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人間の国に来ました5
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「ふう…ごちそうさま。」
「片付けてしまいますね。」
「ありがとう。」
ミーアがワゴンを返しに部屋を出ていく。私はレオと二人きりだ。あれ、そう言えばアロンは?
「アロンは?」
「騎士達は城に入るのに手間取っている。」
「どうしたの?」
「武器を持ってるし、明らかに強そうだからな。人間も警戒しているのだろう。」
「ふうん。」
「リナ。」
「なに?」
「お前がここに来た理由を覚えてるか。」
「えっと、囮?」
「そうだ。」
「誘拐でもされれば良いの?」
「そういうことだな。そうなると、護衛が邪魔だ。アロンを撒いてお前を拐うなどと言う芸当は、人間には無理だ。」
「つまりアロンはここには来ない?」
「ああ。」
「…午後はお散歩にでも行ってこようかな。お城の中を探検しても良い?」
私がそう聞くと、レオは満足そうにニヤリと笑って頷いた。
「ああ。充分気を付けろよ。」
「はーい。」
まったく、ペット使いが荒いんだから。でもそれで連れてこられたんならやるしかない。私はレオのペットなんだから。それにこの首輪は私に対するどんな攻撃も防ぎ、なおかつ攻撃主と私を瞬時にレオの元に転送する魔法がかけられているらしい。だからあの、名前忘れちゃったけど全裸の変態令嬢に襲われた時も助かったんだね。あの機能があるなら、まあ誘拐されてもそんなに怖くはないでしょ。
私はブレスレットにしていたキックボードを元の形に戻し、部屋を出た。
「いってきます。」
「あまり遅くなるなよ。」
「はーい。」
そんな保護者っぽい台詞、どの口が言ってるんだか。誘拐させるのが目的な癖に。私のことを可愛がったり、かと思ったらあっさりと囮に使ったり。レオは掴めない男だ。私は本当に愛されペットとしての道を進めているんだろうか。例えばここで私が死んじゃっても、レオは国を潰す良い口実ができたと喜ぶんだろうか…
いかんいかん。あまり暗くなっては駄目だ。ここは異世界。そして元の世界には、多分もう戻れない。私はここで自分の居場所を見つけないといけないんだから。できれば三食昼寝付き、仕事も家事も何もしなくていい居場所が。
私は頭をプルプルと降り、キックボードに乗って地面を蹴った。
ーーーーーーーー
「…ここどこ?」
私は開始30分でもう立派な迷子になっていた。うん。こうなるよね。むしろこうならない方が不自然。だって城ってやつは無駄に広いんだもん。それで同じデザインの廊下とか扉とか多すぎ。部屋番号も書いてないし。地図持ってても無理ゲーだよ、こんなん。しかも散歩を始めてから今まで、誰ともすれ違っていない。使用人の一人くらいいないの?
人に聞くという作戦は早々に諦め、私はとりあえず、階段を探すことにした。ここは二階。だから一階に行けば、玄関があるはず。そこまで行けば、城に出入りする人間がいるでしょ。入り口を兵士が守ってるかもしれないし。決意を新たに、私は果てしない廊下を進み続けた。
「おや?リナ様。お一人ですか?」
「あ。」
一階への階段を見つける前に、やばい奴に見つかってしまったようだ。
「えっと…殿下。」
「ふふ。セドリックと呼んでください。」
「…セドリック。」
「っ!」
私が名前を呼んだだけで恍惚の表情を見せる変態王子、セドリック。私の首輪はこういう精神攻撃には反応しないんだよな。とんだ欠陥品だ!
セドリックは護衛と思われる騎士を一人連れて廊下を歩いていた。王太子なのに護衛が一人っていうのはどうなんだろう。自分の城だから良いのかな。セドリックは言わずもがな、この護衛も私に対する敵意はないみたい。まあ私は魔族じゃなくて人間だからね。
興奮が一通り終わったらしいセドリックがこほんと咳払いをして、顔にいつもの王子様スマイルを浮かべ直した。
「リナ様はなぜここに?」
「えっと…お城の探検してたら道に迷っちゃったの。」
「おや、そうでしたか。お部屋に戻る途中ですか?」
「ううん、もうちょっといろんな所が見たくて、一階に降りる階段を探してるところ。」
「よろしければ私がご案内しましょうか?」
「いいの?でも忙しいんじゃない?王太子なんでしょ?」
「リナ様の案内をする以上の重要案件などありません。では行きましょうか、レディ。抱っこしましょうか?」
さりげなくボディタッチの機会をうかがうセドリック。その手には乗らないんだから。私は差し出された手にそっぽを向いて答えた。
「これがあるから、自分で行ける。」
「何やら珍しい乗り物ですね。大魔王国の乗り物ですか?」
「キックボードっていうの。私が考えたんだよ。」
「へえ…リナ様は聡明なんですね。」
「まあね!」
「本当…魔族のペットなんかにしておくのは勿体無い。」
「そうかな…」
セドリックの笑みが冷たくなった。お、釣れたのか?1回目の試みでもう当たり引いちゃったの?少し身構えつつ、私は彼との会話を続けた。
「あなたのその首輪、アンバランスな感じが扇情的ではありますが、正直まったく似合っていません。こんな飾り気のない無骨な首輪…私だったら、もっと線の細い、宝石のあしらわれたあなたにピッタリの首輪を贈ったのに…」
「…」
雲行きが怪しい。この人は、正真正銘ただの変態かもしれない。魔族反対派の誘拐はウェルカムだけど、変態の誘拐はなしだぞ。私は変態の後ろにいる護衛の騎士をチラリと見上げた。おい、顔逸らすな。諦めたような顔をするんじゃない。
「あなたは一体大魔王国でどのような扱いを受けているのですか?先ほどとは服が違っているようですが…この石鹸の香り、お風呂あがりですか?まさか本当に魔王と風呂に?風呂で一体何をされたんです?」
「ふ、普通にお風呂に入っただけだよ。」
「魔王と一緒に?」
「う、うん…」
「あなたの素肌を魔王は見たというのですか?そしてあなたも魔王の…?」
ペット初日は全裸で城歩き回ってましたなんて言えないな。怖いよ。なんか目が逝っちゃってる。本当にこの人が王太子なの?この国の行末が不安だわ。
「片付けてしまいますね。」
「ありがとう。」
ミーアがワゴンを返しに部屋を出ていく。私はレオと二人きりだ。あれ、そう言えばアロンは?
「アロンは?」
「騎士達は城に入るのに手間取っている。」
「どうしたの?」
「武器を持ってるし、明らかに強そうだからな。人間も警戒しているのだろう。」
「ふうん。」
「リナ。」
「なに?」
「お前がここに来た理由を覚えてるか。」
「えっと、囮?」
「そうだ。」
「誘拐でもされれば良いの?」
「そういうことだな。そうなると、護衛が邪魔だ。アロンを撒いてお前を拐うなどと言う芸当は、人間には無理だ。」
「つまりアロンはここには来ない?」
「ああ。」
「…午後はお散歩にでも行ってこようかな。お城の中を探検しても良い?」
私がそう聞くと、レオは満足そうにニヤリと笑って頷いた。
「ああ。充分気を付けろよ。」
「はーい。」
まったく、ペット使いが荒いんだから。でもそれで連れてこられたんならやるしかない。私はレオのペットなんだから。それにこの首輪は私に対するどんな攻撃も防ぎ、なおかつ攻撃主と私を瞬時にレオの元に転送する魔法がかけられているらしい。だからあの、名前忘れちゃったけど全裸の変態令嬢に襲われた時も助かったんだね。あの機能があるなら、まあ誘拐されてもそんなに怖くはないでしょ。
私はブレスレットにしていたキックボードを元の形に戻し、部屋を出た。
「いってきます。」
「あまり遅くなるなよ。」
「はーい。」
そんな保護者っぽい台詞、どの口が言ってるんだか。誘拐させるのが目的な癖に。私のことを可愛がったり、かと思ったらあっさりと囮に使ったり。レオは掴めない男だ。私は本当に愛されペットとしての道を進めているんだろうか。例えばここで私が死んじゃっても、レオは国を潰す良い口実ができたと喜ぶんだろうか…
いかんいかん。あまり暗くなっては駄目だ。ここは異世界。そして元の世界には、多分もう戻れない。私はここで自分の居場所を見つけないといけないんだから。できれば三食昼寝付き、仕事も家事も何もしなくていい居場所が。
私は頭をプルプルと降り、キックボードに乗って地面を蹴った。
ーーーーーーーー
「…ここどこ?」
私は開始30分でもう立派な迷子になっていた。うん。こうなるよね。むしろこうならない方が不自然。だって城ってやつは無駄に広いんだもん。それで同じデザインの廊下とか扉とか多すぎ。部屋番号も書いてないし。地図持ってても無理ゲーだよ、こんなん。しかも散歩を始めてから今まで、誰ともすれ違っていない。使用人の一人くらいいないの?
人に聞くという作戦は早々に諦め、私はとりあえず、階段を探すことにした。ここは二階。だから一階に行けば、玄関があるはず。そこまで行けば、城に出入りする人間がいるでしょ。入り口を兵士が守ってるかもしれないし。決意を新たに、私は果てしない廊下を進み続けた。
「おや?リナ様。お一人ですか?」
「あ。」
一階への階段を見つける前に、やばい奴に見つかってしまったようだ。
「えっと…殿下。」
「ふふ。セドリックと呼んでください。」
「…セドリック。」
「っ!」
私が名前を呼んだだけで恍惚の表情を見せる変態王子、セドリック。私の首輪はこういう精神攻撃には反応しないんだよな。とんだ欠陥品だ!
セドリックは護衛と思われる騎士を一人連れて廊下を歩いていた。王太子なのに護衛が一人っていうのはどうなんだろう。自分の城だから良いのかな。セドリックは言わずもがな、この護衛も私に対する敵意はないみたい。まあ私は魔族じゃなくて人間だからね。
興奮が一通り終わったらしいセドリックがこほんと咳払いをして、顔にいつもの王子様スマイルを浮かべ直した。
「リナ様はなぜここに?」
「えっと…お城の探検してたら道に迷っちゃったの。」
「おや、そうでしたか。お部屋に戻る途中ですか?」
「ううん、もうちょっといろんな所が見たくて、一階に降りる階段を探してるところ。」
「よろしければ私がご案内しましょうか?」
「いいの?でも忙しいんじゃない?王太子なんでしょ?」
「リナ様の案内をする以上の重要案件などありません。では行きましょうか、レディ。抱っこしましょうか?」
さりげなくボディタッチの機会をうかがうセドリック。その手には乗らないんだから。私は差し出された手にそっぽを向いて答えた。
「これがあるから、自分で行ける。」
「何やら珍しい乗り物ですね。大魔王国の乗り物ですか?」
「キックボードっていうの。私が考えたんだよ。」
「へえ…リナ様は聡明なんですね。」
「まあね!」
「本当…魔族のペットなんかにしておくのは勿体無い。」
「そうかな…」
セドリックの笑みが冷たくなった。お、釣れたのか?1回目の試みでもう当たり引いちゃったの?少し身構えつつ、私は彼との会話を続けた。
「あなたのその首輪、アンバランスな感じが扇情的ではありますが、正直まったく似合っていません。こんな飾り気のない無骨な首輪…私だったら、もっと線の細い、宝石のあしらわれたあなたにピッタリの首輪を贈ったのに…」
「…」
雲行きが怪しい。この人は、正真正銘ただの変態かもしれない。魔族反対派の誘拐はウェルカムだけど、変態の誘拐はなしだぞ。私は変態の後ろにいる護衛の騎士をチラリと見上げた。おい、顔逸らすな。諦めたような顔をするんじゃない。
「あなたは一体大魔王国でどのような扱いを受けているのですか?先ほどとは服が違っているようですが…この石鹸の香り、お風呂あがりですか?まさか本当に魔王と風呂に?風呂で一体何をされたんです?」
「ふ、普通にお風呂に入っただけだよ。」
「魔王と一緒に?」
「う、うん…」
「あなたの素肌を魔王は見たというのですか?そしてあなたも魔王の…?」
ペット初日は全裸で城歩き回ってましたなんて言えないな。怖いよ。なんか目が逝っちゃってる。本当にこの人が王太子なの?この国の行末が不安だわ。
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