タイムリミット

タイムリミット

９

　もしかして私とんでもない人と食事してるのでは？
　旧華族とか超富裕層とか次元の違うレベルの……。

　彼は今まで私が見た中でダントツで綺麗に食事をする。
　ホロホロ鳥のなんとかを上手に切り分けて。ソースを絡めて。
　マナー講座の先生が逆に手本にしそうなくらいの優雅さだ。

「美味しいわ。素敵なお店ですね」

　食事もワインも美味しいし内装も景色も流れる音楽も素晴らしい。
　しかし……話題が見つからない。

「わがままを言うようですが何軒かは自分の好みを通せる店を押さえておきたくて。僕は通常のルートの食肉は食べないようにしてるんです」

　ええ、なに？

「屠殺体を口にすると生きながら殺された獣物の念が移る、父にそう聞かされて育ったものですから。……変わり者の親でしてね」

　言葉が出ない。
　意識高い系の更に上の感じかしら。
　ーーそんな飯、つまんなくない？？
　私、一昨日職場の人達とモツやらげそ天やら飲み屋で一杯やって来たところよ。

「そ、そうですか。ジャンクフードなんてとんでもありませんわね」
「いえ、そういうわけでは……。むしろ工場生産の清潔な保存食の方が安心ですよ。野生の物は菌を保有してますからね。ジビエにしても……銃殺した個体の肉は美味しくないし。あっという間に血が回ってしまいます」

　はい？

「父はもっとこだわりがひどくて。宇宙空間で宇宙飛行士が食べる保存食を常備しているんですよ」

　これは……。
　環境……思考回路が違いすぎるわ。
　お父様からしてそれじゃ、どうしようもないじゃない。
　なんなの、この人ーーー。


「あのう、実は……」


　私は切り出した。
　やはり身分の違いはどうしようもないわ。
　はっきり言っておかないと！


「私、結婚などに興味ありませんの。先日も申し上げましたが、あの会には友人に代わって仕方なく参加したのです。本当なんです。ですからあなたのような立派な方とお付き合いは出来そうにありませんわ」


　こんな格好してらんないしね！
　コスプレ～ってはしゃいでいられるのも最初の一時間だけよ。
　歩くうちにだれてしまって、化粧直しが気になる気になる。
　むしろさっさと拭き取ってしまいたい！
　仮面を被ってるようで息苦しいったら！


「それは……」

　彼はびっくりして私を見る。
　イケメンですもの、まさかこんな返事されるとは思ってもないだろう。

　ああーー、ごめんなさい、でも私はこんな女なのーー。

　わかってちょうだい！！