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5歳
人喰い豚1
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「色々あったけど、魔境の森は楽しかったなあ!」
「そうだな、良い経験になった。王都にいたらあの様な実戦訓練など不可能だからな。」
「絶対また来ようね!」
子供達とラウレンティアは行きと同様に馬車に揺られていた。バーナー領から王都までは馬車で2日の旅。あまり王都から出たことのない子供達は、道中立ち寄る街に目を輝かせていた。旅の途中、魔獣に遭遇する事も少なくなかったが、彼らが戦う前に護衛達が危なげなく討伐した。そうして何事もなく無事一行は王都にたどり着いたのであった。
「おかえりなさいませ、奥様方。」
「「おかえりなさいませ!」」
邸に足を踏み入れると、家令とメイド達が玄関で皆を出迎えた。
「旦那様は本日邸におられます。」
「そう。では一息ついたら報告しに行きます。」
「畏まりました。伝えておきましょう。」
それぞれ自室に戻ると、使用人達が荷解きをしている間に旅の汚れを落とした。綺麗に身支度をし、ラウレンティアは執務室へ、子供達はサロンへと移動した。
「ただいま戻りましたわ、旦那様。」
「お帰り、皆無事でよかった。手紙は全て読んだ、あっちで色々あったようだな。ローゼリアは大丈夫なのか?」
「あの子、森で迷っていた時は泣きじゃくっていましたけど、無事に帰還したらもうケロッとしてましたわ。どれだけ危険な状態だったかあまり理解していないみたいでしたわ。子供ってそんなものなのね。」
「そ、そうか…まあ、ローゼリアが嫌な思いを引きずっていないならそれに越したことはない。」
この国の為にも。アルドリックは心の中で続けた。
ラウレンティアからの手紙でアメリーの事件を知ったアルドリックは暫く冷汗が止まらなかった。これでローゼリアが怒りでもすれば、アレンタール王国は即消し炭だ。今自分がこうして生きていることを考えると、またローゼリアの悪い癖が出たようであるが。ローゼリアの遊びに巻き込まれて破滅したアメリーの事は気の毒であったが、公爵家に不敬を働いたのは事実であったので、アルドリックはそれ以上考えることをやめた。
それに正直アメリーを神殿入りさせたのは助かった。エドワードはどんな手を使ってでもローゼリアを手に入れようと躍起になっており、最近は思うようにいかず苛立ち、何をするか分からなかった。アメリーをスケープゴートにする事でエドワードの動きも少し落ち着くであろう。アルドリックはラウレンティアの手腕に舌を巻いた。
ーーーーーーーーー
「はあ~、やっぱりうちが一番落ち着くね。」
「そうね、やっぱりおうちが一番好き!ここのお菓子が一番美味しいし!」
子供達はサロンでお茶を飲んでいた。ソファや椅子は沢山あるにも関わらず、子供達は三人掛けのソファにローゼリアを中心に並んで腰掛けていた。ローゼリアはパウンドケーキを口にし、頰を緩ませている。レイモンドとクラウスはそれをただ微笑ましく眺めていた。
「この二ヶ月、魔法以外の勉強は休んでいたからな。遅れを取り戻さないと。今日は休んで、明日から早速取り掛かるか。」
「また兄さんはそんな事ばかり考えて!もう必死になって勉強する必要もないのに。兄さんは、もう無能なんかじゃないんだから。」
「それなんだが、どうやって僕が氷属性魔力を持っていると周知させるんだ?王都で無闇矢鱈と魔法を使うわけにはいかない。」
「うーん、王様に教える!」
「はは、良いこと言うね、ローゼリア。王様にまでは難しいかもしれないけど、魔力測定の結果報告みたいな感じで城に報告すれば良いんじゃないかなあ?きっと父様が上手くやってくれるよ。」
「そうだな、父様に頼むか。」
ーーーーーーーーー
「元より陛下には伝えるつもりであった。ローゼリアが関わることだからな。ろくな事にならな、いや、何か起きても困る。」
「そうですわね。ですが、貴族の殆どがイーツェル教のこの国で、果たして氷属性魔力が認められるかしら。」
「難しいだろうな。だがレイモンドの実力を見せれば、皆も納得せざるを得まい。」
「それでは、レイモンド兄様の氷属性魔力を大々的に発表しましょう。偽物だと喚く方々には氷漬けになってもらえば良いのですわ。」
「国の上層部を氷漬けにされると困るんだが…。兎に角、まずは陛下にご報告し、公表の許可をもらわなくては。話はそれからだ。」
「お父様の魔力を報告する気はありませんの?魔力の流れが見違えるようですわ。習得したのでしょう?」
「ああ、使えるは使えるんだが…あまり派手じゃなくてね。見るか?」
「是非に。」
「『アイスプラーク』」
アルドリックがガラス製の水差しに手をかざすと、水の中に小さな氷が一つできた。可愛らしく首を傾げるローゼリアを見て、アルドリックは苦笑しながら説明を始めた。
「地味だろう?脳や心臓の血管にアイスプラークを作ると血栓の様に梗塞を起こすんだ。脳梗塞や、心筋梗塞を引き起こす。脳梗塞に関しては、対象となる血管を変えることで様々な症状を引き出すことができる。意識障害や運動失調、はたまた呼吸中枢を阻害したりな。組織が壊死するまでプラークを保ち続ければ、不可逆的な障害となる。幸いこの魔法は殆ど魔力を消費しないからな、一日保たせる程度なら余裕だ。」
「素晴らしいわ。お父様は立派な暗殺者になれますわね。」
「昔からこの系統の魔法は得意でね。今までは中規模の氷属性魔法を練習していたんだが…長年の癖が抜けなくてね、やはり極小魔法に落ち着いたよ。」
「氷は溶けますから、例え解剖したとしても誰の犯行か分かりませんわね。この様な小規模な魔法など、聞いたことがありませんわ。ちょっと感動してしまいましたわ。私も見習おうかしら。これを練習すれば、女神の力を持て余す事もなくなりますわ。」
「女神にそう言われるなど光栄だな。確かにごく少量の魔力を消費すると言うのは魔力操作の究極だからな。練習するといい。」
「遊びと称してレイモンド兄様とクラウス兄様にも習得させましょう。きっと役に立つはずだわ。」
「それが良い。…話が逸れたな。兎に角、明日陛下にご報告する。結果は追って伝える。今日はもう下がって良いぞ。」
「それではおやさみなさい、お父様。」
「ああ、良い夢を。」
「そうだな、良い経験になった。王都にいたらあの様な実戦訓練など不可能だからな。」
「絶対また来ようね!」
子供達とラウレンティアは行きと同様に馬車に揺られていた。バーナー領から王都までは馬車で2日の旅。あまり王都から出たことのない子供達は、道中立ち寄る街に目を輝かせていた。旅の途中、魔獣に遭遇する事も少なくなかったが、彼らが戦う前に護衛達が危なげなく討伐した。そうして何事もなく無事一行は王都にたどり着いたのであった。
「おかえりなさいませ、奥様方。」
「「おかえりなさいませ!」」
邸に足を踏み入れると、家令とメイド達が玄関で皆を出迎えた。
「旦那様は本日邸におられます。」
「そう。では一息ついたら報告しに行きます。」
「畏まりました。伝えておきましょう。」
それぞれ自室に戻ると、使用人達が荷解きをしている間に旅の汚れを落とした。綺麗に身支度をし、ラウレンティアは執務室へ、子供達はサロンへと移動した。
「ただいま戻りましたわ、旦那様。」
「お帰り、皆無事でよかった。手紙は全て読んだ、あっちで色々あったようだな。ローゼリアは大丈夫なのか?」
「あの子、森で迷っていた時は泣きじゃくっていましたけど、無事に帰還したらもうケロッとしてましたわ。どれだけ危険な状態だったかあまり理解していないみたいでしたわ。子供ってそんなものなのね。」
「そ、そうか…まあ、ローゼリアが嫌な思いを引きずっていないならそれに越したことはない。」
この国の為にも。アルドリックは心の中で続けた。
ラウレンティアからの手紙でアメリーの事件を知ったアルドリックは暫く冷汗が止まらなかった。これでローゼリアが怒りでもすれば、アレンタール王国は即消し炭だ。今自分がこうして生きていることを考えると、またローゼリアの悪い癖が出たようであるが。ローゼリアの遊びに巻き込まれて破滅したアメリーの事は気の毒であったが、公爵家に不敬を働いたのは事実であったので、アルドリックはそれ以上考えることをやめた。
それに正直アメリーを神殿入りさせたのは助かった。エドワードはどんな手を使ってでもローゼリアを手に入れようと躍起になっており、最近は思うようにいかず苛立ち、何をするか分からなかった。アメリーをスケープゴートにする事でエドワードの動きも少し落ち着くであろう。アルドリックはラウレンティアの手腕に舌を巻いた。
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「はあ~、やっぱりうちが一番落ち着くね。」
「そうね、やっぱりおうちが一番好き!ここのお菓子が一番美味しいし!」
子供達はサロンでお茶を飲んでいた。ソファや椅子は沢山あるにも関わらず、子供達は三人掛けのソファにローゼリアを中心に並んで腰掛けていた。ローゼリアはパウンドケーキを口にし、頰を緩ませている。レイモンドとクラウスはそれをただ微笑ましく眺めていた。
「この二ヶ月、魔法以外の勉強は休んでいたからな。遅れを取り戻さないと。今日は休んで、明日から早速取り掛かるか。」
「また兄さんはそんな事ばかり考えて!もう必死になって勉強する必要もないのに。兄さんは、もう無能なんかじゃないんだから。」
「それなんだが、どうやって僕が氷属性魔力を持っていると周知させるんだ?王都で無闇矢鱈と魔法を使うわけにはいかない。」
「うーん、王様に教える!」
「はは、良いこと言うね、ローゼリア。王様にまでは難しいかもしれないけど、魔力測定の結果報告みたいな感じで城に報告すれば良いんじゃないかなあ?きっと父様が上手くやってくれるよ。」
「そうだな、父様に頼むか。」
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「元より陛下には伝えるつもりであった。ローゼリアが関わることだからな。ろくな事にならな、いや、何か起きても困る。」
「そうですわね。ですが、貴族の殆どがイーツェル教のこの国で、果たして氷属性魔力が認められるかしら。」
「難しいだろうな。だがレイモンドの実力を見せれば、皆も納得せざるを得まい。」
「それでは、レイモンド兄様の氷属性魔力を大々的に発表しましょう。偽物だと喚く方々には氷漬けになってもらえば良いのですわ。」
「国の上層部を氷漬けにされると困るんだが…。兎に角、まずは陛下にご報告し、公表の許可をもらわなくては。話はそれからだ。」
「お父様の魔力を報告する気はありませんの?魔力の流れが見違えるようですわ。習得したのでしょう?」
「ああ、使えるは使えるんだが…あまり派手じゃなくてね。見るか?」
「是非に。」
「『アイスプラーク』」
アルドリックがガラス製の水差しに手をかざすと、水の中に小さな氷が一つできた。可愛らしく首を傾げるローゼリアを見て、アルドリックは苦笑しながら説明を始めた。
「地味だろう?脳や心臓の血管にアイスプラークを作ると血栓の様に梗塞を起こすんだ。脳梗塞や、心筋梗塞を引き起こす。脳梗塞に関しては、対象となる血管を変えることで様々な症状を引き出すことができる。意識障害や運動失調、はたまた呼吸中枢を阻害したりな。組織が壊死するまでプラークを保ち続ければ、不可逆的な障害となる。幸いこの魔法は殆ど魔力を消費しないからな、一日保たせる程度なら余裕だ。」
「素晴らしいわ。お父様は立派な暗殺者になれますわね。」
「昔からこの系統の魔法は得意でね。今までは中規模の氷属性魔法を練習していたんだが…長年の癖が抜けなくてね、やはり極小魔法に落ち着いたよ。」
「氷は溶けますから、例え解剖したとしても誰の犯行か分かりませんわね。この様な小規模な魔法など、聞いたことがありませんわ。ちょっと感動してしまいましたわ。私も見習おうかしら。これを練習すれば、女神の力を持て余す事もなくなりますわ。」
「女神にそう言われるなど光栄だな。確かにごく少量の魔力を消費すると言うのは魔力操作の究極だからな。練習するといい。」
「遊びと称してレイモンド兄様とクラウス兄様にも習得させましょう。きっと役に立つはずだわ。」
「それが良い。…話が逸れたな。兎に角、明日陛下にご報告する。結果は追って伝える。今日はもう下がって良いぞ。」
「それではおやさみなさい、お父様。」
「ああ、良い夢を。」
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