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コーヒーとCEOの秘密

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「逆に社屋を快適な空間に改装して、社員の仕事の効率を上げるという手もあるな」
「ここの階下に入っている オフィススペースがそうですわ。仕切りがなくだだっ広い空間にグリーンと木の大きなテーブルをランダムに並べて、まるでカフェのようでした」
「私のいるうちにそうできればな。好きに指示できるのは任期の間だけだ」
「すぐには無理でしょう。せいぜい制服廃止くらいです」
「それはなくした方がいい」
「ところがそうもいきません。社員の中には、楽でいい、と思ってる子もいるんです、実は」
「楽、とは?」
「オフィス用の私服をわざわざそろえなくていいでしょう。あの手の服が苦手な子っているんですよ」
「ああ、そういうことか。男のスーツのようなものだな」

 特等席なので夜景を独り占めしてるようなものだ。その席でめずらしく悠長にしゃべる会長の姿はとても…魅力的だ。

 こんなに喋ってくれるとありがたいのにね。あの部屋にいるときも。

 食べ物をかみしめている間は会話はストップするのでゆっくりと時は過ぎる。エビと海鮮のグリーンムース添え、ココットに盛り付け表面をあぶった一品だが、会長のものはエビがホタテに変更されている。徹底しているのだ。

「 …メディソンではランチはどうされていたんですか?」
「普通に外で食べていたよ。ときどきテイクアウトして」 
「嫌いなものははじいて?」 

 その問いに彼は苦笑で返した。

「…そんなに偏食なつもりではないんだがね。イクラなんて寿司バーに行かない限りまず出くわさないしな」

 そうか。アメリカのメニューが基準だからああなるのね。
 そう考えると、偏食というより割と普通なのかもしれない、今更知ってもどうしようもないが。

「あちらでもホテルに?」
「いや。今思うとホテル暮らしもありだったね。長く住むつもりだったから全く思ってなかった」

 あの人と結婚して、そのまま仕事を続けていたのよね、あんなことがなければ。
 こじれてしまったのは、あの人がS物産の人だから? お父様に反対されたとか。
 せっかくの好機会なのに一番聞きたいことがきけないわ…。

「すぐ近くにお住まいだったんですか?」
「近いといえば近いかな。2ブロックくらいか。歩ける距離だね。間に飲食店もたくさんあるから不自由はしなかったね」
 完全に、彼の表情は会長としてのそれではなくなっていた。見た目はいいのよ、見た目は。
「メディソンにお勤めで、すぐ近くにお住まいだったんですね…」
 やっぱりあこがれるわ、そんな暮らし。
「えらく絡むな。日本ではそんなに有名でもないのに」
「NYのビルは有名ですわ。セントラルパークに面した」
「ああ、あれか。そうらしいね。私は渉外担当だから聞かれても何も答えられないよ。デザイナーとはよく喋るが」
「素敵な建物です。ペントハウスや階のところどころに緑があふれていて」
「公園沿いだからね。色々規制があるんだろう。プラザが近いしね」
「映画の舞台になってましたよね」
「ちょうど製作予定の映画があって製作会社の連中が注文付けに来たらしいな」
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