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「あー?ダサメガネ、私になんか用?」
「『筋力強化』」
「は?んぶっ!」
私は魔法で筋力を強化すると、躊躇いなく女の頬を殴った。女は変な声をあげて、少し飛んだ。
「さ、相楽さん!?」
池田君が驚いてる。何驚いてるの?君が戦えないんだから、私がやるしかないじゃん、仕方がないんだよ。これは虐めの仕返しとかじゃないから。私は心の中でそう言い訳しながら倒れ込んだ女にまたがる。
「な、いた…あんた、何…」
「浄化パーンチ。」
「ふぎゅ!っ、ふざけっ!」
「えーい。」
「んぎゃ!」
人を殴ったことなんてないから、顔面目掛けて適当に拳を振り下ろす。拳に浄化の力を乗せることも忘れない。
「これは二階から水かけられた分。」
バキッ
「これは教科書捨てられた分。」
バキッ
「これは…えーっと、忘れちゃった。」
バキッ
女の顔はみるみる腫れ上がる。池田君は顔を青くしてガクガクしている。
「んー次は…」
『グオオオオ!ナ、ナンダこの力は!』
「あ、起きちゃった?ごめんね、寝てる間に殺そうと思ってたのに…うるさかった?」
『お前ナニモノだ!オレの器が死にかけテルぞ!?』
「やだなあ、聖女だよ?久しぶり、覚えてるー?」
『ア!お前は、オレを封印したイマイマシイ聖女ではナイか!何故ココに!?』
たくさん殴られて意識を失った女の代わりに厄災が目を覚ましてしまったようだ。取り敢えず挨拶してみる。良かった、覚えているみたい。
目は覚めたけど、厄災は女に取り憑いたままだ。これだと池田君がとどめを刺せない。
「あのー、その身体から出ていってもらえませんか?」
『オレに命令スルナ!コノ器がアレバ勇者は手を出せマイ、フハハハハ!!』
「じゃあ私がやるしかないかあ。」
バキッ
『イタイ!』
「そこから出ないと力も使えないでしょう?生身の人間って、痛みに弱いよね。長年実体をとっていなかった貴方がそれに耐えられるの?この身体殺せば貴方も死ぬの?」
バキッ
『コワイ!お前ホントウニ聖女か!?』
「聖女だよ?アンタのせいで聖女にされたんだよ?アンタさえいなければリックも死ぬ事はなかったのに…せっかく肉体を得たんだから私が殺してあげるよ。首を切り落とされたい?首絞められたい?手足を切り取られたい?ふたつに引き裂かれたい?焼かれたい?水に沈められたい?ねえ、選ばせてあげるよ。ねえ?ねえ?ねえってば!!!」
『ヒイイ!』
「さ、相楽さん!殺戮モードに入っちゃってるから!ストップストップ!!」
「ねえ?ねえ?ねえ????」
『イヤッコワイ!!』
「っ!ユ、ユマ!もうやめろ、止めるんだ!」
「!!」
池田君の声で我に帰る。目の前には恐怖に涙する顔面ボコボコの厄災。いや何泣いてんの?悪の限りを尽くしてきたくせにやられる側は初体験なの?剣で切られる事はあっても殴られた事はないの?なに女の子みたいに泣いてるの?
手を止めてしまった私の隙をついて、厄災は女の身体から抜け出した。だから今私が馬乗りになっているのはただの顔面ボコボコのギャル。私は確かにこの女に虐められていたけど、ここまでするほど憎んでいた訳ではない。私は彼女の顔を回復魔法で元に戻してあげると、優しくその辺に転がした。
『ユ、勇者!オレのアイテはお前がシロ!』
「そ、そうだそうだ!お前を倒すのは勇者であるこの俺だ!聖女に手出しはさせない、俺が守るんだ!」
『ソウダ!手を出サセルナ!』
「池田君。」
「ひ!な、なに!?」
「私の最大の加護をあなたに。」
「っ!なんて力だ…オリビアの比ではない…!これならいける。ありがとう、相楽さん!」
「ユマでしょ。」
「あ、ありがとうユマ。さあ、君は安全なところへ!」
「うん。頑張ってね。」
私は意識のないギャルを引きずって安全圏まで下がった。聖女の仕事はこれで終わり。後は勇者の仕事だ。
「うおおお!」
『グオオオオ!』
二人ともなにを焦っているのか、小細工もなにもなしに、全力でぶつかり合う。池田君の聖剣が眩いばかりに光り、私の視力を奪った。
『ギャアアア』
厄災の断末魔が聞こえ、私が目を開けると、そこには切り口からキラキラと消滅していく厄災の姿があった。
『グ、ココまでか…ダガまたイツカ必ず復活シ、この世界を混沌にオトシイレテ…』
「じゃあ待ってるね。」
『エッ』
「いつどんな時代に復活しても、世界を変えても、私はずっとずっと待ってるね。できないと思う?300年後の、しかも違う世界なのに、私達また会えたもんね?どこにいたって、会いに行くよ。大丈夫、今度こそ、私の手で首を締めて手足を切り落として焼いて水に沈めて…たくさんたーくさん…」
『ヒイイ』
「殺してあげるね。」
『アー消滅シチャウ。勇者の攻撃キツカッタ。モウ二度と復活デキナイくらいヤラレチャッタ。アアアー』
情けない事を口走りながら消えていく厄災。目を凝らしてみても、厄災の残渣は見つけられない。
「やった…のか…?」
「うん。ちゃんと消滅したと思う。塵のひとつも残ってないから、もう二度と復活する事はないと思う。」
「終わったのか…全部…」
「うん。これで元通りだね。」
これで私達の、私達にとっては長い長い、この世界にとっては一瞬の、戦いが終わった。
「『筋力強化』」
「は?んぶっ!」
私は魔法で筋力を強化すると、躊躇いなく女の頬を殴った。女は変な声をあげて、少し飛んだ。
「さ、相楽さん!?」
池田君が驚いてる。何驚いてるの?君が戦えないんだから、私がやるしかないじゃん、仕方がないんだよ。これは虐めの仕返しとかじゃないから。私は心の中でそう言い訳しながら倒れ込んだ女にまたがる。
「な、いた…あんた、何…」
「浄化パーンチ。」
「ふぎゅ!っ、ふざけっ!」
「えーい。」
「んぎゃ!」
人を殴ったことなんてないから、顔面目掛けて適当に拳を振り下ろす。拳に浄化の力を乗せることも忘れない。
「これは二階から水かけられた分。」
バキッ
「これは教科書捨てられた分。」
バキッ
「これは…えーっと、忘れちゃった。」
バキッ
女の顔はみるみる腫れ上がる。池田君は顔を青くしてガクガクしている。
「んー次は…」
『グオオオオ!ナ、ナンダこの力は!』
「あ、起きちゃった?ごめんね、寝てる間に殺そうと思ってたのに…うるさかった?」
『お前ナニモノだ!オレの器が死にかけテルぞ!?』
「やだなあ、聖女だよ?久しぶり、覚えてるー?」
『ア!お前は、オレを封印したイマイマシイ聖女ではナイか!何故ココに!?』
たくさん殴られて意識を失った女の代わりに厄災が目を覚ましてしまったようだ。取り敢えず挨拶してみる。良かった、覚えているみたい。
目は覚めたけど、厄災は女に取り憑いたままだ。これだと池田君がとどめを刺せない。
「あのー、その身体から出ていってもらえませんか?」
『オレに命令スルナ!コノ器がアレバ勇者は手を出せマイ、フハハハハ!!』
「じゃあ私がやるしかないかあ。」
バキッ
『イタイ!』
「そこから出ないと力も使えないでしょう?生身の人間って、痛みに弱いよね。長年実体をとっていなかった貴方がそれに耐えられるの?この身体殺せば貴方も死ぬの?」
バキッ
『コワイ!お前ホントウニ聖女か!?』
「聖女だよ?アンタのせいで聖女にされたんだよ?アンタさえいなければリックも死ぬ事はなかったのに…せっかく肉体を得たんだから私が殺してあげるよ。首を切り落とされたい?首絞められたい?手足を切り取られたい?ふたつに引き裂かれたい?焼かれたい?水に沈められたい?ねえ、選ばせてあげるよ。ねえ?ねえ?ねえってば!!!」
『ヒイイ!』
「さ、相楽さん!殺戮モードに入っちゃってるから!ストップストップ!!」
「ねえ?ねえ?ねえ????」
『イヤッコワイ!!』
「っ!ユ、ユマ!もうやめろ、止めるんだ!」
「!!」
池田君の声で我に帰る。目の前には恐怖に涙する顔面ボコボコの厄災。いや何泣いてんの?悪の限りを尽くしてきたくせにやられる側は初体験なの?剣で切られる事はあっても殴られた事はないの?なに女の子みたいに泣いてるの?
手を止めてしまった私の隙をついて、厄災は女の身体から抜け出した。だから今私が馬乗りになっているのはただの顔面ボコボコのギャル。私は確かにこの女に虐められていたけど、ここまでするほど憎んでいた訳ではない。私は彼女の顔を回復魔法で元に戻してあげると、優しくその辺に転がした。
『ユ、勇者!オレのアイテはお前がシロ!』
「そ、そうだそうだ!お前を倒すのは勇者であるこの俺だ!聖女に手出しはさせない、俺が守るんだ!」
『ソウダ!手を出サセルナ!』
「池田君。」
「ひ!な、なに!?」
「私の最大の加護をあなたに。」
「っ!なんて力だ…オリビアの比ではない…!これならいける。ありがとう、相楽さん!」
「ユマでしょ。」
「あ、ありがとうユマ。さあ、君は安全なところへ!」
「うん。頑張ってね。」
私は意識のないギャルを引きずって安全圏まで下がった。聖女の仕事はこれで終わり。後は勇者の仕事だ。
「うおおお!」
『グオオオオ!』
二人ともなにを焦っているのか、小細工もなにもなしに、全力でぶつかり合う。池田君の聖剣が眩いばかりに光り、私の視力を奪った。
『ギャアアア』
厄災の断末魔が聞こえ、私が目を開けると、そこには切り口からキラキラと消滅していく厄災の姿があった。
『グ、ココまでか…ダガまたイツカ必ず復活シ、この世界を混沌にオトシイレテ…』
「じゃあ待ってるね。」
『エッ』
「いつどんな時代に復活しても、世界を変えても、私はずっとずっと待ってるね。できないと思う?300年後の、しかも違う世界なのに、私達また会えたもんね?どこにいたって、会いに行くよ。大丈夫、今度こそ、私の手で首を締めて手足を切り落として焼いて水に沈めて…たくさんたーくさん…」
『ヒイイ』
「殺してあげるね。」
『アー消滅シチャウ。勇者の攻撃キツカッタ。モウ二度と復活デキナイくらいヤラレチャッタ。アアアー』
情けない事を口走りながら消えていく厄災。目を凝らしてみても、厄災の残渣は見つけられない。
「やった…のか…?」
「うん。ちゃんと消滅したと思う。塵のひとつも残ってないから、もう二度と復活する事はないと思う。」
「終わったのか…全部…」
「うん。これで元通りだね。」
これで私達の、私達にとっては長い長い、この世界にとっては一瞬の、戦いが終わった。
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