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第85話 闇の獣人、神様達から過去の英雄や勇者の末路を聞いて縮こまる

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 とりあえず村の中の魔物を退治して(半分はセレソロインが火山の噴火口に捨てただけなんだけど)、家も俺の精液ポーションを飲んだ大地の大精霊のおかげで新たに建て直した。

 それからまた俺の精液ポーションを一瓶飲み干してから、今度は家畜を世話する小屋や柵を建て直していった。

 そのスピードの速いことときたら…。やっぱり大精霊ってすごいんだな。精霊王の次に偉い精霊だと言われているのも納得できる。

 こうして家畜を世話する地区も再び修復して、餌場のエサ入れや藁などもどこから持ってきたのか知らないが、いつのまにか家畜小屋に新品の状態で入っているのには驚いた。

 そして家畜もいつのまにか牛が20頭。馬が10頭に鶏が30匹と揃っている。

 これは神様達からのプレゼントだそうだ。…こりゃ朝が来るまで待って、すぐにレヴィンに派遣してもらわないと駄目だな。俺は家畜の世話なんてしたことないし、分身達にもやらせるわけにはいかない。

 下手するとせっかくの新品のエサ入れに足をひっかけて壊してしまう恐れがある。

 井戸も水の大精霊達のおかげでちゃんと水を汲めるようになったし、水質も俺の分身達の連続射精のおかげで地下水脈が浄化されて、畑にまかれた種も早くも芽を出しているので、食料を持ち込んでそれを数日間食べていれば、畑の作物もとれるようになって、いつでもこの村に住むことができる。

 俺は村長専用の大型の家に神様達を呼んでくつろいでもらった。俺の分身達は村の周囲の警戒にあたっている。

 魔神王達は気絶した夜盗達を近くの街の衛視たちの詰め所の前に放り込んで、すぐに戻ってきた。

 神様達の存在を知ると、一斉に顔を青ざめさせて一緒にくつろぐ事などとんでもないと辞退して、今では村長宅の周囲を警戒している。

 魔神の長がマイナーな神様の三柱を畏れるなんて意外だと思ったが、実は結構強い神様達らしい。

 まあこれで家屋の再建築、井戸の水の浄化、畑の土の活性化は終わったので、後はレヴィンに相談して、貧民街と地下街から選んだ人材をここに住まわせるだけだ。

 もちろん退屈な村の中での仕事だ。のどかと言えば聞こえはいいが、退屈で変化に乏しい日々。冬を除いて畑を毎日耕さなければいけないし、農作物の管理や家畜の世話など、結構大変な仕事なので誰にでもできる仕事ではないのは確かだ。
 
 よほど今までの人生で辛酸を舐めた者にしか務まらないだろう。特に若い者は刺激を求めやすい。そういう変化や刺激が少ない田舎の村での生活は彼等にとっては退屈でしかないだろうからな。

 実際に俺も成年とはいえ、まだ16歳だし。こりゃこの村に住むのは若者じゃなくておっさんやおばさんばかりになりそうだな。やっぱり高額の報酬を出して金で釣らないとまずいかな?

 後は村を守る結界とか貼っておいた方がいいかも? とか考えていると、神様達はお互いに何か話しているようだったが、それも終わったのか俺に話しかけてきた。

 「御苦労さんじゃったのー。まさかこんなに早く終わらせられるとは思わんかった。これも全てお前さんのお陰じゃて」

 「いえ、俺は単に魔物退治しただけですから。後は分身達と大精霊達がほとんどやってくれましたからね。それに家畜も神様達のおかげで揃ったことですし。それほど大したことはしていませんよ」

 
 すると神様達は互いの顔を見合わせてほっこりとした感じの微笑みを浮かべる。それは祖父をもったことのない俺でもおじいちゃん、と言いたくなるほどの優しい笑顔だった。

 「謙虚じゃのう。これほどのアビリティや眷属を従えているというのにのう」と赤いローブの家屋の神様。

 「うむうむ。しかも性奴隷を複数従えていても、暴力を振るわずに、魔神の姦計も見抜いて逆にそれを利用してやるというのが頼もしいの」と井戸の神。

 「それに海神王様や冥王様に気に入られているのに、それを鼻にかけないで慢心せずにいられるところがすごいですなあ。普通なら神のお気に入りになったら、得意満面になって誰彼構わずに吹聴して言いまわる者もおるというのにな」と畑の神。

 「実際にな。最初、この村は異世界からの転生者が収めていたんじゃよ」

 悲しげな顔をした家屋の神。そうか…この神様って家の神様だから人の生活に一番詳しいんだよな。マイナーだけどそれだけ人間というものを知っているから、魔神王でさえもビビるんだろうな。さすがに海神王様には及ばないんだろうけど…。

 「そうじゃな。その転生者というのはな。異世界で事故にあってな。半身不随の大怪我だったんじゃ。…それでなあ。寿命が尽きかけているということを本能的に知ったその男はな。施療院での治療費以外の財産をな、全て孤児院に寄付したんじゃよ。その男も孤児だったからな」

 と、畑の神様。その男も孤児だったのか。何だか俺と同じで親近感が湧くな…。

 「それで男は三日後に死んだ。儂らはそれが気の毒でな。そっちの世界の神々の許可をもらって、その男にこっちの世界に転生してもらったんじゃよ。孤児院に多額の寄付をしたその魂はまさに善良そのものでな。これならこちらの世界でも大丈夫だと思ったんじゃ」

 井戸の神様が懐かしむような目をして話を継いでいく。

 「後は儂らは男に何が望みかと聞いてみたら、普通の人よりも健康で長生きできたらそれでいい、と言ってくれたんで、その通りにしたんじゃ。寿命は長すぎてもいかんから500年にしたら喜んでくれてな」

 ここまで聞くといい事のように思えるが、神様達の顔を見るとこれから暗い内容になりそうだな。覚悟して聞かないと…。

 「それでな。男にはそれだけじゃモンスター相手に戦ってもすぐにやられるだろうから、下級ポーション作成のアビリティを与えたんじゃよ」と畑の神。

 「そしてな。魔力の続く限り、下級ポーション限定とはいえ、大量に創造できるからな。すぐに男は金持ちになって、この村のある土地をレナリアーラ王国から買い取ったんじゃ」と井戸の神。

 「そこまではよかったんじゃ…。しかしのう…」ふう、とため息をついて俺の方をチラ、と見た。

 「しかしなぁ…下級とはいえ、回復ポーションを魔力がある限り一瞬で生成できるというのは素晴らしい行為なんじゃよ。それで男に救われたエルフや女奴隷がな。男に言い寄ってしまってな。…結果、男は毎晩4人の女を相手に淫らな行為をやりまくったんじゃ」

 と家屋の神が俺の顔を見ながら続きを語りだす。おそらく当時の事を思い出しているんだろうな。

 「それでな。いくら寿命が500年といってもじゃ。毎晩大量の精気を消耗していれば寿命が縮むというものじゃよ。しかも男は下級とはいえ、回復ポーションを作れたからの。それを飲んで精力を回復させていったが…それも最初の内だけじゃった」

 そして井戸の神が家屋の神の後を継いで話を続けていく。

 「儂らが男の望みを叶えたのはあくまでも「普通の人間よりも健康で長生きできる体」であって、不老不死ではないのじゃ。それなのに女達に言い寄られてすっかり色欲の虜になった男は、再三に渡る儂らの警告を無視してな。ある日、病気一つしなかった男が急に倒れてな。どんな薬も回復の魔法も効かなかった」

 「それは…彼の寿命が尽きかけていたからですね?」と俺が口を挟む。本当は口を挟んじゃいけないんだけど、確認したくてたまらなかったんだよ。

 俺の確認に三柱の神々は厳かな顔で同時に頷いた。

 「それから数時間後に男は死んだ。どうしてもっといい願い事をしておかなかったのかと、男は自分の選択を恨みながら死んでいったのじゃ。それからは男が死んだことでこの村に魅力を感じなくなった女達が去り、ポーションの売れ行きが一番金になっていたし、この村の知名度を上げる役に立っていたのじゃが…。男が死んでからは、そこらにある普通の村と同じ。
 
 すぐに人が来なくなり、不作もあって一人減り、二人減り、と村の働き手はいなくなり、代わってゴブリンが人口の少なくなった村に目をつけるようになってしまった。

 男の妻は娘を孕んでいたが、彼女も男が死ぬとは思っていなかったんじゃろうな。女手一つで村を切り盛りするにも限界がある。人が少なくなり、腹には子供がいる。

 だから女はこの村を出て王都に引っ越してきたんじゃ。今では金もほとんど尽きて貧民街で暮らしておる」

 家屋の神が厳しい目をして床を見ている。当時の事を思い出しているんだろう。悲しいがこれも実際にあったことだ。俺にはどうすることもできない。せめてこの事実を噛みしめて男のようにならない、と決意することしかできなかった。


 「それでな。男が死んでこの村に人が住まなくなり、無人の村になるのに一年もかからなかった。何より人手が少なくてな。農作業をするのもままならんのに、ゴブリン達が攻めてきたからの。王都や他の街や村に逃げるしかなかったのじゃ。それから10年。今は廃村となった村にはゴブリンが住み着いて、ゴブリンを狙った大蛇が子供達を引き連れて地下に潜んでいたのじゃが…お前さんがあいつらを退治してくれたお陰で村は蘇りつつある」

 厳しい目をしている家屋の神とは対照的に優しい目をして俺の働きを労わってくれる井戸の神。

 「だから儂らはお前さんにこの村の管理を任せようとは思わんよ。あの男の二の舞になるかもしれんからの。それにお前さんは邪神退治という大仕事がこの後、待っているようじゃからの」

 畑の神が俺の心中を見透かしたかのように言ってくれる。よかった。このままなし崩し的に村長かその代理としてこの村に縛り付けられるのかと思ったよ…。

 「そうじゃのう。村長にするなら目先の欲望に負けない、清楚で清廉な人物にするべきじゃ。それも聖剣なんぞに頼らん者でないとなあ」

 また遠い目をしている家屋の神。聖剣って何があったんですか?

 俺の視線に苦笑を浮かべた井戸の神が教えてくれた。

 「実はな。昔、聖剣を引き抜いて勇者になった男がいたんじゃよ。しかし魔王退治をしたまではよかったんじゃがなあ。獣人やエルフやドワーフも危険だといって勇者の名において圧政を敷いて迫害しはじめたんじゃよ。

 これには儂らも困っての。儂らを崇める信者の老婆が3日3晩の間、水だけ飲んで必死に祈り続けるもんじゃからの。老婆の息子は勇者にぬれ衣を着せられて殺されたのが儂らにはわかった。

 じゃが老婆の心には恨みはなくてな。どうか息子のような被害者が出ないようにしてくれという祈りじゃったから対策を教えたんじゃよ」

 「その対策とはな。聖剣を鞘に入れて封じてしまうことじゃ。儂らが創造した鞘をもった老婆は、勇者によって理不尽に虐げられていた者達に鞘を示して協力を求めた。

 そして一人の娼婦が名乗りを上げた。彼女の誘惑に勇者はあっさりと陥落した。何しろ聖剣を持っているだけで、どんな魔法も武器も攻撃も効かないからの。完全に油断していた勇者は、娼婦の女とやりまくって眠っている間に、密に隣の部屋で待機していた、かつては勇者の仲間であり、女遊びに対して何度も忠告していただけなのに、勇者によって解雇された盗賊が忍び寄って聖剣を鞘に入れた。

 それから勇者は寝ている間に理不尽に虐げられていた者達によって殺された。どんなに強い力をもっていても、しょせんその力は聖剣によるものであって、聖剣を封じられてしまえば勇者もただの人に過ぎなかったということじゃなあ」

 まったく嘆かわしい、と家屋の神が首を振りながらひげをしごいている。

 「他にもな。斬れば斬るほど威力を無限に増大させるという聖剣を持った勇者もいた。こっちの勇者は聖剣の価値に気づいてからは、狂ったように魔物を斬りまくっていった。

 それが人間に害をもたらさない中立や無害なモンスターであっても、聖剣の切れ味を増大させたい欲望をもった勇者には彼等の命乞いなんて何の意味もなかった。

 そして善悪関係なしにモンスターを斬り殺していっただけあって、その切れ味は邪神さえも滅ぼすほどの威力を発揮するようになったんじゃ…」

 「しかし、聖剣の切れ味の虜になった勇者はの。こともあろうに封印を切り裂いて邪神の封印を解いてしまったんじゃ。しかもタチの悪いことに封じられていたのは一体だけではなく、二体の双子の邪神じゃった。

 兄が斬られて滅んだ時に、弟の邪神は勇者の妻に憑依したんじゃ。邪神に憑りつかれた女房は包丁一本で街の住民を虐殺しはじめた。今まで聖剣に頼り切っていた勇者は他に解決する方法も、人脈ももっていなかった。

 だから彼は痛恨の想いで妻ごと邪神を斬ったのじゃ。そして邪神ごと妻を斬り殺した後は自分の胸に聖剣を付き刺して絶命したんじゃ…」

 井戸の神と畑の神が交互に別の聖剣の勇者の末路を教えてくれた。まるで彼等の末路を教えることで俺がそうならないように言い含めているようだった。

 …いや、実際にそうなんだろうな。…何か俺自身が悪いことしたわけじゃないのに、すっごい罪悪感を感じるんですけど。

 外を見るとまだ暗い。時間を示す宝石を出すと午前2時半だった。

 「疲れているようじゃの。一旦王城ジスニーヴァインに戻ってレヴィンさんと一緒に眠るがいい。安心しなされ。悪夢なんて見ないようにしてやるからな」

 三柱の神を代表して家屋の神が俺に寂しそうな、いや悲しそうな笑顔を浮かべながら言った。

 きっと俺に当時の勇者達の姿を重ねているんだろうな。俺は素直に頷くと、分身達には引き続き村の警護のために待機。魔神王達も村の中を巡回して上空、地下から敵が来るかもしれないので、空や地下も見回るように命じておいたら、畏怖を込めた了承の返事が返ってきた。

 そして一旦ダンジョンに転移してエペロンや他の大精霊達に命じて、引き続き精液ポーションを作るように命じておくと、彼等が一斉に頷いたのを確認してから、レヴィンの部屋へと転移した。

 考えてみたら時間停止してから何日分の時間を過ごしたんだろう? 何だか俺は強くならなきゃいけないのに。
 聖人扱いされていて、500人以上の信奉者から崇められているんだぞ? 負けられるわけないじゃないか。

 だが神様達は強くなるなと言っているような気がする。…いや、正確には慢心するな、だろうな。

 俺は何故か脳裏に三柱の神様達の姿が浮かび上がり、強烈な睡魔に襲われた。

 これはおそらく神様達の御加護とかいう奴だろう。俺が悪夢を見ないようにしておくと言っていたが、おそらくこれだな。

 俺は睡魔に抵抗することも考えられずに、朝が来て影の中で待機していたレオンフレイムに舐められておこされるまで眠り続けた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 後書きです。ラフィアスが最後で語っているように、聖人扱いされている以上、無様に負けるわけにはいかない。負けたら信者達からの信頼を失うと思い、かつその可能性を恐れています。

 だから彼は時間停止空間の中でひたすらアビリティを身に付けたり、浄化したりして己の技量を伸ばし、磨いていたのです。

 これが彼一人だけなら、ダラダラと過ごしてもっとノンビリした話になっていたでしょう。

 しかし彼は帝都に封印されていない邪神がいる事を知ってしまいました。

 このままではいつか、必ず彼の信者達が害される日がくる。

 何より呪詛に侵されたミュリエール皇子をそのまま放っておくわけにはいかない。地下で生活していた者達や貧民街の者達。王城内でもラフィアスを信奉する者がほとんどです。

 自分を信じてくれる者達を守る為、自分を崇拝して生きる気力、または糧にしてくれる者達の為に勝たなくては、という思いがラフィアスを変えていったのでした。

 おかげで大精霊や上位魔神、魔神王も部下にすることができましたが、相手は邪神です。

 狡猾で策略ならラフィアス以上です。
 
 それでは読んでいただいてありがとうございました。


 
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