タイムリミット

シナモン

文字の大きさ
上 下
32 / 81
奥様、お手をどうぞ

5ジャカルタ①

しおりを挟む
「ジャカルタがこんなに遠かったとはな…」

 軍所有の輸送機で中継地まで飛び、チャーター機を乗り継いでジャカルタに到着するのに6時間以上かかった。
 空港はすでに夕闇に包まれている。

「やっぱりすんなりとはいきませんね」
「2時間でつくのにな」

 北スマトラ~ジャカルタ。さらにバリ島まで。

 いつもと違う長い長い道のりだ。

「大変なことになってしまいました。何しろ便が込み合っておりまして」

 数少ない自分の素性を知る関係者に謝罪されても、心はそこにはない。
 バリ島の空港がパンク状態ですぐに飛び立てないと来た。
 いかに機体を確保していようが、着陸できなければ定期便と同じだ。
 到着ロビーを出て案内されたサロンのソファに腰かけ、何人か談笑していた。
 大きな窓から機体が並んでいるのが見え、いつもより混んでいるのがわかる。

「今夜はここどまりか」
「…飛行機が下りれないのではねえ…隣の島に行っても仕方がないし」
「早めに伝えておいた方がいいな。色々準備もあるだろうし」
「ええ…」

 まずジャカルタの宿泊先を決める。
 そしてバリ島のスタッフにその旨を連絡。

 牧は頭の中で段取りを組みはじめる。

「夏目さんにはなんて言いましょう」

 おそらくバリ島巡りをしている最中か帰宅途中だ。

「仕方ないね、最速で明日帰れるかどうかだが、滑走路の空き待ちとだけ伝えておくか」
「…家に戻られてますかね」
「こうなってみると、とても一日では回れそうにないし、早く伝えて宿を取らせた方がいいかもな」

 自由に過ごせるのは3日弱。最初はその予定だった。
 そのつもりで目いっぱい行先を盛り込んだ。
 それを2日弱にするとなると、ウブド~別荘間の移動時間が無駄である。
 ウブド周辺で一泊した方がいい。
 

 いや、そういうことではなくて。宿?

「お二人だけでお過ごしにならない方がいいですよね…」

(まだ何も…婚約したわけでもないし…不安ではないのですか?)


「よろしいのですか…」

 もしかしてもうあきらめモードなのだろうか。信じられない発案に思えるが。

「夏目さんにちゃんとくぎを刺しておいた方が…」

「どうだろうな、夏目は僕より結婚に興味がない男だよ」

「ですけど…」

「夏目に言えば誰よりも早く済むし」

「…そうですが」通常の依頼であればの話だろう。

「夏目に任せて彼女を引き留めておけるなら、それはそれでよくないか」

(ええ? なにをどうやってひきとめるの? 夏目さんに先に手を打たれたらおしまいですよね??)

「すみません、僕はそのあたりのことはちょっと…」

(それとも夏目さんと二人がかりで奥様を追い込もうというの?)

 ドキドキしてきた。いつもと違ってすんなり進んでない。確かにいつもの女性のタイプと違う。あきらかに妻の座狙いの女性方のようなギラギラを全く感じない。

 不安に感じているにしても、他の男をそばに置いてどうにかなるものだろうか。

(奥様が夏目さんに…何てことになったら、一瞬で消滅してしまうかもしれないのに)

(もしかして試されているの?)

(奥様が…夏目さんになびくかどうかを…)

 ないな…、そんなことをする意味があるだろうか…。 


「ハロー、いかがですか、会が滅茶苦茶になってしまって失礼いたしましたわ」

 日本語で話してる中に英語で飛び込んできた、

「バイダン夫人です」

 そばに関係者…東欧出身のキシエル氏がいて紹介した。

 夫人…。バイダン陸軍大将の細君とのことである。

 薄い生地のワンピースにやはり薄手の半そでガウンのようなデザインの上着を羽織っている。

「どうも、はじめまして」

 名前を交わし挨拶をした。
 そういえば125名の出席者のうち半数は初日でいなくなり、火口に残った5名、ジャカルタ入りした50数名ほどが此処にいるはずだがフロアにはそんなにいなさそうに見えた。

「とんでもないことになりましたわ。でもこれがこの国の実情です」
「そのようですね」
「これからお帰りになるのですか」
「ええ」
「何かお役に立てないかしら。少しは顔がききますの」
「いえ、ありがたいのですが、着陸許可を待っているので」
「あら、帰国されるのではないのですね」
「ええ、深夜便になりそうなので、今日はあきらめてホテルを取ります」
「まあ、でしたら、良い場所へご案内しますわ。一緒にお食事などどうでしょう」
「いや、それは…」

 素性が知れたのだろうか。いきなり話をしてこられて、これ以上スケジュールを崩したくはないが。

「近所のホテルで十分ですよ。お気遣いありがとうございます」

 窓の向こうにそびえるホテルで時間をやり過ごすつもりなのだが。

「IMGの方だと知らずに失礼しました」
「いえ、僕は単なる傍聴人ですよ、お気になさらずに」
「そうはいきませんわ」

 偶然ではなく狙って話しかけてきたのだろうか。バレないでよかったのに。

「…是非お話を聞いていただきたいわ、ミスター、これからのことも含めて」






 
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

お飾りの侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
今宵もあの方は帰ってきてくださらない… フリーアイコン あままつ様のを使用させて頂いています。

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈 
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...