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パパ ドント クライ
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石造りの古城ーイギリスの古い様式で、鎧が何体も並び、槍やこん棒が壁に飾ってある。
「ちょうどいい、お前の決意を試したい」
「決意を試したい?」繰り返すと父親は深く頷き、
「お前は私にとって大切な存在だ。そして、この試練を通じてお前の真意を見極めたい」静かに言った。
真意…。
次の瞬間、壁が動き、武装した戦士が姿を現した。手に刀を持ち、いきなり彼に切りつけてきた。
「えええ、とものりさまー」
驚愕する間もなく、とっさに身をかわす。刀が彼の身体をかすめ、彼は危うく傷つくところだった。
(ひいいいっ、し、真剣)
牧はうろたえ、声を詰まらせた。「おやめください、総帥。なぜこのようなことをなさるのです!!」
結婚のあいさつに来たのに。どうして…。
「女を手に入れるということは相応な覚悟が必要だ。全力で守り切らねばならぬ」総帥は冷酷な口調で言った。
反論の余地などない―――。
彼は周囲を見渡し、用心しつつ、どうこの状況から脱出できるか探った。
敵が剣を振りかざすと、壁にかかっていた棒術の棍棒を手に取った。機敏に身をかわしながら、刃先に合わせる。絶体絶命の状況に立たされ、決死の覚悟でのぞむ、その姿を父は見たいのである。
それはまさに父の教え―――男たるもの強くあれ。幼いころより様々な武術を習わされてきた、その成果を父は試したいのだ。
その言葉を理解し、期待に応えなければならない。
まず自分自身を信じること。覚悟を決めた。
何度も剣を交え、息が乱れ、汗が滴る。対照的に相手は変わらず力強い太刀を向けてくる。非常に規則的な動きに思えた。わずかな間の後、戦士が襲い掛かってきた。
一か八か―――――。
彼はとっさに態を落とし、戦士の額めがけて棒を突いた。
戦士は動きを止め、うめきながら倒れた。
攻撃よりもまず自己防衛術を身につけよ――。棒術によるその会得はひとまず役に立った。
「うむ。お前の心意気はよくわかった。彼女は必ず返そう。お前の誕生日までにな」と総帥は引き続き冷酷に、息子に言い放った。
「おとうさん、話が違います!」
「…ロジャーがああなってしまったのは何か原因があるに違いない。それを少し確かめるだけだよ」
ロジャー、犬の名前であった。
父はいつの間にかモニター側に移動していた。
「もういいでしょう、こちらでしますよ、彼女の同意がないと」
「いわゆるブライダルチェックだと思いなさい。私には調べる動機がある」
「なんですって、やめてください」父の口から出たのは耳を疑う言葉だった。
「…私の父の代まで、それは普通のことだったんだよ。私もお前と同じように猛反発したがね」
「それならなぜ…」
「気にかかるからだ。必ず無事に戻そう、お前はすべきことを済ませ、家で待っていなさい」
「おとうさん!」
必死に叫びながら追いかけようとしたが、父の姿はすでに消え去っていた。彼は鉄のドアに阻まれ、外の世界に出ることができなかった。
ヘリコプターの音が遠くから聞こえ始め、やっと外に出ることができたとき、機影は既に遠くへかすんでいた。
二人は急いで上海の家に戻った。
丘の上にそびえる大きな屋敷は、荘厳な雰囲気を纏っていた。その壮大な建物は、周囲の景色を見下ろすように立ち並び、高貴な存在感を放っていた。
屋敷の内部は、高い天井と壁に飾られた壮麗な絵画や調度品で彩られ大理石の床が光を反射し、部屋全体に優雅な輝きを与えていた。
その一室、書斎のガラス戸の書棚から箱を取り出しふたを開ける。
「な、なにがはじまるのでしょう!?」
覗き込んだ牧は青ざめた。
智則は深い溜息をつき、それを取り出しながら言った。「もしものための保険だよ」
彼が手にしたその銃は、シルバーの光沢が美しく輝き、一般的なコンパクトガン、グロック26をモデルに開発された、テーザー銃。電撃銃であり、相手に一時的なショックを与えるには最適である。ただし彼のものは威力を殺傷レベルにまで調節できる。
保険…。
牧はその言葉の意味する先を案じた。
「ちょうどいい、お前の決意を試したい」
「決意を試したい?」繰り返すと父親は深く頷き、
「お前は私にとって大切な存在だ。そして、この試練を通じてお前の真意を見極めたい」静かに言った。
真意…。
次の瞬間、壁が動き、武装した戦士が姿を現した。手に刀を持ち、いきなり彼に切りつけてきた。
「えええ、とものりさまー」
驚愕する間もなく、とっさに身をかわす。刀が彼の身体をかすめ、彼は危うく傷つくところだった。
(ひいいいっ、し、真剣)
牧はうろたえ、声を詰まらせた。「おやめください、総帥。なぜこのようなことをなさるのです!!」
結婚のあいさつに来たのに。どうして…。
「女を手に入れるということは相応な覚悟が必要だ。全力で守り切らねばならぬ」総帥は冷酷な口調で言った。
反論の余地などない―――。
彼は周囲を見渡し、用心しつつ、どうこの状況から脱出できるか探った。
敵が剣を振りかざすと、壁にかかっていた棒術の棍棒を手に取った。機敏に身をかわしながら、刃先に合わせる。絶体絶命の状況に立たされ、決死の覚悟でのぞむ、その姿を父は見たいのである。
それはまさに父の教え―――男たるもの強くあれ。幼いころより様々な武術を習わされてきた、その成果を父は試したいのだ。
その言葉を理解し、期待に応えなければならない。
まず自分自身を信じること。覚悟を決めた。
何度も剣を交え、息が乱れ、汗が滴る。対照的に相手は変わらず力強い太刀を向けてくる。非常に規則的な動きに思えた。わずかな間の後、戦士が襲い掛かってきた。
一か八か―――――。
彼はとっさに態を落とし、戦士の額めがけて棒を突いた。
戦士は動きを止め、うめきながら倒れた。
攻撃よりもまず自己防衛術を身につけよ――。棒術によるその会得はひとまず役に立った。
「うむ。お前の心意気はよくわかった。彼女は必ず返そう。お前の誕生日までにな」と総帥は引き続き冷酷に、息子に言い放った。
「おとうさん、話が違います!」
「…ロジャーがああなってしまったのは何か原因があるに違いない。それを少し確かめるだけだよ」
ロジャー、犬の名前であった。
父はいつの間にかモニター側に移動していた。
「もういいでしょう、こちらでしますよ、彼女の同意がないと」
「いわゆるブライダルチェックだと思いなさい。私には調べる動機がある」
「なんですって、やめてください」父の口から出たのは耳を疑う言葉だった。
「…私の父の代まで、それは普通のことだったんだよ。私もお前と同じように猛反発したがね」
「それならなぜ…」
「気にかかるからだ。必ず無事に戻そう、お前はすべきことを済ませ、家で待っていなさい」
「おとうさん!」
必死に叫びながら追いかけようとしたが、父の姿はすでに消え去っていた。彼は鉄のドアに阻まれ、外の世界に出ることができなかった。
ヘリコプターの音が遠くから聞こえ始め、やっと外に出ることができたとき、機影は既に遠くへかすんでいた。
二人は急いで上海の家に戻った。
丘の上にそびえる大きな屋敷は、荘厳な雰囲気を纏っていた。その壮大な建物は、周囲の景色を見下ろすように立ち並び、高貴な存在感を放っていた。
屋敷の内部は、高い天井と壁に飾られた壮麗な絵画や調度品で彩られ大理石の床が光を反射し、部屋全体に優雅な輝きを与えていた。
その一室、書斎のガラス戸の書棚から箱を取り出しふたを開ける。
「な、なにがはじまるのでしょう!?」
覗き込んだ牧は青ざめた。
智則は深い溜息をつき、それを取り出しながら言った。「もしものための保険だよ」
彼が手にしたその銃は、シルバーの光沢が美しく輝き、一般的なコンパクトガン、グロック26をモデルに開発された、テーザー銃。電撃銃であり、相手に一時的なショックを与えるには最適である。ただし彼のものは威力を殺傷レベルにまで調節できる。
保険…。
牧はその言葉の意味する先を案じた。
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