上 下
45 / 51
緑川、人類の運命を背負う

おお、心の友よ

しおりを挟む
 宮殿を出て随分と距離はあったが、到着したのはあっという間だった。
 どうやら某ドラえもんのように神の足は地から少し浮いているようだ。
 なぜか自分もだ。

「ヘパイストス様、客人をお連れしました」

 ミドリカワはおっと驚いた。出てきたのは随分もっさりした人間くさい奴だ。

「客人? 俺にか」

「ええ、なんでも神か人間かわからない種族の者だとか」

 決して尊敬されてはない紹介のされ方だな。

「面白い道具を持っているそうで、同じ物をヘパイストス様に作っていただきたいと。ゼウス様のお申し付けです」

「ほお、なんだ、それは」

 ミドリカワはスマホを差し出す。

 電源を入れ、さっき撮った神々の画像を見せて。

「へえ~、姿を残すのか。なんのために?」

 その反応におやと思う。

 神にとっては映像を残すことはさしたる価値はないのだろうか?

 のんびりした世界だ。本もなく、絵画もなく、書写する概念がそもそもないのだろうか。


「……ということはコイツごと俺に預かれというのだな」
「ええ。では私はこれで」

 侍女はくるりと去っていった。
 それを見やって彼は小さな息を吐く。

「まあ、今日は泊まっていけ。お前、なんだっけ」
「ミドリカワです」
「おう、ミドリカワ、俺はヘパイストス。どこから来たか知らねえが、ゼウスの種の類いじゃなさそうだな」

 ゼウスの種・・どんだけヤリ○ンなんだよ。

 宮殿の中を案内される。

 宮殿は相変わらず豪勢だが、ミドリカワはこの世界に迷い込んで以来の親近感を感じずにはいられなかった。

 初っ端から美男美女続き、さっきの侍女でさえも美人女将風だった。

 ところがこのヘパイストスは日本人とはかけ離れた風貌ではあるものの、もっさり赤ら顔、髪もさもさ、姿勢も悪く足が悪いのか引きずって歩いている。

「まあ、こんなたいそうな宮殿をもらっちゃいるが、俺の棲家はこっちさ」宮殿の端のドアを開けた。
「おおっ、すげえ……」

 目を見張った。
 そこは立派な工房だった。
 ピカピカの金属類。金槌のような道具、鋭利な刃物。

「これはすげえや」

 ミドリカワの目が輝く。


「まあ俺は大体ここにいるんだ。物作るのが生きがいでよぉ~」


 え、なんだって?

「鍛冶屋だからな」

 !!なんだって!!

 再度見まわすと、

 すげえ、マテリアル勢ぞろいだ。ちょっと、触らせてほしい…。見るからに質の良さそうな金属類だ。鉱物オタでもあるミドリカワは思わず手を伸ばした。


 ーーーひっ、一つ目小僧!?


 奥からぬっと巨体が現れぎょっとした。


「キュクロプスっていうんだ。見た目はグロテスクだがおとなしい奴さ」


「よ、よろしく」

 それは、ゆるキャラなんかよりはるかにでかい。
 体を曲げて大人しげに頭を下げている。

「ミドリカワと言ってな、なんか違う世界から来たらしい」
「へえ」

「ミ、ミドリカワです」

 握手。握手は共通なんだな。でかい手…。ドキドキ…。なんだ、ここにきてこんな人外に挨拶してるとか。いい奴っぽいが。

「こいつはすげえ奴なんだ、俺よりよっぽどな」

「はは、それほどでも」巨人は頭をかく。
「なあ、ヘパの兄貴、そろそろ腹減らねえか」
「おお」

 そしてまた宮殿に案内された。


「まあ、お前も食ってきな。急なことで何もねえけど」

 だだっ広くダイニングもリビングもない同じような間取りで、大理石の上にクッションが敷かれたソファ風の椅子が囲むテーブルの上に料理が並んでいる。

 スープと肉の塊を焼いたものだ。

 うぉ、うまそーー。そういえば色々あって腹減ったなぁ~ー

「いただきます!」
「?」

 手を合わせたミドリカワに少し首を傾げ、それぞれ食べ始めた。

「お前、どこから来たんだっけ」
「じ、ジパング」
「? 聞いたことねえな」
「……物作りが盛んな世界さ…ここよりよっぽどな」
「はは、そりゃ楽しみだ。まあ、明日だな」


 へパイ…ストス? 何この物いじり繋がり。感動した!
 飯もうっま~…。


「はぁぁ~」

 その後、やっと寝床にありつけたミドリカワはうっすら目を潤ませるのだった。

 なんだよぉ、こんなところに心の友が……。

 明日……帰るのに。

 出会ってすぐに…。

 勿体無いなあ……。

 ムニャムニャ……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

会長にコーヒーを

シナモン
恋愛
私、市川香苗26歳は派遣社員として働きながら、日々を過ごしていた。ある日、ひょんなことから、会長のコーヒー係に任命される。会長は会社を立て直すために5年の任期で会長職に就任したという。なぜかその正体は社内ではあまり知られていない。気難しく、人を寄せ付けない雰囲気を持つ彼に早速コーヒーを入れるよう命じられ…。 **タイトル変更 旧密室の恋

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

警察官は今日も宴会ではっちゃける

饕餮
恋愛
居酒屋に勤める私に降りかかった災難。普段はとても真面目なのに、酔うと変態になる警察官に絡まれることだった。 そんな彼に告白されて――。 居酒屋の店員と捜査一課の警察官の、とある日常を切り取った恋になるかも知れない(?)お話。 ★下品な言葉が出てきます。苦手な方はご注意ください。 ★この物語はフィクションです。実在の団体及び登場人物とは一切関係ありません。

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

処理中です...