会長にコーヒーを 番外編

シナモン

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コーヒーとCEOの秘密

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「九条会長、もっと会食をこなしてくださらないと困ります。ーーー勝手に変えないでください!」

「口に合わないんだよ、私の食事は別にしろ!」

(~~~~~~~~この偏屈野郎!)

 叫びそうになった。
 会食を直前になって副社長に無茶振りしただけでなく、どうやら昨夜のメニューがお気に召さなかったらしく、嫌いな食べ物をつらつら述べ、それらを排除せよと言う。

(子供か! 嫌なら残せばいいでしょう)

「食事に配慮するのは合理的で当然の義務だ。宗教上の理由で口にしない人間も大勢いるんだからな。この際我が社の接待の有り様も変えてはどうだろう」

 至極当然な言い方をされてムッときた。

「ここは日本ですわ。宗教コードに引っかかるケースなんて滅多にありません」

 それが世界ルールであろうとも、まず日本のやり方に慣れてもらうのが先だ。

「……信仰も嗜好も同じくらい重要ではないかね。スムーズに話を進めるために」

 少し間をおいて三津子は口を開いた。


「わかりました。出来るだけご希望に添えるようにいたします。ですが、会食は減らせません。ご健闘をお祈りします」


 ツンと睨み返す。バシッと火花が散った。見えないけど確かに散ったのだ。これはバトルだ。




「白本さん、仕事よ。会長のお皿からこの食材を抜いてちょうだい。次の会食からね」


 秘書室に戻りリストを書いたノートをデスクにバシッと叩きつけた。


「会席お嫌いだったんですね、すみません、知りませんでした」


(一流料亭ですけどね、わがままなのよ、わがまま!)


「というより日本の全てが気に入らないみたいだけど」


 割と国内では合理的先進的で通ってるT商事だが、彼はお気に召さないらしい。

(これだから帰国子女は嫌)

 彼は確か中等部の途中から渡米し30歳までアメリカにいた。合理主義が板についているのだろう。だからといって当然のようにアメリカの常識を押し付けてもらっても困る。


「予防策よ。あらかじめ排除しておけば文句のつけようがないでしょう」
「はい…」


 一体アメリカではどう過ごしていたのか。
 秘書の出すコーヒーに全く口をつけないなんて、アメリカでもありえないと思うのだが。


(むしろ中身は超日本人的じゃない?)


 石頭古狸。ならば対策も古式ゆかしく。


「完璧に包囲して封じ込めちゃいましょうよ。兵糧攻めよ」
「……」

 いいのかしらと思いつつ祥子は頷いていた。秘書室の社員も口を挟まなくなった。





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