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名もなき村3

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さっきまでの元気はどこへやら、アンは目に涙を溜めて香織を見つめた。

「カオリ、お願い。このままだと、多分お母さん死んじゃうの…」
「分かりました。お二人の家に案内してください。取り敢えず状態を確認してみたいので。」
「本当!?ありがとう、カオリ!あ、お金はちゃんと払うけど、うちあんまり裕福じゃなくて…一回の治療にはどれくらいかかるの?」
「え?えーっと…」

(アイー!)
『はい、なんでしょう。』
(一回の治療の相場を教えて!)
『王都の教会に所属する治癒師は基本的に金貨1枚で治癒を行っています。優秀な治癒師に診てもらうためには最低でも金貨10枚は必要です。善良な治癒師ですと銀貨1枚で治癒を行う事もあるようです。』
(金貨が1万円、銀貨が千円てとこかな?ピンキリだなー。この場合はいくらって答えるのがいいんだろう。あー難しい!)
『でしたら旅に必要な物を対価に頂けばよろしいのではないでしょうか。マスターはそれらを何一つ待っていません。』
(良いこと言った!そうするよ、ありがとう。)
『どういたしまして。』

「あの、実は道中色々あって、所持品を殆どなくしちゃったの。だから旅に必要なものとか、そう言うのと交換でいいよ。」
「本当!?それならなんとかなりそう、本当にありがとう、カオリ!うちはこっちよ、ついて来て!」
「う、うん。」

いきなり走り出したアンをリラが止め、香織達は足早にアン達の家に向かった。

「えっと、お母さんは病気なの?それともどこか怪我を?」
「実は2ヶ月前に弟が産まれたの。難産で血も沢山出て…それから、ずっと寝たきりなの。頻繁に熱も出すし、最近は食欲もなくなってきて…。」
「なるほど…」

産後の肥立ちが悪いと言うやつだろう。大量に出血したと言うのなら貧血が続いているかもしれない。発熱はその時の傷が感染を起こしているのか…。従来の回復魔法では手足や血など、失った物を再生することはできないはずだ。

(感染症とか傷ついた子宮を治すのはハイヒールでできるとしても…貧血はどうしよう…)

「ここよ、入って!お婆ちゃん、ただいまー!」
「お邪魔します…」
「お帰り、二人とも。随分早かったじゃないか。…おや、お客さんかえ?見ない顔だね。旅人かい?」
「初めまして、カオリです。治癒師やってます。」
「治癒師とな!?」
「お二人から事情は聞いています。治せるかは分かりませんが…とりあえず見せてもらえませんか?」
「あ、ああ…勿論だ!こっちだ…さあ、入っとくれ。」
「失礼します。」

香織が案内された寝室には、顔色の悪い女性がベッドに横たわって静かに寝息を立てていた。側にはベビーベッドが置かれており、小さな赤ちゃんが寝ている。

「ふえぇ…」

床の軋むわずかな音で赤ちゃんが目を覚ました。小さな泣き声だったが、母性のなせる技なのか、女性はパチリと目を覚まし、赤ちゃんのところへ向かおうと体を起こした。

「待ちな、アリーナ。ベンは私が見るよ。お前は寝ているんだ。」
「でも…お腹が空いてるのかも…」
「お母さん、なら私がベンを連れてエリナおばさんからお乳をもらってくるわ。だから寝てて。お母さんにお客さんなの。」
「リラ…。わかったわ。でもお客さんって…私に?」
「こんにちは、カオリです。治癒師です。娘さん達の依頼で来ました。あなたの身体を少し診させてもらっても?」
「まあ、あなたが?若いのにすごいわ…でもうちにそんなお金は…」
「大丈夫、物と交換で良いって!だから治してもらおう、ね?皆お母さんの事が心配なの。」
「…わかったわ。ありがとう、アン。カオリさん、よろしくお願いします。」
「はい。横になったままで結構ですよ。」

ベッドの側の椅子に座り、香織は診察を始めた。

(『スキャン』)

今度は、骨ではなく、内臓。子宮のあたりに異常反応があった。

(やっぱり、子宮の戻りが悪くて出血も続いてる…傷も感染を起こしてるみたい。)

「あの、まだ出血は続いてますか?量はどれくらい?」
「ええと、どれくらいかは…よく分かりませんが、出産後から減ってはいないと思います。上2人の時は1ヶ月くらいで治ったのに…」
「子宮が元に戻ってないし出血が続いてるせいで貧血も酷いですね。傷も感染を起こしています。頻繁にある発熱もそれが原因かと。」
「まあ…ごめんなさい、無学なもので、よくわからないのだけれど…治るのかしら…?」
「子宮と感染症は治せると思います。ただ、ハイヒールは失った物を補う事はできないので、目眩や体の怠さなんかは残ります。元気に元通りというわけにはいかないですね。」
「そうなの…」
「カオリ、それでもお願い!お母さんに、少しでも良くなってもらいたいの!」
「わかった、やってみる。『ハイヒール』」

香織のかざした手から放たれた優しい光はアリーナの下腹部に集まっていき、出産で負った傷を癒すとすうっと消えた。

「えっと…どうですか?」
「すごいわ…お腹の痛みがすっと消えたわ!熱っぽかったのも治った気がします。身体が重いのはそのままだけど…随分と楽になりました。ありがとうございます。」
「やっぱり貧血は治せませんでした。すみません。」
「いいえ!こんなに気分がいいのは久しぶりだわ。これなら子供の面倒も自分で見られます。」
「ああ、それなんですけど…今まではどうやってお世話していたんですか?先程リラがお乳をもらいに行くと言っていましたが…」
「ああ。日中は、赤ちゃんのいる人からお乳を分けてもらってるんです。私がこんなで、お乳をあげる体力もなくって…村の皆が協力してくれて、申し訳ないとは思ってるんですけど。夜は私がなんとかあげてますがあまり出ないみたいで。でもこれからはあげられるんですよね、本当に良かった。」
「いや、実は…お乳はしばらくあげない方がいいと思います。」
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