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第55話 闇の獣人、王都の住人から熱心に崇拝されていると知って愕然とする

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 あれから俺はマントで体を覆っている状態で城内のあちこちを回っては怪我人や壊れた個所を癒したり、修復したりしていった。

 それが終わると時空魔法で時間を止めた中を移動して、やはり怪我人や壊れた場所を癒したり、直したりしていった。

 幸いなことに竜王の息吹と覇王竜の息吹の同時使用で怪我人は重傷者はほとんどいなかった。

 いや、いたけど上記の二つの魔法で癒されたというのが正解だった。

 おかげで城内・城外でもそれほど走り回ることはなく、夜の七時前には城内に戻ることができた。

 そして俺は例の部屋で待っていた帝国組と王国組に再会していた。ほんの数時間しか離れていない。なのに数日経ったような感じがするな。

 それに室内では俺が助けた大臣が女王陛下にいろいろと説明している。

 10分ほど待っていると、俺に気づいた大臣が畏怖を込めた目で俺を見ると、早々に話を切り上げて足早に退出していった。去り際に俺を見て、深々と頭を下げていったのには少し驚いた。

 てっきり地位の高い人間って命の恩人でも滅多に頭を下げないと思っていたけど、世の中には義理堅い人間がいるもんだと思った。

 そして俺達は悪魔退治の時の情報の整理をしていた。相変わらずミュリエール皇子は寝たままで、起こすと面倒なことになるから、そのまま寝かせて置けというのが全員一致で決まったのでそのまま寝かせている。

 俺は竜王の息吹と覇王竜の息吹の二種類を使って王都全体を癒したおかげで、王都には被害はあまりないらしい。少なくとも死者が一人も出ていないのが俺にとっては最大の喜びだった。

 もちろん家屋が破壊されたり、火事になったりしたが、不思議な光が町全体を覆い、それも二度も続いたので、街の人々の病や怪我のほとんど癒されて元気一杯になり、街ぐるみで消火活動に出て火事を消し止めたらしい。

 そして悪魔退治の話になった。俺は三体仕留めたけど、残りの二体はその間に反応が消えてしまったことを説明すると、シャルミリア局長がニヤリと笑った。
 
 あ、やっぱりこの人が仕留めたのね。っていうのが即座にわかるほどの笑みでした。

 そして俺が戦ったのは淫魔だったので、遺体はないということを説明すると全員、妙に納得してくれた。

 …ええ、そうですとも。男の淫魔除いて俺の肉棒をぶちこんで逝かせてやりましたとも。それが何か?

 ちょっとふて腐れた感じの俺を見て苦笑するレヴィン。だが彼の台詞を聞いて俺は顎が外れるんじゃないかというくらい驚いた。

 「全裸の獣聖人(じゅうせいじん)って…何だよそれ!? そりゃ治療や壊れた物を修復するのに忙しかったけどさ。何でそんな変な称号を付けられてんの? しかも崇拝って…」

 開いた口が塞がらないとはこの事だ。確かに城内で壊れた個所を覇王竜の息吹を使って修復した。瓦礫の下敷きになっている人を助けたりしたけど…。

 「実はね、君がサキュバスとその、裸で交尾して逝かせてやる所を多くの使用人や衛兵や貴人が見ているんだよ。

 そして君はその女淫魔を絶頂に導いて浄化した。それから後も全裸で多くの人を癒して、壊れた個所を修復した。
 
 だからね。今、王城では君を神の御使いとか、神の化身として崇めているんだ。それで「全裸の獣聖人」って称号が付いてしまったというわけだよ」

 「それだけじゃないのだよ。君に命を救われたり、壊れた個所を修復しているのを目の当たりにした者達が君の事を同僚や上司に広めまくってね。実際に君は多くの人を癒したから、単なる奇人変人ではなく聖人として君を崇拝している者がほとんど、というのが現状だね。もちろん私やレヴィン宰相。そして女王陛下や姫様にも君を過剰に、盲目的に信仰しないように配慮するが時期というのがあるからね…」

 苦笑しながら解説してくれるシャルミリア局長。上機嫌なのは、上級悪魔を二体もぶちのめした事が原因だろう。

 この人は光属性だし、敵と認めた者には容赦しない。きっと局長と戦った淫魔達は絶頂に達することもなく、光の力で滅ぼされたんだろう。可哀想に。おそらく時間の問題で復活するだろうが、二度と局長と、彼女がいる王都には来ないだろうな。召喚されても局長に滅ぼされた事がトラウマになっているだろうから、すぐに魔界へ帰る方法をとるだろう。

 しかし最初の女淫魔を逝かせてやった時に、人の気配を感じたが…結構、多くの人に見られていたんだな。もっといい方法があったのかもしれないけど、あの時は本当に忙しかったから他人の目なんて気にしていられなかったんだよな。何しろ人間や獣人の女性を淫魔に変えてしまう奴が城内を闊歩していたんだから、そいつらを何とかしないといけないって考えが頭の中の大半を占めていたんだ。

 あ、そうだ。俺は闇の中の空間から、宝箱を取り出して貼られてあった紙を確認する。誰のものかすぐにわかるように、局長達が女王と姫の親子を相手に話し合っている間にいろいろやった事の一つがこれ。

 局長の為の宝箱と書いてあった紙を剥がして、そのまま魔法で燃やして消去する。そして俺は局長に宝箱をうやうやしく両手にもって彼女の膝の上に置いた。

 それが終わると、女王陛下、シャリアーナ王女、ヴェルゼラート侯爵夫人。三人の座る席の前に、念動のアビリティを使って置いていく。

 ミュリエール皇子は…寝ているので、執事さんに宝箱を渡す。

 そして俺は宝箱の中身を簡単に説明した。レヴィンにはすでに渡してあるので問題ない。

 女王も姫も侯爵夫人も、執事さんはおろか局長さえも宝箱を開けて中身を見て、俺の解説を聞いてその価値の高さに驚いていた。

 「まあ…竜王のマントだなんて…これを装備すれば空を飛べるのですね?」と女王陛下。

 「はい。しかもこのマントは天候による温度変化や疫病による病の感染を防ぐ効果もありますので、国を支える陛下や姫様には必要な品ではないかと。そしてこのマントを装備した状態でこの馬車を実体化させれば、馬車ごと空を飛ばせることができます。この金色の水晶は黄金竜の祝福を受けており、持っているだけで金を集めることができますが、浪費家が持てば出るお金が多くなるので当然ながらお金は集まりません」

 と、いった注意事項をこと細かく説明していく俺。宝箱の中身と俺を交互に見つめる執事さんに、俺は皇子の説明のために必死に覚えているこの片眼鏡の男に好感をもった。

 今までは自分達家臣に素直で聞き分けのいい子だった皇子の呪いがほとんど消えたのだ。

 必然的に皇子は自分のやりたいことをやるようにする。当然ながら配下の者達と意見が衝突することもあるだろうな。

 だからこの執事は今まで以上に苦労するだろう。そう思うと同情を禁じ得ない。

 「…とまあ、そういう訳でして。俺がダンジョンに潜った中でも特に価値の高い、レアものというべきマジックアイテムや宝石を皆様に贈呈します。ですから――」

 頭を下げていた状態から、俺はゆっくりと顔を上げると宝箱を大切にもっている面々に必死に何度も頭を下げながらお願いした。

 「お願いですから、全裸の獣聖人なんて称号で呼ばれないようにしてください! 街を二度も浄化したのは、悪魔達をまとめて一掃するためにやったことなんです。街の人達の病気や怪我が回復したのはついでの事であって、王城内部を浄化したのも、しぶとく生き残っていた中級から上級の悪魔を消滅、または弱体化させる為だったんです!

 俺は決して皆さんが崇拝したり、憧れたりしていい人物じゃないってことを広めてほしいんです。

 どうか王国の皆さんも、帝国の皆さんもその事をこの王城及び街の人達に伝えてください! 本当に頼みます!」

 必死に頭を下げて懇願する俺に苦笑する女王、姫、ヴェルゼ、宰相、局長の五人。

 一方、帝国側は困惑した顔をしている。上級悪魔を平然と退治する俺がこんな風に崇められるのが珍しいのか。

 それとも俺が能力持っているのに崇められるのが嫌なのが理解できないのか。

 そりゃ俺が努力して獲得したものならいいけど。アビリティを吸収する能力は生まれつきのものであって、俺自身が努力して、手に入れたわけじゃないからな。その過程で底なしの精力を手に入れたわけだけど。

 それに覇王竜の装備およびアビリティシリーズがあるから、俺の力は大幅に増したんだし。

 つまり覇王竜がいなきゃ俺がこんなに早く強くなることなんてなかったんだから。どう考えても崇拝されるのは俺に加護を与えてくれた女神様であり、覇王竜であるべきなんだ。

 ただそれを説明したら俺がアビリティを吸収できるとバレるから言えないんだけどな。

 でも一つだけわかっていることがある。それは俺の今の力は俺個人だけの力じゃないってことだ。

 だから俺はこの王城、及び王都に住む人々から感謝されたり、崇拝されるべき人物じゃない。それだけは徹底しておかないと、俺は慢心してしまうだろう。

 女神様の加護や竜の神々の恩恵で生きていられることも忘れて。そんな嫌な人物にはなりたくない。

 それに全裸でいたのはサキュバスとの戦いで必要だったからだ。断じて俺は全裸でいることが大好きな変態なんかじゃないんだよ! 

 そりゃ俺の精液はもはや究極ポーションに匹敵するほどの回復力があるけどさ。

 だからって全裸でいていいわけじゃないと思うんだ。

 と、いうか全裸でいて平然としていられるって何か間違っていると思うんだよな。いっそ開き直ってしまえばいいんだろうが、そうなったらもう、本当の変態になってしまいそうで怖いんですけど…。

 「ラフィアス。君はそう思っていてもだ。君のお陰で馬車に轢かれて重傷を負ってしまった少年や青年。それにダンジョンで四肢の欠損を起こすほどの怪我をした者。さらに無数の悪魔を浄化の光で消し去った。王城内では淫魔を私のように滅ぼすのではなく、浄化した。
 
 だから君は悪魔をも逝かせて浄化した癒しの聖人と王城内の人間は見ている。王都の人間も多くの怪我人や病人を癒して悪魔を浄化したのが君なので、必ずしも間違った事は言ってない。だから修正するのは時間がかかるということは覚えておいてほしい」

 うん。知ってた。でも、修正するにしても何もやらないよりかはマシだと思うんですよね、局長。

 とにかく、俺は宝箱を王国、帝国の面々に渡したので、もうすることはない。

 何故、悪魔が召喚されたのかは結局、その詳細は掴めなかったが、悪魔が出てきても俺がいれば心配ないということを改めて説明して、王国、帝国の両方の面々を納得させた。

 それは今日の俺の働きぶりを見れば一目瞭然だったからな。

 というわけで皇子も寝ていて全員、悪魔騒動で疲れているので今日はお開きにしようということになった。

 俺はやっと解放されたので、レヴィンと一緒に彼の部屋に戻ることにしたのだが…その道中が大変だった。

 王城内の廊下を歩いているだけなのに「見て! 全裸の獣聖人さまよ!」とか言われるのはまだいい方だ。

 問題は…見張りの兵士やメイドが駆け寄ってきてマントで前を覆い隠している俺を見て

 「どうして全裸じゃないのですか!? 私達はラフィアス様に忠実な者です。ラフィアス様の肉体美をこの目に焼き付けたいので、どうか見せてください!」

 と、言われたりして仕方なく見せました。でないと何されるかわからなかったし。

 さらに進んでいくとドレスを着た令嬢や貴婦人の集団がやってきて

 「全裸の獣聖人様! サインしてください。できれば獣聖人様の肉棒に触らせてください!」

 とかね。もう、ファンじゃなくて崇拝というか、もうこれって完全に狂信者の目で俺を見ているんだよね。

 逆らうと怖いから俺の肉棒に触らせたらしゃぶりだすし。ここ、王城内の廊下だよ? なのに堂々としゃぶるなんて何考えてんの、と言いたくなった。

 結局我慢できなくなって射精したけど。さすがにこれはレヴィンも顔をひきつらせて軽くお説教を令嬢達にしていたな。

 ただこれだといつかレヴィンが刺されるかもしれないので、俺は闇の中の空間から精液ポーションを人数分出して、今回だけ特別に、他の皆には秘密で、といった条件を守らせた上でポーションを渡してトラブル回避しました。 

 もうこうなってくるとトラブルばかり起きるから、思い切って全裸のままレヴィンの後ろを歩いていると、周囲から畏敬や尊敬・崇敬の目で見られて野次馬が近くに来ても、忙しいからまた今度にしてくれ、と機先を制して言うと囲まれなくなった。

 やっぱり堂々としているのがいいのかな? こうして俺はレヴィンの部屋にやっと到着すると、そのままベッドに潜り込んで寝ることにした。

 …いやね、覇王竜の装備シリーズを身に着けているから眠くはないんだけど、寝たい気分だったんだよね。

 とにかく疲れた。肉体的じゃなくて精神的に。俺は影の中に潜んでいるレオンフレイムに俺が寝ている間の警護を任せると、快く引き受けてくれたので、安心して眠ることができた。いつも寝ている間の警護を頼んでしまってすまないな。本当にお前のお陰で夜這いや夜襲で目を覚まさなくて済むから助かるよ。本当にありがとうな。

 そして俺は朝の4時頃に目が覚めた。というのも視線を感じたからだ。目を開けてみると、レヴィンが上半身裸の状態で俺の寝顔を熱心に見つめていたらしい。

 俺の寝顔をかなり長い時間見つめていたと、レオンフレイムから聞いた時にそれって観察じゃね? と思った。間違っていないよな?

 朝から疲れたような感じがする。そこで閃いた。時空魔法を使うか、レオンフレイムを警護に影から出しておけばいいんだ。

 ただ時空魔法は便利すぎる上に、暴走したら目も当てられないからな。それに俺が時空魔法が使えて、神出鬼没の存在になったら、今よりもっと、俺に対する崇敬の心が過熱しまくって暴走状態になる事は否めない。

 だから時空魔法はなるべく使わない方がいいかもな。城内を歩く時はやっぱり全裸で。恥ずかしいけど仕方ないよな。もう泣きたい気分だけど、俺を見世物にして指さして笑うんじゃなくて、純粋な善意や敬意と信仰心から来ているから拒否できないのが余計に辛いんです。でも覇王竜の額飾りを装備しているので、本当に泣くほど深刻じゃないし、胃腸も全然、異常なしなので頑張りたいと思う。

 でないと竜の神々や、闇の女神様を失望させることになるしな。

 そしてレオンレフレイムを俺の側に置いておけば、よほどの緊急事態でない限りは側に寄らないようにと言っておけば大丈夫だろう。というか城内のメイドや親衛隊。更に近衛騎士や他の下働きの連中や貴族達にいいように触られたりするのって、見世物と変わらないからな。

 だから本当に助かりたい奴だけ俺の近くに来ていい、というのをレヴィンから女王陛下に伝えてほしいと話してみたら、大きく頷いて了承してくれた。ありがとう宰相。

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 後書きです。全裸の獣聖人。これが王城、及び王都の住民から付けられたラフィアスの称号です。

 元ネタは生殖器崇拝の男根崇拝です。日本でも男根崇拝がありますが、インドでもリンガといって男性器そのものを崇拝しています。どうやら人間はどんな存在でも崇めようと思えば崇められるということがわかります。鰯の頭も信心から、というように、自分達に利益があるのなら崇める対象は神様じゃなくてもいいようです。

 例えそれが全裸の漆黒の獣人であっても、です。今回の悪魔騒動でラフィアスによって多くの人々が救われているので、単に悪魔退治しただけじゃないのが彼等の信仰心を過熱させる一因になってしまっています。
 
 ラフィアスが変態呼ばわりされるわけじゃなくて、強烈な信仰心によるものだから完全否定したくても、できないというジレンマ。

 またここまでラフィアスが異常なまでに崇められるのは実績の他にアビリティも強く影響しています。
 ただ長くなるのでここら辺で終わりにしたいと思います。
 
 というわけで今回はここまで。読んでくれてありがとうございます。
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