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「おはよう、相楽さん!」
「おはよう、池田君。」
………
…………?
???
思わず三度見してしまった。今教室に入ってきた彼、隣の席の池田君。下の名前は知らない。
目元を隠すように長い前髪に冴えない眼鏡。身長だけは高くもやしみたいにひょろりとした身体。
いつもオドオドしていて、休み時間は一人で本を読んでいるような典型的陰キャ。
そのはずだった。昨日までは。
「池田君…」
「な、なに?相楽さん。」
「髪…切ったんだね。」
「あ、そ、そうなんだ。昨日帰りにちょっとね。変、かな…?」
「ううん、前のより似合ってるよ。」
「そっか、ありがとう。」
なんということでしょう。鬱陶しかった前髪がさっぱりと切り落とされ、小脇にサッカーボールでも抱えているかのような爽やかさを演出。暗い印象を与えていた眼鏡は取り払われ、意外と整った顔を全面に押し出している。
そこまではいい。彼も17歳。思春期真っ只中。高校デビューには出遅れてしまったけど、今からでも遅くはない。ちょっとしたひと手間で、人というものは垢抜けるものだ。
私は視線を下に落とした。
ここだ。問題はここなんだよ。どうすればあのヒョロかったもやし体型が、たった一晩でムキムキマッチョになるんだ?体積2倍くらいになってない?豆苗だってこんなに早く成長しないよ?ほら、君の筋肉量に学ランが悲鳴をあげてるよ?君が動くたびにミチミチって音するよ?よくそれ着ようと思ったね。脱げばよくない?
「…?ど、どうかした?」
「あ、消しゴム落としちゃって…そっちに転がってない?」
「え?…ああ、これかな。はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう…」
にこっと爽やかに笑うサッカー少年…じゃない、池田君。少し頬が熱くなるのを感じながら、私は差し出された手をチラ見する。
剣ダコ。
これ、剣ダコだ。なに?近頃の剣ダコは、一晩でできちゃうの?お手軽アクセサリーなの?昨日までは女の子みたいに綺麗な手をしてたのに。今はゴツゴツしてて、まるで歴戦の戦士のよう。
そう、今日の池田君はどこからどう見ても、戦士。闘う漢だ。素手で熊をひと捻りするような、強者の姿をしている。
なのになぜ誰も突っ込まない?私達の席は教室の中央辺り。登校してきたクラスメイトはもう半数くらいいる。少しは目の端に映ってもいい筈なのに。ひと目彼を見たら、二度見、三度見はするだろう。なのに皆、昨日と同じようにちらりと教室に入る彼の姿を確認したら、声をかけることもなく、何事もなかったかのように友達との会話を再開する。
まるで元からこの姿だったと言わんばかりに自然だ。
おかしいのは私だけ。
そして私はこの不可解な現象の答えを知っている。
そう。池田君は、きっと異世界から帰ってきたのだ。
「はあ、やっぱり日常っていいな…」
ほらね。
「おはよう、池田君。」
………
…………?
???
思わず三度見してしまった。今教室に入ってきた彼、隣の席の池田君。下の名前は知らない。
目元を隠すように長い前髪に冴えない眼鏡。身長だけは高くもやしみたいにひょろりとした身体。
いつもオドオドしていて、休み時間は一人で本を読んでいるような典型的陰キャ。
そのはずだった。昨日までは。
「池田君…」
「な、なに?相楽さん。」
「髪…切ったんだね。」
「あ、そ、そうなんだ。昨日帰りにちょっとね。変、かな…?」
「ううん、前のより似合ってるよ。」
「そっか、ありがとう。」
なんということでしょう。鬱陶しかった前髪がさっぱりと切り落とされ、小脇にサッカーボールでも抱えているかのような爽やかさを演出。暗い印象を与えていた眼鏡は取り払われ、意外と整った顔を全面に押し出している。
そこまではいい。彼も17歳。思春期真っ只中。高校デビューには出遅れてしまったけど、今からでも遅くはない。ちょっとしたひと手間で、人というものは垢抜けるものだ。
私は視線を下に落とした。
ここだ。問題はここなんだよ。どうすればあのヒョロかったもやし体型が、たった一晩でムキムキマッチョになるんだ?体積2倍くらいになってない?豆苗だってこんなに早く成長しないよ?ほら、君の筋肉量に学ランが悲鳴をあげてるよ?君が動くたびにミチミチって音するよ?よくそれ着ようと思ったね。脱げばよくない?
「…?ど、どうかした?」
「あ、消しゴム落としちゃって…そっちに転がってない?」
「え?…ああ、これかな。はい、どうぞ。」
「あ、ありがとう…」
にこっと爽やかに笑うサッカー少年…じゃない、池田君。少し頬が熱くなるのを感じながら、私は差し出された手をチラ見する。
剣ダコ。
これ、剣ダコだ。なに?近頃の剣ダコは、一晩でできちゃうの?お手軽アクセサリーなの?昨日までは女の子みたいに綺麗な手をしてたのに。今はゴツゴツしてて、まるで歴戦の戦士のよう。
そう、今日の池田君はどこからどう見ても、戦士。闘う漢だ。素手で熊をひと捻りするような、強者の姿をしている。
なのになぜ誰も突っ込まない?私達の席は教室の中央辺り。登校してきたクラスメイトはもう半数くらいいる。少しは目の端に映ってもいい筈なのに。ひと目彼を見たら、二度見、三度見はするだろう。なのに皆、昨日と同じようにちらりと教室に入る彼の姿を確認したら、声をかけることもなく、何事もなかったかのように友達との会話を再開する。
まるで元からこの姿だったと言わんばかりに自然だ。
おかしいのは私だけ。
そして私はこの不可解な現象の答えを知っている。
そう。池田君は、きっと異世界から帰ってきたのだ。
「はあ、やっぱり日常っていいな…」
ほらね。
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