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異世界2
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「え?ま、待ってください…私は元の世界には帰れないんですか?家族は?友達は?それにもうすぐ試験が…」
『何か問題でも?貴方は花道香織であり、しかし花道香織そのものではない。貴方が異世界で新たな生活を送ろうとも、誰も悲しむものはいない。何故なら花道香織はまだ生きているのだから。』
「…」
『ふむ。異論はないようですね。貴方の魂には魔法を自由に創造する能力と、無尽蔵な魔力を付与してあります。それくらいしなければ起爆剤とはなり得ませんのでね。それに貴方の他世界での知識が加われば、世界は大きく動き出すでしょう。』
「ま、魔法…?」
『そういえばそちらの世界には魔法はありませんでしたね。しかし問題ありません。貴方の魂にはすぐに地上で活躍できるよう、私の世界の一般的知識を与えています。地上に降り立てば、自然とその知識も使うことができるでしょう。』
「は、はあ…」
『残念ながら魂の器は既に完成しています。貴方の慣れ親しんだ花道香織の身体は使えません。なに、少々違和感はあるかも知れませんが、元の身体よりずっと良いものですよ。』
「あの…」
『さあ、説明はこれで終わりです。そろそろ地上に降り立つ頃合です。』
「え?あの、待って…」
『安心してください、使命とかそういうものはありませんよ。ただ貴方が貴方らしく、好きに生きていけば良いのです。それだけで世界は動くのですから。』
「いやいや、え?あの、」
『私には他にも手をかけるべき新しき魂がいるのです。貴方の件は、ここまでです。それでは、良い人生を。』
「待って!私はまだ…」
『そうそう、考え事なら肉体を得た後にしなさい。魂の状態では複雑な思考はできませんからね。なんせ脳がないのですから。』
「待って!待って、やだ…」
香織の抵抗虚しく、彼女の魂は再び眩い光に覆われ、その輝きが収まると香織の魂は消えていた。
『ふむ、最初の魂は失敗してしまいましたね。次の魂の染色は控えめにせねば。』
神と呼ばれたものは次の瞬間香織からすっかり興味をなくし、再び新たな魂を作り出し始めた。
ーーーーーーーーー
「ん…」
次に香織が目を覚ますと、そこは見慣れない森の中だった。
「ここが…異世界…」
香織は周囲の状況を確認しながら身体を軽く動かした。
「もっと違和感があると思ったけど…普通ね。見た目は…後で確認しよう。取り敢えず、森を出た方がいいよね…」
香織が降り立った森は彼女の知る森と大差なかったが、植生は以前家族旅行で訪れた沖縄の森に近いのかも知れない。
「暖かい地域なのかしら。とにかく、人のいる所にに行かないと。近くに町か村でもあるといいんだけど…」
これからの事は歩きながら考えよう、そう思った香織は森の中を彷徨い始めた。
まず自分の格好。簡素なワンピースに茶色のマントと皮のブーツ。帆布のような生地の肩掛け鞄。典型的な旅人のファッションだ。この世界の一般常識からも外れていない。頭の中に自分の知らない知識が詰め込まれている事にゾッとしながらも、香織は歩みを進めた。
「あ、道っぽい。」
動物や人が何度も踏み締める事で出来た小道を見つけた香織は、その道に沿って歩き始めた。山歩きの経験がない香織には、これが人工的に作られた道なのか、それともただの獣道なのか判別する事はできない。人が作ったものであると良いなと楽観的に考えながら、香織はその道を歩き続けた。
平時であれば不安で押し潰されるであろうこの状況下で、香織の足を動かし続けているのは、紛れもなく怒りだった。
「あいつ…ほんと腹立つ。思い返せば思い返すほどに腹立ってくる!」
自分のこの理不尽な現状を作り上げた神とやらに毒づく。あの白い空間では頭がうまく回らずろくに文句も言えなかった。やはりヒトの脳がなければ複雑な思考はできないようだ。姿形も分からない新たな身体を手に入れた香織は、その脳を存分に生かしながらあらゆる罵詈雑言を神に向けて浴びせ続けた。
体感にして数時間、香織は歩き続けた。その間、人どころか鳥の一羽とすらすれ違っていない。初め、野生動物や魔物の類を警戒しながら恐る恐る進んでいた香織は、今やすっかり気が緩んでいた。木々の合間から覗く太陽は頭上近くまで登っており、現在の時刻は昼頃だろうと辺りをつける。
「はあ、どれだけ歩き続ければ良いの?一本道の筈なのに何度も同じ道を歩いてるような気もするし…」
もしかして円形の道をぐるっと周っているだけなのかも。嫌な予感から足を止める。どうしたら正確な道が分かるのだろうか。そこであの忌々しい神からの言葉を思い出した。
『貴方には自由に魔法を創造する能力と、無尽蔵の魔力を付与してあります。』
「この状況を打開する魔法を、作れば良いんだよね…」
香織は高校生の頃よく遊んでいたファンタジーゲームを思い返した。ゲーム画面にはいつも右上にマップが表示されており、道に迷った事はなかった。
「マップが再現できないかな…。でもそもそも魔法って何…」
香織が疑問に思えば、頭の中の知識が答えを出してくれる。魔法とは体内にある魔力を放出する事で超常現象を引き起こすこと。
魔法は自然の摂理に則している現象の方が具現化させやすい。火は何故燃えるのか、水は何からできているのか。その原理を理解していれば魔法を発動することは容易い。しかし科学的知識の乏しいこの世界の人々は、事象の理解の代わりに決められた呪文を唱える事によって魔法を発動させている。魔法は想像力。こう唱えればこういう事象が起こると強く信じる事で、この世界の人々は魔法を発動させているのだ。
この世界の人々は創造神であるユクテシアを信奉している。彼らの唱えた呪文が神に聞き入れられ、その神から力の施しを受ける事で魔法が使えるのだと信じているのだ。
「なんて周りくどい…。めんどくさ。あんな神に祈るなんてごめんだわ!」
治ってきた怒りが再燃するのを自覚しながら、香織は考察を続けた。
「魔法は想像力。原理を理解していればより発動しやすいって事ね。ならマップを起動するためには…」
ぐう
「…お腹すいた。」
『何か問題でも?貴方は花道香織であり、しかし花道香織そのものではない。貴方が異世界で新たな生活を送ろうとも、誰も悲しむものはいない。何故なら花道香織はまだ生きているのだから。』
「…」
『ふむ。異論はないようですね。貴方の魂には魔法を自由に創造する能力と、無尽蔵な魔力を付与してあります。それくらいしなければ起爆剤とはなり得ませんのでね。それに貴方の他世界での知識が加われば、世界は大きく動き出すでしょう。』
「ま、魔法…?」
『そういえばそちらの世界には魔法はありませんでしたね。しかし問題ありません。貴方の魂にはすぐに地上で活躍できるよう、私の世界の一般的知識を与えています。地上に降り立てば、自然とその知識も使うことができるでしょう。』
「は、はあ…」
『残念ながら魂の器は既に完成しています。貴方の慣れ親しんだ花道香織の身体は使えません。なに、少々違和感はあるかも知れませんが、元の身体よりずっと良いものですよ。』
「あの…」
『さあ、説明はこれで終わりです。そろそろ地上に降り立つ頃合です。』
「え?あの、待って…」
『安心してください、使命とかそういうものはありませんよ。ただ貴方が貴方らしく、好きに生きていけば良いのです。それだけで世界は動くのですから。』
「いやいや、え?あの、」
『私には他にも手をかけるべき新しき魂がいるのです。貴方の件は、ここまでです。それでは、良い人生を。』
「待って!私はまだ…」
『そうそう、考え事なら肉体を得た後にしなさい。魂の状態では複雑な思考はできませんからね。なんせ脳がないのですから。』
「待って!待って、やだ…」
香織の抵抗虚しく、彼女の魂は再び眩い光に覆われ、その輝きが収まると香織の魂は消えていた。
『ふむ、最初の魂は失敗してしまいましたね。次の魂の染色は控えめにせねば。』
神と呼ばれたものは次の瞬間香織からすっかり興味をなくし、再び新たな魂を作り出し始めた。
ーーーーーーーーー
「ん…」
次に香織が目を覚ますと、そこは見慣れない森の中だった。
「ここが…異世界…」
香織は周囲の状況を確認しながら身体を軽く動かした。
「もっと違和感があると思ったけど…普通ね。見た目は…後で確認しよう。取り敢えず、森を出た方がいいよね…」
香織が降り立った森は彼女の知る森と大差なかったが、植生は以前家族旅行で訪れた沖縄の森に近いのかも知れない。
「暖かい地域なのかしら。とにかく、人のいる所にに行かないと。近くに町か村でもあるといいんだけど…」
これからの事は歩きながら考えよう、そう思った香織は森の中を彷徨い始めた。
まず自分の格好。簡素なワンピースに茶色のマントと皮のブーツ。帆布のような生地の肩掛け鞄。典型的な旅人のファッションだ。この世界の一般常識からも外れていない。頭の中に自分の知らない知識が詰め込まれている事にゾッとしながらも、香織は歩みを進めた。
「あ、道っぽい。」
動物や人が何度も踏み締める事で出来た小道を見つけた香織は、その道に沿って歩き始めた。山歩きの経験がない香織には、これが人工的に作られた道なのか、それともただの獣道なのか判別する事はできない。人が作ったものであると良いなと楽観的に考えながら、香織はその道を歩き続けた。
平時であれば不安で押し潰されるであろうこの状況下で、香織の足を動かし続けているのは、紛れもなく怒りだった。
「あいつ…ほんと腹立つ。思い返せば思い返すほどに腹立ってくる!」
自分のこの理不尽な現状を作り上げた神とやらに毒づく。あの白い空間では頭がうまく回らずろくに文句も言えなかった。やはりヒトの脳がなければ複雑な思考はできないようだ。姿形も分からない新たな身体を手に入れた香織は、その脳を存分に生かしながらあらゆる罵詈雑言を神に向けて浴びせ続けた。
体感にして数時間、香織は歩き続けた。その間、人どころか鳥の一羽とすらすれ違っていない。初め、野生動物や魔物の類を警戒しながら恐る恐る進んでいた香織は、今やすっかり気が緩んでいた。木々の合間から覗く太陽は頭上近くまで登っており、現在の時刻は昼頃だろうと辺りをつける。
「はあ、どれだけ歩き続ければ良いの?一本道の筈なのに何度も同じ道を歩いてるような気もするし…」
もしかして円形の道をぐるっと周っているだけなのかも。嫌な予感から足を止める。どうしたら正確な道が分かるのだろうか。そこであの忌々しい神からの言葉を思い出した。
『貴方には自由に魔法を創造する能力と、無尽蔵の魔力を付与してあります。』
「この状況を打開する魔法を、作れば良いんだよね…」
香織は高校生の頃よく遊んでいたファンタジーゲームを思い返した。ゲーム画面にはいつも右上にマップが表示されており、道に迷った事はなかった。
「マップが再現できないかな…。でもそもそも魔法って何…」
香織が疑問に思えば、頭の中の知識が答えを出してくれる。魔法とは体内にある魔力を放出する事で超常現象を引き起こすこと。
魔法は自然の摂理に則している現象の方が具現化させやすい。火は何故燃えるのか、水は何からできているのか。その原理を理解していれば魔法を発動することは容易い。しかし科学的知識の乏しいこの世界の人々は、事象の理解の代わりに決められた呪文を唱える事によって魔法を発動させている。魔法は想像力。こう唱えればこういう事象が起こると強く信じる事で、この世界の人々は魔法を発動させているのだ。
この世界の人々は創造神であるユクテシアを信奉している。彼らの唱えた呪文が神に聞き入れられ、その神から力の施しを受ける事で魔法が使えるのだと信じているのだ。
「なんて周りくどい…。めんどくさ。あんな神に祈るなんてごめんだわ!」
治ってきた怒りが再燃するのを自覚しながら、香織は考察を続けた。
「魔法は想像力。原理を理解していればより発動しやすいって事ね。ならマップを起動するためには…」
ぐう
「…お腹すいた。」
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