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「…私は勇者の末裔じゃないよ。」
「そうか。」

私の答えを聞き、サムエルは後ろに組んでいた腕を前に持ってきた。左手の薬指にはめている指輪をチラリと見るとレオに視線を送った。

「ではなぜ魔法が使える。」

サムエルの合図を受け、レオが尋問を再開した。真実の宝玉は、どうやらあの指輪についている宝石のことらしい。私はまた正直に答えた。

「異世界から来たから。」
「誰に召喚された。どこの国だ。」
「分からない。気がついたらあそこにいた。人間に会った記憶はない。」
「異世界から来たことを何故黙っていた。」
「異世界人に対する扱いがわからなかったから。言っても信じてもらえないかもしれない。異世界人と知られたら殺されるかも知れない。とにかくどうなるか分からなかったから様子をみようと思った。」
「ふむ…」

レオはチラリとサムエルを見た。サムエルは小さく頷く。

「お前は我々魔族の敵か?」
「敵じゃない。衣食住全て与えてくれる存在に牙を剥くほど私は馬鹿じゃない。」
「ふん…お前らしい答えだ。まあ平手一発でシールドが砕け散る程度の魔力で我々に挑むなど到底不可能だがな。」

全部見てた!やっぱ全部見てたんじゃん。全部見た上で、私を膝に乗せて餌付けしてたってことでしょ、余裕だなおい。それだけ魔族にとって人間て敵にもならないような存在なんだ。そんな弱小生物が魔族のビンタを一発防げただけでも奇跡よ奇跡。誰か褒めてよ。

「リナ。」
「はい。」
「こっちに来い。」
「はい。」

私は素直にソファから降り、執務机に座るレオの元に駆け寄った。レオはいつものように私を抱き上げて膝に乗せてくれた。それに安心する自分がいて少し驚く。

「この世界の人間だろうが異世界人だろうが、お前はもう俺のペットだ。」
「はい。」
「好きに過ごせ。魔法が使いたければ使うが良い。」
「良いの?」
「お前が魔法を使ったとて何にもならん。お前の魔力は城で働いている勇者達の十分の一もない。」
「がーん。」
「あのシールドでお前は魔力を使い果たし、今現在までそれが回復している様子もない。お前は魔力供給能が異常に低い。初級の魔法をひとつ使えば、一ヶ月は魔法を使えないだろう。」
「脅威度はゼロ、いや、マイナスに等しいですね。普通の勇者の脅威度も1程度ですが。」
「がーん。」

ショック。普通にショック。少しは期待してたのに。だって異世界転生だよ?特別な力を授かると思うじゃん?確かに魔法は使えるみたいだけど、まさかそんなに弱いとは。ありんこ、いやみじんこレベルじゃないか。こんなの恥ずかしくて魔法なんて使えない!いや、使うか、せっかくだから使うよね、恥を忍んで使うしかない。だってやっぱり魔法使いって永遠の憧れだし。
私が魔王の膝の上でズーンと沈んでいると、ミーアがフォローを入れてくれた。

「し、しかしそのようにか弱いと庇護欲をそそられます。リナ様のその愛らしい見た目ととてもお似合いではないですか。可愛いは正義ですよ。」
「ミーア、ありがとう…」

フォローになっているかは怪しいが、私を慰めてくれているようだ。ミーアは私が異世界人だと知っても態度を変えない。本当にできた魔族だ。レオの計画に加担していたけどその人柄に免じて許してあげようと思う。

「しかしその歳でそれだけの事を瞬時に考え、嘘をつくことなく真実を隠す芸当。リナ様は本当に賢いですね。将来が楽しみです。人間風に言えば神童というものなのでしょうか。」
「あー、えっと。私本当は二十歳なの。こっちに来たら身体が縮んでたんだけど、向こうでは立派な大人だよ。異世界から来た人って皆若返るの?」
「いえ…そのような話は聞いたことがありませんね。召喚者がいないことといい、リナ様の召喚はやはりこの世界のイレギュラーなのでしょう。」
「そうなんだ…」
「ふむ。異世界の勇者をペットにするなど前代未聞。誰も真似できぬな。」
「そうだね…」

レオは本当にマイペース。ドヤ顔で私の頭を撫でるこの大陸の最高権力者。私が勇者でも、年齢詐称していても、全く気にしない器の広さはやっぱり王様だからなのかな。
とりあえず、私の尋問タイムはこれにて終了の流れとなった。全ての秘密を白状した私は、すっかり気が抜けてレオの膝の上でグースカと眠りこけるのであった。


ーーーーーーーーー


「…召喚者のいない異世界人、ですか…」
「そんなものはあり得ない。」
「そうですね…神の意思でもなければ不可能でしょう。どこかの国で勇者召喚が行われた可能性があります。最近は人間達も反抗的ですからね。少し調べる必要があります。」
「任せる。」
「リナ様の監視は続けますか?」
「ふむ…監視と護衛を兼ねて騎士を一人付けろ。人選は任せる。」
「かしこまりました。」
「…これ以上馬鹿が現れないように、アレをやるか。」
「アレ、ですか。では人間の国に通達しましょう。」
「うむ。」

魔王の命を受けサムエルは執務室を後にした。ミーアもリナが寝てしまえばもうやる事もない。サムエルの後に続き彼女も部屋を後にし、この場には魔王とリナだけが残った。
魔王は腕の中で眠るリナをじっと見つめた。彼女の話をしているというのに、起きる気配もない。確かに頭は切れるし、物分かりの良さは大人のそれだが、こうして見ている分にはどこからどう見ても赤子だ。

「リナ。」
「むにゃ…」

名前を呼んでも起きないリナの様子に魔王は薄く微笑むと、再び書類に目を落とした。
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