くるみの木のパン屋さん3

雪村みおり

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 ゆいかちゃんは、横の高めの位置いちで二つにしばったかみをゆらして、もじもじしています。
 やがて、ぺこっと頭を下げると、

「この前はひどいこと言って、ごめんなさい」

 と、あやまりました。

「私、あまりパンを食べたことがないの。ママが買ってくれないから。この前は、ママにないしょでお店に来たの。久しぶりにパンを食べたら、おいしくて……。あまりにおいしかったから、いつも食べてるみんながうらやましくて、くやしくて、ついいじわる言っちゃったの」

「そっか。まずかったわけじゃないのね」

 くるみおばさんの心はきゅうに、ぽかぽかあたたかくなりました。


「ゆいかちゃん。ママにも春のパンの味、食べてもらってね。今度もっとおいしい元気なパンをいて、待ってるわよ!」

 くるみおばさんはそう言って、ふくろにパンをいくつか入れ、ゆいかちゃんにわたしました。
 ゆいかちゃんは、うれしそうにうなずきます。

 くるみおばさんには、小さなこえですが、「よかったですね」とささやく声が、たしかに聞こえました。


 くるみおばさんの心にも、ようやく春がやってきました。
 モモザクラの満開まんかいも、もうすぐ。

「今度、どんなパンをこうかしら」

 次々つぎつぎく花のように、くるみおばさんの頭の中にも、すてきなアイデアがかんできました。



(おわり)
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