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奥様、お手をどうぞ
5ジャカルタ①
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「ジャカルタがこんなに遠かったとはな…」
軍所有の輸送機で中継地まで飛び、チャーター機を乗り継いでジャカルタに到着するのに6時間以上かかった。
空港はすでに夕闇に包まれている。
「やっぱりすんなりとはいきませんね」
「2時間でつくのにな」
北スマトラ~ジャカルタ。さらにバリ島まで。
いつもと違う長い長い道のりだ。
「大変なことになってしまいました。何しろ便が込み合っておりまして」
数少ない自分の素性を知る関係者に謝罪されても、心はそこにはない。
バリ島の空港がパンク状態ですぐに飛び立てないと来た。
いかに機体を確保していようが、着陸できなければ定期便と同じだ。
到着ロビーを出て案内されたサロンのソファに腰かけ、何人か談笑していた。
大きな窓から機体が並んでいるのが見え、いつもより混んでいるのがわかる。
「今夜はここどまりか」
「…飛行機が下りれないのではねえ…隣の島に行っても仕方がないし」
「早めに伝えておいた方がいいな。色々準備もあるだろうし」
「ええ…」
まずジャカルタの宿泊先を決める。
そしてバリ島のスタッフにその旨を連絡。
牧は頭の中で段取りを組みはじめる。
「夏目さんにはなんて言いましょう」
おそらくバリ島巡りをしている最中か帰宅途中だ。
「仕方ないね、最速で明日帰れるかどうかだが、滑走路の空き待ちとだけ伝えておくか」
「…家に戻られてますかね」
「こうなってみると、とても一日では回れそうにないし、早く伝えて宿を取らせた方がいいかもな」
自由に過ごせるのは3日弱。最初はその予定だった。
そのつもりで目いっぱい行先を盛り込んだ。
それを2日弱にするとなると、ウブド~別荘間の移動時間が無駄である。
ウブド周辺で一泊した方がいい。
いや、そういうことではなくて。宿?
「お二人だけでお過ごしにならない方がいいですよね…」
(まだ何も…婚約したわけでもないし…不安ではないのですか?)
「よろしいのですか…」
もしかしてもうあきらめモードなのだろうか。信じられない発案に思えるが。
「夏目さんにちゃんとくぎを刺しておいた方が…」
「どうだろうな、夏目は僕より結婚に興味がない男だよ」
「ですけど…」
「夏目に言えば誰よりも早く済むし」
「…そうですが」通常の依頼であればの話だろう。
「夏目に任せて彼女を引き留めておけるなら、それはそれでよくないか」
(ええ? なにをどうやってひきとめるの? 夏目さんに先に手を打たれたらおしまいですよね??)
「すみません、僕はそのあたりのことはちょっと…」
(それとも夏目さんと二人がかりで奥様を追い込もうというの?)
ドキドキしてきた。いつもと違ってすんなり進んでない。確かにいつもの女性のタイプと違う。あきらかに妻の座狙いの女性方のようなギラギラを全く感じない。
不安に感じているにしても、他の男をそばに置いてどうにかなるものだろうか。
(奥様が夏目さんに…何てことになったら、一瞬で消滅してしまうかもしれないのに)
(もしかして試されているの?)
(奥様が…夏目さんになびくかどうかを…)
ないな…、そんなことをする意味があるだろうか…。
「ハロー、いかがですか、会が滅茶苦茶になってしまって失礼いたしましたわ」
日本語で話してる中に英語で飛び込んできた、
「バイダン夫人です」
そばに関係者…東欧出身のキシエル氏がいて紹介した。
夫人…。バイダン陸軍大将の細君とのことである。
薄い生地のワンピースにやはり薄手の半そでガウンのようなデザインの上着を羽織っている。
「どうも、はじめまして」
名前を交わし挨拶をした。
そういえば125名の出席者のうち半数は初日でいなくなり、火口に残った5名、ジャカルタ入りした50数名ほどが此処にいるはずだがフロアにはそんなにいなさそうに見えた。
「とんでもないことになりましたわ。でもこれがこの国の実情です」
「そのようですね」
「これからお帰りになるのですか」
「ええ」
「何かお役に立てないかしら。少しは顔がききますの」
「いえ、ありがたいのですが、着陸許可を待っているので」
「あら、帰国されるのではないのですね」
「ええ、深夜便になりそうなので、今日はあきらめてホテルを取ります」
「まあ、でしたら、良い場所へご案内しますわ。一緒にお食事などどうでしょう」
「いや、それは…」
素性が知れたのだろうか。いきなり話をしてこられて、これ以上スケジュールを崩したくはないが。
「近所のホテルで十分ですよ。お気遣いありがとうございます」
窓の向こうにそびえるホテルで時間をやり過ごすつもりなのだが。
「IMGの方だと知らずに失礼しました」
「いえ、僕は単なる傍聴人ですよ、お気になさらずに」
「そうはいきませんわ」
偶然ではなく狙って話しかけてきたのだろうか。バレないでよかったのに。
「…是非お話を聞いていただきたいわ、ミスター、これからのことも含めて」
軍所有の輸送機で中継地まで飛び、チャーター機を乗り継いでジャカルタに到着するのに6時間以上かかった。
空港はすでに夕闇に包まれている。
「やっぱりすんなりとはいきませんね」
「2時間でつくのにな」
北スマトラ~ジャカルタ。さらにバリ島まで。
いつもと違う長い長い道のりだ。
「大変なことになってしまいました。何しろ便が込み合っておりまして」
数少ない自分の素性を知る関係者に謝罪されても、心はそこにはない。
バリ島の空港がパンク状態ですぐに飛び立てないと来た。
いかに機体を確保していようが、着陸できなければ定期便と同じだ。
到着ロビーを出て案内されたサロンのソファに腰かけ、何人か談笑していた。
大きな窓から機体が並んでいるのが見え、いつもより混んでいるのがわかる。
「今夜はここどまりか」
「…飛行機が下りれないのではねえ…隣の島に行っても仕方がないし」
「早めに伝えておいた方がいいな。色々準備もあるだろうし」
「ええ…」
まずジャカルタの宿泊先を決める。
そしてバリ島のスタッフにその旨を連絡。
牧は頭の中で段取りを組みはじめる。
「夏目さんにはなんて言いましょう」
おそらくバリ島巡りをしている最中か帰宅途中だ。
「仕方ないね、最速で明日帰れるかどうかだが、滑走路の空き待ちとだけ伝えておくか」
「…家に戻られてますかね」
「こうなってみると、とても一日では回れそうにないし、早く伝えて宿を取らせた方がいいかもな」
自由に過ごせるのは3日弱。最初はその予定だった。
そのつもりで目いっぱい行先を盛り込んだ。
それを2日弱にするとなると、ウブド~別荘間の移動時間が無駄である。
ウブド周辺で一泊した方がいい。
いや、そういうことではなくて。宿?
「お二人だけでお過ごしにならない方がいいですよね…」
(まだ何も…婚約したわけでもないし…不安ではないのですか?)
「よろしいのですか…」
もしかしてもうあきらめモードなのだろうか。信じられない発案に思えるが。
「夏目さんにちゃんとくぎを刺しておいた方が…」
「どうだろうな、夏目は僕より結婚に興味がない男だよ」
「ですけど…」
「夏目に言えば誰よりも早く済むし」
「…そうですが」通常の依頼であればの話だろう。
「夏目に任せて彼女を引き留めておけるなら、それはそれでよくないか」
(ええ? なにをどうやってひきとめるの? 夏目さんに先に手を打たれたらおしまいですよね??)
「すみません、僕はそのあたりのことはちょっと…」
(それとも夏目さんと二人がかりで奥様を追い込もうというの?)
ドキドキしてきた。いつもと違ってすんなり進んでない。確かにいつもの女性のタイプと違う。あきらかに妻の座狙いの女性方のようなギラギラを全く感じない。
不安に感じているにしても、他の男をそばに置いてどうにかなるものだろうか。
(奥様が夏目さんに…何てことになったら、一瞬で消滅してしまうかもしれないのに)
(もしかして試されているの?)
(奥様が…夏目さんになびくかどうかを…)
ないな…、そんなことをする意味があるだろうか…。
「ハロー、いかがですか、会が滅茶苦茶になってしまって失礼いたしましたわ」
日本語で話してる中に英語で飛び込んできた、
「バイダン夫人です」
そばに関係者…東欧出身のキシエル氏がいて紹介した。
夫人…。バイダン陸軍大将の細君とのことである。
薄い生地のワンピースにやはり薄手の半そでガウンのようなデザインの上着を羽織っている。
「どうも、はじめまして」
名前を交わし挨拶をした。
そういえば125名の出席者のうち半数は初日でいなくなり、火口に残った5名、ジャカルタ入りした50数名ほどが此処にいるはずだがフロアにはそんなにいなさそうに見えた。
「とんでもないことになりましたわ。でもこれがこの国の実情です」
「そのようですね」
「これからお帰りになるのですか」
「ええ」
「何かお役に立てないかしら。少しは顔がききますの」
「いえ、ありがたいのですが、着陸許可を待っているので」
「あら、帰国されるのではないのですね」
「ええ、深夜便になりそうなので、今日はあきらめてホテルを取ります」
「まあ、でしたら、良い場所へご案内しますわ。一緒にお食事などどうでしょう」
「いや、それは…」
素性が知れたのだろうか。いきなり話をしてこられて、これ以上スケジュールを崩したくはないが。
「近所のホテルで十分ですよ。お気遣いありがとうございます」
窓の向こうにそびえるホテルで時間をやり過ごすつもりなのだが。
「IMGの方だと知らずに失礼しました」
「いえ、僕は単なる傍聴人ですよ、お気になさらずに」
「そうはいきませんわ」
偶然ではなく狙って話しかけてきたのだろうか。バレないでよかったのに。
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