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ロドルグ伯爵6
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翌朝、香織達は門の前に成した列に並んでいた。
「今日は随分と混んでいるな。」
「なんでも検問が強化されたらしいよ。一人一人の顔と、馬車の中まで確認しているらしい。」
「白衣の天使を探しているのか?」
「ま、そうだろうね。」
1時間ほど並び、ようやく香織達の番となった。
「クレール商会です。」
サイモンが名乗ると、門の兵士達が目配せをしあった。
「それでは中を検めさせていただきます。」
兵士が三人がかりで三台の馬車の中を調べていく。同乗者の名前や所属を記録し、木箱の中まで確認していく。
「随分厳重なんですね。」
「領主様が新しい兵士を派遣して下さったんですが、どうにも厳しくて…正直ここまでする必要があるのかは疑問ですけどね。」
「まあ治安を守るという意味では良いんじゃないでしょうか。」
「そうですねえ。」
「お嬢ちゃん、待ちくたびれただろう。もう少しで終わるからな。後は君の名前を聞いて終わりだ。」
「は、はい。クレール商会で見習いをしているフローラです。」
「フローラ、と。はい、これで終わりだ。クレール商会さん、通っていいですよ。お待たせしました。」
「ご苦労様。」
トルソンの街を無事出発したクレール商会の馬車は、次の村に向けて走り出した。
「次はどんな所なんですか?」
「次はシバっていう村だよ。」
「名前があるんですね。大きい村なんですか?」
「いや、カオリがいた村より寂れてるかな。領主の街に近いから名前がついてるってだけだね。領の端って管理が甘いんだよね。視察にすら行かないし。」
「そういうものなんですか…」
「物資の補給とかもあるから領主のいるロドルグの街には寄らないといけないんだ。村を二つ挟んだ所にあるんだけど、そこを抜ければディアス侯爵領に入る。それまではフローラとして過ごしてくれる?治癒師の活動はできないんだけど…」
「はい、大丈夫です。」
「代わりと言ってはなんだけど、良かったらカオリの薬を露店で売らないかい?」
「薬ですか?」
「ああ、カオリは薬師としても優秀なんだろう?道中採取した薬草を使って薬を作って、それを安価で売ったらいいんじゃないかな。カオリの事だから病人がいたら放っておけないだろう?」
「ありがとうございます!」
ーーーーーーーーー
「よし、お昼作ります!」
「俺おにぎり!」
米の魅力にすっかり取り憑かれたエドワードが即座に手を挙げて主張する。
「ふふ、分かりました。じゃあ今日はおにぎりに合う豚汁を作ろうかな。」
香織は粉末出汁と水を大鍋に注いだ。厚めのいちょう切りにした大根と人参を鍋に入れ、沸騰したらネギと、レッドオークのバラ肉を薄切りにして入れていく。大根が柔らかくなるまで『圧力鍋』で煮て、最後に味噌と少しの醤油を混ぜ入れれば完成だ。
並列して炊いておいたご飯をて早くおにぎりにして、皆に配っていく。
「パンの人は荷台から取ってくださいね。」
「カオリ!梅干しもくれ。」
「えー、あれしょっぱいから、一個だけですよ。あまり食べると体に悪いですよ。はい。」
「分かった!ありがとう!」
エドワードは大きな手で小さな梅干しをひとつ受け取り、ホクホクと席に戻っていった。
「さ、私も食べよう。」
香織は器を持って『夜明けの星』の元に向かった。警戒すべきキース達はもういないが、香織はいつもの習慣でつい彼らの元に行ってしまうのだった。
「豚汁どうですか?」
「美味い。おにぎりに合うな。」
「食べ終わったら暫く休憩ですよね?薬草採取して来ていですか?」
「薬草採取?薬でも作るのか?」
「サイモンさんが治癒師としては活動できないけど、薬を売るのは良いって。だから道中採取した物で作ろうかと思いまして。」
「なるほど。では俺も同行しよう。」
「ありがとうございます。」
ーーーーーーーーー
(アイ~。ポーション、熱冷まし、解毒薬の材料の場所をマップ表示してー。)
『かしこまりました。』
アイの助けを借り、迷う事なく薬草を見つけ出す香織を、アレクシスは感心して見ていた。
「すごいな…流石薬師と言ったところか。まるでどこに何があるか全て把握しているような手早さだな。」
「あはは…見つけるの、得意なんですよ。」
人の立ち入りが少ないその草原は薬草も手付かずで、香織はわずか10分足らずで充分な量の薬草を採取することができた。
「こんなものかな。また明日の昼に採取しに行っても良いですか?」
「ああ、勿論だ。俺も見回りの時に目についた物を採ってこよう。」
「ありがとうございます。」
「む…ホーンラビットだ。狩っておくか。」
アレクシスは気配を消して三匹のホーンラビットに背後から近づいた。カチャリと鞘から剣を抜く微かな音に、魔物達は敏感に反応する。耳を立て立ち上がったその瞬間、アレクシスが横に薙いだ大剣は、三匹のホーンラビットの首を同時に切り落とした。
「わあ、すごいです!」
「流石にな。小型の魔物相手に遅れをとることはない。カオリだってこれくらい造作もない事だろう?」
「私はかまいたちを放つしか能がないですから…細かい芸当は苦手で…」
「そうなのか?意外だな。その他の事はあんなに器用に何でもこなすのに。」
「敵を前にすると緊張しちゃって、お決まりの攻撃しか出せなくなっちゃうんです。今まではそれで何とかなってきましたけど…そろそろ大きな敵にも慣れないとですね。」
「ふむ…今度一緒に狩に出るか。単独だから緊張するんだ。仲間がいれば落ち着いて戦えるかもしれない。」
「良いんですか?」
「ああ。カオリの事だ、足手纏いになどならんだろう。」
「ありがとうございます!」
「今日は随分と混んでいるな。」
「なんでも検問が強化されたらしいよ。一人一人の顔と、馬車の中まで確認しているらしい。」
「白衣の天使を探しているのか?」
「ま、そうだろうね。」
1時間ほど並び、ようやく香織達の番となった。
「クレール商会です。」
サイモンが名乗ると、門の兵士達が目配せをしあった。
「それでは中を検めさせていただきます。」
兵士が三人がかりで三台の馬車の中を調べていく。同乗者の名前や所属を記録し、木箱の中まで確認していく。
「随分厳重なんですね。」
「領主様が新しい兵士を派遣して下さったんですが、どうにも厳しくて…正直ここまでする必要があるのかは疑問ですけどね。」
「まあ治安を守るという意味では良いんじゃないでしょうか。」
「そうですねえ。」
「お嬢ちゃん、待ちくたびれただろう。もう少しで終わるからな。後は君の名前を聞いて終わりだ。」
「は、はい。クレール商会で見習いをしているフローラです。」
「フローラ、と。はい、これで終わりだ。クレール商会さん、通っていいですよ。お待たせしました。」
「ご苦労様。」
トルソンの街を無事出発したクレール商会の馬車は、次の村に向けて走り出した。
「次はどんな所なんですか?」
「次はシバっていう村だよ。」
「名前があるんですね。大きい村なんですか?」
「いや、カオリがいた村より寂れてるかな。領主の街に近いから名前がついてるってだけだね。領の端って管理が甘いんだよね。視察にすら行かないし。」
「そういうものなんですか…」
「物資の補給とかもあるから領主のいるロドルグの街には寄らないといけないんだ。村を二つ挟んだ所にあるんだけど、そこを抜ければディアス侯爵領に入る。それまではフローラとして過ごしてくれる?治癒師の活動はできないんだけど…」
「はい、大丈夫です。」
「代わりと言ってはなんだけど、良かったらカオリの薬を露店で売らないかい?」
「薬ですか?」
「ああ、カオリは薬師としても優秀なんだろう?道中採取した薬草を使って薬を作って、それを安価で売ったらいいんじゃないかな。カオリの事だから病人がいたら放っておけないだろう?」
「ありがとうございます!」
ーーーーーーーーー
「よし、お昼作ります!」
「俺おにぎり!」
米の魅力にすっかり取り憑かれたエドワードが即座に手を挙げて主張する。
「ふふ、分かりました。じゃあ今日はおにぎりに合う豚汁を作ろうかな。」
香織は粉末出汁と水を大鍋に注いだ。厚めのいちょう切りにした大根と人参を鍋に入れ、沸騰したらネギと、レッドオークのバラ肉を薄切りにして入れていく。大根が柔らかくなるまで『圧力鍋』で煮て、最後に味噌と少しの醤油を混ぜ入れれば完成だ。
並列して炊いておいたご飯をて早くおにぎりにして、皆に配っていく。
「パンの人は荷台から取ってくださいね。」
「カオリ!梅干しもくれ。」
「えー、あれしょっぱいから、一個だけですよ。あまり食べると体に悪いですよ。はい。」
「分かった!ありがとう!」
エドワードは大きな手で小さな梅干しをひとつ受け取り、ホクホクと席に戻っていった。
「さ、私も食べよう。」
香織は器を持って『夜明けの星』の元に向かった。警戒すべきキース達はもういないが、香織はいつもの習慣でつい彼らの元に行ってしまうのだった。
「豚汁どうですか?」
「美味い。おにぎりに合うな。」
「食べ終わったら暫く休憩ですよね?薬草採取して来ていですか?」
「薬草採取?薬でも作るのか?」
「サイモンさんが治癒師としては活動できないけど、薬を売るのは良いって。だから道中採取した物で作ろうかと思いまして。」
「なるほど。では俺も同行しよう。」
「ありがとうございます。」
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(アイ~。ポーション、熱冷まし、解毒薬の材料の場所をマップ表示してー。)
『かしこまりました。』
アイの助けを借り、迷う事なく薬草を見つけ出す香織を、アレクシスは感心して見ていた。
「すごいな…流石薬師と言ったところか。まるでどこに何があるか全て把握しているような手早さだな。」
「あはは…見つけるの、得意なんですよ。」
人の立ち入りが少ないその草原は薬草も手付かずで、香織はわずか10分足らずで充分な量の薬草を採取することができた。
「こんなものかな。また明日の昼に採取しに行っても良いですか?」
「ああ、勿論だ。俺も見回りの時に目についた物を採ってこよう。」
「ありがとうございます。」
「む…ホーンラビットだ。狩っておくか。」
アレクシスは気配を消して三匹のホーンラビットに背後から近づいた。カチャリと鞘から剣を抜く微かな音に、魔物達は敏感に反応する。耳を立て立ち上がったその瞬間、アレクシスが横に薙いだ大剣は、三匹のホーンラビットの首を同時に切り落とした。
「わあ、すごいです!」
「流石にな。小型の魔物相手に遅れをとることはない。カオリだってこれくらい造作もない事だろう?」
「私はかまいたちを放つしか能がないですから…細かい芸当は苦手で…」
「そうなのか?意外だな。その他の事はあんなに器用に何でもこなすのに。」
「敵を前にすると緊張しちゃって、お決まりの攻撃しか出せなくなっちゃうんです。今まではそれで何とかなってきましたけど…そろそろ大きな敵にも慣れないとですね。」
「ふむ…今度一緒に狩に出るか。単独だから緊張するんだ。仲間がいれば落ち着いて戦えるかもしれない。」
「良いんですか?」
「ああ。カオリの事だ、足手纏いになどならんだろう。」
「ありがとうございます!」
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