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第1話-目覚めた奴ら
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ストライキの報告を受けて動揺する職員。僕も動揺できる立場でいたいけど、そうも言っていられない。急ごしらえの対策を伝えなければ。
「しばらくの間、バスと列車の本数を増やして対応することにした。期間は数日か数週間か、数ヶ月……。乗換案内と時刻表も作り直すぞ。明後日の定期メンテナンス後に実装する」
行き先が停留所と駅しかない交通機関では若干不便だ。移動に使用できる飛翔距離上昇などのスキルを求めるユーザーも増えるだろうから、取得場所や条件も配布できるように準備しないと。
ミーティングを続けようとした際、オフィスのドアが開いた。
巨体を揺らし参上したのは熊。いや、熊のような姿をした獣人、キャラクター名はヴィオコルポス。スカーレット市のマスコットとして作成された。
丸々とした体を巻頭型の衣装で包み込み、頭部には愛らしいつぶらな瞳が鎮座している。三十を超えたおじさんが中に入っているなど、おくびにも出せない。
「トーマス、“お話”の時間だ。なんて伝えればいい?」
ヴィオコルポスが口にしたのは、定期的に行われる通知サービスのことだ。記者会見のような形で開かれ、オプション画面や公式サイトに動画として配信される。
また、抽選に当選したユーザーは会見場に入ることができ、質問コーナーの担当者であるヴィオコルポスにあらゆる質問を投げることが可能。
ゲーム内のホットな情報を伝えることが主な目的となるが、最近ではユーザーからの質問攻めによる公開処刑の色が強い。
今回のストライキの件も聞かれるだろうな。
「問題ない。あれはイベントの一つだ」
「ほんとう?」
「ああ。すぐに解決するよ」
腑に落ちない表情のまま、退出する熊。
僕は彼に大嘘をついた。公の場で質問を浴びせられる人物がいろいろ詳しいと、つい口が滑ることもある。だから彼は真実を知らない、知らされない。安全対策ってやつだね。
「よし、これでヴィオが時間を稼いでくれるぞ。あとルールのおさらいだ」オフィス内の職員を一瞥する。「各自、NPCのキャラに徹すること。プレイヤーがいない場所でも徹底するんだ」
職員のキャラクターに上下関係はない。にもかかわらず、油断した社員が上下関係を仄めかす会話を聞かれてしまい、善後策に追われた。あんなことはもう真っ平御免だ。
「ルールを破ったものは、打ち上げの飲み会で芸を披露してもらうからな。気を付けろよ」
いつまでも話し込むわけにはいかない。会議も締め括りだ。
「さあ、今日も忙しくなるぞ。この騒ぎの影響か、早朝だと言うのにログイン者数が一万人を超えた。人が増えれば問題も増える。そんな時、対応に追われるのは――」
再びオフィスのドアが開かれた。
職員からの視線の中、妃のように入室してくるのは、深紅のドレスに身を包む一人の少女。
濃密な朱に染まる長髪を揺らし、深紅の瞳は直線で僕を射抜く。幼さの残る鼻梁の下で綻ぶ赤い唇。唇の間から白い歯が覗く。
天使の笑みを向けるのはミグラトリ―の支配者、グランドマスターだった。
「おはよう、諸君! 調子はどうかな?」
「万事順調だよ」
「それはよかった。今日も一日頑張ろう」
快活な少女は激励を送り、去っていった。
僕よりほんの少し背の高い少女を見送りながら、溜息を一つ。
彼女は社員がなりすました存在ではない。正真正銘のNPCだ。僕らの仕事のサポートをする人工知能が直接彼女を操作している。
今のところ不具合の兆候は見受けられないけど、僕らに対してもグランドマスターの演技を続けている点が気になるな。社員だって教えたから敬語を使うと思ったのに。
まあ、何事も起きないのなら構わないんだけどね。
「しばらくの間、バスと列車の本数を増やして対応することにした。期間は数日か数週間か、数ヶ月……。乗換案内と時刻表も作り直すぞ。明後日の定期メンテナンス後に実装する」
行き先が停留所と駅しかない交通機関では若干不便だ。移動に使用できる飛翔距離上昇などのスキルを求めるユーザーも増えるだろうから、取得場所や条件も配布できるように準備しないと。
ミーティングを続けようとした際、オフィスのドアが開いた。
巨体を揺らし参上したのは熊。いや、熊のような姿をした獣人、キャラクター名はヴィオコルポス。スカーレット市のマスコットとして作成された。
丸々とした体を巻頭型の衣装で包み込み、頭部には愛らしいつぶらな瞳が鎮座している。三十を超えたおじさんが中に入っているなど、おくびにも出せない。
「トーマス、“お話”の時間だ。なんて伝えればいい?」
ヴィオコルポスが口にしたのは、定期的に行われる通知サービスのことだ。記者会見のような形で開かれ、オプション画面や公式サイトに動画として配信される。
また、抽選に当選したユーザーは会見場に入ることができ、質問コーナーの担当者であるヴィオコルポスにあらゆる質問を投げることが可能。
ゲーム内のホットな情報を伝えることが主な目的となるが、最近ではユーザーからの質問攻めによる公開処刑の色が強い。
今回のストライキの件も聞かれるだろうな。
「問題ない。あれはイベントの一つだ」
「ほんとう?」
「ああ。すぐに解決するよ」
腑に落ちない表情のまま、退出する熊。
僕は彼に大嘘をついた。公の場で質問を浴びせられる人物がいろいろ詳しいと、つい口が滑ることもある。だから彼は真実を知らない、知らされない。安全対策ってやつだね。
「よし、これでヴィオが時間を稼いでくれるぞ。あとルールのおさらいだ」オフィス内の職員を一瞥する。「各自、NPCのキャラに徹すること。プレイヤーがいない場所でも徹底するんだ」
職員のキャラクターに上下関係はない。にもかかわらず、油断した社員が上下関係を仄めかす会話を聞かれてしまい、善後策に追われた。あんなことはもう真っ平御免だ。
「ルールを破ったものは、打ち上げの飲み会で芸を披露してもらうからな。気を付けろよ」
いつまでも話し込むわけにはいかない。会議も締め括りだ。
「さあ、今日も忙しくなるぞ。この騒ぎの影響か、早朝だと言うのにログイン者数が一万人を超えた。人が増えれば問題も増える。そんな時、対応に追われるのは――」
再びオフィスのドアが開かれた。
職員からの視線の中、妃のように入室してくるのは、深紅のドレスに身を包む一人の少女。
濃密な朱に染まる長髪を揺らし、深紅の瞳は直線で僕を射抜く。幼さの残る鼻梁の下で綻ぶ赤い唇。唇の間から白い歯が覗く。
天使の笑みを向けるのはミグラトリ―の支配者、グランドマスターだった。
「おはよう、諸君! 調子はどうかな?」
「万事順調だよ」
「それはよかった。今日も一日頑張ろう」
快活な少女は激励を送り、去っていった。
僕よりほんの少し背の高い少女を見送りながら、溜息を一つ。
彼女は社員がなりすました存在ではない。正真正銘のNPCだ。僕らの仕事のサポートをする人工知能が直接彼女を操作している。
今のところ不具合の兆候は見受けられないけど、僕らに対してもグランドマスターの演技を続けている点が気になるな。社員だって教えたから敬語を使うと思ったのに。
まあ、何事も起きないのなら構わないんだけどね。
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