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旅立1

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あっという間に香織の旅立ちの時がやってきた。この日までに香織の元には村人達が代わる代わる別れを惜しみに訪れた。餞別と言って、大量の野菜と共に。

「ほんと、なんでここの人達はこんなに野菜持ってるんだろう…」
『この村は龍脈の上にありますからね、必要以上に豊作なのでしょう。』
「龍脈?」
『魔力の通る道です。魔力は土に影響を及ぼし、野菜を育てます。この村に興味を持つ外の者はいないので今まで解明されてこなかったようですが。』
「ふうん。それ知ったらこの村もっと栄えるのにね?」
『栄えると言うよりは、略奪されるでしょうね。裕福な者達が土地を買い占め、今住んでいる方達は村を追われる事になるでしょう。それ程までに価値のある土地です。貴族が放っておきませんよ。』
「うん、黙っておこう。」
『それが懸命です。』

今日の香織の服装はシャツにズボン。この上にマントを着てフードを被ってしまえば、男の子の様に見えるはずだ。あからさまな少女が馬車に乗っていては盗賊に狙われかねない。香織なりの防犯対策だった。

「でもなあ…」

香織は鏡の前で全身を映す。
アンのお下がりのこのシャツは、肩まわりや袖の長さはピッタリなのだが、胸が少々きつい。ズボンもお尻がきつく、突っ張った布のせいで胸もお尻も形が丸わかりだ。

「これでいいのかな…でも後はスカートしか持ってないし…マント着れば大丈夫かな?」

香織が気に入ってよく着ていたチロルワンピースだって重ね着が基本だ。ここまで身体のラインは出ていない。少し不安に思いながらも、香織は朝食を食べに下に降りた。

「おはようございます。」
「おはよう、カオリ!…その服…」
「えっと、変ですか?なるべく女の子っぽく見えない様にしてみたんですけど…」
「う、うーん…どうかね。私には逆効果に見えるけども…マントを着れば大丈夫…かねえ?」
「そうですね…マントはずっと着ているつもりなんですけど…」
「まあ、スカートよりは良い…のかねえ、多分…」
「…」

(やっぱ変なのかなあ…でもマント被れば遠目から見たら男の子に見える…よね?)
『マスターは何を着てもお似合いです。』
(う、うん…)

香織を見たサイモンも何か言いたげにしていたが、出立前に香織がマントを羽織るのを見てホッとしていた。



「…カオリ、元気でやるんだよ。」
「サリサさん。お世話になりました。」
「いつでも遊びに来て良いんだからね。故郷に帰る時はこの村にも立ち寄っとくれ。」
「分かりました。必ずまた来ますね。」

「カオリ~。もう行っちゃうなんて寂しいよ!絶対絶対また来てね!!」
「うん、絶対来るよ。アンも余所者の私と仲良くしてくれてありがとう。」
「ずっと友達だよおお。うええん!」

「もう、アンたら…笑顔で送り出すって言ってたくせにね。…カオリ、気をつけてね。この村に来てくれて、お母さんを治してくれてありがとう。…グレイとの事も、カオリがいなかったら話が進まなかったわ。本当に感謝してる。」
「リラ、ありがとう。今度来る時は、もう二人は夫婦なのかな?」
「やだ、そんな…そうかもしれないけど…」

「カオリイイ!アリーナの命を救ってくれた事、決して忘れないぞ!何か困ったことがあったらうちに頼れ!」
「ゲイリーさんも次会った時はもう少し落ち着いてるといいんですけどね。」
「それは無理な相談だなあ!カオリ、気をつけるんだぞ!俺より強いと言っても女の子だからな!油断するなよ、男は皆狼なんだ!」
「はい、充分気をつけます。」

「カオリ、短い間だったが、ワシらは本当にお前さんに助けられた。治療の事もそうだが、セッケン草や、井戸の滑車…村の常備薬。この恩をまだ何も返せていないのが心残りだ。」
「いいえ、見ず知らずの私を色々と気にかけてくださって、とてもありがたかったです。故郷を一人離れ、心細かった時にここの人達に親切にしてもらえて、すごく嬉しかったです。旅の最初に貴方達に会えて本当に良かったと思っています。」
「いつでも来るといい。ワシらはいつだって、歓迎する。」
「ありがとうございます。」
「もしかしたらお前さんの銅像が建ってるかもなあ。ははは。」
「それは遠慮したいですね…」

その後も多くの人が香織と別れの挨拶を交わし、ついに出発の時間となった。

「こっちは準備できたけど、カオリももう行けるかい?」
「あっはい、お待たせしてすみません。」
「お別れの挨拶は終わった?しばらく会えないんだ、大切なことさ。」
「ありがとうございます。もう行けます。」
「じゃあカオリは取り敢えず僕と同じ先頭の馬車に乗って。さっきセッケン草とか滑車とか色々面白そうな事を耳にしたからね!詳しく聞かせてほしい!」
「は、はい…」

言われた通り馬車に乗ったカオリは、窓から顔を出して見送りに来てくれた村人達に手を振った。

「カオリ!身体に気をつけるんだよ!」
「皆さん、お世話になりました。絶対また来ますね!」
「約束よ!皆で待ってるからね!」

香織は見送りの人達が見えなくなるまでずっと窓から手を振り続けた。
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