隣の席の池田君は絶対に異世界帰りだと思う

睦月

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「ぼ、僕のことは話したよ。次は相楽さんの番…で、良いんだよね?」
「…リンゲル王国、ねえ…。何年だった?」
「え?」
「太陽暦、何年?」
「え?僕が召喚されたのは、太陽暦756年だったけど…どうして…」
「私が召喚されたのも、リンゲル王国。召喚された年は太陽暦444年。」
「え!?じ、じゃあ…」
「300年前に厄災を封印したのは私。」


ーーーーーーーーー


「おお!勇者の祈りに聖女が応えたぞ!」
「「おおお!」」
「え?え?」

高校一年生の夏休み。自宅でゴロゴロしていた私の下に突然魔法陣が浮き上がり、気がつけば知らないところにいた。

「さあ、その少女を鑑定の間に連れて行け。聖女かどうか確認するのだ!」
「「はっ」」

屈強な兵士達に引きずられ、私は無理やりステータスを調べられた。

「魔法攻撃無効、魔力無限大、創造魔法。素晴らしいステータスだ!彼女が聖女に違いない!」
「これでこの国は、この世界は守られた!聖女万歳!勇者万歳!」
「なに…?なんなの…?」

状況が全く掴めていない私を誰も気にすることなく、兵士達は私を豪華な部屋に引きずっていった。そこでメイド達にもみくちゃにされて綺麗なドレスを着て、気がつけば王様の前に跪いていた。

「陛下、この少女が此度の聖女です。」
「うむ。励めよ。」

これで王の謁見はおしまい。あれよあれよという間にドレスを剥ぎ取られ、簡素なワンピースとマントを着せられると、勇者と呼ばれた男と共にお城を追い出された。

「なに?なんなの…?」

さっきからそれしか言っていない。それくらい状況について行けていなかった。混乱する私を見て、勇者と呼ばれた男は申し訳なさそうに今の状況を説明してくれた。

「俺の名前はリック。勇者なんて呼ばれているけど、元は小さな村の農民だったんだ。2年前、俺の村が魔物の大群に襲われて、村は全滅した。俺だけを残して。村の皆が死んだ後に王国軍がやってきて、お前は勇者だとかなんとか言って俺を城まで連れてきた。それから2年間、厄災を倒すためだけに俺は戦闘訓練を受けてきた。
そして今日、聖女を召喚するから召喚の間に来いと言われて、言われるがままに祈った。そしたら君が召喚されてきたんだ。俺がなにも考えずに召喚の儀を行なってしまったから…君を巻き込んでしまった。本当にすまない。」
「いえ、貴方のせいではないことは周りを見ていればなんとなく分かりましたから…。それより、厄災を倒すのは勇者であるリックさんの役目なんですよね?私はなんのために呼ばれたんですか?」
「勇者だけでは厄災を倒すことはできないんだ。聖女による聖なる加護がなくては攻撃は届かない。厄災の唯一の弱点が聖なる魔力なんだけど、聖なる魔力を有する聖女というのは基本的に虚弱で、戦闘能力もない。彼女達の力だけでは厄災の元に辿りつくことすらできないんだ。だからそのために圧倒的戦闘能力を持った勇者がいる。勇者の剣に聖女が聖なる魔力を乗せて、勇者がそれを厄災に届ける。そうしなければ厄災は倒せない、らしい。俺も話に聞いただけだから確証はないけど…過去の厄災達もそうやって討伐されてきたと聞く。」
「なるほど…?」
「いきなりたくさん話してごめん。えーっと…」
「由麻です。相楽由麻。」
「ユマ!ユマは勝手に呼ばれてこんなことになって不本意だろうけど、これは王命だから俺も逆らえないんだ。でも君のことは絶対に俺が守るから、だから厄災を倒したら、君が元の世界に戻れる方法を探そう。召喚の魔法があるなら、きっと帰還の魔法もあるはずだ。まずは厄災を倒して、そして無事に王城へ戻ろう。」
「はい。」

こうして勇者リックとの二人旅が始まった。私は20歳だというリックを兄のように慕い、リックもまた私を死んだ妹に似ていると言って可愛がってくれた。旅の間も勇者と聖女であるという事は秘して冒険者の兄妹ということにした。最初は元の世界には存在しなかった魔法というものに苦労したが、やがて私は魔導師として成長し、そして2年の月日が経った。

「やっとここまで来たな、ユマ。君のことは俺が絶対に守るから、そして絶対に厄災を倒してみせる。」
「うん。リックの事、信じてる。私の最大の加護をリックにあげる。」
「…っすごいな、成長したな。じゃあ行こうか。」
「うん!」

しかしリックの剣は厄災に留めを刺すこと叶わず、負傷したリックを助けるために私は厄災を封印した。

「…すまない、俺の力が足りなかった…」
「ううん、あの厄災が強すぎたんだ。きっと私の封印も数百年しか持たない…」
「…でも厄災の脅威は去った。王城に報告に行こう。」
「うん…!」

私達は再び長い時間をかけて王都に帰還し、王城への報告を行った。

「お疲れ様でした、勇者殿、聖女殿。長旅にさぞかしお疲れでしょう。さあ、こちらのお部屋へ…」

リックと別れ案内された部屋は、あの日兵士達に引き摺り込まれた所だった。嫌な予感は当たり、私は再びメイド達にもみくちゃにされ、綺麗なドレスを着させられて王様の前に連れて行かれた。前回同様王様の前に跪くが、今回は隣に同じく正装を身に纏ったリックがいる。心細さは感じない。

「良き働きであった。」
「以上です。下がりなさい。」
(え!?)

私はてっきり、厄災を倒せば元の世界に帰してもらえると思っていたのだ。召喚の魔法があるなら帰還の魔法があるはずだ。2年前、リックの言った言葉だけを希望にここまで旅をしてきたが、長い年月をかけて私はそれが事実であると思い込んでしまっていた。

「お、お待ち下さい!」

思わず顔を上げた私を制して声を上げたのは、隣に跪くリックだ。

「無礼者!陛下の御前であるぞ!発言を慎め!」
「しかし、聖女は異世界から召喚されてこの世界に来たのです。厄災を封印した褒美に、彼女を元の世界に返してあげてください!」
「発言を許可した覚えはない!兵よ!この無礼者を牢に!」
「そんな!?リック!」
「抵抗すれば聖女も牢に入れるぞ。大人しくしろ。」
「くっ」

リックは抵抗する事なく兵士達に連れられていった。私は呆然とその後を見送ることしかできなかった。

「聖女よ。」

王様が再び口を開いた。隣に控えるお付きの人が驚いている。

「帰還の魔法は存在しない。お前を元の世界に返すことはできない。その強大な聖なる力を後世に残すために、この国の貴族の元に嫁ぐが良い。」
「そんな…」

そのあとのことはあまり覚えていない。部屋に戻り、寝て、翌日起きると、リックは死んでいた。
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