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アンダル
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「隣領との境に学舎を建てる案も出てきたけれどそうなると馬車が必要になる。先のことを考えると小さくてもスノー男爵領に建てたほうがいいだろうと決めたんだ」
「私が一人で運営できるか少し不安ですが」
「いや、それは手伝う者を雇うよ。授業に加えて運営まで…そんな激務ではレグルスに戻ってしまうだろう?」
「ふふ、そんなこと…ないとは言えませんわね」
「ははは。リリアン、レグルスの視察団と領主を労うために王家から配られたワインはどうだい?」
「美味しいわ」
リリアンの返事にマリア嬢もワインを口に含み頷いている。
レグルスの視察団の中からスノー男爵領に割り当てられたのは冷たい顔立ちだが聡明そうな雰囲気を持つ若い令嬢だった。伯爵家の出と聞いて我が儘な一面があるかと思ったが、建設予定地の視察も文句を言わずに付き合い、平民の大工の話もしっかりと聞いていた。彼女に用意された宿は貴族には質素なものだったから我が家に招待した。久しぶりの来客にリリアンの様子次第では宿へ送るかと考えていたが落ち着いているようだ。
リリアンはジェイドの祝いの会に行けなかったことに怒りを見せたが、その後は何を考えたのか寝台から起き上がりたいと体を動かし、庭へ出るようになった。今まで自棄になったように努力をしなくなったリリアンが祝いの会から意欲を見せ始めた。そのことになぜか安堵よりも不安が勝った。
「ご子息は学園から戻ってきますのね?」
「ええ…王都の友と会いづらくなると…だが仕方ないことと理解している」
「学園は楽しいもの、戻ることのできない時だと…あの頃は責任など関係ない子供だったと…兄が言っていました」
マリア嬢の言葉は僕のことを言ってはいないが突き刺さるものがある。
「あなたは学園で教師の勉強を?」
黙って食事をしていたリリアンの質問に視線を向けると緑色の瞳はマリア嬢をひたと見ていた。
「私は教師を雇い勉強し、医学園に入学しました。ですが…二年で退学しました」
「なにか不祥事でも起こしたのかしら?それとも勉強についていけない…」
「リリアン」
無神経なことを面と向かって尋ねるリリアンに苛立つ。今のところ僕はマリア嬢に悪印象を持っていない。スノー男爵領の教師になる彼女とは長い付き合いになるのだから上手く付き合いたいが、そのことをリリアンは理解しているのか?
「実のところ、情けない話ですが…医師になるためには人体の解剖というものがありまして…その授業で失神しましたの」
恥ずかしそうに話すマリア嬢に頬が緩み、その場を想像してしまった。
「ははっ、苦手だったんだね」
「そういうことです…なんとか克服しようと挑みましたが……苦労して入学した医学園は断念しました。ですが勉強したことは無駄にはならず教師の資格は取れました」
医学園は難関と聞く。マリア嬢の言った苦労は本当のことだろう。明るく話しているが無念だったろうな。
「前向きだね。シャルマイノスで教師をして…よかったと思ってくれるよう私も奮闘するよ」
「はい。よろしくお願いいたします」
きつい眼差しだが微笑むと柔らかくなる。その変化に胸が跳ねた。
「男爵領には楽しいことはないのよ。王都に邸を持つ家は夜会を催したり街に買い物に行ったり…でもここは若い令嬢にはつまらない場所よ」
「レグルスでも夜会は頻繁に行われますが、私はあまり興味がありませんでした。今回の視察では数日間は観光にあてられるので王都の劇場や王宮の開放庭園を訪ねようと思います」
「…そう…」
不機嫌な様子のリリアンに嫌な予感しかなく、マリア嬢の宿泊は宿にしようと決めた。
王都の劇場…確か今の演目はレグルスから招かれた歌劇団が演じる王子と平民の恋物語だ。僕らの話が他国まで伝わり、少し形を変えて演目にまでなっているとカイランから教えてもらった。そんなことをリリアンが知れば連れていけとねだるだろう。
「ところでレグルスのターナー伯爵家から使用人を連れてくるのかな?」
伯爵令嬢には世話をする使用人が必要だ。大きくはなくても邸も用意しなければならない。
「シャルマイノス国王陛下の許しを得ることができれば…」
レグルスはシャルマイノスの貴族を攻撃した。それは同盟に亀裂を入れた。ジェイドはわずかな懸念も見過ごさないか…
「国王陛下はアンダルの兄よ。アンダルの一言で叶うわよ」
リリアンの言葉に声を失う。今の僕は王族の証しなど金髪碧眼しかないただの男爵だといつになったら理解できるんだ。
「個人的な会話は…王宮を出たあと一度もない」
僕はリリアンにいい加減悟ってくれと思いを乗せて見つめる。だが、緑の瞳は怯むことなく見つめ返した。その視線に背筋が粟立つ。そんな僕の様子など理解していないリリアンは硝子の器に残ったワインを飲み干し、音がなるほど机に置いた。
「アンダルが積極的に近づいたら国王陛下も話すんじゃない?ハインス公爵邸にはそうして滞在したのでしょう?」
「あれは…」
カイランが…ゾルダークが襲撃されたことにチャーリーが関わっているかもしれなかったからだ…無我夢中だったからだ。
「夫人、シャルマイノス国王陛下の忙しさは謁見した私にも伝わりましたわ」
「ジェ…陛下は…元気だったかな?」
ジェイドの多忙はカイランの手紙にも書かれていた。ゾルダークが開発した火銃を本格的に騎士団に取り入れるために専用部隊を編成したり射撃場を作ったり…王太子の婚約者も新たに決めなければならない。
「眉間のしわが深く刻まれていましたわ」
「…そうか…」
祝いの会では穏やかな様子だったが…ジェイドの背負う重責は相当なものだろうな。
「アンダルは弟よ!父親である前国王は手を差し伸べなかったけど兄弟なら話は変わるわ!チャーリーが戻ったらハインスへ行くの!」
僕もマリア嬢もリリアンの荒げた声に驚く。
「リリアン…どうした…」
「…オルガ…部屋に戻るわ」
激昂したと思ったら、急に静かな声を出して部屋へ戻ると言うリリアン。
数ヶ月前から意識を変えて体力をつけようと訓練しているのは…まさかと思っていたが…王都に行くためなのか?
オルガに押されてリリアンが食堂から消え、マリア嬢と二人きりになる。
「妻が取り乱して…すまない」
「いえ、国王陛下から聞いていましたから」
僕は平然を装えずマリア嬢を見る。
「夫人の心身が不安定だと…ですが男爵は真面目に統治していると…立派だと」
目蓋をきつく閉じ、上段から見下ろしていた碧眼を思い出す。きっとジェイドはスノー男爵領に派遣されるマリア嬢を個別に呼び出し話したんだろう。
「よろしく頼むと言われたのは私だけです」
目蓋を開けてマリア嬢を見ると少し微笑み軽く頷いた。
「…そう…か…」
ジェイド…ルーカスから聞いたろうに…許さないと…それでも僕を案じているのか。ジェイドは悪い奴じゃない…ミカエラへの愛がおかしくさせたんだ。そんなことは僕もわかっているが…今が幸せとは言いがたくて…憎む相手をジェイドにしなければ…
「スノー男爵」
強ばる体の力を抜いてマリア嬢を見る。
「お食事をありがとうございました」
「いや」
リリアンの様子がおかしいならマリア嬢は宿に泊めたほういい。御者を待たせておいてよかった。 立ち上がったマリア嬢と共に食堂を出て、御者を呼ぶ。
「明日は王都へ向かうのかい?」
「はい」
マリア嬢はその後レグルスに戻り、学舎ができしだいシャルマイノスに移住する予定だ。
「…国王陛下に手紙を書くよ。スノー男爵領は人口が多いと言えない…マリア嬢も不安だろう?」
二十歳にもならない令嬢が他国に一人で渡ることに不安がないわけない。
「助かります。実は…」
マリア嬢は言いにくそうに口ごもった。もしかしたらリリアンに対して気分を害したろうか?若い彼女はやはり田舎は嫌だと思ったのか?
「言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってくれ」
僕の言葉に困ったような顔をした後、口を開けた。
「私の生家はヘルナン公爵派でした」
ヘルナン…ゾルダークを襲った…エイヴァ・レグルスの産み母の生家…滅門されたヘルナン公爵家か… マリア嬢の申し訳なさそうな顔に意味を理解した。紅眼を奪うためにゾルダーク公爵を襲い、邸にも火砲を放った凶行。レグルス王国に貴族家は多い。それゆえにしがらみや派閥があるだろう。ターナー伯爵家はヘルナン派だったか…だから…レグルスで肩身の狭い思いをしたか…シャルマイノスでも…それを恐れている?
「紅眼を娶る…ゾルダークはその意味を理解しているよ」
ゾルダーク公爵と僕の関係を知っているんだな。
「ヘルナン公爵の独断で非道な所業がなされたと聞いたよ」
結局手を貸したグリーンデル侯爵家もろとも…子供だろうと斬首されたと…
「ヘルナン公爵派の家は多くて…我が国の国王陛下は…あからさまに冷遇しています」
牽制…シーヴァ・レグルスはヘルナンの思惑と関係なくてもその派閥に属していたというだけで態度を決めたんだろう。今後のため…
「冷遇と言っても夜会などで声をかけない…夫人は茶会に呼ばれない…国が混乱するようなものではないのです。陛下の意図を理解できない者は不満があるでしょうが、社交界…貴族ならば仕方のないことです」
「私がゾルダーク公爵と友人だと知っているんだね?」
頷くマリア嬢の肩に触れるとうつむいていた顔を上げた。
「君の生家の事情は気にならないよ」
マリア嬢の背景を調べないわけがない。知っていてもシャルマイノス王国に派遣されたんだ。 安心したように頷くマリア嬢に微笑む。
「私が一人で運営できるか少し不安ですが」
「いや、それは手伝う者を雇うよ。授業に加えて運営まで…そんな激務ではレグルスに戻ってしまうだろう?」
「ふふ、そんなこと…ないとは言えませんわね」
「ははは。リリアン、レグルスの視察団と領主を労うために王家から配られたワインはどうだい?」
「美味しいわ」
リリアンの返事にマリア嬢もワインを口に含み頷いている。
レグルスの視察団の中からスノー男爵領に割り当てられたのは冷たい顔立ちだが聡明そうな雰囲気を持つ若い令嬢だった。伯爵家の出と聞いて我が儘な一面があるかと思ったが、建設予定地の視察も文句を言わずに付き合い、平民の大工の話もしっかりと聞いていた。彼女に用意された宿は貴族には質素なものだったから我が家に招待した。久しぶりの来客にリリアンの様子次第では宿へ送るかと考えていたが落ち着いているようだ。
リリアンはジェイドの祝いの会に行けなかったことに怒りを見せたが、その後は何を考えたのか寝台から起き上がりたいと体を動かし、庭へ出るようになった。今まで自棄になったように努力をしなくなったリリアンが祝いの会から意欲を見せ始めた。そのことになぜか安堵よりも不安が勝った。
「ご子息は学園から戻ってきますのね?」
「ええ…王都の友と会いづらくなると…だが仕方ないことと理解している」
「学園は楽しいもの、戻ることのできない時だと…あの頃は責任など関係ない子供だったと…兄が言っていました」
マリア嬢の言葉は僕のことを言ってはいないが突き刺さるものがある。
「あなたは学園で教師の勉強を?」
黙って食事をしていたリリアンの質問に視線を向けると緑色の瞳はマリア嬢をひたと見ていた。
「私は教師を雇い勉強し、医学園に入学しました。ですが…二年で退学しました」
「なにか不祥事でも起こしたのかしら?それとも勉強についていけない…」
「リリアン」
無神経なことを面と向かって尋ねるリリアンに苛立つ。今のところ僕はマリア嬢に悪印象を持っていない。スノー男爵領の教師になる彼女とは長い付き合いになるのだから上手く付き合いたいが、そのことをリリアンは理解しているのか?
「実のところ、情けない話ですが…医師になるためには人体の解剖というものがありまして…その授業で失神しましたの」
恥ずかしそうに話すマリア嬢に頬が緩み、その場を想像してしまった。
「ははっ、苦手だったんだね」
「そういうことです…なんとか克服しようと挑みましたが……苦労して入学した医学園は断念しました。ですが勉強したことは無駄にはならず教師の資格は取れました」
医学園は難関と聞く。マリア嬢の言った苦労は本当のことだろう。明るく話しているが無念だったろうな。
「前向きだね。シャルマイノスで教師をして…よかったと思ってくれるよう私も奮闘するよ」
「はい。よろしくお願いいたします」
きつい眼差しだが微笑むと柔らかくなる。その変化に胸が跳ねた。
「男爵領には楽しいことはないのよ。王都に邸を持つ家は夜会を催したり街に買い物に行ったり…でもここは若い令嬢にはつまらない場所よ」
「レグルスでも夜会は頻繁に行われますが、私はあまり興味がありませんでした。今回の視察では数日間は観光にあてられるので王都の劇場や王宮の開放庭園を訪ねようと思います」
「…そう…」
不機嫌な様子のリリアンに嫌な予感しかなく、マリア嬢の宿泊は宿にしようと決めた。
王都の劇場…確か今の演目はレグルスから招かれた歌劇団が演じる王子と平民の恋物語だ。僕らの話が他国まで伝わり、少し形を変えて演目にまでなっているとカイランから教えてもらった。そんなことをリリアンが知れば連れていけとねだるだろう。
「ところでレグルスのターナー伯爵家から使用人を連れてくるのかな?」
伯爵令嬢には世話をする使用人が必要だ。大きくはなくても邸も用意しなければならない。
「シャルマイノス国王陛下の許しを得ることができれば…」
レグルスはシャルマイノスの貴族を攻撃した。それは同盟に亀裂を入れた。ジェイドはわずかな懸念も見過ごさないか…
「国王陛下はアンダルの兄よ。アンダルの一言で叶うわよ」
リリアンの言葉に声を失う。今の僕は王族の証しなど金髪碧眼しかないただの男爵だといつになったら理解できるんだ。
「個人的な会話は…王宮を出たあと一度もない」
僕はリリアンにいい加減悟ってくれと思いを乗せて見つめる。だが、緑の瞳は怯むことなく見つめ返した。その視線に背筋が粟立つ。そんな僕の様子など理解していないリリアンは硝子の器に残ったワインを飲み干し、音がなるほど机に置いた。
「アンダルが積極的に近づいたら国王陛下も話すんじゃない?ハインス公爵邸にはそうして滞在したのでしょう?」
「あれは…」
カイランが…ゾルダークが襲撃されたことにチャーリーが関わっているかもしれなかったからだ…無我夢中だったからだ。
「夫人、シャルマイノス国王陛下の忙しさは謁見した私にも伝わりましたわ」
「ジェ…陛下は…元気だったかな?」
ジェイドの多忙はカイランの手紙にも書かれていた。ゾルダークが開発した火銃を本格的に騎士団に取り入れるために専用部隊を編成したり射撃場を作ったり…王太子の婚約者も新たに決めなければならない。
「眉間のしわが深く刻まれていましたわ」
「…そうか…」
祝いの会では穏やかな様子だったが…ジェイドの背負う重責は相当なものだろうな。
「アンダルは弟よ!父親である前国王は手を差し伸べなかったけど兄弟なら話は変わるわ!チャーリーが戻ったらハインスへ行くの!」
僕もマリア嬢もリリアンの荒げた声に驚く。
「リリアン…どうした…」
「…オルガ…部屋に戻るわ」
激昂したと思ったら、急に静かな声を出して部屋へ戻ると言うリリアン。
数ヶ月前から意識を変えて体力をつけようと訓練しているのは…まさかと思っていたが…王都に行くためなのか?
オルガに押されてリリアンが食堂から消え、マリア嬢と二人きりになる。
「妻が取り乱して…すまない」
「いえ、国王陛下から聞いていましたから」
僕は平然を装えずマリア嬢を見る。
「夫人の心身が不安定だと…ですが男爵は真面目に統治していると…立派だと」
目蓋をきつく閉じ、上段から見下ろしていた碧眼を思い出す。きっとジェイドはスノー男爵領に派遣されるマリア嬢を個別に呼び出し話したんだろう。
「よろしく頼むと言われたのは私だけです」
目蓋を開けてマリア嬢を見ると少し微笑み軽く頷いた。
「…そう…か…」
ジェイド…ルーカスから聞いたろうに…許さないと…それでも僕を案じているのか。ジェイドは悪い奴じゃない…ミカエラへの愛がおかしくさせたんだ。そんなことは僕もわかっているが…今が幸せとは言いがたくて…憎む相手をジェイドにしなければ…
「スノー男爵」
強ばる体の力を抜いてマリア嬢を見る。
「お食事をありがとうございました」
「いや」
リリアンの様子がおかしいならマリア嬢は宿に泊めたほういい。御者を待たせておいてよかった。 立ち上がったマリア嬢と共に食堂を出て、御者を呼ぶ。
「明日は王都へ向かうのかい?」
「はい」
マリア嬢はその後レグルスに戻り、学舎ができしだいシャルマイノスに移住する予定だ。
「…国王陛下に手紙を書くよ。スノー男爵領は人口が多いと言えない…マリア嬢も不安だろう?」
二十歳にもならない令嬢が他国に一人で渡ることに不安がないわけない。
「助かります。実は…」
マリア嬢は言いにくそうに口ごもった。もしかしたらリリアンに対して気分を害したろうか?若い彼女はやはり田舎は嫌だと思ったのか?
「言いたいことがあるなら遠慮せずに言ってくれ」
僕の言葉に困ったような顔をした後、口を開けた。
「私の生家はヘルナン公爵派でした」
ヘルナン…ゾルダークを襲った…エイヴァ・レグルスの産み母の生家…滅門されたヘルナン公爵家か… マリア嬢の申し訳なさそうな顔に意味を理解した。紅眼を奪うためにゾルダーク公爵を襲い、邸にも火砲を放った凶行。レグルス王国に貴族家は多い。それゆえにしがらみや派閥があるだろう。ターナー伯爵家はヘルナン派だったか…だから…レグルスで肩身の狭い思いをしたか…シャルマイノスでも…それを恐れている?
「紅眼を娶る…ゾルダークはその意味を理解しているよ」
ゾルダーク公爵と僕の関係を知っているんだな。
「ヘルナン公爵の独断で非道な所業がなされたと聞いたよ」
結局手を貸したグリーンデル侯爵家もろとも…子供だろうと斬首されたと…
「ヘルナン公爵派の家は多くて…我が国の国王陛下は…あからさまに冷遇しています」
牽制…シーヴァ・レグルスはヘルナンの思惑と関係なくてもその派閥に属していたというだけで態度を決めたんだろう。今後のため…
「冷遇と言っても夜会などで声をかけない…夫人は茶会に呼ばれない…国が混乱するようなものではないのです。陛下の意図を理解できない者は不満があるでしょうが、社交界…貴族ならば仕方のないことです」
「私がゾルダーク公爵と友人だと知っているんだね?」
頷くマリア嬢の肩に触れるとうつむいていた顔を上げた。
「君の生家の事情は気にならないよ」
マリア嬢の背景を調べないわけがない。知っていてもシャルマイノス王国に派遣されたんだ。 安心したように頷くマリア嬢に微笑む。
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