8 / 124
名もなき村3
しおりを挟む
さっきまでの元気はどこへやら、アンは目に涙を溜めて香織を見つめた。
「カオリ、お願い。このままだと、多分お母さん死んじゃうの…」
「分かりました。お二人の家に案内してください。取り敢えず状態を確認してみたいので。」
「本当!?ありがとう、カオリ!あ、お金はちゃんと払うけど、うちあんまり裕福じゃなくて…一回の治療にはどれくらいかかるの?」
「え?えーっと…」
(アイー!)
『はい、なんでしょう。』
(一回の治療の相場を教えて!)
『王都の教会に所属する治癒師は基本的に金貨1枚で治癒を行っています。優秀な治癒師に診てもらうためには最低でも金貨10枚は必要です。善良な治癒師ですと銀貨1枚で治癒を行う事もあるようです。』
(金貨が1万円、銀貨が千円てとこかな?ピンキリだなー。この場合はいくらって答えるのがいいんだろう。あー難しい!)
『でしたら旅に必要な物を対価に頂けばよろしいのではないでしょうか。マスターはそれらを何一つ待っていません。』
(良いこと言った!そうするよ、ありがとう。)
『どういたしまして。』
「あの、実は道中色々あって、所持品を殆どなくしちゃったの。だから旅に必要なものとか、そう言うのと交換でいいよ。」
「本当!?それならなんとかなりそう、本当にありがとう、カオリ!うちはこっちよ、ついて来て!」
「う、うん。」
いきなり走り出したアンをリラが止め、香織達は足早にアン達の家に向かった。
「えっと、お母さんは病気なの?それともどこか怪我を?」
「実は2ヶ月前に弟が産まれたの。難産で血も沢山出て…それから、ずっと寝たきりなの。頻繁に熱も出すし、最近は食欲もなくなってきて…。」
「なるほど…」
産後の肥立ちが悪いと言うやつだろう。大量に出血したと言うのなら貧血が続いているかもしれない。発熱はその時の傷が感染を起こしているのか…。従来の回復魔法では手足や血など、失った物を再生することはできないはずだ。
(感染症とか傷ついた子宮を治すのはハイヒールでできるとしても…貧血はどうしよう…)
「ここよ、入って!お婆ちゃん、ただいまー!」
「お邪魔します…」
「お帰り、二人とも。随分早かったじゃないか。…おや、お客さんかえ?見ない顔だね。旅人かい?」
「初めまして、カオリです。治癒師やってます。」
「治癒師とな!?」
「お二人から事情は聞いています。治せるかは分かりませんが…とりあえず見せてもらえませんか?」
「あ、ああ…勿論だ!こっちだ…さあ、入っとくれ。」
「失礼します。」
香織が案内された寝室には、顔色の悪い女性がベッドに横たわって静かに寝息を立てていた。側にはベビーベッドが置かれており、小さな赤ちゃんが寝ている。
「ふえぇ…」
床の軋むわずかな音で赤ちゃんが目を覚ました。小さな泣き声だったが、母性のなせる技なのか、女性はパチリと目を覚まし、赤ちゃんのところへ向かおうと体を起こした。
「待ちな、アリーナ。ベンは私が見るよ。お前は寝ているんだ。」
「でも…お腹が空いてるのかも…」
「お母さん、なら私がベンを連れてエリナおばさんからお乳をもらってくるわ。だから寝てて。お母さんにお客さんなの。」
「リラ…。わかったわ。でもお客さんって…私に?」
「こんにちは、カオリです。治癒師です。娘さん達の依頼で来ました。あなたの身体を少し診させてもらっても?」
「まあ、あなたが?若いのにすごいわ…でもうちにそんなお金は…」
「大丈夫、物と交換で良いって!だから治してもらおう、ね?皆お母さんの事が心配なの。」
「…わかったわ。ありがとう、アン。カオリさん、よろしくお願いします。」
「はい。横になったままで結構ですよ。」
ベッドの側の椅子に座り、香織は診察を始めた。
(『スキャン』)
今度は、骨ではなく、内臓。子宮のあたりに異常反応があった。
(やっぱり、子宮の戻りが悪くて出血も続いてる…傷も感染を起こしてるみたい。)
「あの、まだ出血は続いてますか?量はどれくらい?」
「ええと、どれくらいかは…よく分かりませんが、出産後から減ってはいないと思います。上2人の時は1ヶ月くらいで治ったのに…」
「子宮が元に戻ってないし出血が続いてるせいで貧血も酷いですね。傷も感染を起こしています。頻繁にある発熱もそれが原因かと。」
「まあ…ごめんなさい、無学なもので、よくわからないのだけれど…治るのかしら…?」
「子宮と感染症は治せると思います。ただ、ハイヒールは失った物を補う事はできないので、目眩や体の怠さなんかは残ります。元気に元通りというわけにはいかないですね。」
「そうなの…」
「カオリ、それでもお願い!お母さんに、少しでも良くなってもらいたいの!」
「わかった、やってみる。『ハイヒール』」
香織のかざした手から放たれた優しい光はアリーナの下腹部に集まっていき、出産で負った傷を癒すとすうっと消えた。
「えっと…どうですか?」
「すごいわ…お腹の痛みがすっと消えたわ!熱っぽかったのも治った気がします。身体が重いのはそのままだけど…随分と楽になりました。ありがとうございます。」
「やっぱり貧血は治せませんでした。すみません。」
「いいえ!こんなに気分がいいのは久しぶりだわ。これなら子供の面倒も自分で見られます。」
「ああ、それなんですけど…今まではどうやってお世話していたんですか?先程リラがお乳をもらいに行くと言っていましたが…」
「ああ。日中は、赤ちゃんのいる人からお乳を分けてもらってるんです。私がこんなで、お乳をあげる体力もなくって…村の皆が協力してくれて、申し訳ないとは思ってるんですけど。夜は私がなんとかあげてますがあまり出ないみたいで。でもこれからはあげられるんですよね、本当に良かった。」
「いや、実は…お乳はしばらくあげない方がいいと思います。」
「カオリ、お願い。このままだと、多分お母さん死んじゃうの…」
「分かりました。お二人の家に案内してください。取り敢えず状態を確認してみたいので。」
「本当!?ありがとう、カオリ!あ、お金はちゃんと払うけど、うちあんまり裕福じゃなくて…一回の治療にはどれくらいかかるの?」
「え?えーっと…」
(アイー!)
『はい、なんでしょう。』
(一回の治療の相場を教えて!)
『王都の教会に所属する治癒師は基本的に金貨1枚で治癒を行っています。優秀な治癒師に診てもらうためには最低でも金貨10枚は必要です。善良な治癒師ですと銀貨1枚で治癒を行う事もあるようです。』
(金貨が1万円、銀貨が千円てとこかな?ピンキリだなー。この場合はいくらって答えるのがいいんだろう。あー難しい!)
『でしたら旅に必要な物を対価に頂けばよろしいのではないでしょうか。マスターはそれらを何一つ待っていません。』
(良いこと言った!そうするよ、ありがとう。)
『どういたしまして。』
「あの、実は道中色々あって、所持品を殆どなくしちゃったの。だから旅に必要なものとか、そう言うのと交換でいいよ。」
「本当!?それならなんとかなりそう、本当にありがとう、カオリ!うちはこっちよ、ついて来て!」
「う、うん。」
いきなり走り出したアンをリラが止め、香織達は足早にアン達の家に向かった。
「えっと、お母さんは病気なの?それともどこか怪我を?」
「実は2ヶ月前に弟が産まれたの。難産で血も沢山出て…それから、ずっと寝たきりなの。頻繁に熱も出すし、最近は食欲もなくなってきて…。」
「なるほど…」
産後の肥立ちが悪いと言うやつだろう。大量に出血したと言うのなら貧血が続いているかもしれない。発熱はその時の傷が感染を起こしているのか…。従来の回復魔法では手足や血など、失った物を再生することはできないはずだ。
(感染症とか傷ついた子宮を治すのはハイヒールでできるとしても…貧血はどうしよう…)
「ここよ、入って!お婆ちゃん、ただいまー!」
「お邪魔します…」
「お帰り、二人とも。随分早かったじゃないか。…おや、お客さんかえ?見ない顔だね。旅人かい?」
「初めまして、カオリです。治癒師やってます。」
「治癒師とな!?」
「お二人から事情は聞いています。治せるかは分かりませんが…とりあえず見せてもらえませんか?」
「あ、ああ…勿論だ!こっちだ…さあ、入っとくれ。」
「失礼します。」
香織が案内された寝室には、顔色の悪い女性がベッドに横たわって静かに寝息を立てていた。側にはベビーベッドが置かれており、小さな赤ちゃんが寝ている。
「ふえぇ…」
床の軋むわずかな音で赤ちゃんが目を覚ました。小さな泣き声だったが、母性のなせる技なのか、女性はパチリと目を覚まし、赤ちゃんのところへ向かおうと体を起こした。
「待ちな、アリーナ。ベンは私が見るよ。お前は寝ているんだ。」
「でも…お腹が空いてるのかも…」
「お母さん、なら私がベンを連れてエリナおばさんからお乳をもらってくるわ。だから寝てて。お母さんにお客さんなの。」
「リラ…。わかったわ。でもお客さんって…私に?」
「こんにちは、カオリです。治癒師です。娘さん達の依頼で来ました。あなたの身体を少し診させてもらっても?」
「まあ、あなたが?若いのにすごいわ…でもうちにそんなお金は…」
「大丈夫、物と交換で良いって!だから治してもらおう、ね?皆お母さんの事が心配なの。」
「…わかったわ。ありがとう、アン。カオリさん、よろしくお願いします。」
「はい。横になったままで結構ですよ。」
ベッドの側の椅子に座り、香織は診察を始めた。
(『スキャン』)
今度は、骨ではなく、内臓。子宮のあたりに異常反応があった。
(やっぱり、子宮の戻りが悪くて出血も続いてる…傷も感染を起こしてるみたい。)
「あの、まだ出血は続いてますか?量はどれくらい?」
「ええと、どれくらいかは…よく分かりませんが、出産後から減ってはいないと思います。上2人の時は1ヶ月くらいで治ったのに…」
「子宮が元に戻ってないし出血が続いてるせいで貧血も酷いですね。傷も感染を起こしています。頻繁にある発熱もそれが原因かと。」
「まあ…ごめんなさい、無学なもので、よくわからないのだけれど…治るのかしら…?」
「子宮と感染症は治せると思います。ただ、ハイヒールは失った物を補う事はできないので、目眩や体の怠さなんかは残ります。元気に元通りというわけにはいかないですね。」
「そうなの…」
「カオリ、それでもお願い!お母さんに、少しでも良くなってもらいたいの!」
「わかった、やってみる。『ハイヒール』」
香織のかざした手から放たれた優しい光はアリーナの下腹部に集まっていき、出産で負った傷を癒すとすうっと消えた。
「えっと…どうですか?」
「すごいわ…お腹の痛みがすっと消えたわ!熱っぽかったのも治った気がします。身体が重いのはそのままだけど…随分と楽になりました。ありがとうございます。」
「やっぱり貧血は治せませんでした。すみません。」
「いいえ!こんなに気分がいいのは久しぶりだわ。これなら子供の面倒も自分で見られます。」
「ああ、それなんですけど…今まではどうやってお世話していたんですか?先程リラがお乳をもらいに行くと言っていましたが…」
「ああ。日中は、赤ちゃんのいる人からお乳を分けてもらってるんです。私がこんなで、お乳をあげる体力もなくって…村の皆が協力してくれて、申し訳ないとは思ってるんですけど。夜は私がなんとかあげてますがあまり出ないみたいで。でもこれからはあげられるんですよね、本当に良かった。」
「いや、実は…お乳はしばらくあげない方がいいと思います。」
0
お気に入りに追加
268
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
ご令嬢九尾、人間のご令嬢に転生する~畜生呼ばわりで王太子から婚約破棄されましたが、前世のチート級な妖力と根性とコミュ力で大逆転してみせます~
水狐舞楽(すいこ まいら)
ファンタジー
妖怪の住む白金村の村長補佐をしていたが、村が襲撃されて村民を守った末に殺されてしまった九尾の主人公・ビュウ。
再び目が覚めると全くの異国で、王太子と婚約予定の令嬢・バネッサに転生していた。
しかし、前世が九尾の妖怪だったため、王太子からは「私はそんな畜生と結婚するつもりはない」と言われて、婚約破棄を告げられる。
王太子の婚約候補は、主人公に失礼な態度を取り続ける妹になることに。
妖怪であったことに誇りを持っている主人公はひどく悲しむが、一周回って「それならいっそのこと、バネッサではなくビュウとして生きよう」と開き直ることにした。
そこから主人公の大逆転劇が巻き起こる……!
※20000文字程度の短編予定です。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
世界(ところ)、異(かわ)れば片魔神
緋野 真人
ファンタジー
脳出血を発症し、右半身に著しい麻痺障害を負った男、山納公太(やまのこうた)。
彼はある日――やたらと精巧なエルフのコスプレ(?)をした外国人女性(?)と出会う。
自らを異世界の人間だと称し、同時に魔法と称して不可思議な術を彼に見せたその女性――ミレーヌが言うには、その異世界は絶大な魔力を誇る魔神の蹂躙に因り、存亡の危機に瀕しており、その魔神を封印するには、依り代に適合する人間が必要……その者を探し求め、彼女は次元を超えてやって来たらしい。
そして、彼女は公太がその適合者であるとも言い、魔神をその身に宿せば――身体障害の憂き目からも解放される可能性がある事を告げ、同時にその異世界を滅亡を防いだ英雄として、彼に一国相当の領地まで与えるという、実にWinWinな誘いに彼の答えは……
※『小説家になろう』さんにて、2018年に発表した作品を再構成したモノであり、カクヨムさんで現在連載中の作品を転載したモノです。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
変人奇人喜んで!!貴族転生〜面倒な貴族にはなりたくない!〜
赤井水
ファンタジー
クロス伯爵家に生まれたケビン・クロス。
神に会った記憶も無く、前世で何故死んだのかもよく分からないが転生した事はわかっていた。
洗礼式で初めて神と話よく分からないが転生させて貰ったのは理解することに。
彼は喜んだ。
この世界で魔法を扱える事に。
同い歳の腹違いの兄を持ち、必死に嫡男から逃れ貴族にならない為なら努力を惜しまない。
理由は簡単だ、魔法が研究出来ないから。
その為には彼は変人と言われようが奇人と言われようが構わない。
ケビンは優秀というレッテルや女性という地雷を踏まぬ様に必死に生活して行くのであった。
ダンス?腹芸?んなもん勉強する位なら魔法を勉強するわ!!と。
「絶対に貴族にはならない!うぉぉぉぉ」
今日も魔法を使います。
※作者嬉し泣きの情報
3/21 11:00
ファンタジー・SFでランキング5位(24hptランキング)
有名作品のすぐ下に自分の作品の名前があるのは不思議な感覚です。
3/21
HOT男性向けランキングで2位に入れました。
TOP10入り!!
4/7
お気に入り登録者様の人数が3000人行きました。
応援ありがとうございます。
皆様のおかげです。
これからも上がる様に頑張ります。
※お気に入り登録者数減り続けてる……がむばるOrz
〜第15回ファンタジー大賞〜
67位でした!!
皆様のおかげですこう言った結果になりました。
5万Ptも貰えたことに感謝します!
改稿中……( ⁎ᵕᴗᵕ⁎ )☁︎︎⋆。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる