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混乱
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「きゃー!!」
「ひい!死んでる!」
「誰か!」
使用人の叫びを聞いたアプソは走った。ソロモンの執務室に近い貴賓室からの叫びに嫌な予感しかせず集まっていた使用人をかき分け部屋に飛び込んだ。
アプソの目にはソファに横たわる男の死体があった。
「エルマリア様!」
アプソは寝室に向かって走り荒々しく扉を開くと寝台の上に盛りあがりを見つけ、動かぬそれに静かに近づき布団を捲った。男の背中と顔が見え、理解するまで時間がかかった。
「…うわー!…ル…ルイス?」
「アプソ!」
「ハウンド様!エルマリア様の寝台でルイスが…死んで…います」
アプソはそう言いながら浴室へ駆けた。浴室にもエルマリアの姿はなかった。
「使用人は入るな!騎士を!ビズラとトラッカーを呼べ!」
ハウンドの叫びに使用人が走り、顔が青ざめたソロモンが部屋に入った。
「旦那様、エルマリア様はいません…下人に落としたルイスが…」
静かに近づくソロモンの目に、あらぬ方向を向く顔とずり下げられたトラウザーズが映る。
「旦那様」
アプソの静かな声は寝台脇の床にあり、ソロモンはふらふらと歩きながら近づき見ると破られたエルマリアのドレスがあった。
「なにが起こった…?エルマリアはどこへ…シモンズへ逃げたのか?」
「ザザとカイナの姿もありません。夕食には手もつけられていません」
アプソの言葉の後、トラッカーが部屋に入った。
「ビズラは?」
「旦那様、団長は門を閉ざすよう各所へ命令を出しています」
「トラッカー、死体を見ろ」
ソロモンの命令にトラッカーは居室のソファに横たわる男を検分する。
「首を折られていますね…鈍器で殴られたか?」
「トラッカー、向こうにもある」
ソロモンはトラッカーを伴い寝台脇に立つ。
「これは…ザザの仕業としか思えません」
人の首を反転させるほどの力を持つ者がザザしか思い当たらなかった。
「ああ…」
ソロモンもそう考えていた。トラッカーがルイスの体を回すと顔が隠れ陰茎が現れた。
「吐き出してはない…旦那様…エルマリア様は襲われ…ザザが助けに入りこいつらを殺した」
「トラッカー、そう言いきる理由があるのか?」
「はい。牢にいるケリーがザザを呼んだのです。重要な情報があるからザザをと…私はその場にいましたがケリーは名を言うだけで…ザザはすぐに牢から離れ…ケリーはエルマリア様からザザを離す役目を負った。扉の握りが壊されていました…ザザが壊したのでしょう。物を使って壊したなら音で誰かが気づきます」
ソロモンは寝台の端に腰を下ろす。立っていられないほど困った事態になった。
「なぜ…エルマリアは私を呼ばなかった…?」
「ザザとカイナを連れてシモンズへ向かったのでしょうか…」
ハウンドの言葉にソロモンはうなだれる。
「トラッカー…フェリシアの扉の前に騎士を二人配置しろ。ケリーの後釜を拷問していい…話を聞け」
「フェリシア様の指示と?」
「わからないが…それなら私は自分の行いを悔いる…善行と思った行いを…真実が知りたい」
「承知しました」
その時、部屋にレイモンドが走り込んできた。
「エルマリア!エルマリア!父上!エルマリアはどこに!?」
レイモンドの視線はソロモンの後ろに横たわる異様な死体に向けられる。
「エルマリアは消えた…この男が襲ったようだな…」
「消えた!?そんな馬鹿な!」
レイモンドがソロモンに近づき迫ったときルイスのトラウザーズのポケットから光る物が滑り落ちた。それをアプソが拾う。
「エルマリア様の物か…?盗みに入って襲った…?」
アプソの呟きにレイモンドは見覚えのある宝飾品に息が止まった。
「あ…あ…」
「なんだ?レイモンド」
レイモンドの表情からアプソは持ち主を察する。
「レイモンド様…これが誰の物か知っているのですね?」
「俺が…フェリシアに贈ったものだ…」
ソロモンは頭を抱えた。
「信じられん!なんてことだ!」
「父上!こいつがフェリシアから盗んだものかもしれない!」
「この男が誰だか理解してそんなことを言っているのか!?フェリシアを慕っていた男だぞ!なぜ…こんなことができる…?フェリシアはフローレンを破滅させるつもりか…」
「旦那様!」
「ビズラ!」
フローレン騎士団団長ビズラが部屋に入る。
「エルマリアが…使用人を二人連れて消えた。お前は出入り口となる各所へ行ったとトラッカーから聞いた…エルマリアの姿を見た者はいたか?」
「いいえ。エルマリア様とザザは目立ちます。出入りしていれば誰かの記憶に…のこ……」
ビズラは暗い外へ視線を移し、言葉を止め思いあたったことを告げる。
「今日は野菜屋の荷馬車が来た…トラッカー!裏口を入念に調べろ!荷馬車を見た者に話を聞け」
「は!」
走り去るトラッカーの背をぼんやり見つめたソロモンは深く息を吐き、これからのことを考える。
「ハウンド…ジェイコブをフランセー侯爵家へ送る…全てが終わるまで穏やかに過ごさせたい」
「…旦那様」
神妙な顔のハウンドにレイモンドは慌てる。
「俺がシモンズへエルマリアを迎えに行きます!子爵に頭を下げて…エルマリアを…」
「レイモンド…黙れ」
ソロモンはレイモンドに契約書の一文を話してもいいと思っていたが、この場には人が多すぎた。
「シモンズ子爵家にはもう少し調べてから誰かを向かわせる」
エルマリアの意思に反してザザが動いた可能性のほうがソロモンには言い訳としてよかった。
「エルマリア様の宝飾品も貴金属もないですね…ドレスは多すぎて何が無いのかわかりません」
アプソの言葉にハウンドが続く。
「ザザがエルマリア様を連れ出したことは確実ですが…シモンズへ戻るならば誰にも見られず動くことはないのでは?旦那様とレイモンド様に見られなければ出ていけた…ですが今のところ使用人からはなにも…」
「そうだな…エルマリアは使用人に止められても出られる…ビズラ」
「は!」
「最初にこの部屋に入った者になにを見たのか聞いてこい」
離れるビズラから横たわる死体に視線を移したソロモンはすでに諦めていた。
「レイモンド、フローレン侯爵家は没落する。もう…おしまいだ」
「父上」
「フェリシアを引き取らなければよかった…私の選択がフローレンを終わらせたんだな…ふ…分不相応な爵位だった…エルマリアは襲われて怖かったろうな」
ソロモンはフローレンに嫁いだエルマリアを憐れんだ。
「…俺のせいです」
レイモンドの震える声にソロモンは首を振る。
「始まりは私だ」
「違う!!」
レイモンドの大きな声にソロモンの体は跳ねた。
「レイモンド…?」
うつむいて震えるレイモンドの様子にアプソは寝室から騎士を出し扉を閉める。
「…この…前…フェリシアが…使用人に扮して俺の浴室へ」
「なに…?」
「フェリシアが俺を嘘つきと…嘘つきはお前だろうと…ランディ・ランドに触れられたのは嘘だろうと言ったら…フェリシアの様子が」
ソロモンは立ち上がりレイモンドの肩を掴む。
「フェリシアがそんなことまでしてお前に近づいただと?使用人に扮して…?はは!下級使用人は全て解雇だ!退職金も渡さずにな!給金を払えないフェリシアに付いていけばいい!」
ソロモンの叫びのあと部屋の扉が叩かれ、ビズラが戻った。
「旦那様、野菜屋の主人が昏倒させられた状態で見つかりました」
「その荷馬車に乗って出たのか…」
「はい。野菜屋の主人はなにも覚えていないと…背後から襲われたのでしょう」
ソロモンはこれからどう動けばいいのか考えるため目蓋を下ろした。
「ひい!死んでる!」
「誰か!」
使用人の叫びを聞いたアプソは走った。ソロモンの執務室に近い貴賓室からの叫びに嫌な予感しかせず集まっていた使用人をかき分け部屋に飛び込んだ。
アプソの目にはソファに横たわる男の死体があった。
「エルマリア様!」
アプソは寝室に向かって走り荒々しく扉を開くと寝台の上に盛りあがりを見つけ、動かぬそれに静かに近づき布団を捲った。男の背中と顔が見え、理解するまで時間がかかった。
「…うわー!…ル…ルイス?」
「アプソ!」
「ハウンド様!エルマリア様の寝台でルイスが…死んで…います」
アプソはそう言いながら浴室へ駆けた。浴室にもエルマリアの姿はなかった。
「使用人は入るな!騎士を!ビズラとトラッカーを呼べ!」
ハウンドの叫びに使用人が走り、顔が青ざめたソロモンが部屋に入った。
「旦那様、エルマリア様はいません…下人に落としたルイスが…」
静かに近づくソロモンの目に、あらぬ方向を向く顔とずり下げられたトラウザーズが映る。
「旦那様」
アプソの静かな声は寝台脇の床にあり、ソロモンはふらふらと歩きながら近づき見ると破られたエルマリアのドレスがあった。
「なにが起こった…?エルマリアはどこへ…シモンズへ逃げたのか?」
「ザザとカイナの姿もありません。夕食には手もつけられていません」
アプソの言葉の後、トラッカーが部屋に入った。
「ビズラは?」
「旦那様、団長は門を閉ざすよう各所へ命令を出しています」
「トラッカー、死体を見ろ」
ソロモンの命令にトラッカーは居室のソファに横たわる男を検分する。
「首を折られていますね…鈍器で殴られたか?」
「トラッカー、向こうにもある」
ソロモンはトラッカーを伴い寝台脇に立つ。
「これは…ザザの仕業としか思えません」
人の首を反転させるほどの力を持つ者がザザしか思い当たらなかった。
「ああ…」
ソロモンもそう考えていた。トラッカーがルイスの体を回すと顔が隠れ陰茎が現れた。
「吐き出してはない…旦那様…エルマリア様は襲われ…ザザが助けに入りこいつらを殺した」
「トラッカー、そう言いきる理由があるのか?」
「はい。牢にいるケリーがザザを呼んだのです。重要な情報があるからザザをと…私はその場にいましたがケリーは名を言うだけで…ザザはすぐに牢から離れ…ケリーはエルマリア様からザザを離す役目を負った。扉の握りが壊されていました…ザザが壊したのでしょう。物を使って壊したなら音で誰かが気づきます」
ソロモンは寝台の端に腰を下ろす。立っていられないほど困った事態になった。
「なぜ…エルマリアは私を呼ばなかった…?」
「ザザとカイナを連れてシモンズへ向かったのでしょうか…」
ハウンドの言葉にソロモンはうなだれる。
「トラッカー…フェリシアの扉の前に騎士を二人配置しろ。ケリーの後釜を拷問していい…話を聞け」
「フェリシア様の指示と?」
「わからないが…それなら私は自分の行いを悔いる…善行と思った行いを…真実が知りたい」
「承知しました」
その時、部屋にレイモンドが走り込んできた。
「エルマリア!エルマリア!父上!エルマリアはどこに!?」
レイモンドの視線はソロモンの後ろに横たわる異様な死体に向けられる。
「エルマリアは消えた…この男が襲ったようだな…」
「消えた!?そんな馬鹿な!」
レイモンドがソロモンに近づき迫ったときルイスのトラウザーズのポケットから光る物が滑り落ちた。それをアプソが拾う。
「エルマリア様の物か…?盗みに入って襲った…?」
アプソの呟きにレイモンドは見覚えのある宝飾品に息が止まった。
「あ…あ…」
「なんだ?レイモンド」
レイモンドの表情からアプソは持ち主を察する。
「レイモンド様…これが誰の物か知っているのですね?」
「俺が…フェリシアに贈ったものだ…」
ソロモンは頭を抱えた。
「信じられん!なんてことだ!」
「父上!こいつがフェリシアから盗んだものかもしれない!」
「この男が誰だか理解してそんなことを言っているのか!?フェリシアを慕っていた男だぞ!なぜ…こんなことができる…?フェリシアはフローレンを破滅させるつもりか…」
「旦那様!」
「ビズラ!」
フローレン騎士団団長ビズラが部屋に入る。
「エルマリアが…使用人を二人連れて消えた。お前は出入り口となる各所へ行ったとトラッカーから聞いた…エルマリアの姿を見た者はいたか?」
「いいえ。エルマリア様とザザは目立ちます。出入りしていれば誰かの記憶に…のこ……」
ビズラは暗い外へ視線を移し、言葉を止め思いあたったことを告げる。
「今日は野菜屋の荷馬車が来た…トラッカー!裏口を入念に調べろ!荷馬車を見た者に話を聞け」
「は!」
走り去るトラッカーの背をぼんやり見つめたソロモンは深く息を吐き、これからのことを考える。
「ハウンド…ジェイコブをフランセー侯爵家へ送る…全てが終わるまで穏やかに過ごさせたい」
「…旦那様」
神妙な顔のハウンドにレイモンドは慌てる。
「俺がシモンズへエルマリアを迎えに行きます!子爵に頭を下げて…エルマリアを…」
「レイモンド…黙れ」
ソロモンはレイモンドに契約書の一文を話してもいいと思っていたが、この場には人が多すぎた。
「シモンズ子爵家にはもう少し調べてから誰かを向かわせる」
エルマリアの意思に反してザザが動いた可能性のほうがソロモンには言い訳としてよかった。
「エルマリア様の宝飾品も貴金属もないですね…ドレスは多すぎて何が無いのかわかりません」
アプソの言葉にハウンドが続く。
「ザザがエルマリア様を連れ出したことは確実ですが…シモンズへ戻るならば誰にも見られず動くことはないのでは?旦那様とレイモンド様に見られなければ出ていけた…ですが今のところ使用人からはなにも…」
「そうだな…エルマリアは使用人に止められても出られる…ビズラ」
「は!」
「最初にこの部屋に入った者になにを見たのか聞いてこい」
離れるビズラから横たわる死体に視線を移したソロモンはすでに諦めていた。
「レイモンド、フローレン侯爵家は没落する。もう…おしまいだ」
「父上」
「フェリシアを引き取らなければよかった…私の選択がフローレンを終わらせたんだな…ふ…分不相応な爵位だった…エルマリアは襲われて怖かったろうな」
ソロモンはフローレンに嫁いだエルマリアを憐れんだ。
「…俺のせいです」
レイモンドの震える声にソロモンは首を振る。
「始まりは私だ」
「違う!!」
レイモンドの大きな声にソロモンの体は跳ねた。
「レイモンド…?」
うつむいて震えるレイモンドの様子にアプソは寝室から騎士を出し扉を閉める。
「…この…前…フェリシアが…使用人に扮して俺の浴室へ」
「なに…?」
「フェリシアが俺を嘘つきと…嘘つきはお前だろうと…ランディ・ランドに触れられたのは嘘だろうと言ったら…フェリシアの様子が」
ソロモンは立ち上がりレイモンドの肩を掴む。
「フェリシアがそんなことまでしてお前に近づいただと?使用人に扮して…?はは!下級使用人は全て解雇だ!退職金も渡さずにな!給金を払えないフェリシアに付いていけばいい!」
ソロモンの叫びのあと部屋の扉が叩かれ、ビズラが戻った。
「旦那様、野菜屋の主人が昏倒させられた状態で見つかりました」
「その荷馬車に乗って出たのか…」
「はい。野菜屋の主人はなにも覚えていないと…背後から襲われたのでしょう」
ソロモンはこれからどう動けばいいのか考えるため目蓋を下ろした。
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