タイムリミット

シナモン

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【裏話】シンデレラはお気に召さない

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『こんにちは、今日はどんなご相談で』

さわやかな音楽と笑顔と喋りで始まった。
音楽の後、画面が切り替わり、こぎれいな部屋に二人の男が立っている。
テロップも入り、しょっぱなから分かりやすい動画だ。
『はい、いつもご視聴いただきありがとうございます。慶応ボーイのコイバナ…はちょっと置いといて、恋愛指南のコーナーです。本日は、視聴者様からのご相談を聞いていきたいと思います。このチャンネルでは……』説明の後、ぼかしの入った相談者にさっそく話しかける。
『今日はどうされましたか』
『実は…友達の彼女を好きになってしまいまして』
『ああ』やってしまいましたね、というような表情に変わる。
『その二人は幼馴染で、中学から付き合ってるんですね。僕は高校で一緒になって、そいつとつるみだして、自然と彼女とも喋るようになって、よく3人で行動してました』
『ここで便宜上、その彼をAさんとさせていただきますね』配信者Kが断りを入れた。
『それで、三角関係になってしまった?』
『いや、そこまではいってないです。気づいたら僕もしょっちゅう彼女のこと考えてて…その二人、よくケンカするんですよ。彼女、泣いたりとかするんですね。そういう時に僕のところ来られて…キュンとするんです』
『そうですか。それはお辛いですね』
『ええ。いつまでこんな状態が続くんだろう、不安になりまして』
『今おいくつですか』『大学3年です』
『うーん、難しいですねえ。就職控えてらっしゃる』
『はい。どうなるんでしょうか、この先』
『仲のいい男女3人…男女が逆だともっと悲惨になりそうですが(笑)』
『はは、そうですね。こういう例えするとあれなんですけど、ベルばらのジェローデルみたいな立ち位置かなと。ご存じですか、ベルばら』
『もちろん、知ってますよ。少女漫画の金字塔ですよね』
『はあ。母親が大昔はまってて、家にあるんですよね。で、読み返して、なんか俺ジェローデルみたいだなって思ってしまって…』
人名が出るたび、人物絵が入る。
『なるほどーー。キャラにご自分を当てはめてしまってると』
『厚かましくてすみません』
『いえいえ、客観視できるのはいいことです』
『Aが、これがまた女子にモテるんですよね。男気があるというか、ケンカの原因、大体それ』
『そうですか。フェルゼンみたいな?』
『いや、それはどうかな』
此処で絵と注釈が入る。(フェルゼン=フェルセン 歴史上の人物です)
『どうしたらアンドレみたいになれますかね』
相談者は照れ臭そうに苦笑した。
『(ピー)さん!』Kは声を上げた。
『はい』
『いきなりアンドレは無理です』
相談者は無言となり間が開いた。
『ああ…そうですか』
『ベルばらは素晴らしい作品です。僕も何度も読みました。史実に絡んだドラマティックな作風は近年あまりありません。ご存じない方は是非お読みください』
ここでまたテロップが。(ベルばら=オスカル様という男装の麗人のラブストーリー。後で注釈入れておきます)
『ですが、ジェローデルがアンドレに、は無理です』
『ですよね…』
『でもまあわかりやすいと思うので、しばらく例えてお話してみますね。僕はしいて言えば、この中ではジェローデルが一番ありなんじゃないかと思います』
『本当ですか』
『もっと言うと、アンドレは途中でキャラ変してるんですよ。元はジェローデルと同じようにオスカル様を見守るやや地味目な青年でした』
『そうなんですよね』
『それが髪を切ったあたりから変わり始めた。オスカル様のせいで大けがを負ってしまうんですが、そういう目に遭っても、何があってもお前を守る! という熱いキャラになっていくんです。読者の視点がオスカル様とアンドレの禁断の恋、そっち行っちゃうんですね。オスカル様は自分から好きになったフェルゼン以外の男性からは、皆言い寄られるんですよね。この辺り、乙女ゲーの元祖ともいえそうですが』
『なるほど』
『豪華な宮廷ラブストーリーではじまるのですが途中からシリアスになっていきます…中略…結末が悲劇なので最後まで読者は引き付けられます。言ってしまえば革命ありきの大恋愛なんです。どちらにしても破滅だったわけです』
『ああ、そういう気もします。でも僕は…』
『自信がない?』『はあ』
『女子は強引な男に弱いですからね。ぶっちゃけ、それは何年たっても変わらない。ジェローデルはオスカル様にキスを迫るんですよね。彼女一瞬ぐらッと来るんだけど、これじゃないと気づくんです。オスカル様が求めていたのはアンドレの情熱的なキスだった』
『じゃあ、やっぱダメなんじゃ…』
『あのシーンも名シーンでした。熱い男に心まで奪われてしまってはもうどうしようもありません、女の子の本望でしょう』
『ですよね…。あいつ、めっちゃモテるんです。一緒に飲みに行っても女の子とすぐ仲良くなって。あ、Kさんもですよね』Kを見て苦笑した。
『いえいえ、とんでもないです。…そこでね、キーとなるのはあなたの立ち位置です。あなたはこれからどうしたいですか? Aさんから彼女を無理やり奪って恋を成就したいですか?』
『いや、それはちょっと…』
『ですよね? 辛いと言われながら、そこまでは考えてない…となると、ジェローデルの立場を貫くしかない』
『ですかー…』
『漫画の中でジェローデルは最後彼女のもとを去っていきますが、そこはあなたのお考えで自由にしていいんです。もしこのまま、この三人の関係を保って行けると思えばそうすればいい。漫画を離れてリアルになりましょう。言い方は悪いですが、もしかしたら次に彼女とAさんがひどい喧嘩でもして、あなたに…という展開があるかもしれない』
『…狙ってるみたいでヤダなあ』
『もちろん本心は抑えるんですよ。一度距離を置いてみてもいい。見守る立場を貫くんです』
『つまり、彼女を自分のものにしようとするから辛くなるのだと…』
『言い方を変えるとそうですよね。やっぱりね、あなた次第なんですよ。僕の助言としては、決してアンドレになるな、ジェローデルを貫け、です』
『はい』
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