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15歳
入学式1
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「ローゼリアお嬢様、私服はこれだけしか持っていかないんですか?」
「ええ、学園では制服を着るし、私服で街を歩き回る事もないでしょうから。それくらいで良いわ。」
「それもそうですね!では、馬車に詰めてまいります。後は私達で支度いたしますので、お嬢様は少しお休みになられていてください。」
「じゃあ頼んだわ。サロンにいるわね。」
「終わりましたらお迎えにあがりますね。」
ローゼリアはターシャに後を任せて自室を後にした。最初は危なっかしかったターシャも、勤続十年でベテランの侍女に成長していた。ローゼリアは安心して彼女に残りの荷造りを任せ、サロンに向かった。
ローゼリアは15歳になった。人並外れた美貌に、二次性徴を迎えた女性らしい膨らみ。ローゼリアとすれ違って、振り返らない男はいなかった。
「やあローゼリア、荷造りは順調かな?」
「クラウス兄様!帰ってきてたの?」
「ああ、さっきね。ローゼリアを驚かせようと思って。」
「驚いたわ。兄様ったら最近全然帰ってこないんですもの。そんなに騎士団の仕事が大変なのかと、心配しましたわ。」
「ごめんね。下っ端騎士は雑用が多くってさ。今日は久しぶりに終日非番になったから、ローゼリアの顔を見にきたんだ。」
「学園に入学する前に会えて良かったわ。寮に入ったら、こうして邸で会う事もなくなるもの。次に会うのは長期休みの時かしら。」
「そうだね。ローゼリアの夏休みに合わせて僕も休暇を取るようにするよ。」
「楽しみにしているわ。」
ローゼリアはクラウスの隣に座り、コーエンの淹れた紅茶を口にしながら、見違えるように鍛え上げられたクラウスの身体を横目で眺めた。
クラウスは去年学園を卒業し、そのまま王国騎士団に入団した。魔法も剣も一流のクラウスは第四部隊に配属された。そこは貴賎問わず実力さえあれば上に行ける完全実力主義の部隊。上下関係も激しく、新人のクラウスは過酷な訓練の後に山のような雑用を押し付けられていた。しかしその甲斐もあって、新人の中ではクラウスが頭一つ抜きん出ていた。
「はあ、それにしても心配だな。」
「どうしたんですの?」
「ローゼリアはこんなに可愛いのに、一人で寮生活を送らないといけないなんて。誰かに攫われたらどうしよう。」
「ふふ、一人と言っても、ターシャとカスパーが共に来てくれますわ。」
「いいかい、ローゼリア。一人で外出しない事。知っている人と言えど、男と部屋に二人きりにならない事。分かった?」
「もう、子供じゃないのよ?それくらい分かってますわ!」
「寮になんて住まないで家から通えればいいのに。」
「王太子殿下ですら寮生活を送っていらっしゃるのよ?私だけ邸から通うなど出来ませんわ。クラウス兄様は心配性なのよ。」
「そうだね。でも君が大切だから、心配なんだ。僕の宝物。」
クラウスはローゼリアの銀の髪を一房すくってそれに口付けを落とした。ローゼリアが二次性徴を迎えた頃から、クラウスはこうしてローゼリアの髪や手に触れることが増えた。
「ふふ、兄様ったら、いつまでたっても妹離れ出来ませんのね。そんなんじゃ結婚できないわよ?」
「…良いんだよ別に。ローゼリアが側にいてくれるなら。」
「もう…」
「お嬢様、準備が整いました。いつでも出発出来ますがいかがいたしますか?」
会話が途切れたタイミングを見計らい、カスパーが声をかけた。ローゼリアはクラウスから自身の髪を取り上げると、ソファから立ち上がった。
「お父様とお母様に挨拶をしてから出ますわ。クラウス兄様、そろそろ行きますね。お仕事大変かとは思いますが身体に気をつけてくださいね。」
「ありがとう。ローゼリアも元気でね。また夏に会おう。」
クラウスも立ち上がり、ローゼリアに近づくと優しく抱きしめた。しばらくの間そうすると、クラウスは名残惜しげにローゼリアを解放した。クラウスの匂いが離れていく事に若干の寂しさを覚えながら、ローゼリアはクラウスと別れた。
「お父様、そろそろ出発しますわね。」
「ああ。気をつけるんだぞ。この邸も寂しくなるな。」
「ふふ、週末は帰って来ますわ。」
「それでもだ。レイモンドもクラウスも、もう家を出たからな。昔に比べるとこの邸も随分と静かになった。」
「そうですわね。今度家族皆が集まるのは夏かしら。」
「レイモンドは忙しいからどうだろうな。ローゼリア、学園で何か問題に巻き込まれたら、必ず報告するんだぞ。あまり好き勝手するなよ。」
「分かってますわ、私だって成長しましたのよ?楽しいからと言って、手当たり次第に人を破滅に追いやったりはしませんわ。」
「そうだな。そうだと良いが…。」
「もう、お父様もクラウス兄様も心配性なんだから。大丈夫ですわ!」
「クラウスのあれはまた違うと思うが…。まあ良い。元気でな、ローゼリア。」
「お父様もお体にお気をつけて。」
「ラウレンティアは玄関にいると思うぞ、会って行け。」
「はい。では行ってまいりますわね。」
アルドリックはすっかり人間らしくなったローゼリアを見送った。娘の成長に喜びを感じる反面、あの様に人間に染まってしまっては地上を消し炭にするのに葛藤があるのではないかと、心配せずにはいられなかった。地上に住まう一人間としてはどこも消し炭にならないのならそれに越したことはないが、使命を果たせなかった女神がどの様な目に合うのか、それだけが気掛かりだった。
「私も大概心配性だな、全く。」
アルドリックは仮の娘にすっかり愛着が湧いてしまった自分を嘲笑った。
「ええ、学園では制服を着るし、私服で街を歩き回る事もないでしょうから。それくらいで良いわ。」
「それもそうですね!では、馬車に詰めてまいります。後は私達で支度いたしますので、お嬢様は少しお休みになられていてください。」
「じゃあ頼んだわ。サロンにいるわね。」
「終わりましたらお迎えにあがりますね。」
ローゼリアはターシャに後を任せて自室を後にした。最初は危なっかしかったターシャも、勤続十年でベテランの侍女に成長していた。ローゼリアは安心して彼女に残りの荷造りを任せ、サロンに向かった。
ローゼリアは15歳になった。人並外れた美貌に、二次性徴を迎えた女性らしい膨らみ。ローゼリアとすれ違って、振り返らない男はいなかった。
「やあローゼリア、荷造りは順調かな?」
「クラウス兄様!帰ってきてたの?」
「ああ、さっきね。ローゼリアを驚かせようと思って。」
「驚いたわ。兄様ったら最近全然帰ってこないんですもの。そんなに騎士団の仕事が大変なのかと、心配しましたわ。」
「ごめんね。下っ端騎士は雑用が多くってさ。今日は久しぶりに終日非番になったから、ローゼリアの顔を見にきたんだ。」
「学園に入学する前に会えて良かったわ。寮に入ったら、こうして邸で会う事もなくなるもの。次に会うのは長期休みの時かしら。」
「そうだね。ローゼリアの夏休みに合わせて僕も休暇を取るようにするよ。」
「楽しみにしているわ。」
ローゼリアはクラウスの隣に座り、コーエンの淹れた紅茶を口にしながら、見違えるように鍛え上げられたクラウスの身体を横目で眺めた。
クラウスは去年学園を卒業し、そのまま王国騎士団に入団した。魔法も剣も一流のクラウスは第四部隊に配属された。そこは貴賎問わず実力さえあれば上に行ける完全実力主義の部隊。上下関係も激しく、新人のクラウスは過酷な訓練の後に山のような雑用を押し付けられていた。しかしその甲斐もあって、新人の中ではクラウスが頭一つ抜きん出ていた。
「はあ、それにしても心配だな。」
「どうしたんですの?」
「ローゼリアはこんなに可愛いのに、一人で寮生活を送らないといけないなんて。誰かに攫われたらどうしよう。」
「ふふ、一人と言っても、ターシャとカスパーが共に来てくれますわ。」
「いいかい、ローゼリア。一人で外出しない事。知っている人と言えど、男と部屋に二人きりにならない事。分かった?」
「もう、子供じゃないのよ?それくらい分かってますわ!」
「寮になんて住まないで家から通えればいいのに。」
「王太子殿下ですら寮生活を送っていらっしゃるのよ?私だけ邸から通うなど出来ませんわ。クラウス兄様は心配性なのよ。」
「そうだね。でも君が大切だから、心配なんだ。僕の宝物。」
クラウスはローゼリアの銀の髪を一房すくってそれに口付けを落とした。ローゼリアが二次性徴を迎えた頃から、クラウスはこうしてローゼリアの髪や手に触れることが増えた。
「ふふ、兄様ったら、いつまでたっても妹離れ出来ませんのね。そんなんじゃ結婚できないわよ?」
「…良いんだよ別に。ローゼリアが側にいてくれるなら。」
「もう…」
「お嬢様、準備が整いました。いつでも出発出来ますがいかがいたしますか?」
会話が途切れたタイミングを見計らい、カスパーが声をかけた。ローゼリアはクラウスから自身の髪を取り上げると、ソファから立ち上がった。
「お父様とお母様に挨拶をしてから出ますわ。クラウス兄様、そろそろ行きますね。お仕事大変かとは思いますが身体に気をつけてくださいね。」
「ありがとう。ローゼリアも元気でね。また夏に会おう。」
クラウスも立ち上がり、ローゼリアに近づくと優しく抱きしめた。しばらくの間そうすると、クラウスは名残惜しげにローゼリアを解放した。クラウスの匂いが離れていく事に若干の寂しさを覚えながら、ローゼリアはクラウスと別れた。
「お父様、そろそろ出発しますわね。」
「ああ。気をつけるんだぞ。この邸も寂しくなるな。」
「ふふ、週末は帰って来ますわ。」
「それでもだ。レイモンドもクラウスも、もう家を出たからな。昔に比べるとこの邸も随分と静かになった。」
「そうですわね。今度家族皆が集まるのは夏かしら。」
「レイモンドは忙しいからどうだろうな。ローゼリア、学園で何か問題に巻き込まれたら、必ず報告するんだぞ。あまり好き勝手するなよ。」
「分かってますわ、私だって成長しましたのよ?楽しいからと言って、手当たり次第に人を破滅に追いやったりはしませんわ。」
「そうだな。そうだと良いが…。」
「もう、お父様もクラウス兄様も心配性なんだから。大丈夫ですわ!」
「クラウスのあれはまた違うと思うが…。まあ良い。元気でな、ローゼリア。」
「お父様もお体にお気をつけて。」
「ラウレンティアは玄関にいると思うぞ、会って行け。」
「はい。では行ってまいりますわね。」
アルドリックはすっかり人間らしくなったローゼリアを見送った。娘の成長に喜びを感じる反面、あの様に人間に染まってしまっては地上を消し炭にするのに葛藤があるのではないかと、心配せずにはいられなかった。地上に住まう一人間としてはどこも消し炭にならないのならそれに越したことはないが、使命を果たせなかった女神がどの様な目に合うのか、それだけが気掛かりだった。
「私も大概心配性だな、全く。」
アルドリックは仮の娘にすっかり愛着が湧いてしまった自分を嘲笑った。
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