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10歳
王位継承3
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「黙ってしまったようだがどうしたのかね?やはり大人の助言がなければ何もできないかい?」
「…殿下は何か勘違いをしていらっしゃいますわね。」
「なに?」
「私別に、あなたに女神と認めてもらわなくても良いんですの。だって私は私。大人になるまで、好きなところで、好きなように過ごすわ。」
「私はもう間も無く王となるのだ。この国の王に認めてもらえなければ、好きなように過ごすことも出来ないだろうに。」
「ならばあなたを王にしなければいいだけの話ですわ。」
「は?しかし私が王にならず誰がなると言うのだ。私の弟たちは皆臣下降格したぞ。私がいなければこの国は崩壊する。」
「アダルヘルム殿下が成人するまで後6年。それまで現国王に頑張ってもらいましょう。陛下は今65歳ですから、健康に気をつければ十分行けますわ。一世代くらい抜けても、特に問題はありませんのよ、自称未来の賢王さん?」
「っ、幾ら何でも無礼だぞ、シュバルツ公爵令嬢。忘れるな、いつだってお前を不敬罪で処刑できることを。その不敬極まりない話し方だって、私が見逃してやっているのだ。」
「まあ、怖い。」
「そうやって話を逸らしたって無駄だ。結論が出るまで、お前をここから帰す気はない。」
「信仰心がないとはかくも恐ろしいことですのねえ。」
「何を言いだすんだ急に。」
「今、私があなたの魂を握っていることに気が付きもしないなんて。魂の存在すら信じていないのかしら。」
「はっ、馬鹿馬鹿しい。心臓や脳が正常に働くことで生命というのは維持されている。魂など、どこにあるというのだ?」
ローゼリアは右手に「何か」を持ったまま、身を乗り出し目の前のテーブルに触れた。すると、テーブルは見る見るうちに朽ち果て、最後には塵となって消えた。何が起きたのか理解できず呆然と座ったままのベンジャミンをおいてローゼリアは立ち上がると、ゆっくりと室内を歩き出した。
「お父様に教えてもらった極小魔法の練習で、大分女神の力を制御できるようになりましたの。」
「そ、それは幻影魔法か何かか。そうやって父上を騙したんだな。私は騙されない。」
「ふふ、そうかもしれませんわね。」
そう話しながらも、ローゼリアの足は止まらない。高価そうな花瓶が飾られた棚の前で止まると、再び左手でそれに触れ、消し炭にした。そしてその隣のチェスト。本棚。側近の執務机。椅子。
「ま、待て、そこには重要書類が…」
「幻影魔法なのでしょう?実際に消えるわけではないのなら何の問題もありませんわね。」
ローゼリアは躊躇うことなく次に手を伸ばし、ベンジャミンの執務机を消した。そうして次々に室内の調度品を消していくと、最後にはお互いが座っていた二脚のソファのみが残された。ローゼリアは青い顔をしたベンジャミンにそっと近づくと、囁いた。
「私、あなたの事、あまり好きになれませんわねえ。女神の力を利用するなど、不敬極まりないですわ。あなたが今こうして息をしていられるのも、私が見逃して差し上げているからですのよ。」
「わ、私に触れるな。『ライトシールド』」
「あらあら、お可愛らしい盾ですこと。」
ローゼリアは微笑みながらベンジャミンの魔法の盾を一瞥すると、盾は跡形もなく砕け散った。助けを求める為に思わず周りを見渡したが、護衛は皆扉の外だ。この異変に気がつく様子もなかった。圧倒的なまでの力の差を見せつけられたベンジャミンは成すすべもなくソファから動けずにいた。
ローゼリアは彼の座るソファに手を触れそれを消し、ベンジャミンは中腰の姿勢からそのまま床に尻餅をついた。
「私の幻影魔法、気に入っていただけたかしら。最後に右手のコレを消し炭にして、あなたとは永遠にサヨナラですわね。」
「や、やめてくれ…。」
「あら、どうして?これはただの幻。右手には何も持ってはいませんわ。そうでしょう?」
「し、しかし…」
ローゼリアの超常の力を目の当たりにして、ベンジャミンは本能で理解した。彼女に逆らうなど愚の骨頂。ベンジャミンは過ちを犯したのだと。すると何も持っていなかった筈のローゼリアの右手に何かがあるのを感じた。彼にとって大切な、かけがえのない何かをローゼリアは手にしていた。
「そ、それが魂なのか…私の…」
「あら、この短時間で魂の存在を信じたというの?おかしいですわね、ここには何もない筈よ?」
「い、いや、確かにある。私の大切な…返してくれ…。」
「あら、ここに何かあるというの?ではこうしてみたらどうかしら。」
ローゼリアは自身の小さな指でソレを突いた。ベンジャミンは言い様のない不快感が体の芯から湧き上がるのを感じた。彼の命は、文字通りローゼリアの手に握られているのだ。冷汗が額から止めどなく流れた。
「や、やめてくれ…」
ローゼリアはその言葉を聞き優しく微笑むと、指をソレに突き刺した。ベンジャミンは見えない筈のソレから、ズププと音が聞こえた気がした。ローゼリアはさらにグチョグチョと指で中を搔き回し始めた。
ベンジャミンは自身の何かがローゼリアの手によって壊れゆくのを感じ、激しい嘔吐感に襲われた。視界がバチバチと弾け、真っ直ぐに座っていられないほどの眩暈。心臓が破裂するほどに脈打ったかと思うと、次第にその拍動は遅く、弱くなっていった。自身の身体が指先から冷えて行くのを感じ、ベンジャミンは朦朧とした意識の中必死でローゼリアに命乞いをした。
「や、やめて、ください…女神様…。あやまります、私がまちがっていた、だから、や、め…。」
「あなたは女神の存在を知るに値しないわ。その記憶を消して差し上げましょう。」
ローゼリアの指がソレを一際激しくかき混ぜると、ベンジャミンは目を見開いたまま固まった。
「愚かな王よ。私がこの国にいるだけで、この土地に神々の加護が降り注いでいることに気が付きもしないなんて。少し調べればわかる筈よ。この五年、大きな飢饉も災害もなかった。周辺国で小さなイザコザはあっても、この国まで波及する規模のものはなかった。それだけで満足していれば良いものを。神の力とは求めるものではない。ただ気まぐれに与えられるものなのよ。現国王はそれに気付いていたわ。でもあなたには教えなかった。それが全てを物語っていますわね。
さあ、しばらくおやすみなさい。可哀想に、あなたの魂は修復不能なまでに壊れてしまったわね。これでは次の生は期待できないわ。精々残り僅かな今生を全力で生きることね。」
「…殿下は何か勘違いをしていらっしゃいますわね。」
「なに?」
「私別に、あなたに女神と認めてもらわなくても良いんですの。だって私は私。大人になるまで、好きなところで、好きなように過ごすわ。」
「私はもう間も無く王となるのだ。この国の王に認めてもらえなければ、好きなように過ごすことも出来ないだろうに。」
「ならばあなたを王にしなければいいだけの話ですわ。」
「は?しかし私が王にならず誰がなると言うのだ。私の弟たちは皆臣下降格したぞ。私がいなければこの国は崩壊する。」
「アダルヘルム殿下が成人するまで後6年。それまで現国王に頑張ってもらいましょう。陛下は今65歳ですから、健康に気をつければ十分行けますわ。一世代くらい抜けても、特に問題はありませんのよ、自称未来の賢王さん?」
「っ、幾ら何でも無礼だぞ、シュバルツ公爵令嬢。忘れるな、いつだってお前を不敬罪で処刑できることを。その不敬極まりない話し方だって、私が見逃してやっているのだ。」
「まあ、怖い。」
「そうやって話を逸らしたって無駄だ。結論が出るまで、お前をここから帰す気はない。」
「信仰心がないとはかくも恐ろしいことですのねえ。」
「何を言いだすんだ急に。」
「今、私があなたの魂を握っていることに気が付きもしないなんて。魂の存在すら信じていないのかしら。」
「はっ、馬鹿馬鹿しい。心臓や脳が正常に働くことで生命というのは維持されている。魂など、どこにあるというのだ?」
ローゼリアは右手に「何か」を持ったまま、身を乗り出し目の前のテーブルに触れた。すると、テーブルは見る見るうちに朽ち果て、最後には塵となって消えた。何が起きたのか理解できず呆然と座ったままのベンジャミンをおいてローゼリアは立ち上がると、ゆっくりと室内を歩き出した。
「お父様に教えてもらった極小魔法の練習で、大分女神の力を制御できるようになりましたの。」
「そ、それは幻影魔法か何かか。そうやって父上を騙したんだな。私は騙されない。」
「ふふ、そうかもしれませんわね。」
そう話しながらも、ローゼリアの足は止まらない。高価そうな花瓶が飾られた棚の前で止まると、再び左手でそれに触れ、消し炭にした。そしてその隣のチェスト。本棚。側近の執務机。椅子。
「ま、待て、そこには重要書類が…」
「幻影魔法なのでしょう?実際に消えるわけではないのなら何の問題もありませんわね。」
ローゼリアは躊躇うことなく次に手を伸ばし、ベンジャミンの執務机を消した。そうして次々に室内の調度品を消していくと、最後にはお互いが座っていた二脚のソファのみが残された。ローゼリアは青い顔をしたベンジャミンにそっと近づくと、囁いた。
「私、あなたの事、あまり好きになれませんわねえ。女神の力を利用するなど、不敬極まりないですわ。あなたが今こうして息をしていられるのも、私が見逃して差し上げているからですのよ。」
「わ、私に触れるな。『ライトシールド』」
「あらあら、お可愛らしい盾ですこと。」
ローゼリアは微笑みながらベンジャミンの魔法の盾を一瞥すると、盾は跡形もなく砕け散った。助けを求める為に思わず周りを見渡したが、護衛は皆扉の外だ。この異変に気がつく様子もなかった。圧倒的なまでの力の差を見せつけられたベンジャミンは成すすべもなくソファから動けずにいた。
ローゼリアは彼の座るソファに手を触れそれを消し、ベンジャミンは中腰の姿勢からそのまま床に尻餅をついた。
「私の幻影魔法、気に入っていただけたかしら。最後に右手のコレを消し炭にして、あなたとは永遠にサヨナラですわね。」
「や、やめてくれ…。」
「あら、どうして?これはただの幻。右手には何も持ってはいませんわ。そうでしょう?」
「し、しかし…」
ローゼリアの超常の力を目の当たりにして、ベンジャミンは本能で理解した。彼女に逆らうなど愚の骨頂。ベンジャミンは過ちを犯したのだと。すると何も持っていなかった筈のローゼリアの右手に何かがあるのを感じた。彼にとって大切な、かけがえのない何かをローゼリアは手にしていた。
「そ、それが魂なのか…私の…」
「あら、この短時間で魂の存在を信じたというの?おかしいですわね、ここには何もない筈よ?」
「い、いや、確かにある。私の大切な…返してくれ…。」
「あら、ここに何かあるというの?ではこうしてみたらどうかしら。」
ローゼリアは自身の小さな指でソレを突いた。ベンジャミンは言い様のない不快感が体の芯から湧き上がるのを感じた。彼の命は、文字通りローゼリアの手に握られているのだ。冷汗が額から止めどなく流れた。
「や、やめてくれ…」
ローゼリアはその言葉を聞き優しく微笑むと、指をソレに突き刺した。ベンジャミンは見えない筈のソレから、ズププと音が聞こえた気がした。ローゼリアはさらにグチョグチョと指で中を搔き回し始めた。
ベンジャミンは自身の何かがローゼリアの手によって壊れゆくのを感じ、激しい嘔吐感に襲われた。視界がバチバチと弾け、真っ直ぐに座っていられないほどの眩暈。心臓が破裂するほどに脈打ったかと思うと、次第にその拍動は遅く、弱くなっていった。自身の身体が指先から冷えて行くのを感じ、ベンジャミンは朦朧とした意識の中必死でローゼリアに命乞いをした。
「や、やめて、ください…女神様…。あやまります、私がまちがっていた、だから、や、め…。」
「あなたは女神の存在を知るに値しないわ。その記憶を消して差し上げましょう。」
ローゼリアの指がソレを一際激しくかき混ぜると、ベンジャミンは目を見開いたまま固まった。
「愚かな王よ。私がこの国にいるだけで、この土地に神々の加護が降り注いでいることに気が付きもしないなんて。少し調べればわかる筈よ。この五年、大きな飢饉も災害もなかった。周辺国で小さなイザコザはあっても、この国まで波及する規模のものはなかった。それだけで満足していれば良いものを。神の力とは求めるものではない。ただ気まぐれに与えられるものなのよ。現国王はそれに気付いていたわ。でもあなたには教えなかった。それが全てを物語っていますわね。
さあ、しばらくおやすみなさい。可哀想に、あなたの魂は修復不能なまでに壊れてしまったわね。これでは次の生は期待できないわ。精々残り僅かな今生を全力で生きることね。」
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