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第三章
第七話 100%の証明
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十二時になった。埃をシャワーで落とした後もう一度廊下を見たりしてみたものの何も見つけることが出来ず、重いため息がでた。
「全体像が分かっただけでも、結構な収穫だ。そんなに気を落とすなって。」
満くんがそう言ってくれたものの、証拠を見つけられなかった落胆は消えなかった。他のみんなはどうだろうなんて考えながら開けた扉から恵美ちゃんと瑞樹ちゃん、ヒカルくんがキッチンで作業している様子が見える。
「ジャガイモの湯で加減はこのくらいで大丈夫ですか?」
「いいんじゃん?あーし料理とかよくわかんないけど。」
「そこの三人も手伝いに来なさい。あたくし缶詰の開け方を知らなくってよ。」
深作くんと桜子ちゃんの姿はなかった。一緒にはいないと思うけど、二人とも無事だといいな。・・・今いないってことは、そうじゃないのか?脳裏に浮かんだ嫌な妄想を頭を振って追い払う。
「天気が変わるみたいよ。外は風が強くなってきましたの。」
「嵐が来るってことか。外は比較的安全だと思っていたがそう簡単には出られなくなりそうだな。」
「ゆっきーたちなんか見つけた?だいぶ頑張ってたみたいだけど。」
「こっちはあんまり。恵美ちゃんはどう?」
「大差なしってとこ。」
適当に話しながら作業していると、桜子ちゃんが早歩きでやってきた。
「遅くなっちゃってごめん。外だと時間が分からなくって。」
桜子ちゃんが最後じゃないよ。深作くんはまだ来てない。
「あれ、そうなの?」
桜子ちゃんも加わったところで調理が終わり、僕たちは食堂に移動した。
「どうしましょう。先に食べ始めますか?」
ヒカルくんの提案に桜子ちゃんが曖昧に頷く。
「見たのは結構前だけど・・・ベンチに座ってたよ。まだそこにいるんじゃないかな。」
「僕が呼んでこようか?」
立ち上がってそういったところを務くんに止められる。何かを察したようにメガネの奥の目を光らせていた。
「俺が行こう。みんなは先に食べ始めててくれ。」
そのまま早足で食堂を出てしまった。こう言われて食べないのもあれなので先に六人で食べ始める。
「そういえば私の部屋の浴室のカーテンを知りませんか?先ほど屋根裏から移動したのですが、なくなっているみたいで。なくて困るものでもないですが、こういうところには大体あるでしょう?」
調べたとき空き部屋には何もなかったな。空き部屋だからなかったんじゃない?
「使う人がいるとも限らないもんな。」
満くんがそう言ったところで、ホールへ走りこんでくる音が聞こえた。反射的に全員が立ち上がると、息を切らせた務くんが開いた扉に手をかけていた。
「清水、清水深作が・・・」
この後に続く言葉は彼の表情から十分に理解させられた。
「亡くなったの?」
「ああ亡くなった。後頭部を鈍器でやられてた。俺が見た後すぐホログラムだ。あいつの死体は、すごく穏やかな笑みを浮かべてた!」
酷い死に方なのに。一息で言い切ったあと最後にそう付け足し、務くんはヒカルくんを見据えた。ちらりと人形に目を向けると、残りは七つになっている。
『小さな兵隊さんが8人、旅行に行ったら1人が残ると言い出して、残り7人』
また一人、いなくなった。
「ねえ、確実な『犯罪者』が居ないとしても、そろそろ確実な『被害者』が見つかりそうなものじゃない?」
この中にアリバイのある人間がいるかどうか・・・って話だよね。
「ご存じの通り、オレと務、涼の三人はずっと一緒に島を調べてた。あいつを殺せるわけがない。」
「でも個室でシャワー浴びたんでしょ・・・?『絶対』とまでは言えないんじゃ・・・。」
「それはそうなんだけど、時間もかけてなかったし難しいんじゃないかな。」
「一人で行動してたやつの方がよほど怪しい。西園寺に神楽坂、そして双葉は何をしてたんだ。」
「あーしは軽く外を周った後テラスの椅子からみんなのことを観察してたよ。深作くんの方は見えなかったからわかんないけど、さくらっちとみずきんが海を見て話してた。」
「そもそも鈍器で殴り殺すなんて、あたくしそんな力はありませんわ。」
「軽い凶器なんて『犯罪者』ならいくらでも準備できるでしょうね。」
困ったことに100%というのはとても立証が難しい。務くんや満くんが限りなくシロに思えても、シャワー中の潔白を証明することなんて・・・。
その時、僕の頭に一つの考えがひらめいた。
「ねえ、もし仮に僕たち三人の誰かがシャワーのあと外に出たんだとしたら、恵美ちゃんが見てたんじゃない?」
外に出ていないのなら、浜辺のベンチにいる深作くんは殺せない。一気に三人『被害者』の証明ができる。ところが。
「ん~ごめんだけどあーし途中でさくらっちとみずきんに話しかけにいったんだよね。内容が聞き取りずらくって。扉空いてたしその時だったら気づかないかも。十二時の・・・十五分前くらいかな。」
なんでジャストに被るんだよ・・・!
でもだんだんと見えてきた。今のところずっと一人でいたのはヒカルくんだ。一番自由に動けたはず。しかし今一つ確証が手に入らないまま、今日も夜が更けた。雨が窓を打つ音がする。恵美ちゃんも怪しいといえば怪しいような・・・?
「ってか、銃が無かったことの方が問題だと思うんだけど。部屋探して無いってことは、誰か隠してんだよね?」
恵美ちゃんの言葉に食堂が静かになる。空き部屋まで探された以上、隠し続けると犯罪者だと疑われるかもしれない。僕は銃に手をかけ、その持ち場を知らせることにした。そろそろ本格的に動き出したいところだ。
「全体像が分かっただけでも、結構な収穫だ。そんなに気を落とすなって。」
満くんがそう言ってくれたものの、証拠を見つけられなかった落胆は消えなかった。他のみんなはどうだろうなんて考えながら開けた扉から恵美ちゃんと瑞樹ちゃん、ヒカルくんがキッチンで作業している様子が見える。
「ジャガイモの湯で加減はこのくらいで大丈夫ですか?」
「いいんじゃん?あーし料理とかよくわかんないけど。」
「そこの三人も手伝いに来なさい。あたくし缶詰の開け方を知らなくってよ。」
深作くんと桜子ちゃんの姿はなかった。一緒にはいないと思うけど、二人とも無事だといいな。・・・今いないってことは、そうじゃないのか?脳裏に浮かんだ嫌な妄想を頭を振って追い払う。
「天気が変わるみたいよ。外は風が強くなってきましたの。」
「嵐が来るってことか。外は比較的安全だと思っていたがそう簡単には出られなくなりそうだな。」
「ゆっきーたちなんか見つけた?だいぶ頑張ってたみたいだけど。」
「こっちはあんまり。恵美ちゃんはどう?」
「大差なしってとこ。」
適当に話しながら作業していると、桜子ちゃんが早歩きでやってきた。
「遅くなっちゃってごめん。外だと時間が分からなくって。」
桜子ちゃんが最後じゃないよ。深作くんはまだ来てない。
「あれ、そうなの?」
桜子ちゃんも加わったところで調理が終わり、僕たちは食堂に移動した。
「どうしましょう。先に食べ始めますか?」
ヒカルくんの提案に桜子ちゃんが曖昧に頷く。
「見たのは結構前だけど・・・ベンチに座ってたよ。まだそこにいるんじゃないかな。」
「僕が呼んでこようか?」
立ち上がってそういったところを務くんに止められる。何かを察したようにメガネの奥の目を光らせていた。
「俺が行こう。みんなは先に食べ始めててくれ。」
そのまま早足で食堂を出てしまった。こう言われて食べないのもあれなので先に六人で食べ始める。
「そういえば私の部屋の浴室のカーテンを知りませんか?先ほど屋根裏から移動したのですが、なくなっているみたいで。なくて困るものでもないですが、こういうところには大体あるでしょう?」
調べたとき空き部屋には何もなかったな。空き部屋だからなかったんじゃない?
「使う人がいるとも限らないもんな。」
満くんがそう言ったところで、ホールへ走りこんでくる音が聞こえた。反射的に全員が立ち上がると、息を切らせた務くんが開いた扉に手をかけていた。
「清水、清水深作が・・・」
この後に続く言葉は彼の表情から十分に理解させられた。
「亡くなったの?」
「ああ亡くなった。後頭部を鈍器でやられてた。俺が見た後すぐホログラムだ。あいつの死体は、すごく穏やかな笑みを浮かべてた!」
酷い死に方なのに。一息で言い切ったあと最後にそう付け足し、務くんはヒカルくんを見据えた。ちらりと人形に目を向けると、残りは七つになっている。
『小さな兵隊さんが8人、旅行に行ったら1人が残ると言い出して、残り7人』
また一人、いなくなった。
「ねえ、確実な『犯罪者』が居ないとしても、そろそろ確実な『被害者』が見つかりそうなものじゃない?」
この中にアリバイのある人間がいるかどうか・・・って話だよね。
「ご存じの通り、オレと務、涼の三人はずっと一緒に島を調べてた。あいつを殺せるわけがない。」
「でも個室でシャワー浴びたんでしょ・・・?『絶対』とまでは言えないんじゃ・・・。」
「それはそうなんだけど、時間もかけてなかったし難しいんじゃないかな。」
「一人で行動してたやつの方がよほど怪しい。西園寺に神楽坂、そして双葉は何をしてたんだ。」
「あーしは軽く外を周った後テラスの椅子からみんなのことを観察してたよ。深作くんの方は見えなかったからわかんないけど、さくらっちとみずきんが海を見て話してた。」
「そもそも鈍器で殴り殺すなんて、あたくしそんな力はありませんわ。」
「軽い凶器なんて『犯罪者』ならいくらでも準備できるでしょうね。」
困ったことに100%というのはとても立証が難しい。務くんや満くんが限りなくシロに思えても、シャワー中の潔白を証明することなんて・・・。
その時、僕の頭に一つの考えがひらめいた。
「ねえ、もし仮に僕たち三人の誰かがシャワーのあと外に出たんだとしたら、恵美ちゃんが見てたんじゃない?」
外に出ていないのなら、浜辺のベンチにいる深作くんは殺せない。一気に三人『被害者』の証明ができる。ところが。
「ん~ごめんだけどあーし途中でさくらっちとみずきんに話しかけにいったんだよね。内容が聞き取りずらくって。扉空いてたしその時だったら気づかないかも。十二時の・・・十五分前くらいかな。」
なんでジャストに被るんだよ・・・!
でもだんだんと見えてきた。今のところずっと一人でいたのはヒカルくんだ。一番自由に動けたはず。しかし今一つ確証が手に入らないまま、今日も夜が更けた。雨が窓を打つ音がする。恵美ちゃんも怪しいといえば怪しいような・・・?
「ってか、銃が無かったことの方が問題だと思うんだけど。部屋探して無いってことは、誰か隠してんだよね?」
恵美ちゃんの言葉に食堂が静かになる。空き部屋まで探された以上、隠し続けると犯罪者だと疑われるかもしれない。僕は銃に手をかけ、その持ち場を知らせることにした。そろそろ本格的に動き出したいところだ。
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