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白衣の治癒師2

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「じゃじゃーん!」
「わあ、私の拙いデザイン画ですごい再現度だよ!」
「へへ、本職のお針子さん達には叶わないけどね。趣味で服作ったりしてるんだ。ちょっと着てみてよ!」
「うん!」

香織は渡されたロングジャケットを羽織ってみた。

「うん、イメージ通りだよ。ありがとうリッチ!」
「どういたしまして!中の服ともマッチしてるね。キツいところとかない?」
「大丈夫みたい。」
「それにしてもあんまり見ない形だよね。薄手で防寒着ってわけでもないし。女性物でロングジャケットっていうのも珍しいよ。」
「これ着てたら特徴になるかな?」
「なるよ!うーん、これなら「白衣の治癒師」ってところかな?」

香織が頼んだのは、白衣だった。幼い頃から慣れ親しみ、自身も病院実習の時に身につけた身近な仕事着だ。当時は何の感情も湧かなかったが、医師としての夢を絶たれた今、清潔感のあるあの白い布が猛烈に恋しかった。治癒師に決まった服装はない。強いて言うなら協会所属の治癒師が来ている法衣だろうか。とにかくこの世界に、白衣という物は存在しなかった。

「どうかな、できる女っぽい?」
「うん!すごく仕事できそう!」
「えへへ…ありがとう、リッチ。自分がこんなに変われるなんて思わなかったよ。」
「どういたしまして!素材がいいんだから、もっとお洒落を楽しまないと損だよ。女は化粧と服装で何にだってなれちゃうんだから!身長なんてハンデにならないよ。」
「うん!自分でも色々試してみるね。今日は本当にありがとう。このまま着て行っていい?」
「いいよー!使った服は若旦那に報告しておくから!」
「ありがとう。あと一週間くらいはこの街にいるみたいだから、そのうち一緒にご飯食べに行こう。」
「いいね!二階に泊まるんでしょ?私もそこに住んでるから、すぐ会えるよ。」
「じゃあ明日の準備があるからそろそろ戻るね。」
「うん、またね!」

リッチと別れ、香織は二階に割り当てられた自分の部屋に戻った。扉の内側についていた姿見を前にくるくると回ってみる。

「どう、似合う?化粧濃すぎないかな?」
『大変お似合いですよ。こちらの世界ではハッキリとした化粧が流行っているようですので、特に浮く事もないと思います。』
「よし、これで明日からお仕事頑張るぞ!」
『頑張ってください。』

その時、部屋の扉が突然ノックされ、扉の前で自分の姿を堪能していた香織は驚いて飛び上がった。

「ひゃ!」
「す、すまない。驚かせたか?俺だ、アレクシスだ。明日の護衛のことで相談があるんだが…」
「あ、す、すみません。今開けますね。」

呼吸を整え、香織は扉を開けた。

「ああ、すまない。明日の時間の事で…」

アレクシスは香織の姿を見ると、ピタリと止まった。

「…部屋を間違えたようだ。申し訳ない。」

パタン。
そのまま扉の向こうに消えていくアレクシスを前に、香織は慌てて扉を開いて彼を呼び止めた。

「ち、ちょっと待ってください。合ってます、合ってますよ!」
「…カオリ、か?」
「そうですよ、ちょっと明日のためにイメチェンしてまして。そんなに別人ですか?」
「あ、ああ…誰かと思ったぞ。…焦った。見知らぬ女性の部屋に俺のような顔の男が乗り込んだら事件になりかねないからな。」
「あはは…」

確かにシャレにならないだろうなとアレクシスの強面を見て香織は苦笑した。

「あ、それで、明日のことでしたっけ。」
「ああ。部屋に入るのもアレだからな、下の共同リビングに行かないか?エド達もいる。」
「いいですね。」

香織がアレクシスと共に一階に降りると、リビングでは『夜明けの星』の面々がそれぞれに寛いでいた。皆アレクシスが戻ったのを彼の足音で知ると、何気なく振り向き、そして固まった。

「ア、アレクが女連れてるぞ…」
「一体なにが起きているんだ…天変地異か…?」
「お前、カオリ呼びに行って女連れて帰ってきてんじゃねーよ。」
「お前ら…」
「…カオリ。」

どうやらジェイスだけは香織の正体に気がついたようだ。ジェイスの発言に、思わず香織をまじまじと見つめるエドワードとカイル。

「え…?カ、カオリなのか…?」
「そうですけど…」
「一体なにがあったらそうなるんだ?魔法でも使ったのか?」
「まあある意味魔法ですけど。ちょっとお化粧しただけじゃないですか。そんなに変わりました?」
「「別人だ。」」

香織としては確かに印象は変わったが、元の顔の作りは同じなのだから別人に見えるという程ではないと思っていた。しかしミドや彼らの反応を見るに、どうもかなり変わって見えるようだ。

「何歳くらいに見えます?治癒師として舐められないように大人っぽくしてもらったんですけど。」
「そうだな…二十歳そこそこか…」
「本当ですか!?じゃあ少なくとも子供だと言われることはないですね!」
「ないが…その格好もまたいらぬトラブルを生みそうだな…」
「アレクシスさんが護衛してくれるのなら大丈夫ですよ。」
「む…気を引き締めよう。」

それからアレクシスと時間の相談をし、治癒師の仕事は明日は午前10時から午後6時までやってみて、客足を見てその後の営業時間を決めるということになった。

「冒険者は泊まりでもない限り、日が沈む前に依頼達成の報告をするのが常だ。日が高いうちはあまり客も来ないだろう。」
「なるほど。じゃあ明日やってみて、全然来ないようなら午後から始めた方が効率が良いですね。」
「そうだな。」
「明日は俺もなんも予定ねーし、護衛してやるよ。」
「エドワードさん、いいんですか?」
「ああ。お前その格好だと、100%トラブルに巻き込まれるぜ。いつもみたいに子供っぽくしてた方が安全だと思うんだけどな。」
「でもそれだとお客さん来ないんじゃないですか?それに私、名の売れた治癒師を目指すことにしたんです。仕事の時はいつもこの白衣を着ていれば特徴になるかと思って!」
「またあぶねー目標かかげやがって…」
「そうですかね?」
「いいか?貴族の目には留まらないようにしろよ。変に目立つなよ。拐われて奴隷にされても知らねえぞ!」
「ええ…」
「あまり脅すな、エド。」
「だってこいつ全然警戒心ねーから!」
「だから俺たちで守ってやってるんだろう。」
「な、なんかすいません…?気をつけます、ほんと…」
「本当気をつけろよ?あんま一人になるなよ?お前どっか抜けてんだからよ。」
「気をつけます!因みに悪い人に襲われたとして、魔法で撃退するのは法的にアリですか?」
「正当防衛が成り立つぞ。相手が剣を抜くなどして明確な殺意が窺われる場合は殺しても罪に問われることはない。少し審議に時間がかかるがな…」
「殺すつもりはないんですけど…反撃が許されてるなら、まだ少しは安心ですね。」
「気い緩めんなよ!」
「分かってますよー。」

保護者としては、アレクシスよりエドワードの方が心配性のようだった。
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