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人間の国に行きます3

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翌朝、レオの部屋で朝食を食べていると、扉がノックされた。側に控えていたミーアが応対する。

「リナ様、グスタさんです。キックボードが完成したそうですよ。」
「わーい、見たい見たい!レオも一緒に見よう?」
「うむ。」

私はレオの膝の上から慎重に降りて扉の方に向かった。廊下にはグスタさんが私にとっては見慣れた乗り物を持って立っていた。グスタさんは私の背後にいるレオを見て慌ててペコリと頭を下げた。

「魔王様、本日はお日柄も良く…」
「良い。用事を済ませろ。」
「はっ。」
「わあ、格好いい!」
「どうだ、渾身の出来だ。試しに乗ってみてくれないか?変なところがあったら言ってくれ。直しちまうから。」
「うん!」

グスタさん作のキックボードは、全体的にメタルブラックで格好いい。その造形は私がイメージしていたものとほとんど一緒だ。ハンドルにギアのような物が付いているのが気になるけど、とりあえずは試乗だ。私はキックボードに片足を乗せ、地面を蹴った。
毛足の長い絨毯にも負けることなくスムーズに進む。うーん、楽ちん楽ちん。これなら何処までだって行けそう。実は私キックボード持ってなくて、子供の頃はずっと欲しかったんだよね。家が貧乏で買ってなんて言えなかったけど、友達に乗せてもらってすごく楽しくて、ずっと忘れられなかった。なんだかこっちの世界に来て、子供の頃の夢がどんどん叶っていくな。

「どうだ。」
「最高!」
「そうか。」
「どこかおかしいところはあるか?」
「ないよ!でもこのハンドルについてるやつは何?」
「ああこれか。これは少し仕掛けがあってな。ギアをひとつ動かしてみてくれ。」

カチっとギアを変えると、フォンと小さな音を立てて私を中心に半球状の結界ができた。

「魔王様のペットなら危険なこともあるだろう。ここに魔石を嵌め込んでいて、3種類の魔法が使えるようにしてある。」
「すごい!」

ハンドルに埋め込まれてるこのキラキラした石は魔石だったのか。装飾かと思った。縦に3つ並んだうちの一番上の石が、今はキラキラと輝いている。
次はなんだろう?私はもう一つギアを変えた。

「ふわあ!」

突然黒い炎が私を取り囲んだ。

「次は攻撃だ。まあ魔石を使った魔法だからな、大した攻撃力はないが、牽制にはなるだろう。人間相手なら充分撃退できるぞ。」
「ふむ。」

レオはなんの躊躇いもなく私の周りの黒い炎に腕を突っ込んだ。レオが触れたところからどんどん炎が消えていく。レオには効果は全くないみたい。流石魔王。
じゃあ次は…

「おっと、気をつけてくれ。最後のは説明してからの方が良いだろう。最後の魔石には移動の魔法が入っている。」
「つ、つまり…」
「ああ、発動させると、自動で動くぞ。」
「すごーい!」

私は早速ギアを変えた。一番下の魔石がキラリと光ると、私の体はギュンと前に進んだ。

「ひええええ」

速いな、思ったより速い。自転車を超える速さだ。廊下が長くてまっすぐで良かった。でもそろそろ止めないと壁に激突する。

「おーい、危ないぞ。スピードを落とせ。」
「ど、どうやって!?」
「念じればいい。」

そんなファンタジーな!あ、ファンタジーな世界なんだった。遅くなーれ遅くなーれ。私が一生懸命念じると、キックボードのスピードが緩やかになった。私はその隙にギアを元に戻す。

「ふう…」

危ない危ない。危うく壁に激突する…心配はなかったみたい。レオ達のいるところからは随分と離れてしまったが、今私の目の前にはアロンがいる。多分うまく減速できなかったら止めてくれるつもりだったんだね。いつの間に私を追い越したんだろう。本当、無愛想だけど仕事はできるんだよ、この男は。

帰りは自分で蹴って戻る。

「どうだった?」
「ちょっと怖かった!」
「まあ緊急脱出用だからな。結界で攻撃を防ぎ、攻撃して相手を牽制し、その隙に逃げる。まあ、護衛が付いてるからそんな事態には陥らないと思うがな、念の為の保険だ。」
「すごい。沢山考えてくれてありがとう。」
「良いってことよ。人間の子供は弱いからな、強い武器が必要だろ?さあ、最後の機能だ。このボタンを押してくれ。」

グスタさんが指差したところを見ると、周りと色が馴染んでいて分かりにくいが小さいボタンがあった。ポチっとそれを押すと、金属がドロドロと液体状になったかと思うと、シュルシュルと縮んで私の腕に絡み付いた。

「わわわ。」

私は突然の事にビビっているけど、アロンもレオも無反応なところを見るに危ない物ではないのだろう。私は柔らかい金属が腕にまとわりつく不思議な感覚を我慢して成り行きを見守った。しばらくするとウネウネと動いていた金属は静かになり、気がつけば良い感じの腕輪になっていた。ボディに埋め込まれた魔石が宝石のように三つ並んで良い味を出している。

「使わない時はその形で持ち歩くのがいいだろう。練習は必要だが、その魔石に直接魔力を流せばさっきの魔法も使えるぞ。」
「私魔力がほとんどなくて…」
「なに、魔石を使うのに必要な魔力なんて微々たるもんだ。下級魔法の十分の一くらいか。」
「それなら私でも使えそう。どうやって戻せば良いの?」
「そこに小さいボタンがあるぞ。」
「本当だ。」
「どうだ、気に入ったか?」
「うん、とっても!どうもありがとう!」
「なに、新鮮で面白かったぜ。また何か思いついたら来るといい。」

グスタさんは私の頭を撫で、レオに一礼して帰って行った。いやあ、こんな凄いものをたった1日で作れるって言うんだから、只者じゃないよね。また遊びに行こう。足をゲットしたから、こらからは何処にだって行き放題よ!
私が腕輪を眺めながらニヨニヨしているのを見下ろしながら、レオが口を開いた。

「満足か。」
「うん!」
「良かったな。そろそろ仕事に行く。」
「図書室に行っていい?」
「昼は一旦戻って来い。」
「分かった。」

私は腕輪のボタンを押してキックボードを取り出した。本当、どういう仕組みか分からないけど便利だなあ。
手を振ってレオと別れ、私はミーアとアロンを連れて離れにあるという図書館に向かった。
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