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ゾルダーク邸
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王都にあるゾルダーク邸の門が開けられるのは二十日ぶりのことだった。レオンに同行していたゾルダークの騎士が駆け、到着を報せたのが半時前。カイランとクレアは今か今かとホールに並び立ち開け放たれた扉の前で待っている。
「クレア、ボーマは隠したか?」
「私の部屋にノアといるわ。テオが出るなと強く言っていたから出ないわ」
「王女は四つだ。大きな狼に泣いてしまう」
「ふふ、そうね。慣れた頃に会わせてみるとテオが言っていたわ。父様、不安そうな顔してる」
カイランは異色の瞳を垂らして見上げる可愛い妹の言葉に頷く。
「どんな子だろうかと考えてしまう。慣れた場所を離れて…四つだ…泣いているだろう」
「そうね。でもレオが側にいるからきっと泣き止んでる。ふふ、私の四つの頃を思い出して。抱っこと言われたら抱き上げてあげれば笑うわ」
そんなことで笑ってくれるだろうかとカイランは思うが、特に何かできるわけでもないと悩むことを止めた。
「早く慣れてくれるといいな…テオは?」
カイランが周りを見回してもソーマとハロルドの姿はあれどテオがいなかった。
「ふふっ門で待っているの」
クレアは腕を上げて手綱を握る真似をする。
「ははっテオ…待ち遠しいんだな」
「そうよ、寂しがっていたわ」
クレアはレオンがゾルダーク邸を離れるまで、自分は寂しい思いをするだろうとは思っていたが、テオの方が寂しさを紛らわすかようにいつもと違う行動をしていることに日が経つ度に気づいた。常に感情を抑え気味のテオの変化に可愛らしい一面を見つけて微笑ましかった。
「ハロルドもね」
クレアは後ろに立つハロルドに向かって振り向き笑う。
「その通りでございます」
「もう離れることがないといいわね」
「はい…あ!戻られましたね」
ハロルドの声に門の方へ視線を移すとイライアスを先頭にゾルダークの騎士が現れ、その後ろには漆黒の馬車が姿を見せた。その馬車に並走するようにテオの姿もある。口角を下げ、常より険しいテオの顔にクレアは吹き出しそうになる。
「ふふ…テオ…嬉しいのを抑えてるのね」
「あれは怒りじゃないのか?我慢の顔か…」
「あれでは王女が驚いてしまうわ、ふふふ」
クレアはテオを見つめ、こちらを見ろと念を送る。テオの黒い瞳がクレアに向けられ視線が交わると、自分の口角と眉間に指先を向けて、直してと伝えるがテオは頬をひきつらせたまま視線を逸らした。
「駄目だわ。テオも制御できないのよ」
「ははっ意外な一面だ」
年相応なテオの様子にカイランは微笑む。
漆黒の馬車が止まりイライアスが扉を開ける。中からレオンの指示が出されたようだ。イライアスは足早にカイランに近づく。
「エイヴァ様が眠られています」
声を上げるなと待ち人達に伝える。レオンは片腕にエイヴァを抱き馬車から下りた。現れた幼子にカイランは奥歯を噛み締める。王女の長い髪はキャスリンの髪色に似ていた。瞳の色は把握していても髪の色は知らされていなかった。伸ばしそうになる手に力を込めて握り、拳を作る。
「おかえりなさい、レオ」
クレアは小さな声で囁き、レオンに近づく。腕に抱かれた王女を見てからレオンの頬に手を伸ばし触れる。
「ただいま、クレア」
クレアは微笑み、額に指を指すとレオンは足を曲げて顔を下げクレアの額に口を落とす。
「おかえりなさいませ、レオン様」
ハロルドも小さく伝える。
「風呂、入れる?」
「はい」
レオンは満足そうに頷きエイヴァに視線を移す。
「目覚めたら湯に入れてやりたいからアンナリアとモリカにそう伝えて」
「レオン様のお部屋で…?」
「エイヴァの部屋の湯はできているのか?ならとりあえず目覚めたエイヴァに聞いてからにするか」
「起こした方がよいのでは?夜、眠れなくなりますよ」
「そうだな…体は動いてないからな…知らない場所で目覚めたら興奮して、尚更眠れなくなる。エイヴァの部屋へ行こう。父上は後で顔見せをしますからお待ちを。クレア、一緒に来い」
カイランはレオンに近づき見つめる。
「怪我はないな?」
カイランの言葉にレオンは微笑み頷く。
「かすり傷もない。詳しい話は…後でテオも入れて話すよ」
レオンは足を進めてエイヴァの部屋へ向かう。その後ろをクレアとソーマが続く。カイランとハロルドはその姿を見つめる。
「ハロルド…あの子の…」
「綺麗な亜麻色の髪でしたね」
「似ているな」
「…カイラン様、街には似た髪色が多く歩いてますよ」
ハロルドの言葉に頷きたくとも髪質まで似ているような亜麻色はカイランの胸に焦がれた妻を思い出させ熱くさせた。
「ハロルド、レオンの報告をちゃんと聞きたい。呼べよ」
カイランの真摯な眼差しがハロルドを見つめる。
「かしこまりました」
「僕は部屋に戻る」
カイランはトニーを連れて階段へ向かった。
「おかえりなさいませ、レオン様」
エイヴァの部屋の前でアンナリアが待っていた。
「うん」
アンナリアの開ける扉を通り、エイヴァの部屋に入る。ソファに腰掛け、眠る幼子の頬を撫でながら声をかける。
「エイヴァ、着いたよ。エイヴァ」
震えた目蓋が薄く開き紅眼が現れる。
「レオン」
「エイヴァ、君の部屋だよ」
エイヴァは紅眼を動かし天井や壁、寝台を見つけている。
「アンナリア、モリカ」
エイヴァの世話をさせる二人を近くに呼ぶ。
「エイヴァ、君の世話をしてくれる使用人のアンナリアとモリカだよ。モリカは俺の乳母だった人だ」
「アンナ…モリカ…レオンは?はなれる?」
紅眼が潤み視線を俺に戻した。
「俺の部屋は近くにある。馬車旅で湯に入れなかったろう?アンナリアとモリカが入れてくれる」
「レオンは?」
「部屋に浴室があるからね。部屋で入るよ。泣くかな?そうだ、俺の妹を紹介するよ」
俺の言葉にクレアが近づき、ソファの前に跪いた。エイヴァは視線を下げてクレアの顔を見つめている。
「はじめまして。クレア・ゾルダークです」
クレアはエイヴァに微笑み挨拶をした。
「めのいろちがうの?」
「ふふふ、珍しいでしょう?シャルマイノス…この国では私だけかも」
クレアは手を上げ空色の瞳を隠して微笑む。
「黒はレオンと同じ」
今度は黒い瞳を隠した。
「空色は母の瞳と同じ」
手を下ろして異色の瞳を垂らして微笑む顔はますます母上に面差しが似てきている。
「きれい…くろのなかにそらいろのせんがある…」
「ありがとうございます。エイヴァ様の亜麻色の髪も綺麗です」
エイヴァはクレアに手を伸ばし流れる紺色の髪に触れた。
「こんいろ」
「はい。ゾルダークの紺色です。レオは少し濃い紺色」
エイヴァの紅眼が俺を見つめる。
「ふふっほんとだ、ちょっとちがう」
俺はエイヴァの亜麻色の頭を撫でてからソーマを呼ぶ。
「エイヴァ、彼はソーマだ。君のこの部屋を用意したゾルダークの執事だよ。エイヴァの好きな色がわからなかったからね、空色の壁紙にしたんだが、好きな色があるなら変えるよ」
エイヴァは近づいたソーマを見てから再び部屋を見回す。
「そらいろきれい」
「よかった」
エイヴァはクレアの髪を掴んだまま離さない。
「レオ、私がエイヴァ様を湯に入れてもいい?」
クレアの言葉にエイヴァを見ると小さく頷いた。
「アンナリアとモリカも手伝ってね。エイヴァ様、こちらへ」
クレアは手を広げエイヴァを抱こうと待っている。
「クレア、抱けるか?」
「エイヴァ様は四つよ。レオは軽々片腕で抱いていたじゃない」
お前は重いものなど持ったこともないだろうに。だが、エイヴァがクレアの髪を離さないな。
「落とすなよ…いや、不安だ。よし!このまま浴室に向かおう」
クレアは異色の瞳を見開いてから笑った。
「わかったわ。せーので立つわよ」
「エイヴァが!せーのいう!」
腕の中でエイヴァが大きな声を出した。元気な声に頬が緩む。
「いいよ、エイヴァ」
小さな唇が弧を描いて満足そうに頷く。
「せーの!」
クレアは膝を伸ばし、俺はソファから腰を上げる。エイヴァは笑い楽しそうにクレアの髪を掴んだまま、俺達はくっついて進む。
「クレア、ボーマは隠したか?」
「私の部屋にノアといるわ。テオが出るなと強く言っていたから出ないわ」
「王女は四つだ。大きな狼に泣いてしまう」
「ふふ、そうね。慣れた頃に会わせてみるとテオが言っていたわ。父様、不安そうな顔してる」
カイランは異色の瞳を垂らして見上げる可愛い妹の言葉に頷く。
「どんな子だろうかと考えてしまう。慣れた場所を離れて…四つだ…泣いているだろう」
「そうね。でもレオが側にいるからきっと泣き止んでる。ふふ、私の四つの頃を思い出して。抱っこと言われたら抱き上げてあげれば笑うわ」
そんなことで笑ってくれるだろうかとカイランは思うが、特に何かできるわけでもないと悩むことを止めた。
「早く慣れてくれるといいな…テオは?」
カイランが周りを見回してもソーマとハロルドの姿はあれどテオがいなかった。
「ふふっ門で待っているの」
クレアは腕を上げて手綱を握る真似をする。
「ははっテオ…待ち遠しいんだな」
「そうよ、寂しがっていたわ」
クレアはレオンがゾルダーク邸を離れるまで、自分は寂しい思いをするだろうとは思っていたが、テオの方が寂しさを紛らわすかようにいつもと違う行動をしていることに日が経つ度に気づいた。常に感情を抑え気味のテオの変化に可愛らしい一面を見つけて微笑ましかった。
「ハロルドもね」
クレアは後ろに立つハロルドに向かって振り向き笑う。
「その通りでございます」
「もう離れることがないといいわね」
「はい…あ!戻られましたね」
ハロルドの声に門の方へ視線を移すとイライアスを先頭にゾルダークの騎士が現れ、その後ろには漆黒の馬車が姿を見せた。その馬車に並走するようにテオの姿もある。口角を下げ、常より険しいテオの顔にクレアは吹き出しそうになる。
「ふふ…テオ…嬉しいのを抑えてるのね」
「あれは怒りじゃないのか?我慢の顔か…」
「あれでは王女が驚いてしまうわ、ふふふ」
クレアはテオを見つめ、こちらを見ろと念を送る。テオの黒い瞳がクレアに向けられ視線が交わると、自分の口角と眉間に指先を向けて、直してと伝えるがテオは頬をひきつらせたまま視線を逸らした。
「駄目だわ。テオも制御できないのよ」
「ははっ意外な一面だ」
年相応なテオの様子にカイランは微笑む。
漆黒の馬車が止まりイライアスが扉を開ける。中からレオンの指示が出されたようだ。イライアスは足早にカイランに近づく。
「エイヴァ様が眠られています」
声を上げるなと待ち人達に伝える。レオンは片腕にエイヴァを抱き馬車から下りた。現れた幼子にカイランは奥歯を噛み締める。王女の長い髪はキャスリンの髪色に似ていた。瞳の色は把握していても髪の色は知らされていなかった。伸ばしそうになる手に力を込めて握り、拳を作る。
「おかえりなさい、レオ」
クレアは小さな声で囁き、レオンに近づく。腕に抱かれた王女を見てからレオンの頬に手を伸ばし触れる。
「ただいま、クレア」
クレアは微笑み、額に指を指すとレオンは足を曲げて顔を下げクレアの額に口を落とす。
「おかえりなさいませ、レオン様」
ハロルドも小さく伝える。
「風呂、入れる?」
「はい」
レオンは満足そうに頷きエイヴァに視線を移す。
「目覚めたら湯に入れてやりたいからアンナリアとモリカにそう伝えて」
「レオン様のお部屋で…?」
「エイヴァの部屋の湯はできているのか?ならとりあえず目覚めたエイヴァに聞いてからにするか」
「起こした方がよいのでは?夜、眠れなくなりますよ」
「そうだな…体は動いてないからな…知らない場所で目覚めたら興奮して、尚更眠れなくなる。エイヴァの部屋へ行こう。父上は後で顔見せをしますからお待ちを。クレア、一緒に来い」
カイランはレオンに近づき見つめる。
「怪我はないな?」
カイランの言葉にレオンは微笑み頷く。
「かすり傷もない。詳しい話は…後でテオも入れて話すよ」
レオンは足を進めてエイヴァの部屋へ向かう。その後ろをクレアとソーマが続く。カイランとハロルドはその姿を見つめる。
「ハロルド…あの子の…」
「綺麗な亜麻色の髪でしたね」
「似ているな」
「…カイラン様、街には似た髪色が多く歩いてますよ」
ハロルドの言葉に頷きたくとも髪質まで似ているような亜麻色はカイランの胸に焦がれた妻を思い出させ熱くさせた。
「ハロルド、レオンの報告をちゃんと聞きたい。呼べよ」
カイランの真摯な眼差しがハロルドを見つめる。
「かしこまりました」
「僕は部屋に戻る」
カイランはトニーを連れて階段へ向かった。
「おかえりなさいませ、レオン様」
エイヴァの部屋の前でアンナリアが待っていた。
「うん」
アンナリアの開ける扉を通り、エイヴァの部屋に入る。ソファに腰掛け、眠る幼子の頬を撫でながら声をかける。
「エイヴァ、着いたよ。エイヴァ」
震えた目蓋が薄く開き紅眼が現れる。
「レオン」
「エイヴァ、君の部屋だよ」
エイヴァは紅眼を動かし天井や壁、寝台を見つけている。
「アンナリア、モリカ」
エイヴァの世話をさせる二人を近くに呼ぶ。
「エイヴァ、君の世話をしてくれる使用人のアンナリアとモリカだよ。モリカは俺の乳母だった人だ」
「アンナ…モリカ…レオンは?はなれる?」
紅眼が潤み視線を俺に戻した。
「俺の部屋は近くにある。馬車旅で湯に入れなかったろう?アンナリアとモリカが入れてくれる」
「レオンは?」
「部屋に浴室があるからね。部屋で入るよ。泣くかな?そうだ、俺の妹を紹介するよ」
俺の言葉にクレアが近づき、ソファの前に跪いた。エイヴァは視線を下げてクレアの顔を見つめている。
「はじめまして。クレア・ゾルダークです」
クレアはエイヴァに微笑み挨拶をした。
「めのいろちがうの?」
「ふふふ、珍しいでしょう?シャルマイノス…この国では私だけかも」
クレアは手を上げ空色の瞳を隠して微笑む。
「黒はレオンと同じ」
今度は黒い瞳を隠した。
「空色は母の瞳と同じ」
手を下ろして異色の瞳を垂らして微笑む顔はますます母上に面差しが似てきている。
「きれい…くろのなかにそらいろのせんがある…」
「ありがとうございます。エイヴァ様の亜麻色の髪も綺麗です」
エイヴァはクレアに手を伸ばし流れる紺色の髪に触れた。
「こんいろ」
「はい。ゾルダークの紺色です。レオは少し濃い紺色」
エイヴァの紅眼が俺を見つめる。
「ふふっほんとだ、ちょっとちがう」
俺はエイヴァの亜麻色の頭を撫でてからソーマを呼ぶ。
「エイヴァ、彼はソーマだ。君のこの部屋を用意したゾルダークの執事だよ。エイヴァの好きな色がわからなかったからね、空色の壁紙にしたんだが、好きな色があるなら変えるよ」
エイヴァは近づいたソーマを見てから再び部屋を見回す。
「そらいろきれい」
「よかった」
エイヴァはクレアの髪を掴んだまま離さない。
「レオ、私がエイヴァ様を湯に入れてもいい?」
クレアの言葉にエイヴァを見ると小さく頷いた。
「アンナリアとモリカも手伝ってね。エイヴァ様、こちらへ」
クレアは手を広げエイヴァを抱こうと待っている。
「クレア、抱けるか?」
「エイヴァ様は四つよ。レオは軽々片腕で抱いていたじゃない」
お前は重いものなど持ったこともないだろうに。だが、エイヴァがクレアの髪を離さないな。
「落とすなよ…いや、不安だ。よし!このまま浴室に向かおう」
クレアは異色の瞳を見開いてから笑った。
「わかったわ。せーので立つわよ」
「エイヴァが!せーのいう!」
腕の中でエイヴァが大きな声を出した。元気な声に頬が緩む。
「いいよ、エイヴァ」
小さな唇が弧を描いて満足そうに頷く。
「せーの!」
クレアは膝を伸ばし、俺はソファから腰を上げる。エイヴァは笑い楽しそうにクレアの髪を掴んだまま、俺達はくっついて進む。
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