち着かないような気がする。
ベッドが一つしかないが、闇の中の空間から俺がベッドを二つ取り出して、王国の使者ロンドウェルと帝国の使者アルロンの為に設置しておいた。
「済まないな。本来ならお前達まで巻き込むつもりはなかったんだが、この国にいる貴族や王族はまだ俺の恐ろしさを完全には理解していないようだからな。どうもアナントスの力頼みにしていると思っているようだから、まだ手出しする馬鹿が出ないとも限らないので、しばらくの間は俺と行動を共にしてもらう。飲食不要、排泄不要、入浴不要のアビリティを付与するから、外に出る時は必ず二人一緒に行動するようにな。
…よし、これで付与完了。それと今後は浄化や癒しが終わった後は他の街や村にポンプを設置して、浄化と癒しをするのでお前達も必ず同行するように。
とりあえず街の住民のほとんどが外に出て俺の癒しと浄化の光を受け入れる態勢になったら、すぐに外に出るからな。すでに井戸にポンプの設置はしてあるし、王城や倉庫街に害虫忌避結界は設置済みだからな」
えっ? もう!? と二人共ビックリしていたが、ちょっと魔法でな、と言葉を濁していると深くは聞かないでくれて安心した。
とりあえず王都全体を癒して浄化したら、後はまた時間停止をかけて自在門を開いて悪人退治といくか。
この二人には時空の上級精霊をはじめとする各属性の上級精霊を一人につき一体ずつ護衛として付かせている。
もっとも二人は精霊を視る能力も素質もないのだが、時折振り返ったりしてキョロキョロしている姿を見ていると何となくだが精霊の気配を感じられるようだった。
そして30分ほど経ったら、ドアがコンコンとノックされた。霊魂解析でドアの向こうを調べてみたら、将軍さんでした。
「ラフィアス様。準備が整いましたので王都に癒しと浄化をお願いします」
「わかった。すぐ行く」
と、椅子やベッドに落ち着かない感じで座っていたアルロンとロンドウェルがゆっくりと立ち上がる。
俺は早足でドアの前まで行くと、二人を手招きした。俺を怒らせたらどうなるかはあの騎士団長で嫌というほど思い知らされたので、すぐに俺の近くまで来た。
そしてドアを開けるとあの将軍が恭しく一礼してくれた。
「ドリファン将軍。そしてネルンとサルン。お前達に言っておく。この二人は二国の使者として危険を顧みずに俺にエルモーラ、グリシャールの二国を癒して浄化してほしいと頼んできた。
この二人はほとんど俺の専属の部下みたいなものだから、こいつらを利用して抱きこもうとしたり、脅したり暴力を振るったら、こいつらに付けている上級精霊達の怒りを買うことになるから、軍や騎士の連中には、殊更、声を大にして、この使者達を拉致したりして貴族の所へ送り届けるような真似はしないようにな
それと井戸にポンプは設置済みだ。害虫忌避結界もこの王城リリウェルや倉庫街に展開済みだ。
これは朝早く来て(本当は時間停止をかけてその間にやった)、密にやっておいた。そうでもしないと俺の信者となった街の住人に追い回されて作業の邪魔になるからな。
あと食事は一切不要。俺は転移魔法が使えて、一瞬でいろんな場所へ移動できるからこちらから催促しない限りは食事などは持ってこないように。
そして貴族連中やこの城の使用人達にも、こいつらを通じて俺に頼みごとをするのは控えるように厳命しておくようにな。特に貴族連中だが、この二人を自分達の派閥に取り込もうとしても無駄だ。時間の無駄遣いだから余計な干渉はしないようにと伝えておけ。以上の俺の言伝を連中が知っても尚、誓約していない連中を使って俺の邪魔をするようであれば、神に代わって俺が連中を罰するからそのつもりで聞くようにな」
言いながら俺の全身から闇のオーラがジワジワとにじみ出ていき、天井にまで到達する。
その有様に俺と腕に絡みついているアナントスを交互に見た将軍は、ダラダラと汗を浮かべながら、何度も壊れた人形のように頷いていた。
そして俺が歩き始めると、慌ててドアの前からどいてくれた。
どこへ案内されるのかと思ったら、案の定、王様がこの王都の民に演説をしたりする広いテラスでした。
そこにはいつの間にかフィヨルド国王が杖を持ってテラスの中央に立っている。
胸につけている宝石のついたペンダントだが、拡声の効果があるのを俺は何となく感じ取った。
どうもあの程度のマジックアイテムだと、わざわざ覇王竜の叡智のアビリティを使わなくても、大体どんなものがあるのか、最近わかってきた。
だがこれが俺に送られてフェランさんと馬鹿親父に止められている待機中のアビリティのせいなのか、限界突破ポーションを飲み続けいるせいなのかは俺にもよくわからない。
もしかしたら両方なのかも? と思案していると、フィヨルド王が杖をもったまま両手を大きく上げて、民衆に向かって演説を始めた。
「今より、大聖人ラフィアス様がこの王都に住む全ての者、善人、悪人、富める者、貧しき者に関係なく癒しと浄化の御業を使われる!
汝らこの王都に住む者達は浄化と癒しの御業を受けて神々に対する信仰心を持って、清く正しく生きるように!」
まだ何か言いたげな王様を片手を上げて制止する。放っておけば30分くらい演説していそうだったからだ。
だが俺は政治利用なんてされない。そのまま闇の中の空間からまた俺の精液を飴玉に変化した箱を貴族・王族用にそれぞれ10箱ずつ出してやる。玉座の間で出してもよかったんだけど、それだと貴族達が俺の信者になって通してくれなくなる可能性があったから、出せなかったんだよな。
ラルフ団長の足を念動のアビリティで切り落としてアルティメット・ヒールで再生させた後、貴族の大半の俺を見る目が変わったし。その後グリーン・ゴールドや緑の真珠を出したら、密に俺を拝んでいる貴族も10人以上いたしな。
いちいち説明するのが面倒なので、霊魂解析で精液ポーションの効果とそれを変化させた飴玉の効能をフィヨルド国王の魂に送ってやった。これで俺が説明しなくてもすぐにこの10の箱が何なのか、一日に一粒だけでいい。破れば生かしたままあの世に飛ばされる、という罰則が彼の魂の中に刻まれたことだろう。
続いて空を飛んでロンドウェルとアルロンも風の上級精霊に命じて浮かばせる。そこで「魔法浸透」を王都とその外部までかけておく。地下100メートルにまで効果があるようにしておく。地下墓地とか密かにアンデッドとかいたら、後で掃除するのが面倒だからな。こういうのは一回だけにしておきたい。ちなみに効果時間は1分間。
言わずと知れた浄化・回復魔法の効果が建物や地下にまで作用するようにだ。
幸いなことにこれは補助魔法なので、よほど魔法の熟練者でもない限り気づかれることはない。
第一気づかれてもこれから使う浄化と癒しの魔法を効率よく作用させる為のものだから、文句や苦情を言われることはない。
そして浄化魔法ピュリファイ、竜王の息吹、覇王竜の息吹、パーフェクト・ヒールとアルティメット・ヒールの五つを同時に起動した。
光の津波ともいうべきものが王城リリウェルを中心に王都の外へと広がっていく。
これでこの街の冒険者ギルドや施療院、貧民街にいる四肢の損傷者や手足を失った者達も、全員が完全に治癒されたはず。もちろん奴隷を扱っている商店にも。地下100メートルまで竜王の息吹や覇王竜の息吹などが効果が及ぶようにしておいたので、奴隷商人は奴隷の四肢の欠損とか病気が治って、価値が上がったから大喜びだろうな。
問題はこれで王都の住民が全員、健康で怪我や病が治ってしまったから、施療院では入院患者の大半が退院してしまうし、薬屋とか回復系のポーションが売れにくくなることなんだよな。
しかも貴族や王族に精液を変化させた飴玉を配ったから、大怪我とかしない限り施療院に入院する患者はほとんどいないし。
さらに井戸も井戸の神のアビリティに俺が「ボケ防止」をアビリティ書き換え(精液必須)で追加したもんだから、ボケ老人もみんな良くなってますます客足が遠のいてしまうんだよな。
これも後で施療院とか薬局に金を配っておかないとまずいな。
まあ、これでこの王都での浄化と癒しは終わった。まだ昼前だし、後は俺は厨房の近くへと転移した。もちろん背後に使者のアルロンとロンドウェルも一緒だ。
あと井戸には無限の湧水ポンプのアビリティを設置しておいた。アナントスに視線を向けると、阿吽の呼吸というのだろうか、俺の意図を組んでくれて王都中の井戸が白く輝き始めた。
驚く民衆。悲鳴を上げたりする者もいるが、ここは王様に言ってもらうのが一番だろう。
また霊魂解析で大まかな事情を記した情報をフィヨルド王に送ってやった。
「静粛に! ただ今井戸が光ったのは、蛇の神にして誓約の神アナントス様の眷属である白い蛇が井戸に住み着いたからである! 聖人ラフィアスさまは民衆の目に留まらない夜中の内に密かに井戸に神のアビリティを設置なされた。
白い蛇は無害であり、勝手に井戸に据え付けられたポンプを外したり、破壊したりされない為の見張りである。
よって国民達よ。汝等は安心して井戸の水をくむがいい。レナリアーラ王国でもそうだったように、大聖人ラフィアス様が設置なされた井戸水には「猛毒無効」や「汚物浄化」などの素晴らしい効果が沢山ある。後日、その情報を書いた立て札を井戸の側に設置しておこう。
そして国民達よ! 絶対に井戸に据え付けられたポンプを聖人様の許可なしに外したり、破壊してはならぬ。破れた蛇の神にして誓約の神アナントス様の怒りに触れて、一族郎党生きたままあの世に飛ばされることになる。
そしてそれを企むことも、誰かに命じてやらせることもしてはならぬ! そのようなたくらみ事をすれば、例え王侯貴族であっても情状酌量の余地なしに、即刻死罪となる!」
『ほー。なかなかいい事を言うではないか。儂の言いたいことのほとんどを言ってくれたな。では儂もちょっとだけ民衆にアピールしてみようかの♪』
と、アナントスが首を空に向けると、王都の空一杯に白い多頭蛇の映像が現れた。
もちろん実体じゃないが、限りなくリアルな映像だ。魔術師の間では立体映像と言うんだそうだ。
「我は蛇の神にして誓約の神アナントスなり。汝等は井戸の神、畑の神、家屋の神を今後崇めるがいい。井戸の水には井戸の神の祝福がかけられておる。
そのポンプを外すと効果が切れてしまうから、絶対に外すことはするな。汝等のする事は全て我が眷属を通じて我に伝わっておる。我はうるさいおしゃべり、特に陰口が大嫌いなので、井戸水を汲む時は余計なおしゃべりをしないように。そんな暇があれば、家や職場に戻って家屋の神、井戸の神、畑の神を崇めるがいい」
と言い放って消えてしまった。それじゃ俺もちょっとだけ言っておくか。セレソロインに頼んで、王都中に俺の声が響くようにしてもらった。
「これにて王都の浄化と癒しは終わった。だが怪我や病気を癒しただけで少しでも油断すれば、すぐにまた怪我をするだろう。その場合は俺を頼らないで今まで通り、施療院や薬屋や医者を頼るように。
それと先程蛇の神にして誓約の神アナントスが言ったように、俺も他人の陰口は大嫌いだ。特に俺とアナントスは婚約者としてお互いに愛し合っている。
よってアナントスの眷属のいる井戸の近くで他人の悪口を言ったりした者は二度と治療しない。アナントスは蛇の神なので、主のアナントスを不快にさせたら、主人を想う忠誠心の高い、眷属のさまざまな蛇に狙われて噛まれて毒に悩まされても助けてやらん。それでもよければ他人の悪口や陰口を言うがいい。もっとも死んだ後は冥王ヨルガル様とその眷属の死神達から永遠に近い罰を受けて苦しむだろうが、俺の知ったことじゃない。
俺はこれから他の村や街へ行って井戸の神の祝福や畑があれば畑の神の祝福を設置しなければいけない。
そして全ての村や街に祝福を設置し終えた後は、お前達に神と精霊の慈悲というものを教えてやろうと思う。
その日まで、神を畏れ、崇め、感謝しながら生きるがいい。ではまた会う日まで、少しの間お別れだ」
と、言いながら腕を振って転移した。転移先はこの城の厨房。俺の為にいろいろ料理作っていただろうに、他ならぬ俺自身が拒否したから、お詫びにいろいろあげようということで許してもらおうという作戦だ。
そんな訳で俺の為に作った料理と、俺が魔法で召喚した料理の素材を交換するという形で無事に解決した。
というか料理長も副料理長二人も、いきなり厨房の隅に一瞬で現れた俺にビックリしていたけど、右腕に絡みついたアナントスを見て、厨房にいた全員がひれ伏そうとしたけど、衛生上の面からまずいので、念動のアビリティでどうにか平伏は勘弁してもらいました。
それに俺の施した竜王の息吹などで、持病が治ったとか、火傷が治ったとか、厨房にいた全員に大感謝されましたよ。いやそれ、借り物の力なんですけどね。あのカワウソ天使のお陰で神々と知り合っていろんなアビリティ購入したからであって、俺じゃなくて神々を崇めろとぶっきらぼうに言ったけど、全員の目がウルウルしていて、あまり通じていないようだった。
そして料理長が用意した料理を俺が闇の中の空間に全て仕舞いこむと、お礼に厨房でミル貝とホタテ貝を片っ端から召喚して、たちまち数千個の貝でいくつものタライが埋まった。ありがとう海神王。
後は一番小さな10メートルほどのクラーケンの遺体とシーサーペントの遺体を一体ずつ出して、腰を抜かしている料理長と副料理長たちの前に置いて、「全部俺が始末した。生き返ったりしないからそれでも食って元気だせ」と言い捨てて、王城内に用意された室内に使者二人と共に転移した。これで俺の為に作った料理の損失を取り戻してくれたらいいんだけどな…って思ったら、アナントスに「あの貝、あれほどの量だと婚約者殿に用意した料理が少なくとも30回は用意できるだけの金になるぞ?」と言われた。
それから後日談だけど、クラーケンの遺体とシーサーペントの遺体。どっちも一番小さいものなんだけど、入手困難ということで、倒せる冒険者も最低でもBランクのパーティが必要だということで、あの二つだけで捨て値でさばいても金貨3000枚の価値はあるんだとか。
それだけの価値はあるということで、国王一家や上位の貴族はもちろん、有能な家臣一同(騎士とか文官とかね)も、一人の例外もなくクラーケンと大海蛇の肉を使った料理はおいしいと大喜びだったそうです。
それ、すでにヴァイソン村や無人島のノランディアの街の連中にたらふく食わせたといったらまずいよね?
これでいくらでも大海蛇やクラーケンを召喚できるとわかったら、俺…たぶん、いや絶対に料理長たちに一生、付き纏われるから、料理長も副料理長も大物を捌くことに至上の喜びを見出しているようで、恐ろしくて本当の事は言えませんでした。
どうも俺が用意したのってちょっと過剰だったみたいだな。それと料理長の作った料理、覇王竜の叡智で全部鑑定してみたけど、毒とか薬物は入っていませんでした。
というか俺、大食漢というイメージあるのか? 軽く20人分は量があるんですけど!?
何かパンとか肉とか果物とかスープとか、いろんな料理を一辺に出したような感じでした。
どうも俺の好きな料理とかわからないから、作れるだけ作って出したらしい。
これは貧民街の連中に食わせるとするか。あ、その場合は「好意の空間」とか「生命と魔力の閃光」とかアクティブにして、子供達に怖がられないようにしないとな。
何かやる事ばかり増えていくなー。まあ時間停止できるからいいんだけど…何か俺、聖人になってからの方が忙しくなっているような気がするんだけどな。
とりあえず料理について揉めなくて本当によかったよ。使者二人には後で俺の手作り料理を振る舞ってやるとするかな。
その事を話したらアルロンもロンドウェルも大喜びで頷いていました。そういえばお前ら、俺の手料理を食ったことないんだっけな。料理長には及ばないかもしれないが、楽器演奏と違って兵器並みじゃないから安心してほしいと思いながら、どんな料理を作ればこの二人の使者が喜んでくれるかを考え始めていた。
ベッドが一つしかないが、闇の中の空間から俺がベッドを二つ取り出して、王国の使者ロンドウェルと帝国の使者アルロンの為に設置しておいた。
「済まないな。本来ならお前達まで巻き込むつもりはなかったんだが、この国にいる貴族や王族はまだ俺の恐ろしさを完全には理解していないようだからな。どうもアナントスの力頼みにしていると思っているようだから、まだ手出しする馬鹿が出ないとも限らないので、しばらくの間は俺と行動を共にしてもらう。飲食不要、排泄不要、入浴不要のアビリティを付与するから、外に出る時は必ず二人一緒に行動するようにな。
…よし、これで付与完了。それと今後は浄化や癒しが終わった後は他の街や村にポンプを設置して、浄化と癒しをするのでお前達も必ず同行するように。
とりあえず街の住民のほとんどが外に出て俺の癒しと浄化の光を受け入れる態勢になったら、すぐに外に出るからな。すでに井戸にポンプの設置はしてあるし、王城や倉庫街に害虫忌避結界は設置済みだからな」
えっ? もう!? と二人共ビックリしていたが、ちょっと魔法でな、と言葉を濁していると深くは聞かないでくれて安心した。
とりあえず王都全体を癒して浄化したら、後はまた時間停止をかけて自在門を開いて悪人退治といくか。
この二人には時空の上級精霊をはじめとする各属性の上級精霊を一人につき一体ずつ護衛として付かせている。
もっとも二人は精霊を視る能力も素質もないのだが、時折振り返ったりしてキョロキョロしている姿を見ていると何となくだが精霊の気配を感じられるようだった。
そして30分ほど経ったら、ドアがコンコンとノックされた。霊魂解析でドアの向こうを調べてみたら、将軍さんでした。
「ラフィアス様。準備が整いましたので王都に癒しと浄化をお願いします」
「わかった。すぐ行く」
と、椅子やベッドに落ち着かない感じで座っていたアルロンとロンドウェルがゆっくりと立ち上がる。
俺は早足でドアの前まで行くと、二人を手招きした。俺を怒らせたらどうなるかはあの騎士団長で嫌というほど思い知らされたので、すぐに俺の近くまで来た。
そしてドアを開けるとあの将軍が恭しく一礼してくれた。
「ドリファン将軍。そしてネルンとサルン。お前達に言っておく。この二人は二国の使者として危険を顧みずに俺にエルモーラ、グリシャールの二国を癒して浄化してほしいと頼んできた。
この二人はほとんど俺の専属の部下みたいなものだから、こいつらを利用して抱きこもうとしたり、脅したり暴力を振るったら、こいつらに付けている上級精霊達の怒りを買うことになるから、軍や騎士の連中には、殊更、声を大にして、この使者達を拉致したりして貴族の所へ送り届けるような真似はしないようにな
それと井戸にポンプは設置済みだ。害虫忌避結界もこの王城リリウェルや倉庫街に展開済みだ。
これは朝早く来て(本当は時間停止をかけてその間にやった)、密にやっておいた。そうでもしないと俺の信者となった街の住人に追い回されて作業の邪魔になるからな。
あと食事は一切不要。俺は転移魔法が使えて、一瞬でいろんな場所へ移動できるからこちらから催促しない限りは食事などは持ってこないように。
そして貴族連中やこの城の使用人達にも、こいつらを通じて俺に頼みごとをするのは控えるように厳命しておくようにな。特に貴族連中だが、この二人を自分達の派閥に取り込もうとしても無駄だ。時間の無駄遣いだから余計な干渉はしないようにと伝えておけ。以上の俺の言伝を連中が知っても尚、誓約していない連中を使って俺の邪魔をするようであれば、神に代わって俺が連中を罰するからそのつもりで聞くようにな」
言いながら俺の全身から闇のオーラがジワジワとにじみ出ていき、天井にまで到達する。
その有様に俺と腕に絡みついているアナントスを交互に見た将軍は、ダラダラと汗を浮かべながら、何度も壊れた人形のように頷いていた。
そして俺が歩き始めると、慌ててドアの前からどいてくれた。
どこへ案内されるのかと思ったら、案の定、王様がこの王都の民に演説をしたりする広いテラスでした。
そこにはいつの間にかフィヨルド国王が杖を持ってテラスの中央に立っている。
胸につけている宝石のついたペンダントだが、拡声の効果があるのを俺は何となく感じ取った。
どうもあの程度のマジックアイテムだと、わざわざ覇王竜の叡智のアビリティを使わなくても、大体どんなものがあるのか、最近わかってきた。
だがこれが俺に送られてフェランさんと馬鹿親父に止められている待機中のアビリティのせいなのか、限界突破ポーションを飲み続けいるせいなのかは俺にもよくわからない。
もしかしたら両方なのかも? と思案していると、フィヨルド王が杖をもったまま両手を大きく上げて、民衆に向かって演説を始めた。
「今より、大聖人ラフィアス様がこの王都に住む全ての者、善人、悪人、富める者、貧しき者に関係なく癒しと浄化の御業を使われる!
汝らこの王都に住む者達は浄化と癒しの御業を受けて神々に対する信仰心を持って、清く正しく生きるように!」
まだ何か言いたげな王様を片手を上げて制止する。放っておけば30分くらい演説していそうだったからだ。
だが俺は政治利用なんてされない。そのまま闇の中の空間からまた俺の精液を飴玉に変化した箱を貴族・王族用にそれぞれ10箱ずつ出してやる。玉座の間で出してもよかったんだけど、それだと貴族達が俺の信者になって通してくれなくなる可能性があったから、出せなかったんだよな。
ラルフ団長の足を念動のアビリティで切り落としてアルティメット・ヒールで再生させた後、貴族の大半の俺を見る目が変わったし。その後グリーン・ゴールドや緑の真珠を出したら、密に俺を拝んでいる貴族も10人以上いたしな。
いちいち説明するのが面倒なので、霊魂解析で精液ポーションの効果とそれを変化させた飴玉の効能をフィヨルド国王の魂に送ってやった。これで俺が説明しなくてもすぐにこの10の箱が何なのか、一日に一粒だけでいい。破れば生かしたままあの世に飛ばされる、という罰則が彼の魂の中に刻まれたことだろう。
続いて空を飛んでロンドウェルとアルロンも風の上級精霊に命じて浮かばせる。そこで「魔法浸透」を王都とその外部までかけておく。地下100メートルにまで効果があるようにしておく。地下墓地とか密かにアンデッドとかいたら、後で掃除するのが面倒だからな。こういうのは一回だけにしておきたい。ちなみに効果時間は1分間。
言わずと知れた浄化・回復魔法の効果が建物や地下にまで作用するようにだ。
幸いなことにこれは補助魔法なので、よほど魔法の熟練者でもない限り気づかれることはない。
第一気づかれてもこれから使う浄化と癒しの魔法を効率よく作用させる為のものだから、文句や苦情を言われることはない。
そして浄化魔法ピュリファイ、竜王の息吹、覇王竜の息吹、パーフェクト・ヒールとアルティメット・ヒールの五つを同時に起動した。
光の津波ともいうべきものが王城リリウェルを中心に王都の外へと広がっていく。
これでこの街の冒険者ギルドや施療院、貧民街にいる四肢の損傷者や手足を失った者達も、全員が完全に治癒されたはず。もちろん奴隷を扱っている商店にも。地下100メートルまで竜王の息吹や覇王竜の息吹などが効果が及ぶようにしておいたので、奴隷商人は奴隷の四肢の欠損とか病気が治って、価値が上がったから大喜びだろうな。
問題はこれで王都の住民が全員、健康で怪我や病が治ってしまったから、施療院では入院患者の大半が退院してしまうし、薬屋とか回復系のポーションが売れにくくなることなんだよな。
しかも貴族や王族に精液を変化させた飴玉を配ったから、大怪我とかしない限り施療院に入院する患者はほとんどいないし。
さらに井戸も井戸の神のアビリティに俺が「ボケ防止」をアビリティ書き換え(精液必須)で追加したもんだから、ボケ老人もみんな良くなってますます客足が遠のいてしまうんだよな。
これも後で施療院とか薬局に金を配っておかないとまずいな。
まあ、これでこの王都での浄化と癒しは終わった。まだ昼前だし、後は俺は厨房の近くへと転移した。もちろん背後に使者のアルロンとロンドウェルも一緒だ。
あと井戸には無限の湧水ポンプのアビリティを設置しておいた。アナントスに視線を向けると、阿吽の呼吸というのだろうか、俺の意図を組んでくれて王都中の井戸が白く輝き始めた。
驚く民衆。悲鳴を上げたりする者もいるが、ここは王様に言ってもらうのが一番だろう。
また霊魂解析で大まかな事情を記した情報をフィヨルド王に送ってやった。
「静粛に! ただ今井戸が光ったのは、蛇の神にして誓約の神アナントス様の眷属である白い蛇が井戸に住み着いたからである! 聖人ラフィアスさまは民衆の目に留まらない夜中の内に密かに井戸に神のアビリティを設置なされた。
白い蛇は無害であり、勝手に井戸に据え付けられたポンプを外したり、破壊したりされない為の見張りである。
よって国民達よ。汝等は安心して井戸の水をくむがいい。レナリアーラ王国でもそうだったように、大聖人ラフィアス様が設置なされた井戸水には「猛毒無効」や「汚物浄化」などの素晴らしい効果が沢山ある。後日、その情報を書いた立て札を井戸の側に設置しておこう。
そして国民達よ! 絶対に井戸に据え付けられたポンプを聖人様の許可なしに外したり、破壊してはならぬ。破れた蛇の神にして誓約の神アナントス様の怒りに触れて、一族郎党生きたままあの世に飛ばされることになる。
そしてそれを企むことも、誰かに命じてやらせることもしてはならぬ! そのようなたくらみ事をすれば、例え王侯貴族であっても情状酌量の余地なしに、即刻死罪となる!」
『ほー。なかなかいい事を言うではないか。儂の言いたいことのほとんどを言ってくれたな。では儂もちょっとだけ民衆にアピールしてみようかの♪』
と、アナントスが首を空に向けると、王都の空一杯に白い多頭蛇の映像が現れた。
もちろん実体じゃないが、限りなくリアルな映像だ。魔術師の間では立体映像と言うんだそうだ。
「我は蛇の神にして誓約の神アナントスなり。汝等は井戸の神、畑の神、家屋の神を今後崇めるがいい。井戸の水には井戸の神の祝福がかけられておる。
そのポンプを外すと効果が切れてしまうから、絶対に外すことはするな。汝等のする事は全て我が眷属を通じて我に伝わっておる。我はうるさいおしゃべり、特に陰口が大嫌いなので、井戸水を汲む時は余計なおしゃべりをしないように。そんな暇があれば、家や職場に戻って家屋の神、井戸の神、畑の神を崇めるがいい」
と言い放って消えてしまった。それじゃ俺もちょっとだけ言っておくか。セレソロインに頼んで、王都中に俺の声が響くようにしてもらった。
「これにて王都の浄化と癒しは終わった。だが怪我や病気を癒しただけで少しでも油断すれば、すぐにまた怪我をするだろう。その場合は俺を頼らないで今まで通り、施療院や薬屋や医者を頼るように。
それと先程蛇の神にして誓約の神アナントスが言ったように、俺も他人の陰口は大嫌いだ。特に俺とアナントスは婚約者としてお互いに愛し合っている。
よってアナントスの眷属のいる井戸の近くで他人の悪口を言ったりした者は二度と治療しない。アナントスは蛇の神なので、主のアナントスを不快にさせたら、主人を想う忠誠心の高い、眷属のさまざまな蛇に狙われて噛まれて毒に悩まされても助けてやらん。それでもよければ他人の悪口や陰口を言うがいい。もっとも死んだ後は冥王ヨルガル様とその眷属の死神達から永遠に近い罰を受けて苦しむだろうが、俺の知ったことじゃない。
俺はこれから他の村や街へ行って井戸の神の祝福や畑があれば畑の神の祝福を設置しなければいけない。
そして全ての村や街に祝福を設置し終えた後は、お前達に神と精霊の慈悲というものを教えてやろうと思う。
その日まで、神を畏れ、崇め、感謝しながら生きるがいい。ではまた会う日まで、少しの間お別れだ」
と、言いながら腕を振って転移した。転移先はこの城の厨房。俺の為にいろいろ料理作っていただろうに、他ならぬ俺自身が拒否したから、お詫びにいろいろあげようということで許してもらおうという作戦だ。
そんな訳で俺の為に作った料理と、俺が魔法で召喚した料理の素材を交換するという形で無事に解決した。
というか料理長も副料理長二人も、いきなり厨房の隅に一瞬で現れた俺にビックリしていたけど、右腕に絡みついたアナントスを見て、厨房にいた全員がひれ伏そうとしたけど、衛生上の面からまずいので、念動のアビリティでどうにか平伏は勘弁してもらいました。
それに俺の施した竜王の息吹などで、持病が治ったとか、火傷が治ったとか、厨房にいた全員に大感謝されましたよ。いやそれ、借り物の力なんですけどね。あのカワウソ天使のお陰で神々と知り合っていろんなアビリティ購入したからであって、俺じゃなくて神々を崇めろとぶっきらぼうに言ったけど、全員の目がウルウルしていて、あまり通じていないようだった。
そして料理長が用意した料理を俺が闇の中の空間に全て仕舞いこむと、お礼に厨房でミル貝とホタテ貝を片っ端から召喚して、たちまち数千個の貝でいくつものタライが埋まった。ありがとう海神王。
後は一番小さな10メートルほどのクラーケンの遺体とシーサーペントの遺体を一体ずつ出して、腰を抜かしている料理長と副料理長たちの前に置いて、「全部俺が始末した。生き返ったりしないからそれでも食って元気だせ」と言い捨てて、王城内に用意された室内に使者二人と共に転移した。これで俺の為に作った料理の損失を取り戻してくれたらいいんだけどな…って思ったら、アナントスに「あの貝、あれほどの量だと婚約者殿に用意した料理が少なくとも30回は用意できるだけの金になるぞ?」と言われた。
それから後日談だけど、クラーケンの遺体とシーサーペントの遺体。どっちも一番小さいものなんだけど、入手困難ということで、倒せる冒険者も最低でもBランクのパーティが必要だということで、あの二つだけで捨て値でさばいても金貨3000枚の価値はあるんだとか。
それだけの価値はあるということで、国王一家や上位の貴族はもちろん、有能な家臣一同(騎士とか文官とかね)も、一人の例外もなくクラーケンと大海蛇の肉を使った料理はおいしいと大喜びだったそうです。
それ、すでにヴァイソン村や無人島のノランディアの街の連中にたらふく食わせたといったらまずいよね?
これでいくらでも大海蛇やクラーケンを召喚できるとわかったら、俺…たぶん、いや絶対に料理長たちに一生、付き纏われるから、料理長も副料理長も大物を捌くことに至上の喜びを見出しているようで、恐ろしくて本当の事は言えませんでした。
どうも俺が用意したのってちょっと過剰だったみたいだな。それと料理長の作った料理、覇王竜の叡智で全部鑑定してみたけど、毒とか薬物は入っていませんでした。
というか俺、大食漢というイメージあるのか? 軽く20人分は量があるんですけど!?
何かパンとか肉とか果物とかスープとか、いろんな料理を一辺に出したような感じでした。
どうも俺の好きな料理とかわからないから、作れるだけ作って出したらしい。
これは貧民街の連中に食わせるとするか。あ、その場合は「好意の空間」とか「生命と魔力の閃光」とかアクティブにして、子供達に怖がられないようにしないとな。
何かやる事ばかり増えていくなー。まあ時間停止できるからいいんだけど…何か俺、聖人になってからの方が忙しくなっているような気がするんだけどな。
とりあえず料理について揉めなくて本当によかったよ。使者二人には後で俺の手作り料理を振る舞ってやるとするかな。
その事を話したらアルロンもロンドウェルも大喜びで頷いていました。そういえばお前ら、俺の手料理を食ったことないんだっけな。料理長には及ばないかもしれないが、楽器演奏と違って兵器並みじゃないから安心してほしいと思いながら、どんな料理を作ればこの二人の使者が喜んでくれるかを考え始めていた。
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