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商隊3

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「そういえば自己紹介もまだだったな、すまない。俺はアレクシス。冒険者パーティー『夜明けの星』のリーダーをしている。今回の行商の旅では他の護衛達を取り纏めるリーダーのようなこともしている。」
「アレクシスさん、改めまして、治癒師のカオリです。北の方の村出身で、今は修行の旅の途中です。本業は治癒師なんですが、副業で調薬も少しできます。」
「うむ…その歳で見事な腕前だった。その上調薬まで…カオリは本当に才能があるんだな。だが一人旅とは…随分と思い切った事をしている。危険な目には遭わなかったのか?」
「まあ旅の荷物なくしたりグレートベアに遭遇したり色々ありましたけど…なんとか無事ここまで来ました。」
「グレートベアだと?」
「そうだ!グレートベア!カオリ、グレートベアの素材はまだ持っているのかい?是非買い取らせてもらいたいんだ!」
「ああ…そういえば言ってましたね。物によりますけど、何が欲しいんですか?」
「毛皮、爪、牙だね!あとは肝も保存状態によるけど買い取らせて欲しい。」
「ち、ちょっと待て、グレートベアに遭遇して無事だったのか?というか素材ということは…た、倒したのか?君が?」
「え?はい、ちょっと驚いてスパッとやってしまって…。毛皮、爪、牙は売れます。私も薬師の端くれなので肝は使うんですが…半量でしたら大丈夫です。乾燥して粉末にしてある物で良ければですが。」
「スパッと?スパッとってなんだ?」
「さすが薬師!その状態の方が望ましいです、高額買取させてください!」
「いやいやスパッとってどういう事だ?」
「え?えーっと?今日はもう遅いのでそろそろ戻らないと…素材の買取は帰ってからで良いですか?」

両方向からグイグイ来られて混乱してしまった香織は、とりあえず村長宅に逃げ帰ることに決めた。アレクシスもサイモンも小さな少女を挟み撃ちにして質問責めしてしまった事にやっと気がつき、慌てて距離を取った。

「ご、ごめんよカオリ。怖がらせてしまったかな?あー…じゃなくて、えっと、すみません、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、サイモンさん。それにフランクなままで良いですよ、その方が気が楽なので。」
「そ、そうかい?悪いね、つい…」
「俺もすまなかった。怖がらせるつもりはなかったんだ…」
「アレクシスさんも気にしないでください。威圧感がすごいだけで別に怖くないですよ、大丈夫です。」
「う、うむ…そうか…?」
「じゃあ私そろそろ失礼しますね。また明日、念のため腕の様子を見させてください。」
「ああ、今日は本当にありがとう。引き止めて悪かった。」
「そろそろサリサさんが乗り込んでくるかもしれないね、急いで帰ろうか。」
「はい。」

アレクシスは立ち上がり、テントの外まで香織達を見送った。香織がアレクシスに一礼し歩き出すと、ちょうど目の前に三人の男達がやってきた。冒険者であろう彼らはスープや飲み物などを手にしており、テントに帰るところのようだ。

「ん?女の子?」
「どうも…」

香織は彼らにペコリと会釈をすると、それ以上話しかけられないよう足早に村に向かった。思ったより治療に時間がかかってしまったので、香織はとにかく急いでいたのだ。これ以上遅くなれば、本当にサリサが乗り込んできかねない。

冒険者の男達は村娘風の香織の後ろ姿を物珍しそうに眺めていたが、しばらくするとアレクシスのいるテントの中に入っていった。

「アレク!お前もちょっとは飯食えって。ほら、食べやすいやつ持ってきたからよ。」
「今サイモンと出て行った女の子はなんだ?村の子か?サイモンが一緒とはいえここまで来るなんて無用心だな。何の用だったんだ?」
「いや、あの子は…治癒師だそうだ。俺の腕を…治療してもらった。」
「なるほど、見習いの嬢ちゃんってとこか。確かに俺達のヒールよりはマシだろう。どうだ、痛みは少し引いたか?痛みが引いてるうちに飯食っとけよ。ほら。」
「ああ、痛みは全くない…この通りだ。」

アレクシスはわざわざ利き腕でスープの器を仲間の男から受け取った。その違和感のない腕の動きに、一同は目を見開いて固まった。

「お、お前…腕、動いて…」
「ああ。あの子に、カオリに治してもらった。後遺症もない。俺はまた…戦えるんだ。」
「じ、じゃあ、俺達…まだ一緒に…」
「『夜明けの星』は解散しない。…心配かけて悪かったな。もう大丈夫だ。」
「…な、なんだよ、マジかよ、ちくしょう…はは、俺の独立はまた先延ばしってか…」
「悪かったな、エド。それは俺が歳食って引退してからにしてくれ。」
「し、仕方ねえな!はは、まあアレクももう良い歳だからな、これからは俺が守ってやるからよ!」
「ふん…言うようになったな。そう言うことは明日俺と勝負して、勝ってから言え。」

憎まれ口を叩いても涙が勝手に零れ落ちる。エドと呼ばれたまだ若い冒険者は、急いで目元を擦り、それを隠した。他の仲間も皆嬉しそうにアレクシスを見ている。その日、『夜明けの星』のテントは久々に明るい笑い声で満たされた。
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