会長にコーヒーを 番外編

シナモン

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緑川、人類の運命を背負う

しゃちょう~

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「ハイハイハイハイーー!」
「わはははは、ミドリカーワ、いいぞーー」

 VIPルームは盛り上がり絶好調。ポセイドン、ゼウスの傍には取り巻きの美女がずらり。
 ハデスはさっさと退散していない。

 さっきスマホで見せた動画のゆるキャラのように音量スピーカーにしてダンスやオタ芸を踊る。

 緑川社長、ただ一人。



 かたや両脇に花、キャバクラや高級クラブに通うお偉いさんのように陣取る神々。


 時と場所は違えど、やることは同じ…。



 家電メーカー社長とはいえ、市場規模はまだまだペーぺー。元の世界でも、酒の席で踏ん反り返ってもてなしを受ける…なんてことは決してない。



「さあ、どうぞみなさんもご一緒に!」などと誘い出せないのがキツイところである。

 たったひとり舞台に放り出されたこの気持ち、だれがわかろうか。



 日はやっと落ちかけて、えらく長い1日に感じた。

「ご視聴ありがとうございます! さ、記念に一枚!」

 キリのいいところで威勢良く叫ぶとスマホを構えた。
 神らは何をされているか分からずキョトンとミドリカワを見つめた。

「えーと、そうですねえ、みなさん、寄り添ってニコッと笑ってもらえますか…。そうそう」

 カシャカシャ……。
 社長の身の上ながら、慣れた段取りでカメラに収める。
 社会人たるもの、媚びへつらいは誰しも通る道だ。カメラマンになりきって何枚もシャッターを切った。

「もっと笑って笑ってーー」

 ……コイツ何をしているんだ? といぶかしむも言葉につられてニコッ、そこをパシャ。

 画像を見せてやると、神は目を丸めて叫んだ。

「おお、なんだ、これは」
「面白いではないか。なんぞ、この石版は不思議な道具じゃ」

 ……こんなもんで驚くか。

 なんかこの世界、進んでいるのか退化しているのか掴めねー。

 見渡すと宮殿内部は豪華だが装飾品の類が一切なく。
 絵画も銅像も書物すら見当たらない。

 開けっぴろげな神殿造の建物はどれくらい巨大なのか見当もつかない。


「ふうむ、ワシらの姿を捉えるとはふとどきながら、興味深いのう。のう、これをヘパイストスに作らせてみてはどうじゃ」

 ゼウスはとなりのポセイドンに持ちかけた。

 ーーん?

「またお前はそのようなことを……」
「よいではないか。作り方はこの者に説明させればよい」

 見た目よく似た神だ。ヒゲ生やして貫禄あるどっしりした体型。
 きっとハデスだけ母親が違うか、やっぱドリームワールドなんだろうな、うん!

 でもそんなのどうでもいいことだ。
 時間稼ぎしてなんとか明日に命を持たせれば元の世界に帰れるはずなのだから。
 時間稼ぎ、時間稼ぎ…。

 半分夢だと思いつつ時を待つ。中々しんどい。夢なら早く覚めろ。

「のう、これはどのような使い道があるのじゃ。ヘパイストスに教えてやってくれぬか」

 さすが最高神、話はあっという間に進み、ミドリカワは侍女に付き添われ別の神の館に連れていかれた。
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