会長にコーヒーを 番外編

シナモン

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瀬尾くんの誰にも言えない秘密

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はっと気づいた。

そうだ今日はバレンタインだ。

「仲根さん、ちょっと休んで行かない」

「え」

「公園にでも寄ろうか 」「うん」

まっすぐ進めば家だが、道を逸れ、少し離れた公園に向かう。

「瀬尾くん、神社のお祓いっていくらするの」

「え」
「知ってるんでしょ」

個人の場合は5000円から一万円かな。
お気持ちでということになってるけど。


それは相場だが、俺がやる場合は個人的にはもらいたくない。

特別な霊能力があるでもなし、

失敗したことはないけどお祓いって言うのは気が引けるんだ。

「内容によるんだけど…仲根さん」
「ん」


周囲には静寂が漂っていた。公共施設の敷地内にある緑地は、草木が静かに風に揺れ、今は少々さみしいが季節によって様々な花々が咲き誇っている。その日は穏やかな晴れた日で、木漏れ日が地面に穏やかな光を差し込んでいる。公園内にはほとんど人がおらず、まるで自分たちだけがこの場所に存在しているかのような静寂が広がっている。

公園の一角には小さな池があり、その水面には小鳥たちが羽を休めている。風にそよぐ木々の葉音や、遠くから聞こえる鳥のさえずりが、静かな空気を彩っている。公園の中心には大きな木が立ち、その下にはベンチやテーブルが置かれている。人目を気にせず静かに過ごすことができる、穏やかな時間の流れる場所だった。

そんなところで立ち止まって彼女の目を見つめた。







「あれ、私、何してたんだろう」


仲根さんが頭を上げたのは俺の家のすぐ近くで、神社の鳥居の横でチョコを手にする女子たちの姿が視界に飛び込んできた。彼女たちは明るく笑顔で、バレンタインデーの楽しい雰囲気でいっぱいだった。中には私服に着替えている女子もいて、気持ちが伝わってくる。


「仲根さん、抜け駆けはなしね」と一人の女子が早口で言った。その言葉に仲根さんは戸惑いながら、かすかに首を傾げた。
彼女の立場に立ってみれば、確かにそうだろう。公園から神社までの間に、時間が飛ぶような出来事があったのだ。

「何なの、だから一緒に帰っただけだから……」仲根さんはやっと正気に戻り、はっきり答えた。

「じゃあ、瀬尾くん、つきあってくれてありがとう」

その言葉を聞いて、微笑みながら「うん」と答える。仲根さんの顔には、悩みが消え去り、安堵の表情が浮かんでいるように見えた。この少しの距離を歩く間に、彼女の心の中で何かが変わったようだった。


距離にしたら200Mくらいのほんの少し歩く間の秘密の出来事。ついでに仲根さんは前後の記憶も飛んでいる。
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