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ペットになります4
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「わあ…」
「では歩け。」
魔王に抱っこで連れられたのは城にある庭の一画。色とりどりの花が見事な調和で咲き誇り、道の先には立派な噴水。魔王に降ろされた私は、いそいそと歩き出した。
目線が低くなるだけで目につくものも大人と違う。花弁や葉っぱに付いた水滴が太陽に照らされキラキラと光る様が間近で見れる。大人になってからは自然に目を奪われるなんてことはなかった。きっとこの感動は子供ならではの気持ちなのだろう。
あっちにこっちに寄り道しながらテトテト歩く私の後ろを鎖を持ってついて来る魔王と、そのさらに後ろに控えているサムエル。
客観的に見ればかなりやばい光景だろう。厳つい男に誘拐監禁された幼女にしかみえない。でも犯人はこの大陸で最も尊い魔王様。誰も通報なんてしない。だから私は安心して遊び続けた。
「魔王様!」
私が噴水を覗き込んでピチャピチャ遊んでいると、後ろから見知らぬ声が聞こえてきた。
「魔王様、このような所でお会いできるとは。珍しいですな。」
「カズラか。何か用か。」
魔王に親しげに話しかけてきたのは、小太りの中年。いかにも貴族といった感じのゴテゴテした服装だ。
「いえ、特に用はありませんとも。ただ魔王様をお見かけしたので声をかけただけです。」
「そうか。」
「えっと…して、そちらの人間は一体…?」
カズラという男はチラリと私を見て言った。そりゃ聞くよね、絵面やばいもんね。
「これは俺のペットだ。」
「なんと!人間のペットですか!それは世にも珍しい。しかもまだ子供だ。躾けるのはさぞかし骨が折れたことでしょう。」
「まあな。」
いやいや、私終始良い子だったんですけど。
「リナ、こっちに来い。」
「はい。」
私は素直に水遊びをやめて魔王の元に駆け寄る。魔王は私を抱き上げてカズラに見せびらかした。
「この顔をよく覚えておけよ。俺のペットだ。無礼は許さん。」
「ははー!他の者にも周知させましょう。人間が迷い込んだと思い踏みつぶす者もいるでしょうからな。」
「任せる。」
「お任せください!」
人間が迷い込んだら踏み潰すの?おいおい、話が違うじゃないか。魔族と人間は敵対してないって言ってたじゃん。それとも野良猫を殺処分するのと同じ感じなの?魔族って人間のことどう思ってるんだろう。
でもとりあえず、魔王のペットでいる限りは危ない目に遭うことはなさそうだ。あとは魔王に捨てられないように、日々愛される努力をするだけだ。
カズラを見送ってから私は魔王の首に抱きついて甘えてみせた。
「どうした。」
「疲れたのではないですか?」
「そうか。では戻るぞ。」
魔王は私を抱っこしたまま庭を後にした。さっき来た時とは違う廊下をしばらく歩き、魔王は豪華な部屋に入っていった。応接室にしても豪華で広すぎる。
「ここは俺の部屋だ。」
キョロキョロしている私に魔王が教えてくれた。さすが王様、こんな凄いところに住んでいるのね。
居間に置かれたフカフカのソファに私を座らせると、魔王は私を置いて出て行った。
「俺は仕事が残っている。ここで大人しくしていろ。夜には戻る。」
「はい。」
「メイドを置いていく。欲しいものがあればそいつに言え。」
「ありがとうございます。」
魔王と入れ違いになるように、猫耳メイドが入室した。
「リナ様、ご用があればなんなりとお申し付けください。」
「うん。」
私はしばらくソファに触ってボーッとしていた。こんな豪華な部屋で過ごせるなんて。狭いワンルームに寝るためだけに帰っていたあの頃を思うと、信じられない。もしこれが夢なのだとしたら、目が覚めるまでにこの贅沢を満喫しなくては。しかし贅沢三昧する前に、いくつか確認しなくてはいけない事がある。
「あの。」
「なんでしょうか。」
「魔王様の良いペットになるためにも、魔族の事をもっと良く知りたいんだけど…」
「まあ、素晴らしい心がけです。私でお答えできることであればなんなりと。」
「魔族って人間とどう違うの?」
「そうですねえ…簡単に言うと、魔族は人間と違って魔力を持っています。そして魔力量に比例はしますが、寿命も数千年程あります。比べるのが難しいくらい、別の生き物ですね。」
「そうだったんだ。私の住んでいた国には、魔族っていなかったから…」
「まあ、そうだったのですね。では大陸の外の出身でしたか。」
「うん。だから魔族と人間がどういう関係なのか知らなくて。」
「人間は我々魔族に従属しています。魔力も持たず、寿命も短い。なのに彼らは何故か人間同士で争うのをやめません。戦争の果てに環境破壊を起こすこともしばしばありました。そこで魔族は彼らを正しく導くために、彼らを管理することにしたのです。」
「具体的にはどういう風に管理してるの?」
「大陸中の人間の国を大魔王国の属国とし、各国の上層部が横領を行なったり、高い税収で民を困窮させたりしないよう監視していますね。人間というのは利己的で狡猾ですからね、きちんと見ていないと、すぐ悪いことをするのです。」
魔族、めっちゃまとも。
でもでも、踏み潰したりするんでしょう?
「魔族にとって、人間ってどういう扱いなの?私をペットにするくらいだから、やっぱり動物扱いなのかな?」
「そうですね、そう思っている者も少なくないでしょう。人間社会で共に生活する魔族もいますし、逆に人間を嫌って、目に入り次第殺す者もいます。魔王様は道端の蟻程度にしか興味を持たれておりませんね。平均して言えば、動物扱いでしょうか。」
人間だって動物虐待する人とか、逆に保護する人とかいるもんね。本当に動物扱いなんだ。まあ猫になりたかった私としてはこの状況は大歓迎だ。だってただの愛玩動物に労働を強いる奴なんていないもん。これで私のニート生活は確約されたようなものだ。
「なるほど…すごく勉強になったよ。ありがとう、えーっと…」
「申し遅れました。私はリナ様の専属お世話係の、ミーアと申します。」
「ありがとう、ミーア。ミーアは私のお世話をしていて嫌じゃない?人間に頭を下げるのは嫌じゃないの?」
「普通の人間には頭を下げたりなど致しませんよ。リナ様だけです。魔王様のペットのお世話係に任命されるなどこれ以上の誉はありませんもの。」
「そういうものなんだ。」
昔の偉い人が飼っていた猫なんかはお猫様とか呼ばれてたんだっけ。それと同じようなものか。魔王が私をいかに可愛がってくれるかで周囲の扱いも変わるということか。これはますます愛されペット道を究めねば。
「では歩け。」
魔王に抱っこで連れられたのは城にある庭の一画。色とりどりの花が見事な調和で咲き誇り、道の先には立派な噴水。魔王に降ろされた私は、いそいそと歩き出した。
目線が低くなるだけで目につくものも大人と違う。花弁や葉っぱに付いた水滴が太陽に照らされキラキラと光る様が間近で見れる。大人になってからは自然に目を奪われるなんてことはなかった。きっとこの感動は子供ならではの気持ちなのだろう。
あっちにこっちに寄り道しながらテトテト歩く私の後ろを鎖を持ってついて来る魔王と、そのさらに後ろに控えているサムエル。
客観的に見ればかなりやばい光景だろう。厳つい男に誘拐監禁された幼女にしかみえない。でも犯人はこの大陸で最も尊い魔王様。誰も通報なんてしない。だから私は安心して遊び続けた。
「魔王様!」
私が噴水を覗き込んでピチャピチャ遊んでいると、後ろから見知らぬ声が聞こえてきた。
「魔王様、このような所でお会いできるとは。珍しいですな。」
「カズラか。何か用か。」
魔王に親しげに話しかけてきたのは、小太りの中年。いかにも貴族といった感じのゴテゴテした服装だ。
「いえ、特に用はありませんとも。ただ魔王様をお見かけしたので声をかけただけです。」
「そうか。」
「えっと…して、そちらの人間は一体…?」
カズラという男はチラリと私を見て言った。そりゃ聞くよね、絵面やばいもんね。
「これは俺のペットだ。」
「なんと!人間のペットですか!それは世にも珍しい。しかもまだ子供だ。躾けるのはさぞかし骨が折れたことでしょう。」
「まあな。」
いやいや、私終始良い子だったんですけど。
「リナ、こっちに来い。」
「はい。」
私は素直に水遊びをやめて魔王の元に駆け寄る。魔王は私を抱き上げてカズラに見せびらかした。
「この顔をよく覚えておけよ。俺のペットだ。無礼は許さん。」
「ははー!他の者にも周知させましょう。人間が迷い込んだと思い踏みつぶす者もいるでしょうからな。」
「任せる。」
「お任せください!」
人間が迷い込んだら踏み潰すの?おいおい、話が違うじゃないか。魔族と人間は敵対してないって言ってたじゃん。それとも野良猫を殺処分するのと同じ感じなの?魔族って人間のことどう思ってるんだろう。
でもとりあえず、魔王のペットでいる限りは危ない目に遭うことはなさそうだ。あとは魔王に捨てられないように、日々愛される努力をするだけだ。
カズラを見送ってから私は魔王の首に抱きついて甘えてみせた。
「どうした。」
「疲れたのではないですか?」
「そうか。では戻るぞ。」
魔王は私を抱っこしたまま庭を後にした。さっき来た時とは違う廊下をしばらく歩き、魔王は豪華な部屋に入っていった。応接室にしても豪華で広すぎる。
「ここは俺の部屋だ。」
キョロキョロしている私に魔王が教えてくれた。さすが王様、こんな凄いところに住んでいるのね。
居間に置かれたフカフカのソファに私を座らせると、魔王は私を置いて出て行った。
「俺は仕事が残っている。ここで大人しくしていろ。夜には戻る。」
「はい。」
「メイドを置いていく。欲しいものがあればそいつに言え。」
「ありがとうございます。」
魔王と入れ違いになるように、猫耳メイドが入室した。
「リナ様、ご用があればなんなりとお申し付けください。」
「うん。」
私はしばらくソファに触ってボーッとしていた。こんな豪華な部屋で過ごせるなんて。狭いワンルームに寝るためだけに帰っていたあの頃を思うと、信じられない。もしこれが夢なのだとしたら、目が覚めるまでにこの贅沢を満喫しなくては。しかし贅沢三昧する前に、いくつか確認しなくてはいけない事がある。
「あの。」
「なんでしょうか。」
「魔王様の良いペットになるためにも、魔族の事をもっと良く知りたいんだけど…」
「まあ、素晴らしい心がけです。私でお答えできることであればなんなりと。」
「魔族って人間とどう違うの?」
「そうですねえ…簡単に言うと、魔族は人間と違って魔力を持っています。そして魔力量に比例はしますが、寿命も数千年程あります。比べるのが難しいくらい、別の生き物ですね。」
「そうだったんだ。私の住んでいた国には、魔族っていなかったから…」
「まあ、そうだったのですね。では大陸の外の出身でしたか。」
「うん。だから魔族と人間がどういう関係なのか知らなくて。」
「人間は我々魔族に従属しています。魔力も持たず、寿命も短い。なのに彼らは何故か人間同士で争うのをやめません。戦争の果てに環境破壊を起こすこともしばしばありました。そこで魔族は彼らを正しく導くために、彼らを管理することにしたのです。」
「具体的にはどういう風に管理してるの?」
「大陸中の人間の国を大魔王国の属国とし、各国の上層部が横領を行なったり、高い税収で民を困窮させたりしないよう監視していますね。人間というのは利己的で狡猾ですからね、きちんと見ていないと、すぐ悪いことをするのです。」
魔族、めっちゃまとも。
でもでも、踏み潰したりするんでしょう?
「魔族にとって、人間ってどういう扱いなの?私をペットにするくらいだから、やっぱり動物扱いなのかな?」
「そうですね、そう思っている者も少なくないでしょう。人間社会で共に生活する魔族もいますし、逆に人間を嫌って、目に入り次第殺す者もいます。魔王様は道端の蟻程度にしか興味を持たれておりませんね。平均して言えば、動物扱いでしょうか。」
人間だって動物虐待する人とか、逆に保護する人とかいるもんね。本当に動物扱いなんだ。まあ猫になりたかった私としてはこの状況は大歓迎だ。だってただの愛玩動物に労働を強いる奴なんていないもん。これで私のニート生活は確約されたようなものだ。
「なるほど…すごく勉強になったよ。ありがとう、えーっと…」
「申し遅れました。私はリナ様の専属お世話係の、ミーアと申します。」
「ありがとう、ミーア。ミーアは私のお世話をしていて嫌じゃない?人間に頭を下げるのは嫌じゃないの?」
「普通の人間には頭を下げたりなど致しませんよ。リナ様だけです。魔王様のペットのお世話係に任命されるなどこれ以上の誉はありませんもの。」
「そういうものなんだ。」
昔の偉い人が飼っていた猫なんかはお猫様とか呼ばれてたんだっけ。それと同じようなものか。魔王が私をいかに可愛がってくれるかで周囲の扱いも変わるということか。これはますます愛されペット道を究めねば。
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