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トルソンの街4
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「ここが商業ギルドだよ。」
案内されたのは冒険者ギルドとは真逆の雰囲気の建物だった。石造りなのは同じだが、全体が清潔感のある白に塗られており、汚れひとつない。窓一つ一つをとってもお洒落な格子がはめ込まれており、デザイン性を損なうことなく防犯性を高めている。中に入ると、広い受付。受付嬢が完璧な笑顔で香織達を迎えた。
「いらっしゃいませ。商業ギルドトルソン支部へようこそ。どのようなご用件でしょうか。」
「商品登録の手続きをお願いしたいんだけど。」
「かしこまりました。別室にご案内致しますので、そちらにお掛けになって少々お待ち下さい。」
今回の個室対応もサイモンの力なのだろうか。サイモンは香織と目が合うと、パチリとウインクした。
「お待たせいたしました。ご案内致します。」
二階の廊下の最奥。案内された部屋はギルドマスターのものだった。冒険者ギルドと違い、ソファやテーブル、壁にかけられた調度品なども高級感がある。執務机に座って仕事をしていた老婆は、香織達を見てニヤリと笑った。
「ようこそ、商業ギルドへ。私はギルドマスターのゼア。アンタ達を歓迎するよ。」
ソファに促され軽く自己紹介を済ませた後、サイモンは早速本題に入る。
「カオリは中々面白い商品を持っていましてね。新しく登録しようと思っているのです。」
「ふん…じゃあ見せてもらおうかね。」
「は、はい。」
香織はテーブルの上に手をかざし、二種類のセッケン草を取り出した。
「これは、セッケン草かい?確かにこの辺では珍しいが普通に出回ってるけどねえ。」
「こちらは従来のセッケン草です。寒い地域で育つので、この辺りでは栽培できないのですよね?」
「ああ。ではこっちは?」
「こちらは温暖な地域に適応したセッケン草です。」
「ふむ…」
ゼアはセッケン草をじっくり見比べた。
「こちらの方が葉が少し小さい、か?何にせよ肉眼では大した違いはわからないね。少し失礼するよ。」
ゼアは懐からモノクルを取り出し、右目に装着した。
「鑑定の魔道具だね。凄く貴重なやつだ。」
「そうなんだすね。」
ヒソヒソ話をする二人を他所に、セッケン草を睨みつけるゼア。鑑定が終わったのか、しばらくするとゼアはモノクルを外して一息ついた。
「ふう…この魔道具は情報量が多すぎて疲れるよ。確かに新種のようだ。名前がついていなかったよ。」
「名前ですか?同じセッケン草じゃないんですか?」
「新種だからね。新種は見つけた者が名付けるんだ。なんか考えとくれ。」
「ええ…?うーん…」
香織はうんうんと唸った。正直ネーミングセンスに自信はなかった。
「…じゃあ、ミナミセッケン草で…」
「ふん、なんの捻りもセンスもない名前だねえ。だがまあ、分かりやすくて良いじゃないか。じゃあそれで商品登録しておくよ。販売は許可制にするかい?」
「許可制?」
「なんだい、そんなことも知らないのか。許可制にすれば言葉通りアンタが許可を与えたものにしか販売の権利が与えられない。利益もギルドを通してアンタに入るよ。その代わり、商品の広まりは遅いね。あとは三年経てば誰でも自由に売れるようになる。逆に無許可制にすれば誰でもギルドを通さず販売する事ができる。商品の広まりは早いが、利益は入らない。」
「それって無許可を選ぶ人はいるんですか?」
「それが結構いるんだよ。自分の名前を広める意味もあるからね。例えばだが、新種のセッケン草を「カオリ草」と名付けて無許可で広めれば、多分あっという間にお前さんの名前は全国に広がる。それに最初にその種を高額な値段で売り付けられれば、充分な富も得られるってわけさ。許可制で細々と売るよりも儲かることもある。」
「なるほど…」
「それでどうするんだい?」
「うーん…」
(アイ~。)
『なんでしょう。』
(アイはどっちがいいと思う?)
『どちらの方が金銭的に得をするかという意味でしたら、許可制の方だと思います。サイモンはミナミセッケン草を契約農家で栽培し、大々的に売り出すと言っていました。大商会の力を使えば、かなりの売り上げが期待できます。植物というのは栽培すれば増やすことができますから、種を高額で売ると言っても少量となるでしょう。大した利益は期待できません。長期的に見るなら許可制の方が得です。』
(ありがとう!)
「許可制にします。」
「ま、クレール商会と手を組むならその方が良いね。まがい物が出回る心配もないし。じゃあ、登録するよ。」
ゼアは魔道具の板を操作して商品登録を行った。この魔道具はタブレット端末のようなもので、魔力回線を使って全国の商業ギルドと情報を共有できる仕組みになっている。商品の登録を終えたゼアは、板を戻し再び香織に向き直った。
「さて、商品はこれだけかい?」
「あ、もう一つあるんですけど。」
「また新種の植物かい?出してみな。」
香織は滑車を取り出し、机に置いた。
「なんだいこれは、車輪かい?」
「これは滑車と言います。井戸の汲み上げ作業を楽にするための道具です。」
「ほう…どうやって使うのか、説明しておくれ。」
香織は紙とペンを借り、図を描きながら説明した。ゼアもサイモンも、定滑車の説明はすんなり理解できたようだが、動滑車の方はいまいち納得できていないようだった。
「本当に力が半減するのかい?ちょっと信じられないねえ…」
「うーん…カオリが嘘を言うことはないとは思うけどね…」
「どこかで実演できたらいいんですけど…」
「じゃあうちの裏手の井戸に設置してみるか。」
「あ、それでお願いします。」
一同は商業ギルドの裏庭に向かった。
商業ギルドはコの字型の建物で、建物の影に隠れるように裏庭が設置されていた。井戸や洗い場が客人の目につかないよう配慮されているのだろう。
「この井戸を使っとくれ。」
「はい。」
(角材を縦に四等分したものを五本…後はロープかな?)
香織は収納魔法から資材を取り出した。それをみたゼアがニヤリと笑った。
「良い容量だ。馬車要らずじゃないか。利用されないよう、せいぜい気をつけるんだね。」
「気を付けます。」
案内されたのは冒険者ギルドとは真逆の雰囲気の建物だった。石造りなのは同じだが、全体が清潔感のある白に塗られており、汚れひとつない。窓一つ一つをとってもお洒落な格子がはめ込まれており、デザイン性を損なうことなく防犯性を高めている。中に入ると、広い受付。受付嬢が完璧な笑顔で香織達を迎えた。
「いらっしゃいませ。商業ギルドトルソン支部へようこそ。どのようなご用件でしょうか。」
「商品登録の手続きをお願いしたいんだけど。」
「かしこまりました。別室にご案内致しますので、そちらにお掛けになって少々お待ち下さい。」
今回の個室対応もサイモンの力なのだろうか。サイモンは香織と目が合うと、パチリとウインクした。
「お待たせいたしました。ご案内致します。」
二階の廊下の最奥。案内された部屋はギルドマスターのものだった。冒険者ギルドと違い、ソファやテーブル、壁にかけられた調度品なども高級感がある。執務机に座って仕事をしていた老婆は、香織達を見てニヤリと笑った。
「ようこそ、商業ギルドへ。私はギルドマスターのゼア。アンタ達を歓迎するよ。」
ソファに促され軽く自己紹介を済ませた後、サイモンは早速本題に入る。
「カオリは中々面白い商品を持っていましてね。新しく登録しようと思っているのです。」
「ふん…じゃあ見せてもらおうかね。」
「は、はい。」
香織はテーブルの上に手をかざし、二種類のセッケン草を取り出した。
「これは、セッケン草かい?確かにこの辺では珍しいが普通に出回ってるけどねえ。」
「こちらは従来のセッケン草です。寒い地域で育つので、この辺りでは栽培できないのですよね?」
「ああ。ではこっちは?」
「こちらは温暖な地域に適応したセッケン草です。」
「ふむ…」
ゼアはセッケン草をじっくり見比べた。
「こちらの方が葉が少し小さい、か?何にせよ肉眼では大した違いはわからないね。少し失礼するよ。」
ゼアは懐からモノクルを取り出し、右目に装着した。
「鑑定の魔道具だね。凄く貴重なやつだ。」
「そうなんだすね。」
ヒソヒソ話をする二人を他所に、セッケン草を睨みつけるゼア。鑑定が終わったのか、しばらくするとゼアはモノクルを外して一息ついた。
「ふう…この魔道具は情報量が多すぎて疲れるよ。確かに新種のようだ。名前がついていなかったよ。」
「名前ですか?同じセッケン草じゃないんですか?」
「新種だからね。新種は見つけた者が名付けるんだ。なんか考えとくれ。」
「ええ…?うーん…」
香織はうんうんと唸った。正直ネーミングセンスに自信はなかった。
「…じゃあ、ミナミセッケン草で…」
「ふん、なんの捻りもセンスもない名前だねえ。だがまあ、分かりやすくて良いじゃないか。じゃあそれで商品登録しておくよ。販売は許可制にするかい?」
「許可制?」
「なんだい、そんなことも知らないのか。許可制にすれば言葉通りアンタが許可を与えたものにしか販売の権利が与えられない。利益もギルドを通してアンタに入るよ。その代わり、商品の広まりは遅いね。あとは三年経てば誰でも自由に売れるようになる。逆に無許可制にすれば誰でもギルドを通さず販売する事ができる。商品の広まりは早いが、利益は入らない。」
「それって無許可を選ぶ人はいるんですか?」
「それが結構いるんだよ。自分の名前を広める意味もあるからね。例えばだが、新種のセッケン草を「カオリ草」と名付けて無許可で広めれば、多分あっという間にお前さんの名前は全国に広がる。それに最初にその種を高額な値段で売り付けられれば、充分な富も得られるってわけさ。許可制で細々と売るよりも儲かることもある。」
「なるほど…」
「それでどうするんだい?」
「うーん…」
(アイ~。)
『なんでしょう。』
(アイはどっちがいいと思う?)
『どちらの方が金銭的に得をするかという意味でしたら、許可制の方だと思います。サイモンはミナミセッケン草を契約農家で栽培し、大々的に売り出すと言っていました。大商会の力を使えば、かなりの売り上げが期待できます。植物というのは栽培すれば増やすことができますから、種を高額で売ると言っても少量となるでしょう。大した利益は期待できません。長期的に見るなら許可制の方が得です。』
(ありがとう!)
「許可制にします。」
「ま、クレール商会と手を組むならその方が良いね。まがい物が出回る心配もないし。じゃあ、登録するよ。」
ゼアは魔道具の板を操作して商品登録を行った。この魔道具はタブレット端末のようなもので、魔力回線を使って全国の商業ギルドと情報を共有できる仕組みになっている。商品の登録を終えたゼアは、板を戻し再び香織に向き直った。
「さて、商品はこれだけかい?」
「あ、もう一つあるんですけど。」
「また新種の植物かい?出してみな。」
香織は滑車を取り出し、机に置いた。
「なんだいこれは、車輪かい?」
「これは滑車と言います。井戸の汲み上げ作業を楽にするための道具です。」
「ほう…どうやって使うのか、説明しておくれ。」
香織は紙とペンを借り、図を描きながら説明した。ゼアもサイモンも、定滑車の説明はすんなり理解できたようだが、動滑車の方はいまいち納得できていないようだった。
「本当に力が半減するのかい?ちょっと信じられないねえ…」
「うーん…カオリが嘘を言うことはないとは思うけどね…」
「どこかで実演できたらいいんですけど…」
「じゃあうちの裏手の井戸に設置してみるか。」
「あ、それでお願いします。」
一同は商業ギルドの裏庭に向かった。
商業ギルドはコの字型の建物で、建物の影に隠れるように裏庭が設置されていた。井戸や洗い場が客人の目につかないよう配慮されているのだろう。
「この井戸を使っとくれ。」
「はい。」
(角材を縦に四等分したものを五本…後はロープかな?)
香織は収納魔法から資材を取り出した。それをみたゼアがニヤリと笑った。
「良い容量だ。馬車要らずじゃないか。利用されないよう、せいぜい気をつけるんだね。」
「気を付けます。」
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