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【前日譚】都筑家の事情
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なんだか嫌な予感がしたんだ…。
1週間もしないうちに、父より連絡があった。
上海金融街のビルの執務室として使っている部屋で人払いをして、モニターに向き合う。
実際会うのは年に数回でも画面越しではしょっちゅうやり取りしている。
ここも見晴らしがよく、壁面は全部窓。すぐそこにIMGのロゴを掲げたビルが見える。
『…これはお前だな。すぐにわかったぞ』
父が差し出したのは先日の朝のワンシーンをとらえた写真だった。もう記事となって世に出ているのだ。
「はい…」
『とっさに顔を隠したのはよいが、これはスキャンダルと取られても仕方がないぞ。有名な女優だそうだが。お前のビルの玄関だ。しかも朝』
「ええ」
『女優はうつむいているが、撮られると覚悟していたのか』
「さあ…」
『いい加減な返事だな。誰と付き合おうが自由とは言ったが、こういうのは困るぞ。私の知らぬところで』
「お父さんに紹介するまでもないと思ったので…」
『ほう? 真剣に付き合っているわけではないと?』
「ええ、まあ…」
そんなものではないか?
『…ということは今までに何人かそういう女性がいたということだな。それはそれで少し安心した。…まるっきり関心がないのではないかと不安に思っていてね』
「そんなことはないです…」
何人も…というほどじゃないがそれなりにそばに女性はいた。
『で、深い関係ではないと。つまり、結婚を考える相手ではないというのだな』
「ええ」
それははっきり言える。
『お前が女優とねえ…』
知らなかったんだ。
「同じビルに住んでいて…」
何か月か前、エレベーターで一緒になってなんとなく…。ほぼ彼女の誘導で付き合いだした。
蔡欣怡 ツァイシンイー。
女優だなんて、知らなかったんだ。
『ほう、それでは連れ込んだわけではないのだな』
「はい」
ほぼいつも上がり込まれてるんだが。
彼女は自分というかあの部屋が好きなんだろう。あの部屋で過ごす彼女自身が。
『…女性を疎んじてるわけでも、ロリータ趣味に走っているわけでもない、ということだな?』
「はい。…僕が20歳に満たない少女の後を追っかけるように見えますか?」
『はははは、それはわからんじゃないか。…仮にそうであっても、子供を産むには何ら支障はないがな』
「それはどういう意味ですか」
『お前の気に入った女性と結婚したとして、すぐに子供ができるわけではなかろう。まして女優となると子作りを拒否する可能性もあるかもしれぬ。その場合、若い女性に代理出産させるという方法もある』
なんだって!?
「いや、ちょっと待ってください、シンイーとはそういう間柄じゃないですよ。しかも、他の女性に代理出産とは…」
驚く点が二つある。
女優と結婚!?
若い娘に子供を産ませる!?
何を言いだすんだ。
無茶苦茶だ…。
「そんなに焦ってするものですか、結婚…」
父は祖父や家族にうるさくせかされていたにせよ、20代で結婚はしている。
「お父さんの時代よりも結婚年齢は上がっているんです。そこを考慮していただかないと…」
『そうなのだがね。女性と仲良くしているという話を全く聞かないものでね。同じビルの住人だったのだな』
「それは今回だけです」
もう終わりが見えている気がするが。
『…まあ、一度私の家に来なさい。お前に見せたいものがある…』
「何ですか?」
『あまり持ち出せるようなものではないんだ。会って、じっくり話そう。お前の真意と、本性を探る意味でも』
言葉もなく何秒か過ぎた。
嫌な予感しかしない。
持ちだせるものではない…
やぶさかでないとはとても言えない。
むしろはっきり拒絶したい。今すぐ。
『蔡欣怡 ツァイシンイー…。お前はこういう女性が好みなのか?』父は彼女のスナップ写真も用意している。長い黒髪、卵型の美しい顔、体、高めの身長。一緒に歩くととても目立つので外出は滅多にしない。
「いえ、そう言うわけでは…」
特にタイプなどないと思う。
かといってロリータ趣味ではない、決して。
1週間もしないうちに、父より連絡があった。
上海金融街のビルの執務室として使っている部屋で人払いをして、モニターに向き合う。
実際会うのは年に数回でも画面越しではしょっちゅうやり取りしている。
ここも見晴らしがよく、壁面は全部窓。すぐそこにIMGのロゴを掲げたビルが見える。
『…これはお前だな。すぐにわかったぞ』
父が差し出したのは先日の朝のワンシーンをとらえた写真だった。もう記事となって世に出ているのだ。
「はい…」
『とっさに顔を隠したのはよいが、これはスキャンダルと取られても仕方がないぞ。有名な女優だそうだが。お前のビルの玄関だ。しかも朝』
「ええ」
『女優はうつむいているが、撮られると覚悟していたのか』
「さあ…」
『いい加減な返事だな。誰と付き合おうが自由とは言ったが、こういうのは困るぞ。私の知らぬところで』
「お父さんに紹介するまでもないと思ったので…」
『ほう? 真剣に付き合っているわけではないと?』
「ええ、まあ…」
そんなものではないか?
『…ということは今までに何人かそういう女性がいたということだな。それはそれで少し安心した。…まるっきり関心がないのではないかと不安に思っていてね』
「そんなことはないです…」
何人も…というほどじゃないがそれなりにそばに女性はいた。
『で、深い関係ではないと。つまり、結婚を考える相手ではないというのだな』
「ええ」
それははっきり言える。
『お前が女優とねえ…』
知らなかったんだ。
「同じビルに住んでいて…」
何か月か前、エレベーターで一緒になってなんとなく…。ほぼ彼女の誘導で付き合いだした。
蔡欣怡 ツァイシンイー。
女優だなんて、知らなかったんだ。
『ほう、それでは連れ込んだわけではないのだな』
「はい」
ほぼいつも上がり込まれてるんだが。
彼女は自分というかあの部屋が好きなんだろう。あの部屋で過ごす彼女自身が。
『…女性を疎んじてるわけでも、ロリータ趣味に走っているわけでもない、ということだな?』
「はい。…僕が20歳に満たない少女の後を追っかけるように見えますか?」
『はははは、それはわからんじゃないか。…仮にそうであっても、子供を産むには何ら支障はないがな』
「それはどういう意味ですか」
『お前の気に入った女性と結婚したとして、すぐに子供ができるわけではなかろう。まして女優となると子作りを拒否する可能性もあるかもしれぬ。その場合、若い女性に代理出産させるという方法もある』
なんだって!?
「いや、ちょっと待ってください、シンイーとはそういう間柄じゃないですよ。しかも、他の女性に代理出産とは…」
驚く点が二つある。
女優と結婚!?
若い娘に子供を産ませる!?
何を言いだすんだ。
無茶苦茶だ…。
「そんなに焦ってするものですか、結婚…」
父は祖父や家族にうるさくせかされていたにせよ、20代で結婚はしている。
「お父さんの時代よりも結婚年齢は上がっているんです。そこを考慮していただかないと…」
『そうなのだがね。女性と仲良くしているという話を全く聞かないものでね。同じビルの住人だったのだな』
「それは今回だけです」
もう終わりが見えている気がするが。
『…まあ、一度私の家に来なさい。お前に見せたいものがある…』
「何ですか?」
『あまり持ち出せるようなものではないんだ。会って、じっくり話そう。お前の真意と、本性を探る意味でも』
言葉もなく何秒か過ぎた。
嫌な予感しかしない。
持ちだせるものではない…
やぶさかでないとはとても言えない。
むしろはっきり拒絶したい。今すぐ。
『蔡欣怡 ツァイシンイー…。お前はこういう女性が好みなのか?』父は彼女のスナップ写真も用意している。長い黒髪、卵型の美しい顔、体、高めの身長。一緒に歩くととても目立つので外出は滅多にしない。
「いえ、そう言うわけでは…」
特にタイプなどないと思う。
かといってロリータ趣味ではない、決して。
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