53 / 124
旅立11
しおりを挟む
香織はエドワードの隣に座り、すでに飲み干されていたスープの器を覗き込んだ。
「スープ、お味はどうでした?」
「美味かったぞ!でも骨のスープの方が美味かったな。」
「じゃあお昼楽しみにしていてくださいね!」
香織もパンをちぎってスープに浸し、口に入れた。牛乳の優しい味が空っぽの胃に染みる。具材も柔らかく、キャベツはトロトロだ。熱々のスープを火傷しないように慎重に飲んでいると、『ドラゴンスレイヤー』のテントの入口が開かれた。
「キース。起きたか。どうだい、少しは落ち着いた?」
「ああ…なんとか。俺は…」
「昨晩は錯乱していたからジェイスが眠らせたんだ。まずは食事をして、それから少し話をしよう。ジミーとケリーも起こしてくれるかい?」
「ああ…少し待ってろ。」
キースがテントに入りしばらくすると、ジミーとケリーも気怠そうに起きてきた。昨晩のことを思い出した彼らは、香織の姿を見つけると顔色を悪くし、サッと目を逸らした。
精神的に疲弊はしているものの、食欲はきちんとあるようで、キース達はスープとパンをあっという間に平らげた。
それを見守っていたサイモンが口を開いた。
「調子はもう良さそうだね。じゃあ少し馬車の中で話をしようか。カオリも同席してくれるかい?大事な話なんだ。」
「あ、はい。」
「い、嫌だ!あいつが一緒なら俺は応じない。」
「そんな事言わないでくれ。君に拒否権はないんだ。これは命令だからね。」
「ぼ、僕も嫌だ!サイモンだけなら…」
「さあ、早く入るんだ。君たちは契約違反を犯したんだから、被害者と共に話を聞くのは当然だろう?あまり我が儘を言うようなら、君達をここに置いて行くしかないけど?」
「くっ…」
彼らは渋々馬車に乗り込んだ。サイモンと香織も後に続く。
「さて、まずはカオリから話を聞かせてもらえるかい?無理しなくていいからね。」
「は、はい。えっと…トイレの帰りにキースさんに遭遇して、野営地まで送ってもらう途中で押し倒されました。馬乗りのまま腕を捻られ、マントも剥ぎ取られました。その後は気絶してしまったのか、次に気がついたら野営地に寝かされていました。」
「そうか…怖かっただろう。話してくれてありがとう。」
「いえ…」
「な、何言ってんだよ…!お前、お前が…っ、ギャアアア!!痛い!いだい!!!」
「キース、またか…これでは話もできない。カオリ頼めるかい?」
「は、はい。『鎮静』」
「い、いたい、いたい…」
「キース、落ち着いたか?あの夜何があったんだ?」
「俺は…俺は、何も知らない、俺は…痛い、痛いんだ。話そうとすると、玉が…」
「ケリーとジミーは…」
「ひぃ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!だから、痛くしないで!」
「話にならないな…うーん、まるでカオリに怯えているような…」
「え?わ、私ですか?」
(どうしようー!流石にここまで怯えられたら犯人は私ですって言ってるようなものだよ!)
『お任せください。今から私の言うことをそのまま復唱してください。』
(う、うん。)
「えっと…彼らは何か幻覚を見たのではないでしょうか…私は確かに魔法の腕には自信がありますが、彼らほどの冒険者を3人相手にして勝てる自信はありません。…あと、手口も意味わからないと言いますか…」
「そうだよねえ。キース達はその実力があるから護衛に雇ったんだし。カオリが一人で勝てる相手ではないと思うんだ。」
「あ、あれが幻覚だったと言うのですか!?私達は確かにっ、アアアァア!!!」
「えっと…なんかすいません、『鎮静』」
「いた、いたい…痛い…」
鎮静をかけても鎮痛ではないから痛みが消えることはない。キースもケリーも、叫ぶことで痛みを逃すことも出来ず、取り乱し気絶することも叶わず、ただただその痛みに耐えていた。二人の惨劇を間近で見ていたジミーが、怯えた眼のまま口を開いた。
「ぼ、僕達…僕達、本当に幻覚を見たのかも…ねえ、そうなんでしょう?だって僕達がカオリ一人に負けるわけないもん。」
「そうですね、キースさんが一人でも抵抗できませんでしたから。」
「そ、そうだよね…だとしたら、僕達は魔物かなにかに襲われたって事?」
「誰もその姿を目撃してませんが、その可能性が高いのではと皆さん言っていました。」
「そ、そう…悪いけど、僕達もその姿は見てないよ。きっとカオリの姿を借りた魔物だったんだ…」
「仲間の幻覚を見せて攻撃する魔物…かなりの脅威だね。新種の魔物だとするなら、トルソンの街に着いたらギルドに報告する必要があるね…」
「ぼ、僕達、ちゃんと証言するよ。」
『どうやらジミーは痛みのカラクリに気がついているようですね。』
(じゃあジミーに任せておけば一安心かな。)
「さて、君達の身に起きた悲劇には男として同情するけど、カオリを襲った事はまた別問題だ。幸い未遂で終わったけど、僕の取引相手に手を出した事に変わりはない。契約違反だ。それ以前に犯罪だし。『ドラゴンスレイヤー』はトルソンの街で解雇する。」
「う、うん。分かったよ。」
「話は以上だ。もう戻って良いよ。出発までにはまだ少し時間があるから、それまで休むと良い。」
「うん…ほら、キース、ケリー、行くよ。」
「痛い、歩くと響く…」
「テントで寝てて良いから!とにかく早く出るよ!」
「痛いんですが…」
ジミーはキースとケリーを馬車から引きずり下ろしてテントに帰っていった。
「…ふう。」
ジミー達が退室したのを見て、香織は脱力した。
「悪かったね、わざわざ同席してもらって。」
「いえ、必要な事でしたから…大丈夫です。あの、護衛減っちゃいましたけどこれからどうするんですか?」
「うーん、トルソンの街で募集してみるけど、決まるかな…キース達の二の舞は避けたいから人柄も見たいけど知らない街の冒険者だからなあ、人となりもわからないしね。最悪、今のメンバーで王都に帰る事になるかもしれない。」
「えっと、それ危なくないですか?」
「馬車が3台もあると3パーティは必要なんだけど…まあ仕方がないよね。」
「そうですか…」
「スープ、お味はどうでした?」
「美味かったぞ!でも骨のスープの方が美味かったな。」
「じゃあお昼楽しみにしていてくださいね!」
香織もパンをちぎってスープに浸し、口に入れた。牛乳の優しい味が空っぽの胃に染みる。具材も柔らかく、キャベツはトロトロだ。熱々のスープを火傷しないように慎重に飲んでいると、『ドラゴンスレイヤー』のテントの入口が開かれた。
「キース。起きたか。どうだい、少しは落ち着いた?」
「ああ…なんとか。俺は…」
「昨晩は錯乱していたからジェイスが眠らせたんだ。まずは食事をして、それから少し話をしよう。ジミーとケリーも起こしてくれるかい?」
「ああ…少し待ってろ。」
キースがテントに入りしばらくすると、ジミーとケリーも気怠そうに起きてきた。昨晩のことを思い出した彼らは、香織の姿を見つけると顔色を悪くし、サッと目を逸らした。
精神的に疲弊はしているものの、食欲はきちんとあるようで、キース達はスープとパンをあっという間に平らげた。
それを見守っていたサイモンが口を開いた。
「調子はもう良さそうだね。じゃあ少し馬車の中で話をしようか。カオリも同席してくれるかい?大事な話なんだ。」
「あ、はい。」
「い、嫌だ!あいつが一緒なら俺は応じない。」
「そんな事言わないでくれ。君に拒否権はないんだ。これは命令だからね。」
「ぼ、僕も嫌だ!サイモンだけなら…」
「さあ、早く入るんだ。君たちは契約違反を犯したんだから、被害者と共に話を聞くのは当然だろう?あまり我が儘を言うようなら、君達をここに置いて行くしかないけど?」
「くっ…」
彼らは渋々馬車に乗り込んだ。サイモンと香織も後に続く。
「さて、まずはカオリから話を聞かせてもらえるかい?無理しなくていいからね。」
「は、はい。えっと…トイレの帰りにキースさんに遭遇して、野営地まで送ってもらう途中で押し倒されました。馬乗りのまま腕を捻られ、マントも剥ぎ取られました。その後は気絶してしまったのか、次に気がついたら野営地に寝かされていました。」
「そうか…怖かっただろう。話してくれてありがとう。」
「いえ…」
「な、何言ってんだよ…!お前、お前が…っ、ギャアアア!!痛い!いだい!!!」
「キース、またか…これでは話もできない。カオリ頼めるかい?」
「は、はい。『鎮静』」
「い、いたい、いたい…」
「キース、落ち着いたか?あの夜何があったんだ?」
「俺は…俺は、何も知らない、俺は…痛い、痛いんだ。話そうとすると、玉が…」
「ケリーとジミーは…」
「ひぃ!ご、ごめんなさい!ごめんなさい!だから、痛くしないで!」
「話にならないな…うーん、まるでカオリに怯えているような…」
「え?わ、私ですか?」
(どうしようー!流石にここまで怯えられたら犯人は私ですって言ってるようなものだよ!)
『お任せください。今から私の言うことをそのまま復唱してください。』
(う、うん。)
「えっと…彼らは何か幻覚を見たのではないでしょうか…私は確かに魔法の腕には自信がありますが、彼らほどの冒険者を3人相手にして勝てる自信はありません。…あと、手口も意味わからないと言いますか…」
「そうだよねえ。キース達はその実力があるから護衛に雇ったんだし。カオリが一人で勝てる相手ではないと思うんだ。」
「あ、あれが幻覚だったと言うのですか!?私達は確かにっ、アアアァア!!!」
「えっと…なんかすいません、『鎮静』」
「いた、いたい…痛い…」
鎮静をかけても鎮痛ではないから痛みが消えることはない。キースもケリーも、叫ぶことで痛みを逃すことも出来ず、取り乱し気絶することも叶わず、ただただその痛みに耐えていた。二人の惨劇を間近で見ていたジミーが、怯えた眼のまま口を開いた。
「ぼ、僕達…僕達、本当に幻覚を見たのかも…ねえ、そうなんでしょう?だって僕達がカオリ一人に負けるわけないもん。」
「そうですね、キースさんが一人でも抵抗できませんでしたから。」
「そ、そうだよね…だとしたら、僕達は魔物かなにかに襲われたって事?」
「誰もその姿を目撃してませんが、その可能性が高いのではと皆さん言っていました。」
「そ、そう…悪いけど、僕達もその姿は見てないよ。きっとカオリの姿を借りた魔物だったんだ…」
「仲間の幻覚を見せて攻撃する魔物…かなりの脅威だね。新種の魔物だとするなら、トルソンの街に着いたらギルドに報告する必要があるね…」
「ぼ、僕達、ちゃんと証言するよ。」
『どうやらジミーは痛みのカラクリに気がついているようですね。』
(じゃあジミーに任せておけば一安心かな。)
「さて、君達の身に起きた悲劇には男として同情するけど、カオリを襲った事はまた別問題だ。幸い未遂で終わったけど、僕の取引相手に手を出した事に変わりはない。契約違反だ。それ以前に犯罪だし。『ドラゴンスレイヤー』はトルソンの街で解雇する。」
「う、うん。分かったよ。」
「話は以上だ。もう戻って良いよ。出発までにはまだ少し時間があるから、それまで休むと良い。」
「うん…ほら、キース、ケリー、行くよ。」
「痛い、歩くと響く…」
「テントで寝てて良いから!とにかく早く出るよ!」
「痛いんですが…」
ジミーはキースとケリーを馬車から引きずり下ろしてテントに帰っていった。
「…ふう。」
ジミー達が退室したのを見て、香織は脱力した。
「悪かったね、わざわざ同席してもらって。」
「いえ、必要な事でしたから…大丈夫です。あの、護衛減っちゃいましたけどこれからどうするんですか?」
「うーん、トルソンの街で募集してみるけど、決まるかな…キース達の二の舞は避けたいから人柄も見たいけど知らない街の冒険者だからなあ、人となりもわからないしね。最悪、今のメンバーで王都に帰る事になるかもしれない。」
「えっと、それ危なくないですか?」
「馬車が3台もあると3パーティは必要なんだけど…まあ仕方がないよね。」
「そうですか…」
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる