タイムリミット

シナモン

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タイムリミット

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 バリ島。
 雑誌の旅行特集などではアジアリゾートで一番人気な扱いになっているけど、やっぱりハワイなんかと比べるとカジュアルじゃないし、高いお金出して行くとなるとじめっとした気候がね……。というのが私の第一印象。それに重厚な造りの家具やインテリアはかなーり好み別れると思う。
 うちの事務所は間違いなくあんまり得意としてない分野だ

 事務所にほど近い門前仲町のいつものカフェで、旅行会社から適当にさらってきたパンフやネットの画像をスマホで見ながらコーヒーをすする。
 依頼主の西越様は30代女性で、ご主人と美容院を共同経営されている。
 その美容院をバリ風に施工したのがうちの事務所で、その縁で自宅の改装も、とお願いされたのだが、その途中で奥様のバリ熱が高まり、話がまとまらず、担当が二度変わった。
 所長からすでに連絡が行っていて、奥様は夢の詰まったスクラップブックを手に私を待ち構えてるという。
 バリといえばあれでしょ? 景色と一体化したインフィニティプール。
 今回は個人宅だからさすがにそれは除外でしょうが、30代でバリ風の家なんて渋すぎ。小学生の男の子もいるのに。
 いい感じのバリの建物画像をピックアップして、とりあえずスマホにキープした。
 外に出るともう暗くなっていた。6月の終わり、あの婚活パーティから3週間くらい経つ。
 6月の花嫁にあやかって企画されたんだろうけど、結局何人くらいカップル成立したんだか?

 gu~・・・。

 歩いていて気付いたけど、食べ物何も頼んでなかった。
 何か買って帰ろうと、駅を過ぎコンビニに向かって歩き出したところだった。

「よ、九鬼ちゃんじゃないか。元気か」

 肩をたたかれそっちに振り向いた。

「ああ、おじちゃん、元気?」

 知り合いの大工さんで、堂本さん。歳は60くらいだと思う。

「今帰り?」
「うん、お腹すいたから、何か買って帰ろうかなって」
「そうかい」
「おじちゃん、仕事やめたん? なんか噂で聞いたけど」

 フリーの大工さんで現場でお世話になったのはずいぶん前だ。
 堂本さんはそれに触れられたくないのか、うまく会話をはぐらかし、

「なあ、九鬼ちゃん、ちょっと寄って行かない? もらいもんなんだけど、おかずが大量に余っててね。もらってくれるとうれしいなあ」
「え、でも」

 おじちゃんの家に?さすがにちょっとどうなの(笑)
 と思ったけど、「スジコンなんだよ。うまいんだけど大量にあってね」その言葉に空腹のお腹が答えた。
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