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ペットになります2
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「おはようございます。」
「んむ…」
朝目覚めると、目の前には魔王が…いなかった。今私の前にいるのは、猫耳のメイド。メイドは寝ぼけ眼の私をそっとベッドから抱き上げた。
「よく眠れましたか?」
「うん…」
「それはようございました。さあ、お顔を拭いて、髪を梳かしましょうね。」
顔を拭くと言いつつ、全身拭きだすメイド。そりゃあ全裸だもの。拭きやすいよね。
「さあ、こちらにお座りくださいね。」
大きなドレッサーの前に触らされる。目の前には大きな鏡。それに写るは黒髪の美幼女。誰だこれ。私だ。よくよく見れば、面影がないことも…ないか。別人だ。まあ異世界転生ではよくあることよ。特に慌てたりはしない。ブスになったのならともかく、文句なしに可愛いのだし。
あまり子供と関わりあいになることがなかったから、この顔の年齢はよく分からない。幼稚園生くらいかな…
毛艶の良い黒髪をスッスッとメイドが梳かしていく。
「さあ、準備ができましたよ。魔王様の元に参りましょうね。」
どうやら身嗜みが整ったらしい。全裸のままだけど。私はいったいいつになったら服を着れるんだ?もしかしてこの世界の人間は皆裸族なのだろうか。
メイドは私を抱き上げ、魔王の元に向かった。
「魔王様、連れてまいりました。」
「入れ。」
メイドは豪華で重そうな扉を片手で開けると、部屋の入り口に私を置いて去っていった。
部屋の中には魔王とサムエル。魔王は執務机に座り、書類仕事をしていたようだ。所在なさげに突っ立っている全裸の幼女にサムエルが優しく声をかけた。
「待っていましたよ。よく眠れましたか?そこのソファに座ってください。」
サムエルが指した方を見る。高そうなソファだ。服も着ていないような幼女が座っても良いのだろうか。私が迷っていると、サムエルが抱っこして座らせてくれた。全裸でも座っていいらしい。
「ありがとうございます。」
「いえ、あなたが座るには大きすぎましたね。」
私の向かいに魔王も腰掛ける。サムエルは魔王の後ろに控えた。
「さて、お前の処遇についてだが。」
「は、はい。」
なんだろう。不法侵入で牢に入れられる?それとも人間の国に送り返される?
「お前、私のペットになれ。」
「はへ」
アホ面を晒してフリーズする私に、魔王はもう一度繰り返した。
「お前、私のペットになれ。」
「ぺ、ペットですか…」
今回はなんとか言葉を返すことができた。それにしてもペットとは予想外だ。でも全裸が許されているこの状況は、たしかに動物扱いっぽい。魔族にとって人間なんて動物と一緒なんだろうか。
「えっと…」
「もう首輪も用意してある。」
首輪じゃなくて服を用意してくれ。首輪をつけた全裸の幼女とか犯罪臭しかしない。
「現在大魔王国の貴族間でペットを飼うのが流行っていましてね。臣下のペットをご覧になって羨ましくなった魔王様は他とは違うペットを探していたのです。」
「はあ…」
「人間をペットにしている者は他にいない。俺にふさわしい。」
「はあ…」
「これが首輪だ。付けろ。」
「はあ…って、ちょ、ちょっと待ってください。」
「なんだ。」
「その提案、断った場合はどうなるんですか?」
「ふむ…サムエル。」
「はい。王城に不法侵入したとして罰せられるか、子供だということで大目に見て人間の国に捨て置かれるか、ですね。」
「…ペットになった場合は…?」
「この大陸で一番尊いお方のペットとなるのです。それなりの待遇を約束しましょう。」
「ペットになります。」
「うむ。」
仕方がない。これは仕方がないことだよね?ペットになるなんて人間を捨てるようなものだけど、私自身を捨てられるよりはましだ。
それに私はいつも思っていた。金持ちの家の飼い猫になりたいと。高級な猫缶を食べ、日がな一日寝て過ごす。毎日毎日馬鹿みたいに働いてる私より余程身分が上だ。人間なんてやめて猫になりたい。
ペットになれば働かなくても暮らせるんだ。断る方がおかしい。
「ではこちらが首輪になります。」
サムエルが私の首に首輪を付ける。これで私は正式に魔王のペットになった。
「名はなんと言うのだったか。」
「恵理奈です。」
「ではリナと名付けよう。」
名付けるんかい!
「リナの為に部屋を用意しよう。王妃用の部屋が空いているな、そこを改装しろ。それまでは俺の部屋で過ごせ。欲しいものがあればなんでも用意させる。」
「ふわあ…」
いきなりのお姫様待遇。人間としての尊厳を捨てペットになって良かった。
「じゃあ服をください。」
「なんだと?ペットは服を嫌がると聞いたぞ。無理やり服を着せるのは虐待に近いとも。」
「本人が欲していたらその限りではないと思います。それに人間には毛皮がありませんから、服を着ないと風邪をひいてしまいます。」
「確かにそうですね。人間の子供の死亡率は大人に比べると非常に高い。まずいですね、早く温めないと死んでしまうかもしれません。」
「それは大変だ。リナ、こっちに来い。」
「はい。」
愛されペット道その一。ご主人様の言うことはよく聞く事。私はなんとか自力でソファを降りて魔王の元に向かった。トテトテと彼の膝元まで行くと、ひょいと持ち上げられた。
「俺が温めている間に早くリナの服を用意しろ。」
「はっただいま。」
風のように去っていくサムエル。温めるだけなら毛布とかくれれば良かったんだけどね。ご主人様の好意を無碍にするなんて愛されペット道に反する。私は大人しく魔王の腕の中に収まった。
「さて…」
魔王は私を抱いたまま執務机に移動し、椅子に座った。
「仕事をする。大人しくしてろ。」
「はい。」
それからしばらくは静寂が訪れた。魔王は何やら書類を読んでいる。覗いてみたが、読めなかった。話が通じるのだから文字も読めるかと思ったが、そううまくはいかないようだ。
キュルルル
可愛らしい音だ。前の私なら地響きみたいな音だったぞ。そういえばこちらに来てから何も食べていない。そりゃ腹も減る。
「何の音だ。」
「腹の虫です。」
「腹が減ったのか?」
「はい。」
「お前は何を食べるんだ?花の蜜か?」
「雑食です。肉も野菜も食べます。甘いものも好きです。」
「では用意させよう。」
魔王は机の横に置いてある小さなベルを揺らした。音がしないことに首を傾げていると、魔王が教えてくれた。
「獣人族にしか聞こえぬ音だ。」
「なるほど。」
犬笛みたいなものか。暫くすると、私を起こしに来たメイドが現れた。
「ご用でしょうか。」
「こいつに餌を。雑食だそうだ。」
「普通の人間用の食事でよろしいですか?」
「ああ。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
「んむ…」
朝目覚めると、目の前には魔王が…いなかった。今私の前にいるのは、猫耳のメイド。メイドは寝ぼけ眼の私をそっとベッドから抱き上げた。
「よく眠れましたか?」
「うん…」
「それはようございました。さあ、お顔を拭いて、髪を梳かしましょうね。」
顔を拭くと言いつつ、全身拭きだすメイド。そりゃあ全裸だもの。拭きやすいよね。
「さあ、こちらにお座りくださいね。」
大きなドレッサーの前に触らされる。目の前には大きな鏡。それに写るは黒髪の美幼女。誰だこれ。私だ。よくよく見れば、面影がないことも…ないか。別人だ。まあ異世界転生ではよくあることよ。特に慌てたりはしない。ブスになったのならともかく、文句なしに可愛いのだし。
あまり子供と関わりあいになることがなかったから、この顔の年齢はよく分からない。幼稚園生くらいかな…
毛艶の良い黒髪をスッスッとメイドが梳かしていく。
「さあ、準備ができましたよ。魔王様の元に参りましょうね。」
どうやら身嗜みが整ったらしい。全裸のままだけど。私はいったいいつになったら服を着れるんだ?もしかしてこの世界の人間は皆裸族なのだろうか。
メイドは私を抱き上げ、魔王の元に向かった。
「魔王様、連れてまいりました。」
「入れ。」
メイドは豪華で重そうな扉を片手で開けると、部屋の入り口に私を置いて去っていった。
部屋の中には魔王とサムエル。魔王は執務机に座り、書類仕事をしていたようだ。所在なさげに突っ立っている全裸の幼女にサムエルが優しく声をかけた。
「待っていましたよ。よく眠れましたか?そこのソファに座ってください。」
サムエルが指した方を見る。高そうなソファだ。服も着ていないような幼女が座っても良いのだろうか。私が迷っていると、サムエルが抱っこして座らせてくれた。全裸でも座っていいらしい。
「ありがとうございます。」
「いえ、あなたが座るには大きすぎましたね。」
私の向かいに魔王も腰掛ける。サムエルは魔王の後ろに控えた。
「さて、お前の処遇についてだが。」
「は、はい。」
なんだろう。不法侵入で牢に入れられる?それとも人間の国に送り返される?
「お前、私のペットになれ。」
「はへ」
アホ面を晒してフリーズする私に、魔王はもう一度繰り返した。
「お前、私のペットになれ。」
「ぺ、ペットですか…」
今回はなんとか言葉を返すことができた。それにしてもペットとは予想外だ。でも全裸が許されているこの状況は、たしかに動物扱いっぽい。魔族にとって人間なんて動物と一緒なんだろうか。
「えっと…」
「もう首輪も用意してある。」
首輪じゃなくて服を用意してくれ。首輪をつけた全裸の幼女とか犯罪臭しかしない。
「現在大魔王国の貴族間でペットを飼うのが流行っていましてね。臣下のペットをご覧になって羨ましくなった魔王様は他とは違うペットを探していたのです。」
「はあ…」
「人間をペットにしている者は他にいない。俺にふさわしい。」
「はあ…」
「これが首輪だ。付けろ。」
「はあ…って、ちょ、ちょっと待ってください。」
「なんだ。」
「その提案、断った場合はどうなるんですか?」
「ふむ…サムエル。」
「はい。王城に不法侵入したとして罰せられるか、子供だということで大目に見て人間の国に捨て置かれるか、ですね。」
「…ペットになった場合は…?」
「この大陸で一番尊いお方のペットとなるのです。それなりの待遇を約束しましょう。」
「ペットになります。」
「うむ。」
仕方がない。これは仕方がないことだよね?ペットになるなんて人間を捨てるようなものだけど、私自身を捨てられるよりはましだ。
それに私はいつも思っていた。金持ちの家の飼い猫になりたいと。高級な猫缶を食べ、日がな一日寝て過ごす。毎日毎日馬鹿みたいに働いてる私より余程身分が上だ。人間なんてやめて猫になりたい。
ペットになれば働かなくても暮らせるんだ。断る方がおかしい。
「ではこちらが首輪になります。」
サムエルが私の首に首輪を付ける。これで私は正式に魔王のペットになった。
「名はなんと言うのだったか。」
「恵理奈です。」
「ではリナと名付けよう。」
名付けるんかい!
「リナの為に部屋を用意しよう。王妃用の部屋が空いているな、そこを改装しろ。それまでは俺の部屋で過ごせ。欲しいものがあればなんでも用意させる。」
「ふわあ…」
いきなりのお姫様待遇。人間としての尊厳を捨てペットになって良かった。
「じゃあ服をください。」
「なんだと?ペットは服を嫌がると聞いたぞ。無理やり服を着せるのは虐待に近いとも。」
「本人が欲していたらその限りではないと思います。それに人間には毛皮がありませんから、服を着ないと風邪をひいてしまいます。」
「確かにそうですね。人間の子供の死亡率は大人に比べると非常に高い。まずいですね、早く温めないと死んでしまうかもしれません。」
「それは大変だ。リナ、こっちに来い。」
「はい。」
愛されペット道その一。ご主人様の言うことはよく聞く事。私はなんとか自力でソファを降りて魔王の元に向かった。トテトテと彼の膝元まで行くと、ひょいと持ち上げられた。
「俺が温めている間に早くリナの服を用意しろ。」
「はっただいま。」
風のように去っていくサムエル。温めるだけなら毛布とかくれれば良かったんだけどね。ご主人様の好意を無碍にするなんて愛されペット道に反する。私は大人しく魔王の腕の中に収まった。
「さて…」
魔王は私を抱いたまま執務机に移動し、椅子に座った。
「仕事をする。大人しくしてろ。」
「はい。」
それからしばらくは静寂が訪れた。魔王は何やら書類を読んでいる。覗いてみたが、読めなかった。話が通じるのだから文字も読めるかと思ったが、そううまくはいかないようだ。
キュルルル
可愛らしい音だ。前の私なら地響きみたいな音だったぞ。そういえばこちらに来てから何も食べていない。そりゃ腹も減る。
「何の音だ。」
「腹の虫です。」
「腹が減ったのか?」
「はい。」
「お前は何を食べるんだ?花の蜜か?」
「雑食です。肉も野菜も食べます。甘いものも好きです。」
「では用意させよう。」
魔王は机の横に置いてある小さなベルを揺らした。音がしないことに首を傾げていると、魔王が教えてくれた。
「獣人族にしか聞こえぬ音だ。」
「なるほど。」
犬笛みたいなものか。暫くすると、私を起こしに来たメイドが現れた。
「ご用でしょうか。」
「こいつに餌を。雑食だそうだ。」
「普通の人間用の食事でよろしいですか?」
「ああ。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
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