上 下
25 / 54
1章 異世界トラバース

1章ー24 かぼちゃと人参に絡まれた

しおりを挟む
 「おいおい、いつからここはガキの遊び場になったんだ」

 「まったくだぜ。俺たちが命を懸けて魔物と戦ってるっていうのにな」

 依頼達成の報告を終えて宿へ向かおうとしたところ、ギルドの出口付近で変な奴ら、世紀末の砂漠をバイクに乗って突っ走ているような、に絡まれてしまったのだ。

 「しゃーない。お前たちがちゃんと冒険者できるように訓練してやるよ。お礼は金貨だ。もちろん何枚でもいいぜ。はっ」

 「俺たちの特訓を受けれるなんてついてるなぁ、お前たち。新人はすぐ無茶して死にやがるから、これで生き残る確率があがるとなれば幸せだろ。はははは」

 にやけ、馬鹿にするような視線と口調に不快感を感じぜずにはいられない。

 「お、おにぃちゃん。こわいょぅ・・・」

 こいつら、マジで息の根を止めてやろうか!! 

 と怖がったエレナを見た僕は殺人という過ちを犯す寸前だった。

 が、なんとか理性で止めた。よくやった僕!

  と、こいつらの生き死なんてどうでもいいことは置いておいて、僕は右手に神気を纏い高速でスマホをタップする。もちろん、思考速度はMAXを超えている。

 『虚ろなる幻霧よ 真実を覆い 虚像よ現れよ イリュージョン』 

 「きゃはは。かぼちゃしゃんに、にんじんしゃんだぁ」

 光属性の中位魔法【イリュージョン】。これは敵に幻を見せて惑い隙を撃つ魔法だ。もちろん使い方は人それぞれ。僕はエレナにあの二人をカボチャと人参のかわいらしいキャラクターに見せ、その言葉も適当に変えてある。

 「このガキ、こっちが優しくしてれば馬鹿なこといいやがって」

 どこか優しかったのか懇切丁寧に説明して欲しい。

 「にんじんしゃん、甘いからだいしゅき!!」

 「はぁっ? 何言ってやがるこいつ」

 「かぼちゃしゃんも甘いからだいしゅき!!」

 「あぁ、もういい。訓練場に連れて行くぞ」

 「そ、そうだな」

 男の一人がもう片方を宥めたような感じになったが、僕は行くとは一言も言ってない。

 無視してスルーするという道もあるが、今回のことを何もなかったことにしてやるほど今の僕はやさしくない。

 「えっと、訓練は必要ないですよ。それよりも賭け事しません?」

 「あぁん?」

 「いえ、ただの訓練じゃつまらないので賭けませんか? 買った方が負けた方のベットしたものをいただくって。もちろん、ギルドにも立ち合いを頼むしっかりとしたものです」

 「いいぜ、のった。それでお前はいったい何を賭ける?」

 「なんでもいいんですけど、お二人を奴隷にしたいんです。なにを出したら釣り合いますか?」

 「あほらしい。白金貨1000枚でも出されないことには話に――」

 「わかりました。皆さん聞きましたか? 皆さんが証人です。ってことでお願いしますねノーラさん?」

 「なっ」 「えっ」 「はっ?」

 ギルドと周りの冒険者たちを巻き込んで僕の思惑通りの方向へ話が進む。連中は万が一を考えて断りたいと思ったはずだが周りの冒険者達の手前、僕みたいなガキにビビったなんて思われたくなかったことと、白金貨1000枚という大金に目がくらんだのだろう。

 白金貨がこれだけあれば一生暮らしていけるからね。

 ギルドの訓練場に野次馬が集まる。
 
 「かぼちゃしゃん達なにするの?」

 「う~ん、料理?」

 「わ~い、楽しみ。おにいちゃんのごはんおいちーから」

 「じゃぁ、サクッと料理してくるから後で宿でご飯食べようね」

 「うん!!」

 まるで家庭の一コマ。だけどここはむさくるしい奴らが集まるギルドの訓練場。

 「ふざけてやがる、絶対に1000枚払いやがれよ。無理なら俺がお前たちを奴隷にしてやる」

 「はん、今更後悔しても遅いぞ。俺たちは王都でもトップクラスの冒険者でランクは二人ともAだ。因みに、なんと、二人とも≪到達者≫だよ。ふん? 知らんかったか? はやく終わらせて白金貨で旨いものでも食べに行きてーな」

 うん、安心した。

 こここで実は邪神ちゃんだよ! なんて言われたら思わず全面降伏して【無限収納】にあるお金全部投げ出していたとこだ。たぶん、白金貨1000枚ぐらいあるよね?

 「それでは、お互いの賭けの対象の確認よろしいですか?」

 「僕はこの二人の奴隷化」

 「俺たちは白金貨1000枚だな」

 「相違ありませんね、それでは決闘を行います。相手を死に至らしめるような攻撃は禁止です。相手を殺したらその時点で失格負けでさらに罰せられます。それでは、始めっ!」

 荒っぽい仕事が多い冒険者。そんな仕事をしているからか、もしくは荒っぽい奴が冒険者になるのかわからないが、そんな冒険者達の間では荒事がいつも発生している。

 大抵は大きな問題にならずに納まるのだが、時には収集がつかなくなることも。そんな時に行われるのがギルドが管理する決闘システム。

 お互いがお互いの主張を通すために戦うのだ。そして結果はギルドが見届けその約束事も必ず履行させるのだ。

 なんて、説明していたら勝負もそろそろ佳境に。

 最初は1人で向かってきたが形勢が不利と悟ったのか途中から男二人が連携をとり剣を振るい、襲ってくるようになった。

 2人の繰り出す攻撃は完璧なコンビネーションで上下左右どこにも逃げ場がない。普通なら。

 僕は速くなりすぎないように速度を調整して、コンビネーションの合間をすり抜ける。コンマ何秒もない世界だが、確かにすり抜けられるタイミングは存在した。

 「なぁ。あの2人って確か、LV50の≪到達者≫だよな? 性格や素行は悪くても実力は人類最高峰の。そんな2人をあしらっている、あのガキはいったいなんだ?」

 「まさか、≪限界突破≫のスキル持ちか!? まさか、あんな子供が」

 「いや、そうじゃなきゃ説明できんだろ?」

 「クロノってガキと幼女、そんであの犬ころには近づかんようにしよ」

 「だな、触らぬ神になんとやらだな」

 野次馬達からぼそぼそと話す声が聞こえてくるが、特に気になるものはないな。

 「ちきしょ、なんなんだよこいつ。おい、もう手加減は止めだ。あれをやるぞ」

 「おい、マジか? まぁ、奴隷よりは殺人罪のがましか?」

 今度は野次馬達ではなく目の前の男たちかがぼそぼそと話すのが聞こえた。

 おいっ、ルールは守ろうか? 小声で話しているせいかノーラさんには聞こえてないみたいだけどさ。

 おーい、ここにルール違反者がいますよー。

 って、こいつらの攻撃じゃ僕がどうこうなることもないからルール違反、死に至るような攻撃、にはならないのか。と、変に納得してしまう。

 小声で詠唱をし終えた二人。使った魔法はATKUPとSPDUP系のものらしい。 

 「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 「チェストォォォォォォ」
 
 一人の男が先ほどよりも鋭さを増した剣戟を繰り出す、右へ左へと僕は誘われるかの様にかわし続ける。

 そして、その勘は間違っていなかったらしく、大きく右へ避けた直後に大ぶりの攻撃が頭上から襲い掛かってきた。まるでここに必ずくるとわかっていたかのようなタイミングだ。

 一人がスピードで相手を詰将棋のように追い詰め、もう一人がそこに必殺の一撃を入れる。

 確かに決まれば必殺だ。けど、甘いね。先ほどより一段上のスピードでそれをさらりとかわす。

 「う・そ・だろ?」

 「嘘でも幻でもないよ」

 僕はそうつぶやくと二人の後方に回り首の後ろへ手刀を当てる。そして僕の目の前には天井を向いて倒れているむさくるしい男が2人。ちゃんと首と胴体は繋がっている。

 僕は成長したのだ。と、エレナを助けた時を思い出しながら実感する。

 手加減のだけど・・・・・・。

 「勝負あり、そこまで」

 「それでは――」

 「すみません、ノーラさん。こんな奴ら奴隷としても要らないのでギルドへのプレゼントにしておいてください。それでは」

 「いえいえ、そんなわけには行きませんって。賄賂とか思われても嫌ですし」

 本当に困ったような顔をするノーラさんに、僕は迷宮のことを思い出していろいろ聞くことにした。
情報料ということで奴隷の2人を差し出したらOKとなった。

 大人は建前が大事なんだよね。

 ノーラさんの仕事が終わるのを待とうとしたら、情報提供も仕事ですと言われてすぐにいろいろ教えてくれた。

 「おにいちゃん? にんじんしゃんとかぼちゃしゃんは?」

 おっと、エレナにかけた魔法を解いておく。

 「うーん、ちょっと失敗したから宿で食べようか」

 「えぇ~、おにいちゃんにのがいい!!」

 フォークとナイフを持って机を叩くジェスチャーをする。あとナプキンがあれば完璧だ。

 「ごめんね。次は絶対に作るから、ねっ」

 うーん、とうなりながら首を左右に振る。相当迷っているようだ。

 「デザートもつけるから」

 「でじゃーと!? それならいい! エレナ、アイシュがいいの!!」

 うん、どうやらアイスが僕を救ってくれたようだ。ってまた小指を僕に向けてきた。どうやら指切りげんまんは覚えているようだ。

 「ゆびきーい、げーま、うしょちゅいたら はりしぇんぼん の~ましゅ ゆびきった」

 こうしてニコニコ顔したエレナと一緒に僕は宿へと向かう。

 「ポチ、行くよ?」

 「忘れられているかと思いました、主」

 ・・・・・・。




  **ポチの独り言**

 主? たまには私に話を振ってもいいんですよ?

 こう見えて私の知識量はあなどれませんよ?

 ノーラとかいう人間が話したことは全部知ってましたよ?

 だって、魔王種だもの。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

勇者のその後~地球に帰れなくなったので自分の為に異世界を住み良くしました~

十一屋 翠
ファンタジー
長く苦しい戦いの果てに、魔王を倒した勇者トウヤは地球に帰る事となった。 だがそこで予想もしない出来事が起きる。 なんとトウヤが強くなりすぎて元の世界に帰れなくなってしまったのだ。 仕方なくトウヤは元の世界に帰るアテが見つかるまで、平和になった世界を見て回る事にする。 しかし魔王との戦いで世界は荒廃しきっていた。 そんな世界の状況を見かねたトウヤは、異世界を復興させる為、ついでに自分が住み良くする為に、この世界の人間が想像も付かない様な改革を繰り広げてしまう。 「どうせいつかは地球に帰るんだし、ちょっとくらい住み良くしても良いよね」 これは故郷に帰れなくなった勇者が気軽に世界を発展させてしまう物語である。 ついでに本来勇者が手に入れる筈だった褒美も貰えるお話です。 ※序盤は異世界の現状を探っているので本格的に発展させるのは10話辺りからです。 おかげさまで本作がアルファポリス様より書籍化が決定致しました! それもこれも皆様の応援のお陰です! 書き下ろし要素もありますので、発売した際はぜひお手にとってみてください!

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

巻き込まれて気づけば異世界 ~その配達員器用貧乏にて~

細波
ファンタジー
(3月27日変更) 仕事中に異世界転移へ巻き込まれたオッサン。神様からチートもらってやりたいように生きる… と思ってたけど、人から頼まれる。神から頼まれる。自分から首をつっこむ! 「前の世界より黒くないし、社畜感無いから余裕っすね」 周りの人も神も黒い! 「人なんてそんなもんでしょ? 俺だって黒い方だと思うし」 そんな元オッサンは今日も行く!

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

処理中です...